SF研読書会「黄泉がえり」レジュメ 

1、 著者紹介 梶尾真治

 例によってWikipedia参照

1974年12月24日生まれ。日本のSF作家。熊本県生まれ。父親は俳人の梶尾真蔵。
1971年「美亜に贈る真珠」で早川書房よりデビュー。1979年「地球はプレイン・ヨーグルト」で第10回星雲賞、1991年「サラマンダ―殲滅」で第12回日本SF大賞、1992年「恐竜ラウレンティスの幻視」で第23回星雲賞、2001年「あしびきデイドリーム」で第32回星雲賞を受賞している。父親から譲り受けたガソリンスタンド・チェーンのカジオ貝印石油の社長も務めていたが、2004年、専業作家宣言を行った。

2、 本作品について

熊本日日新聞土曜夕刊に1999年4月10日から2000年4月1日まで連載されたもの。そのため作品中には熊本市内の実在の地名が多く登場している。連載時にはSF色はやや薄い構成になっている。2003年映画化。2004年PS2でサウンドノベル化。

3、 登場人物

  • “彼” 宇宙から漂ってきた意志を持つ謎のエネルギー体(生物?)
  • 児島雅人 鮒塚万盛堂㈱総務課長。母親・縁と妻・瑠美と娘・愛の四人家族
  • 中岡秀哉 鮒塚万盛堂㈱営業見習い。ドジでお調子者。職歴8社で26歳で離婚している。兄の優一が彼を救って水死したことがトラウマになっている
  • 相良玲子 四年前に夫・周平が交通事故で死亡し、息子の翔と必死で生きてきた。
  • 川田平太 肥之國日報社会部記者。児島の小中学校時代の同級生。貴社としては優秀。
  • 三池義信 警備会社社員。深夜の巡回中に死んだはずの歌手マーチンを発見する。
  • マーチン 本名は生田弥生。三年前にデビューし瞬く間にスーパースターになるが、熊本での公演中に死亡。
  • 山田克則 世安中学校三年生。いじめられて自殺したが黄泉がえる。
  • 鮒塚重宝 鮒塚万盛堂㈱前社長。二年前に死亡したが、黄泉がえる
  • 六本松三男 相良周平を轢き殺した男。その事故のせいでホームレス一歩手前にまで落ちぶれる。
  • 青葉由高 バンド「熊本清流復古」のギタリスト。すでに死亡していたが、斎紀遥子の所に黄泉がえる。

4、ストーリー

プロローグ バイパスで目撃された火の玉。死亡届の取り消しの電話。
1~9 登場人物の説明と黄泉がえり現象の開始。
児島は死んだはずの人が生き返っているらしいという噂を聞いた。始めは信じなかったが父親が生き返って、信じざるを得なくなる。児島の部下の中岡は玲子とデートをするが、彼の兄の優一も生き返っていた。児島の会社の先代の社長も復活する。大量の死亡届の取り消し願いで熊本市役所は混乱する。

“彼”は地球に着地し地下に潜る。

10~ 黄泉がえりが段々と認知され、マスコミは無責任に騒ぎ、役所は対応に追われる。

熊本市役所では緊急会議が行われる。黄泉がえる人は増加し、人気歌手だったマーチンも復活。マスコミが嗅ぎ付けて騒ぎ出し、愚にも付かない報道を繰り返す。DNA鑑定をしたところ、彼女の生前の髪に残されたものと一致。黄泉がえりという言葉が定着。役所も本腰を入れて対応に乗り出す。児島は中岡兄弟と川田から話を聞く。クローン人間説や死生観の変化など。
 黄泉がえった人たちは“彼”の分身。“彼”は人間に興味を持つ

20~ 黄泉がえりが日常化していくが、黄泉がえった人たちとの差異も明らかになる
黄泉がえりの失敗作らしきものを目撃した人もいるが、黄泉がえりは日常化していく。役所も意外に早く対応し特殊復活者として扱うことを決めた。また、黄泉がえった人たちの特徴も明らかになる。彼らは熊本を離れることができず、人格も生前とは違い達観した感がある。また、彼らは短期間で老化、あるいは成長する。そんな中、縁は癌であったと判明。

