SF研究会 2009.6.12長編部会 森岡浩之「機械どもの荒野」
掘江弘己

著者紹介

 1962年生まれ、兵庫県出身。サラリーマン生活を経た後に作家生活に入るが、生活していけるのか不安になるほどの寡作っぷりを発揮している。
 92年に短編「夢の樹が接げたなら」でデビュー。後日、同名の短編集が発行された。本作「機械どもの荒野(メタルダム)」の前に「星界の紋章」を執筆、続いて「星界の戦旗」を執筆するも、伏線放置プレイのまま5年が経過。ちなみにその間、他の出版社でラノベを書いてたんだから救えない。早く完結して下さい。
 言語学に深い造詣を持ち、星界シリーズではついに言語丸々一つを作成。アニメ版ではよく序幕で喋ってました。

 上に挙げたもの以外だと「月と炎の戦記」、「優しい煉獄」がある。現在「風とタンポポ」をWebで連載中。だから先に星界を書けと小一時間。

あらすじ

 「機械どもの叛乱」が起きて技術は減退し、人口も減った未来社会。
 タケルは荒野を自由に闊歩する機械を狩っては、そのボルトや人工知能を売って生計を立てている青年。ある日狩りにでかけると、喋る機械に出会う。愛犬の名前から「チャル」と名づけられた「彼」は、人間と機械が共存できるアイディアを提示する。
 狩りから故郷の熔解里(ロンチェリー)に戻って古馴染みのカーシャ、鴉へ話を持ちかけるが、あっさり断られる。そこへ、機械の大隊が街へと襲い掛かってきたのだった──

登場人物

  • タケル
 言わずと知れた主人公。機械を狩りながら生計を立てているようだが、弱冠18歳にして既に借金漬け。しかし限定ジャンケンだと真っ先に負けそうなタイプ。クソ度胸は人一倍あるが、その一方で意外に状況が読める。愛車のバーゲストを乗り回し、荒野の果てにある「機械どもの巣」を目指す。
 粗暴な上に皮肉屋、だが危機に落ちた人間を放っておけない熱血漢。

  • カーシャ
 花屋と言い張るジャンク屋の娘。腕は確かで、焼け付いて逝かれたエンジンをその場で立ち直らせられるほど。美人だが荒くれ者どもの間で育ったため、おとしやかさとは程遠い存在。
 命の危機が迫った時一瞬だけデレるが、後も先もずっと皮肉屋。バーゲストの中でバズーカを振りますなど、実に向こう見ずな判断をすることもある。

  • 鴉(ヤァ)
 三人組の頭脳労働担当。電脳調教師の美青年。こういうのに限って攻め。ちなみに「カラス」の異字。
 チャルに興味を示し高く買い取ろうとするも、機械どもの反乱にあっておじゃんになる。
 両親の顔は見たことがないらしい。タケルに無茶をよく命じられるが見事にこなせる皮肉屋。

  • チャル九世
 単にチャルと呼ばれたりするが、本人は型番で呼ばれたがっている、まさかの皮肉屋な人工知能。歌を歌うのが癖。
 気付かないうちに電波を垂れ流して人間世界を阿鼻叫喚の地獄絵図にしている。『天国』のたまちゃんかアンタは。
 なお、型番はFBHJK-9SP-0029385。最初の5文字はスナークのこと。後ろの7桁は識別番号か? しかも途中で途切れている辺りもっと長いのかもしれない。

  • 東明
 トンミン。疑い深く、タケルたちを付け狙う(主に保身のため)。途中からリュミノフにも嫌われる哀れな人。
 ちなみに最後までちゃっかり生きている。ブローニングフェチ。

  • ミック
 バンド(集団で狩りをしている者の総称)、リュミノフのリーダー。腕っ節で選ばれた族長のためやたらと強い。盗聴用の無線装置も持っている。最後には共闘する辺り、金さえあれば動くタイプの人間なのだろう。
 タケルの父親に諸々の財産を盗まれた過去がある。

  • アディティ
 機械の女王。熔解里での叛乱はヴァルナ・システム(自己防衛機能)の暴走によるものだったが、「機械どもの叛乱」はアディティ本人の意思。懲りずに人口調整をすると言い出したばっかりに粛清される、多分一番哀れな人。
 全体の幸福を考えた末に「人間の未来は俺たちが決めるぜ!」とバッサリ。うん、世の中そんなもん。


出てくる機械

 スナーク:そこら辺にいる汎用機械。たまにお宝を積んでいる。武器を積んでいて近づくとぶっ放してくるブージャムの存在も噂されるが、未確認。チャルもこのタイプ。ルイス・キャロルの創作のため、民話や神話に出てくる訳ではない。

 ワイヴァーン:空を飛んで人間を追い詰める。まるで火を吐いているかのような描写だが、多分榴弾か何か。元々、ブリトン王家の紋章だったドラゴンを真似たもの。ルイ○のことは忘れてあげて下さい。

 ユニコーン:大口径長距離の砲弾を撃てる、装甲の硬い代物。核エネルギーで動いているため寿命が著しく長い。そういえばタケルたちはこいつの残骸を目の当たりにしているが、放射能とか大丈夫なんじゃろか。

ミニ用語集

 Eブレイン:知能を司っている部分。文字通り脳(ブレイン)。初期化する前は人間をも超越する思考能力らしい(鴉談)。但し文明がやたら衰退しているので当時の人間はそれ相応の思考力・論理力があったのかもしれない。ゆとり万歳。

 バーゲスト:水素エンジンで動くオフロード車。但し燃料を補給する手段はないのでタンクごと取り替えないといけない。頼りになる相棒のはずだが途中で置き去りにされる。最後になってから戻ってきますが。

 ターバイン:ならず者どもの立ち寄る、平原の街。一見さん大歓迎だが移住はお断り。ホテルはエライ目にあっているらしいがオーナーがもっとエライ人なので詳細不明。

 ブローニング:ブローニングM2。50口径(=半インチ)の弾を使う重機関銃で、担ぐと40kgもある。到底持てない。昭和8年に製造されてから、まだこれを超える機種は登場していない。

 皮肉屋:森岡作品ではいつものこと。「戦旗」では皮肉を言い合う瓜二つの双子、練りに練った皮肉を言うのが至上命題の提督など、枚挙に暇がない。

寸評

俺たちの地球はこれからだぜ!!

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最終更新:2009年06月29日 18:36