東北大学SF小説研究会読書会
2009年日本SF傑作選「超弦領域」法月綸太郎「ノックス・マシン」

1、 作者について

例によってウィキペディアより

法月綸太郎(のりづきりんたろう、断じてほうづきとかほうげつとか読んではいけない
1964年生まれ。推理小説作家にして評論家。京大推理小説研究会出身。通称のりりん。1988年に「密閉教室」でデビュー。2005年、「生首に聞いてみろ」で第5回本格ミステリ大賞を受賞。推理小説の存在意義や密室の必然性に関する論文を発表するほどの「悩める作家」。エラリー・クイーンに心酔し、第二作目の「雪密室」では探偵役に同名の推理作家法月綸太郎、その父親に法月警視を登場させ、クイーンの作品と同じ設定を持ち込んだ。また、「容疑者Xの献身」に登場するP≠NP問題に関する解説を発表し、数学的な素養を示した。ちなみに、この作品は2009年第40回星雲賞の候補になっている。

2、ストーリー

上海大学パラ人文学部のユアン・チンルウは衰退しかけている数理文学解析の推理小説分野に「ノックスの十戒」を用いた数理文学解析を試み、それをもとにして博士論文を書く。その論文が最先端科学の結晶ともいえる、タイムマシンの開発チームの目にとまり、ユアンはノックスが「十戒」を書いた時点まで、双方向タイムトラベルを実現するために、飛んでいく羽目になる。

3、 ガジェット


 「ノックスの十戒」及びロナルド・ノックスについては専門家の手によって本文中で書かれているために割愛
(web担当者追記:「ノックスの十戒 Wikipedia

  • 「ヴァン・ダインの二十則」
 読んで字のごとくヴァン・ダインが1928年に発表したもの
  1.事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはいけない
  2.作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるよう記述をしてはいけない
  3.不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引きずり出すことであり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。
  4.探偵自身、あるいは捜査員の一員が突然犯人に急変してはいけない。これは恥知らずのペテンである。
  5.論理的な推理によって犯人を決定しなければ行けない。偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
  6.探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
  7.長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
  8.占いとか心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
  9.探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件を複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対し公平を欠く。それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。
10.犯人は物語の中で重要な役を演じる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。
11.端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどのことはない。
12.いくつ殺人事件があっても真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。
13.冒険小説やスパイ小説ならかまわないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
14.殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはならない。例えば毒殺の場合なら未知の毒物を使ってはいけない。
15.事件の真相を解く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
16.余計な情景描写や、わき道にそれた文学的な饒舌は省くべきである。
17.プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
18.事件の結末を事故死とか自殺で片づけてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテンにかけるものだ。
19.犯罪の動機は個人的なものがよい。国際的な陰謀や政治的な動機はスパイ小説に属する。
20.プライドのある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらはすでに使い古された陳腐なものである。
 ・犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸ってるタバコを見比べて犯人を決める
 ・インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる。
 ・指紋の偽造トリック
 ・替え玉によるアリバイ工作
 ・番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みがあるものだったとわかる
 ・双子の替え玉トリック
 ・皮下注射や即死する毒物の使用
 ・警官が踏み込んだ後での密室殺人
 ・言葉の連想テストで犯人を指摘すること
 ・土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法。
あくまで原則。これを破っているけど傑作というのはいくらでもある。

  • 文章自動生成
   現代にも文章を自動生成するプログラムは存在する。しかし、文学作品にはまだ遠い。ましてや、それでノーベル賞とか。だけどそのプログラムが進歩していけばいずれは可能かも。最初はラノベとかで試してみればいいんじゃないかな。実際問題、ミステリーでやるのは意外に簡単そう。縛りとか多いからね。傑作が生まれるかどうかは知らんが。

4、 感想

自分の法月に対する評価を見直した結構な傑作だと思う。この分量でこれだけのガジェットを詰め込んで、しかもラストはきっちり落としているのはさすが法月。ノックスの十戒の第五条をSF的に見たらこんな解答が出てくるのかもしれない。「NoChinaman変換」とか考え付くあたり尋常じゃない。数学の知識もあるらしいけど、普段からSFも読んでいるんだろうなと思った。こういうのも書けるならこれからもSF系の短編をちょいちょい出してくれると嬉しい。

5、 著作紹介

探偵法月綸太郎シリーズ

  雪密室
  誰彼 
  頼子のために
  一の悲劇
  ふたたび赤い悪夢
  法月綸太郎の冒険(短編集)
  二の悲劇
  法月綸太郎の新冒険(短編集)
  法月綸太郎の功績(短編集)
  生首に聞いてみろ
  犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題(短編集)

その他

  密閉教室
  パズル崩壊(短編集)
  怪盗グリフィン、絶体絶命
  ノーカット版密閉教室
  しらみつぶしの時計(短編集)

評論

  謎解きが終わったら 法月綸太郎ミステリー論集
 法月綸太郎ミステリー塾 日本編 名探偵はなぜ時代から逃れられないのか
  法月綸太郎ミステリー塾 海外編 複雑な殺人芸術

名前:
コメント:
最終更新:2009年10月31日 21:11