30~ 黄泉がえりはすっかり定着し、黄泉がえりに対する研究がおこなわれる。

周平を轢いたせいでホームレス一歩手前まで落ちぶれた六本松は黄泉がえった周平を見て逆切れ。錯乱してナイフを振りかざすも、周平と優一の不思議な発声法によって改心。一方、マーチンが熊本市を中心とした一定のエリア内でしか活動できないことが分かり、翌年の三月に復活ライブを行うことを決め、三池がマネージャーになる。そして、マーチンの直感で六本松をスカウトする。中岡は周平・優一と共に黄泉がえり代行サービスの会社を設立する。また、世間には黄泉がえりに対する反感を持つ人もいた。元ギタリストの青葉由高も斎紀遥子のもとに黄泉がえり、マーチンの歌に興味を持つ。熊本大学の文学部は黄泉がえりに心理学的なアプローチを行おうとし、雅継・優一に協力を頼む。雅継に退行催眠を行ったところ異常が発生する。

40~45 黄泉がえりの正体が判明する。

 由高はマーチンのレコーディングに参加する。その時、マーチンの声で社長の塚本の腰痛が治癒する。また、川田は黄泉がえりを取材するうちに、黄泉がえりに関する都市伝説を聞き、二人が重合して同時に黄泉がえった例を目にする。黄泉がえりを目的に熊本に転入希望者や怪しい宗教団体が続々と集まる。川田は黄泉がえり発生分布図と重力異常の発生が一致することに気づく。優一は真実を悟り、川田に伝える。黄泉がえりたちは宇宙から来たエネルギー体“彼”の一部。“彼”はエネルギーを目指して地球に着き、エネルギーを充填した。3月25日に起きる大地震の前に“彼”は去ろうとしている。治癒に力は“彼”の能力の一部。

心という概念がなかった“彼”に心が生じ、迷う。

45~ 黄泉がえりたちは時期を悟り、それぞれに準備をする。

中岡たちの商売は順調だが、時期を悟った周平は中岡に自分の後を頼む。3月25日に黄泉がえりが消え、
地震が起こるという噂が広まり、黄泉がえりたちはそれぞれに準備をする。優一は“彼”の知識の一部を中岡に残し、鮒塚重宝は妻とともに逝く。マーチンの復活ライブはサヨナラライブに変更になり、六本松は別れた妻子に手紙を書く。ついでに、児島はリストラを勧告される。熊本市は3月25日を全面的な防災訓練にする。

“彼”の迷い。地震のエネルギーをすべて吸収して消滅するか、一部だけ吸収して宇宙に去るか

50~ 黄泉がえりの終わり。

由高は遥子のために最後の演奏をする。優一と雅継は縁の癌を癒し、雅継は消滅する。六本松は家族と和解、黄泉がえりたちはそれぞれに最後の時を待つ。“彼”は地震のエネルギーをすべて吸収し、黄泉がえりたちは消えたが、なぜか周平は消えなかった。児島は中岡たちと協力して、新しい会社を設立しようと動く。




5、 雑評

ガジェットよりも人間を書いているこの作品は文系にも読みやすく、楽しんで読めた。黄泉がえりという現象がもたらした様々な状況を丁寧に描写して、家族の心情などを上手く描いていると思う。また、黄泉がえりを通して作者の死生観のようなものが示されている気もする。小難しい論理や哲学用語は使っていないが、平凡な市民を主人公に据えて、彼らと黄泉がえりたちとのかかわりを描いて、そこはかとなく「生きる」ということを語りかけている。様々なジャンルを混ぜ合わせたような印象なので、ジャンルは何かと聞かれると難しいが、普通に良作と言えるのではないだろうか。

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最終更新:2009年07月05日 22:27