2007.7.13

SF研読書会 『香水  ある人殺しの物語  ~Das Parjum~』(パトリック・ジュースキント Patrick Suskind)  by 銀月


1 著者&役者紹介


著者:パトリック・ジュースキント Patrick Suskind

1949年3月26日にドイツのアムバッハ生まれた小説家、ファンタジー作家、劇作家、脚本家。1985年に発表された長編小説『香水 - ある人殺しの物語』は大ヒット作となり、日本語を含む23カ国語に翻訳された。
映画『悦楽晩餐会 または誰と寝るかという重要な問題』(監督:ヘルムート・ディトール、1996年、ドイツ)の脚本も担当している。2006年には随筆『Uber Liebe und Tod(原題)』をドイツで出版した。現在はミュンヘン在住。メディアの取材を避けるきらいがある。
著作として、以下の作品が挙げられる。 
  ・ゾマーさんのこと Die Geschichte von Herrn Sommer (文藝春秋)
  ・鳩(同学社)
  ・コントラバス(同学社)
(ウィキペディア パトリック・ジュースキントの項より)

訳者:池内 紀(いけうち おさむ)

1940年11月25日生まれ。日本の兵庫県姫路市出身のドイツ文学者、エッセイスト。兵庫県立姫路西高等学校卒業、東京外国語大学外国語学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。神戸大学、東京都立大学、東京大学文学部で教鞭をとり、定年前の1996年に退官。退官後は文筆家、翻訳家として幅広く活躍している。NHKFM放送「日曜喫茶室」の準レギュラー。天文学者の池内了は弟。アラブ研究者の池内恵は息子。
(ウィキペディア 池内紀の項より)

2 あらすじ


 18世紀。悪臭漂う街パリにグルヌイユは生を受けた。何故か体臭というものを持たない彼は、その違和感から人々に馴染むことなく育ったが、グルヌイユはそのことには一切頓着せず、人との繋がりよりも『匂い』というものに重きを置いて暮らしていた。
 日々を悪臭の中で暮らしていたグルヌイユは、ある日これまで嗅いだことの無い素晴らしい香りに出会う。一人の女性から発せられるその香りに彼はどうしようもなく魅了された。思わずその女性を殺してしますほどに。このときから、グルヌイユはさらに匂いに執着するようになり、自慢の鼻を活かして、とある調香師に弟子入りするのだった。
 調香師のもとで学べるものは全て学んでしまったグルヌイユは、“香りの首都”グルースに向かう。その都を訪れた彼は、かつてパリで出会った類稀なる香りに再び巡り合う。
その香りを手に入れようと決めた彼は、人の匂いを香水にする方法を試しながら最終的には25人もの女性を死に追いやり、望んだ香りを手に入れた。
 25人もの女性を殺したことが発覚したグルヌイユは即座に処刑されることが決定された。死刑執行の当日、かの女性の香りを基に創り上げた究極の香水を身にまとって処刑場に降り立ったグルヌイユを見た人々、いや匂いをかいだ人々は、無条件で彼の無実を信じ、彼を天使だと崇める。そのことに虚しさを感じた彼は、ある目的を持ってパリに戻っていくのだった。


3 登場人物


ジャン=バティスト・グルヌイユ

 1738年7月17日巴里に生まれた空前絶後の匂いフェチ。辺り一帯に不幸を撒き散らしながら1767年6月25日に死亡した。

母親

 グルヌイユの母親。不幸になった人第一弾。

マダム・ガイヤール

 孤児院の経営者。秩序好きで公平。幼い頃父親に喰らった火掻き棒の一撃で匂いを失っている。九十歳近くまで生きたが、その視は望んだものとは程遠かった。

グルマル親方

 皮なめし職人。バルディーニにグルヌイユを二十リーブルで売った次の日の明け方、飲み終えて家に帰る途中でセーヌ川に滑り落ちて死亡。

マレー区の娘

 グルヌイユの第二の母親。その香りに引き寄せられてきたグルヌイユにさくっと殺される。ストーカーには気をつけましょう。

ジュゼッベ・バルディーニ

 巴里に店を構える調香師。落ち目だったが、グルヌイユを弟子にしたことにより嘗てない絶頂期に迎える。グルヌイユから手に入れた香水のレシピをもって輝かしい未来を夢見ていたが、弟子が旅立ったその日に、店ごとセーヌ川の藻屑と消えた。

タイヤード=エスピナス

 映画では切られていた人。『タイヤード致死液』が存在すると唱えた人。んなものはアリマセン。グルヌイユを通してその存在を信じてしまい、ピック・ドゥ・カグニー山麗に突貫した。

