東北大SF研 短篇部会
「紙の動物園」 ケン・リュウ/古沢嘉通

著者紹介(Wikipediaより)

1976年、中華人民共和国の蘭州に生まれる。8歳(11歳という説あり。)の時、両親とともにアメリカ合衆国に渡り、以後はカリフォルニア州のパロアルトで育つ。後、さらにコネチカット州のウォーターフォードに移る。 
ハーバード大学に入学し、法律を専門に学ぶ。ロースクールを出て、法務博士号を取得し、卒業後は弁護士、コンピュータープログラマー、中国語書籍の翻訳者として働きながら、文筆活動を行っていた。 短編小説を中心に活動している。2012年に、「紙の動物園」でネビュラ賞とヒューゴー賞と世界幻想文学大賞の短編部門で受賞、史上初の三冠を達成した。2013年もヒューゴー賞 の短編部門で受賞した。2015年に初の長篇となるファンタジー”The Dandelion Dynasty”を刊行。シリーズ化の予定である。また、翻訳家としても活動し、中国の作家を英語圏に紹介している。 
作風は、東洋の伝統を下敷きにした細やかな情感を特徴とする。自身の出自である中国文化 を背景にした作品も多い。また、日本での初翻訳となった「もののあはれ」のように日本人を主役とした作品もある。著者は日本の漫画「ヨコハマ買い出し紀行」に啓発された作品と 語っている。2015年、日本での初めての著作となる『紙の動物園』が早川書房より刊行。又吉直樹がテレビ番組で推薦したことで話題となった。

あらすじ

「ぼく」の母親は中国人で,折り紙の動物に命を吹き込ませることができた.「ぼく」は 幼い頃は生きた折り紙たちと仲良く戯れていたものの,小学校の同級生から人種差別を受けて以来,折り紙を封印し母とも不仲になる.「ぼく」が大学生の頃,ついに心を通わせる事のないまま.母は亡くなった.大学を卒業した後,仕事もなく自堕落な生活をしていた「ぼく」はある日偶然に老虎と再開する.膝の上に飛び乗った老虎はひとりでに折り目をほどき,息子への手紙へと変化した.それを読んだ「ぼく」は,母の壮絶な過去と思いを知ったのだった.

所感

これはSFか? と言われると答えに困ってしまうが,ケン・リュウらしい叙情的な語りが魅力の傑作.「全身全霊をこめて書」いた手紙の最後が「あまりに痛くて,もう書けません.」というのが心に迫るというか,差別と孤独に耐えてきた強い母親という存在が最後の最後で限界を迎えてしまったようで読んでいて辛い.偏見を受ける非西洋的なもの,親子や家族といった彼の得意技が詰め込まれた反則のような小説だと個人的には思っている.原作 The Paper Menagerie はもちろん英語で書かれているが,英語圏の読者にとっては母の言葉,表音文字の羅列で表された中国語はひどく奇妙なものに感じられるのではないか? 一方漢字かな交じりの日本語で書かれた訳文を読む日本語圏読者は母の台詞も漢字からある程度想像できる.翻訳文と原文は決して同一のものとは言えないが,英語と漢字,両方に触れながら生きる我々はケン・リュウ作品(中華SF,中国SF)を読むにあたってはちょっとお得な立場にいるように思う.
卜部理玲ちゃんの動画を是非見てくださいm(_ _)m 
https://youtu.be/jrUL2GaCB­s 
最終更新:2019年06月30日 00:34