SF研2010/5/7読書会 藤崎慎吾「鯨の王」

by.羽羊

1.著者紹介 藤崎慎吾

本人紹介

1962年、東京都生まれ。埼玉県在住。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサーなどをするかたわら小説を書き、1999年に『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)でデビュー。現在はフリーランスの立場で小説のほか科学関係の記事やノンフィクションなどを執筆している。日本SF作家クラブおよび宇宙作家クラブ会員。

著作

ノンフィクション→『深海のパイロット』『日本列島は沈没するか?』
長編→『クリスタルサイレンス』『ストーンエイジ』『蛍女』『ハイドゥナン』『鯨の王』
短編→『レフト・アローン』


2.登場人物

≪スチュアート・ウィルソン≫メンバー

  • 須藤秀弘(すどう ひでひろ)
 →髭面で中年体型の鯨類学者。酒癖が悪く、学会の嫌われ者で、妻と娘とは別居中。
  • 秋道炎香(あきみち ほのか)
 →≪ドルフィン・シャーク≫のパイロットで人工知能フィンクの生前のトレーナー。
  • フィンク
 →≪ドルフィン・シャーク≫搭載の人工知能の片割れ(イルカ)でインターフェース。
  • デボラ・メイヤー
 →米バイオメッド本社の調査員。裏で『インティマーウ』と取引していた。

≪ロレーヌクロス≫メンバー

  • ドナルド・ライス
 →米海軍調査研究所の博士。原潜で起きた変死事件を調査するために派遣された。
  • ジェームズ・ヴィリンジャー
 →ロレーヌクロスのチーフ。ロレーヌクロスに関するある秘密を隠している。

≪ポーハタン≫及び米軍メンバー

  • ウィリアム・ロビンス
 →アプラ港海軍基地に送られた研究員。ライスと連絡を取り合っている。
  • エイブラハム・オールト
 →≪ポーハタン≫の艦長。原潜の事件で死んだ副長補佐の兄。
  • ケーシー・ホワイト
 →副長補佐。復讐のためにどこか変わってしまったオールトを不安に思っている。

テロ組織『インティマーウ』メンバー

  • リョウ
 →日本人。シー・ジャック犯1。導師に心酔しており、そのせいで暴走することも。
  • ナーデル
 →導師の姪。シー・ジャック犯2。暴走したリョウに刺される。
  • スヌアッラー・イブラヒーム
 →導師。不老長寿の薬として『ユヌスの龍涎香』を求めている。


3.ストーリー

プロローグ

攻撃型原潜≪ツーソン≫内で突如乗組員が変死する事件が起こる。

第一章 鯨類学者 須藤秀弘

須藤は発見された巨大クジラのサンプルを持ち帰るが、次の日何者かによってサンプルが盗まれる。

第二章 海底基地 ロレーヌクロス

ライスは調査のため海底基地≪ロレーヌクロス≫に派遣される。骨の引き上げができず苛立つ須藤の元にバイオメッド社から接触がある。

第三章 潜水船 ドルフィンシャーク

須藤が≪スチュアート・ウィルソン≫に乗船する。ライスがROV(無人探査機)によってダイマッコウを発見するも、回収する前にROVは破壊されてしまう。

第四章 攻撃型原潜 ポーハタン

ライスはAUV(自律型無人探査機)によってダイマッコウの映像を入手する。ドルフィンシャークがダイマッコウの鳴き声をキャッチするもフィンクに異常が起こり緊急浮上する。

第五章 艦長 エイブラハム・オールト

ライス達はポーハタンと協力しダイマッコウの子鯨を捕獲するため麻酔を打ちこむも、ポーハタン内で変死者が発生する。ドルフィンシャークが魚雷で傷ついたダイマッコウを発見する。

第六章 テロ組織 インティマーウ

須藤はダイマッコウの生態に、ライスはロレーヌクロスの真実に少しずつ近づいていく。が、ダイマッコウの最大個体モービィの出現と≪ポコモーク≫の消失、≪スチュアート・ウィルソン≫のシー・ジャックが起こる。さらにAUV回収のためにロレーヌクロスを出たチャドがダイマッコウにより殺され、避難した地下チャンバーから食料を届けに行ったケンも超音波の餌食となってしまう。

第七章 巨獣 モービィ

須藤達はライス達との通信に成功する。一方で≪ポーハタン≫はダイマッコウ達を駆除しようと挑むも最終的に超音波による壊滅的被害を受ける。大量の核燃料を積んだ≪ポーハタン≫ごとダイマッコウ達を道連れにしようとするオールトを撃つホワイト。オールトの死とともに≪ポーハタン≫は沈んでいった。

第八章 パイロット 秋道炎香

ダイマッコウの用いる音文字(サウンドグリフ)の発見。ヴィリンジャーの告白。≪スチュアート・ウィルソン≫での発砲。そして≪ドルフィンシャーク≫のSモードの起動。撃ち込まれる電気銛。最後に待っていたのはモービィの怒りだった。

エピローグ

ホノカはバイオメッド社を辞め、S大水産学部へ編入、須藤の元へ向かうのだった。


4.用語説明

ドルフィン・シャーク

イルカとサメの中枢神経を使った人工知能搭載している。イルカの方は元はホノカがトレーナーをしていたフィンクの脳を使っている。パイロットのホノカも知らないが目標を追い電気銛を打ち込むという命令のみを遂行するSモードが搭載されている。

ROVとAUV

(遠隔操作)無人探査機と自律型無人探査機。違いはROVは人間による遠隔操作のため範囲がケーブルの届く距離に限られるAUVはケーブルを介した制御を受けず、あらかじめ与えられた指示に従い人工知能が判断して探査する。

エアーサック(気嚢)

鳥などにみられる特徴で、これにより常に新鮮な空気を取り入れ続けることができる。まず吸い込まれた空気が肺と後気嚢に送られ、肺でガス交換された古い空気は前気嚢にためられた後に呼気として排出されるが、このとき後気嚢にためられていた新しい空気が肺に送られている。というのを繰り返している。ダイマッコウはこれを利用して困難な水中呼吸を可能にしている(これだけでなく血液も多くの酸素を取り入れられるようになっているらしい)。

音響イージスシステム

両舷側に取り付けられた何百枚もの振動板を用いて強い衝撃波を起こす。振動板の位相をずらすことで絞ったビームを動かすことも可能。基本的には防御用だが懐に潜り込ませれば攻撃用としても使える。


5.感想

題材が深海というまだ未開の部分も多い場所であり。騒動の原因(の一端)が放射性廃棄物の処理というような現実でもありえそうなことが原因ということもあって、このようなことが起こり得ないとは言い切れないなと感じた。たぶん人間は未開の地をどんどん開拓してその土地を利用していくんだろうから。将来的にノンフィクションにならないことを祈るばかりである。展開としてはメイヤー達が丸呑みされるのはモービィgjと思った。あと、須藤さんの家族関係は結局どうなるのだろう、妻が倒れて云々の話は別に伏線ではなかったようだし。ホノカさんの活躍に期待。
最終更新:2010年05月07日 22:26