ドリュオー

 グルースにすむ、グルヌイユの先輩となった、調香師の徒弟。連続殺人事件の犯人としてグルヌイユの代わりに処刑された。

ロール・リシ

 グルースの金満家、アントワーヌ・リシの娘。多くの人間を魅了する美しい娘で、彼女は類稀なる香りを持つためグルヌイユから命を狙われることになる。


4 用語解説


【香水の起源】

 香料の歴史は紀元前数千年にのぼる。古代では神聖なものとして僧侶や神官が使った。古代エジプトでは香油や香りつきの軟膏なども存在していた。

【調香師】

 薬剤師や錬金術師を起源とする。14世紀頃からその名が使われ始め、17~18世紀に王家の庇護を受けるようになる。現在、多くの調香師は香料会社に所属しており、専属調香師を置いているブランドはゲランとシャネル。

【12種類の香水】

 映画では古代エジプトには究極の香水が存在し、そのうち12種類はわかっている。だが、最後の13種類目だけがいまだに分からないのだ、という設定が存在する。ローズマリー、ベルガモット、パチョリ、麝香、丁子、蘇合香、黄水仙、チュベローズ、が知られている12 種となる。が、実際にはグルヌイユの創り出した究極の香水にはこれらは一切使われず、すべてが処女の体臭から創られていた。設定の意味がわかんねぇ。

【香りの採取法】

  • 冷浸法(アンフルラージュ)
 動植物油脂は匂いを吸収するという性質を利用し、油脂に香りを移す方法。古代エジプト時代から存在する。金がかかるので、現在では行われていない様子。
  • 水蒸気蒸留法
多くの精油が水に不溶である性質を利用した方法。細かい説明は本文参照のこと。

5 総評


 自分は映画を見て大絶賛した人間なので、感想が小説に対するものと映画に対するものが混じるかも。そのへんはご愛嬌で。
 グルヌイユについて。私が読んだ感じでは、彼は悪魔、もしくはアンチキリストとして描かれているはず。この2つの違いは、あの宗教についてよく知らんので何とも言えませんが。自らの体臭を持たないこと(=存在しないということ)、関わった人すべてが不幸になること、人々の望みを満たしたと思った瞬間に離れていくこと、こういった点は明らかに意図して描写されていると思う。まぁ、実際作品の中でも、連続殺人の犯人は悪魔だ、破門してやる~というような描写もあるし。18世紀といえば、啓蒙主義が顔を出し始める時期なので、時代の切り替わりに現れた悪魔というこの展開は皮肉が効いているとも思う。人には理解できないもの、という点では間違いなくグルヌイユは悪魔だった。この辺は映画が徹底してる。いっそコミカルな感じで関わった人は死んでいくし、宗教裁判なんかも笑える。なにより、最後のシーンでグルヌイユが与えた至高の愛の導き出す結果がサバトであるというのもいい。たぶん、先に小説を読んでいてもこのシーンがサバトだと気づかなかったろうからなぁ。一目でわかるというのは映像の強み。あと、青い衣をまとって黄金の(というか肌色の)野に降り立つ彼の姿はまるで完璧な“神話”なのである、なうしかー。
 ちなみに、ラストでグルヌイユは作り出した匂いを仮面であるとして、自らの香水に虚しさを感じている。このシーンにおける彼の心理は理解できるのであるが、理解できるということが、人であって人でないものとして描かれ続けてきたグルヌイユが人に堕ちた瞬間であったことを示している。しかし、何故いまさらそんなことになったのかがわからない。人間に価値をおかず匂いの中にだけ生きてきた彼が、最後の最後に人とのつながりを夢見たという描写はビミョー。落ちとしては正しいと思うが、少し納得がいかないというのが正直なところ。その点、映画は絶妙。ロールの香りを追い求めるのは、かつて殺した赤髪の女性のことを忘れられなかったためであり、そのことが原因で匂いを保存する方法を追い求めている。香水を完成させたあとには、誰からも自分を認識されることのない孤独と、既に自分の求めていたものは手に入らないものなのだという絶望が、うまく映し出されていたと思う。実は展開としては小説よりもなおありきたりであったが、それを感じさせずに映像で巧く魅せてくれた点が素晴らしかった。GJ。
 ちなみに、おそらく映画で使われる13という数字は使徒の数ではないかと思われる。では13番目は誰だったのか、などと考えてみたり。

部会メモ





2019.03.24 Yahoo!ジオシティーズより移行
http://www.geocities.jp/tohoku_sf/dokushokai/perfume.html
なお、内容は執筆当時を反映し古い情報・元執筆者の偏見に基づいていることがあります by ちゃあしう
最終更新:2019年03月24日 14:24
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