2007.6.29

SF研読書会 『ムシウタ 01.夢見る蛍』(岩井恭平)  by 0109


1 著者&作品紹介


岩井恭平

 岩井恭平―1979年生まれ。2002年、『消閑の挑戦者 パーフェクトキング』で第6回角川学園小説大賞で優秀賞を受賞しデビュー。(このときの大賞受賞者は『バイトでウィザード』シリーズの椎野美由紀)
 著作
 『消閑の挑戦者』シリーズ。既刊3巻、スニーカー文庫。受動的な超天才少女とまあそれなりの天才少年が世の中の天才たちや事件に挑戦していく物語。彼らはパートナー同士なのに、滅多に同じ場面に出てこないのが特徴。イラストは四季童子。
 『ムシウタ』シリーズ。夢を喰らう“虫”に憑かれた少年少女たちの物語。既刊9巻で、スニーカー文庫。月刊少年エースで漫画化され、2007年7月5日からWOWOWノンスクランブル枠で全12話が放送予定
 『ムシウタbug』シリーズ。『ムシウタ』の短編集。本編の数年前の物語。既刊5巻、スニーカー文庫。

2 用語解説


【“虫”】

人に憑き、その人の夢を喰らう謎の昆虫型の生物。人の夢を喰らう代わりに宿主に自分の力を分け与える。同化型、分離型、特殊型の分類があり、戦闘力に秀でた“虫”は“火”種、極めて特殊な能力を持つものを“異”種、ほかの理由で重要性や秘匿性を持つものを“秘”種と分類している。危険度に応じて一号から十号まで分けられている。

【“虫憑き”】

“虫”に憑かれ、“虫”の力を使うことのできる人間。一度“虫憑き”になったら二度と戻れない。政府は存在を否定しているが、世間では噂が広がっており、恐怖と差別の対象として忌み嫌われている。

【成虫化】

“虫”が宿主の夢を喰らい尽くして凶暴化する現象。極めて稀だが、その場合、その“虫”の強さは跳ね上がる。夢を喰い尽された宿主は死に至る。

【欠落者】

“虫”を殺された“虫憑き”のこと。“虫”を殺されると、感情も思考もない、命令がなければ何もしない人間になってしまう。

【“始まりの三匹”】

“虫憑き”を生み出す特殊な“虫憑き”。1巻では分離型の“虫憑き”を生み出す“大喰い”しか出てこない。

【“特環”】

特別環境保全事務局の略称。“虫憑き”を捕獲・殲滅するためにあらゆる特権をふるう組織。捕えた“虫憑き”を兵士として使うため、ほとんどの“虫憑き”には評判が悪い。

【都市型隔離施設“東い‐33”地区】

通称“GARDEN”。葉芝市を丸ごと使った特環の隔離・研究施設で、欠落者はここに送られる。“ふゆほたる”はここから脱走した。

【“むしばね”】

特環に反対する“虫憑き”や一般人によって組織されたレジスタンス組織。目的は発見された“虫憑き”を特環よりも早く保護する事と“虫憑き”の居場所を作ること。アジトは桜架高校の美術室だったが、特環と“ふゆほたる”との戦いのときに校舎ごと崩壊。

【ハルキヨ】

第3勢力。“むしばね”や特環とは対照的に少数精鋭を貫いた集まり。目的は不明。リーダーはハルキヨ。

3 登場人物


薬屋大助=“かっこう”

主人公。県立桜花架高校一年D組所属の平凡な男子学生………と見せかけて実は特環最高のエージェントにして最強の“虫憑き”―“かっこう”。以前は“戦闘班”に所属していたが、この春からある特定の“虫憑き”を監視する“監視班”に異動して、桜架高校に入学した。表向きは人畜無害な一般人。監視対象は“レイディー・バード”。“虫憑き”としては同化型火種一号で“虫”はかっこう虫(作者の創造)。“かっこう”を銃と体に同化させて、身体能力と銃の威力を強化して戦う。4年前に“ふゆほたる”を欠落者にした本人。夢は自分の居場所を見つけること。

杏本詩歌

本編のヒロイン。4年前に“虫憑き”、“ふゆほたる”として心ならずも特環を壊滅寸前に追い込んだが“かっこう”によって欠落者にされた。その後、何故か復活し、更には再び“虫憑き”となった。隔離施設を脱走した後、大助と出会い束の間の安息を得るが、“むしばね”と特環の争いに巻き込まれたあげく、大助と別れ、特環の監視を受ける羽目になる。大人しいが芯の強い性格。大助とも“かっこう”とも面識があるが同一人物とは気づいていない。分離型異種一号の“虫憑き”だったが、欠落者から復活したので秘種と認定された。“虫”は純白の蛍で、触れたもの全てを破壊する“雪”を降らせる能力があり、能力の及ぶ範囲では限りなく無敵に近いがその力をコントロールしきれてはいない。欠落者から復活した唯一の“虫憑き”として特環、“むしばね”、ハルキヨに狙われる。夢は自分が居てもいい場所を見つけること。

