SF研究会 「土の枕」レジュメ

著者紹介 津原泰水(つはら やすみ)

1964年、広島県生まれ。
1989年、「星からきたボーイフレンド」で作家デビュー。この時のペンネームは“津原やすみ”で、名前が平仮名だった。1996年まで少女小説作家として活動する。
1996年、ペンネームを“津原泰水”に改める。長編「妖都」を執筆し、少女小説家からホラー作家へと転身。
2000年、「蘆屋家の崩壊」が宝島社の「このミステリーがすごい!」で14位を獲得
2006年、初の青春小説「ブラバン」がベストセラーになる。


あらすじ

地主の嫡男 田仲喜代治は『紙のように薄っぺらな理由』の重なりから小作人 葦村寅次と戸籍を交換、貧農の一兵卒として日露戦争に従軍する。戦地で過酷な行軍と戦闘、そして脚気に苦しみながらも何とか日本への帰還を果たした喜代治=寅次だったが、故郷で自分は病死していることになっていた。父親からも突き放され、喜代治は小作人 葦村寅次として生きることを決意する。慣れぬ農作業に最初は苦労したが、やがて十分な収穫を得られるようになった。戦死した戦友 井手六助の妹 茅と結婚するが、彼女にも自分が田仲家の嫡男であることは教えなかった。

時代が移りゆく中で、田仲喜代治と葦村寅次の入れ替わりを知る人は少なくなっていく。太平洋戦争では、喜代治=寅次の息子も軍に召集され、妻子は原爆で死んだ。兄に代わって家督を継いだ弟 重明も終戦後に変死した。経済成長の流れの中で喜代治=寅次は農耕地を失い、引退生活へと追い込まれる。そして、ついに脳卒中で倒れてしまうのだった。病床で彼は訴える。自分は田仲家の嫡男、田仲喜代治であると。しかし、周囲はそれを妄想として、信じない。喜代治は寅次として死ぬ。後年、子孫が彼の末期の言葉に興味を持ち調査したが、田仲喜代治なる人物は若くして病死したという記録が見つかっただけだった。


登場人物

  • 田仲喜代治
   安芸黒禅師の地主、田仲家の嫡男。葦村寅次と戸籍を交換する。
  • 葦村寅次
   小作人。喜代治と戸籍を交換するが、周囲から田仲家の土地を簒奪するのではないかという疑いの目を向けられ、性を「小川」に改めて妻の実家に身を寄せる。後に台湾に移住。
  • 井手六助
  喜代治=寅次の戦友。遼陽の戦闘で戦死。
  井出六助の妹。先天性の重度の鳥目で、家の中でも物がよく見えない。後に喜代治=寅次と結婚、一男一女をもうける。1945年8月6日、広島への原爆投下の際、娘と共に死亡。

  • 重明
   喜代治の弟。兄 喜代治に代わって田仲家の家督を継いだが、占領政策で土地を失って没落。失意の中、医者にかかることもできずに病死する。「黒い雨をたんと浴びた」と文中にあるので、おそらく原爆症だったと思われる。


地名

  • 安芸黒禅寺
喜代治の故郷。彼の家はこの地の地主である。
  • 遼陽(りょうよう/リャオヤン)
   中国東北部の都市。井手六助が戦死した場所。この地で起こった「遼陽会戦」で日本軍は2万名以上の死傷者を出しおり、井手六助もその中に含まれると思われる。
  • 沙河(さか/シャーホー)
   日露戦争初期、両軍が対峙していた場所。遼陽の戦闘の後、喜代治=寅次はここで警備任務に就いていた。
  • 鴨緑江(おうりょっこう/アムノッカン)
   中朝国境にある川。脚気の悪化のため、喜代治が収容された野戦病院の所在地。
  • 硫黄島(いおうじま/いおうとう)
   本州から1,000km以上離れた太平洋上にある火山島。喜代治=寅次の息子が配属された島で、太平洋戦争末期の激戦地。当時は「いおうとう」と呼称されていた。


津原泰水 著作

妖都 (講談社)
蘆屋家の崩壊 (集英社)
ペニス (双葉社)
少年トレチア (集英社)
ルピナス探偵団の当惑 (原書房)
綺譚集 (集英社)
赤い竪琴 (集英社)
悪い男 (バジリコ)
アクアポリスQ(朝日新聞社)
ブラバン (集英社)
ピカルディの薔薇 (集英社)
ルピナス探偵団の憂愁 (東京創元社)
たまさか人形堂物語 (文藝春秋)
バレエ・メカニック (早川書房)

(参照 ウィキペディア)

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最終更新:2010年02月25日 15:53