SF研読書会 『移動都市』(フィリップ・リーヴ著 安野 玲訳 ) by Leの家族
1 作者紹介
フィリップ・リーヴ
1966年、英国南部ブライトン生まれ。イラストレーターとして活動していたが、本作「移動都市」で作家としても活動を始める。2001年に4部作の第1作として刊行された本作は、Nestle Smarties Book Prizeを始めとしたいくつかの賞を受賞した。現在は、妻子とともにダートムアに在住。
主な著作
Mortal Engines (2001年、邦題「移動都市」)
Predator’s Gold (2003年)
Infernal Devices (2005年)
A Darkling Plain (2006年)
Night of the Living Veg (2002年)
The Big Freeze (2002年)
Day of the Hamster (2002年)
Custardfinger (2003年)
Larklight (2006年)
Starcross (2007年)
Urgum the Axeman (2006年)
Here Lies Arthur (2007年)
2 あらすじ
都市淘汰主義にのっとり、都市が都市を狩って食う世界となって千年が経過した時代。移動都市ロンドンはかつての栄光を取り戻すため、市長の号令一下、<狩り場>へと進出していく。首尾よく最初の獲物を捕獲したその日、ロンドン史学ギルドの見習いのトムは、憧れの英雄の命を狙う少女と関わったが故に、少女ともどもロンドンより放り出されてしまう。それぞれの目的のため助け合いながら生きていくうちに、トムは自身の故郷の本当の狙いを知る・・・
3 登場人物
トム・ナッツワーシー 主人公。英雄に憧れ、英雄を夢見る15歳。
ヘスター・ショウ 人の好意を信じられない、身体と心に傷がある少女。
サディアス・ヴァレンタイン ロンドンの英雄。能力は高いが、精神的なヘタレが露見。
キャサリン・ヴァレンタイン 父の所業を知って苦悩し、行動を起こす悲劇の少女。
マグナス・クローム ロンドン百万年の計を立てた、ロンドンを愛する男。
チャドリー・ポムロイ 32章から最後までの間、やってのけた史学士達の一人。
ベヴィス・ポッド 不幸にも事件を目撃したため、幸運な目を見た不幸な人。
シュライク ヘスターに執着する元人間の機械人形。趣味は人形集め。
アナ・ファン <風の花>。奴隷上がりの女傑。
サスヤ アナ・ファンの崇拝者。続編に登場する可能性あり?
他、多数
4 用語解説
【六十分戦争】
千年前に起こった、対地表軌道上原子爆弾と変性ウィルス爆弾の悲惨な嵐。古代人の滅亡の要因。
【四大ギルド】
移動都市ロンドンの維持に関わる最も重要なギルド。おそらくは、工学ギルド、史学ギルド、交易ギルド、操舵ギルドだと思われる。ロンドンにある他のギルドは、サルベージ士、機関士、車輪修理士など。
【ストーカー】
<復活者>。死体に改造を施してつくられた半機械兵。その際に感情と記憶が洗い流されるので、それらは存在しないはずだが・・・
【メドゥーサ】
六十分戦争の落とし子。実験的エネルギー兵器。コブラの頭のようなフォルム。設計図や人工知能の発掘場所から、おそらくアメリカ帝国が開発。
個人的にはラピュタというよりは、巨神兵のビームを連想する。
――干からびて黒焦げの姿。<メドゥーサ>のひとにらみで、棒のようにつったったまま一瞬にして強張った彫像と化した人間の群れ。―― (本文より)
【量子ビーム】
アメリカ帝国の恐ろしい兵器の噂の一つ。この世界の外のエネルギー源を汲み出して・・・
5 感想
一見した限りでは、冒険小説のように思える。それも、一話完結の。というか、正直なところ、私にはそうでないという明確な根拠を持ち得ないので、誰かが説得してくれない限りはその認識で行こうと思う。冒険小説としては、月並みだが人物は多いにもかかわらずそれぞれに個性が見られるし、動く都市を筆頭に絵になる、更には頭の中で映像を想像させるような描写も多く、出来はいいと思うし、純粋に楽しめた。意表を突かれたといえば、死者の数であろうか。まさか、作品の主要人物の大半が死ぬとは思わなかった。その為に、冒頭のような感想を抱いたわけだし、そこまでしておいて続編があるというのは、何か間違っているように思うのだが、すでに本国の方では完結しているようなので、その辺を確かめるためにも続編の刊行が待たれる。
◆蛇足として、お気に入りのセリフをば一つ◆
『ほんとうにわたしがそれほど近視眼的だと思っているのか?工学ギルドはな、きみが考えている以上に先を見越しているのだよ。ロンドンは決して移動をやめない。移動は命だからな。最後の移動都市を食らい、最後の静止集落を叩きつぶしたあとは、掘削を開始する。超巨大エンジンを建造し、地球の核の熱を動力源にして、この惑星ごと軌道から脱出して移動するのだ。火星を、金星を、小惑星を食らいに。いずれは太陽そのものを食らい、宇宙の深淵へと突き進む。百万年後も、われらがロンドンは移動し続けていよう。食らうべき都市はなくとも、未知なる新世界が開けているのだから!』
部会メモ
最終更新:2019年03月18日 23:48