立花利菜

大助のクラスメイトにして、レジスタンス組織“むしばね”のリーダー、“レイディー・バード”。かなりのカリスマを以て“むしばね”をまとめていた。海浜公園での特環との争いの時に助け、親友ともいえる関係になった詩歌のデート相手が、密かに想いを寄せていた大助だったことに失望、さらに大助=“かっこう”だったことを知って絶望、特環の研究所、羽芝市での“かっこう”との戦いのときに、自らの“虫”、“七星”が成虫化して死亡。分離型火種一号の“虫憑き”で、“虫”は羽から衝撃波を放つナナホシテントウの“七星”。一号指定だが、精神的に脆く、一号指定の“虫憑き”の中で最も弱いらしい。夢は“虫憑き”の居場所を作ることだと信じていたが、死の直前に幸福に自分がなれる居場所を手に入れることだと思い出した。

土師圭吾

特環の中央支部長。彼自身は“虫憑き”ではないが、戦闘力は高く、“かっこう”の銃の師でもある。“レイディー・バード”の成虫化の時に、“かっこう”を庇い負傷。生死は不明だが相当な重症。“虫憑き”が欠落者になる瞬間を見るのが好き、というが実は“虫”を激しく憎んでいる。シスコンで、その盲目の妹は他人の夢を喰らう特殊な“虫憑き”だが、彼女も特環もそれを知らない。

“みんみん”

未発見の“虫憑き”の捕獲・殲滅を担当する特環の“戦闘班”所属の分離型火種五号の“虫憑き”。土師に想いを寄せていたが裏切られ、“むしばね”のスパイとなって“かっこう”に戦いを挑むが失敗。その後、土師に利用されて二重スパイとなった。海浜公園での戦いで欠落者になった。“虫”は蝉で、羽を擦りあわせて発生させる超音波と力を貯めての高速体当たりが武器。夢は特環の中で最高の“虫憑き”になること。(本人曰く)

“なみえ”

―特環監視班所属の(たぶん)分離型火種五号“虫憑き”で女性。“虫”は真っ白な翅を持つ蝶。詩歌の監視をしていたが、“大喰い”と遭遇。負傷したが引き続き監視をしているらしい。

ハルキヨ

特環、“むしばね”に続く第3のグループを纏める若きリーダー。一号指定の“虫憑き”。その正体は謎。

久瀬崎梅

ハルキヨのメンバーの一人で、一号指定の“虫憑き”。男女の区別がつきにくい容姿をしている。

榊遥香

ハルキヨのメンバー。

“大喰い”

“虫憑き”を生み出す“始まりの三匹”の一人。“虫”は鮮やかな紋様を持つ蝶。分離型の“虫憑き”を生み出す。姿を変える能力がある?

羽虫、カブトムシ、カタツムリ等

その他大勢の“虫憑き”。他には蜻蛉、団子虫など。

4 感想


 これぞまさにライトノベル!って感じにさくさく読める。夢を喰らう“虫”という設定も面白くて、十分楽しめました。利菜が“むしばね”リーダーだったということにも素直に驚けましたけど、”かっこう”=大助はなんとなく予想できました。けれど、それを差し引いても、“かっこう”の信念は凄いと思うし、大助、利菜、詩歌のすれ違いや葛藤もよく書けていると思います。でも、詩歌はほんとにヒロインなでしょうのか? ウィキペディアにはそう書いてあるけど、利菜の方が存在感あるんじゃないでしょうか? まあ、1巻だけかもしれないけれど。さらに、“かっこう”が強すぎる気がしました。いくら主人公とはいえ、成虫化した“七星”を一撃って言うのは無いんじゃないかと思いました。298Pに「かつて号指定されていない“虫”が成虫化したときでさえ、君を含めて火種一号から五号の“虫憑き”を総動員したんだ」ってかいてあるんですけど。夢を叶えること=“虫”に勝つことと何か関係があるのかもしれません。



部会メモ





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なお、内容は執筆当時を反映し古い情報・元執筆者の偏見に基づいていることがあります by ちゃあしう
最終更新:2019年03月21日 22:58
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