「あの時の問いを、今一度あなたに向けるわ。」
何も無い場所に、2人の少女が対峙していた。
背格好は小さく、服装こそ体操着にブルマと言うふざけた格好ではあったが、
両者の眼差しは、それだけを以ってして人を殺せそうな程に研ぎ澄まされていた。
「あなたは――」
2者の片方、傘を持つ無傷の少女が、その傘を前に向ける。
傘としての機能を全うすべく造られたその直線の先――
傘としての機能には何ら影響しない、
洒落た時計の針の先のような装飾の切っ先には、傷だらけで方膝をつく少女が居た。
「……あなたは」
傷だらけ、と言う表記は聊か生易しいかもしれない。
既に少女に振るう腕は無く、背中には焼かれた木の枝のようなものしか生えていない。
本来であれば少女の背中に“焼かれた木の枝のようなもの”が生えているのはおかしな話であるが、
彼女―― ふらん☆ を知る者であれば、“それ”を見て直に気付くであろう。
――“これ”の本来の姿が、宝石のように美しい彼女の“羽根”であったのだと。
「……。」
誰がどう見ても絶望的な状況であった。
だが腕も羽根も失った彼女は、それでも瞳の輝きを失ってはいなかった。
「あなたは、何になりたいの?」
傘の少女が問う。
ふらん☆の身体が小さく震える。
「私は――」
傘の少女に聞こえたのはそこまでだった。
血にまみれた小さな口から放たれた言葉は、
大気を僅かに震わせただけで、誰の中に入っていく事もなかった。
「自信が無いの? ……まあ、そのざまじゃあね」
暫しの沈黙の後、傘の少女はあざ笑う。
惨めな姿のふらん☆を見下しながら、今まで動かさなかったその足を一歩踏み出した。
「いいわわ、あなたにはもう無理でしょう。
今ここで楽にしてあげる。 ……安心しなさい、三連星は私が」
「私はッ!!」
“三連星”と言う言葉が出た瞬間、完全に消えていた炎が突如息を吹き返したかのように、
ふらん☆は顔を上げ、そして叫んだ。
「私は――」
そのままの勢いで、大地を蹴り駆ける。
「なッ……」
一瞬の油断が、驚きと共に大きな隙を生む。
その隙が消えるよりずっと前に、傘の少女の鳩尾にはふらん☆の頭がめり込んでいた。
「がはっ!」
勢いを受けて後ろに大きくのけぞる。
そのまま地面に倒れはするが、油断はここまで。
すぐに起き上がり今度こそ傘で心臓を貫き、ふらん☆の息の根を止める――
――筈だった。
「私はああああッ!!」
しかし、ふらん☆はそれを許さない。
抉りこむようにして打ち込まれた突進からの頭突きだが、
横への力もさる事ながら、上への力が異様に強かった。
即ち――
「バカな……!」
傘の少女の身体が、大きく浮く。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
落ちて来たところを、ふらん☆が再び頭突きで打ち上げる。
それを何度も、何度も繰り返し――
「今一度言うわ!」
気付けば明らかに優劣が逆転していた。
空中で逆さまにされた傘の少女の足は、頭と同じ高さにあった。
決してあり得ない方向に折れ曲がっている訳ではない、しかし。
「私は……!!」
その上に乗るふらん☆の姿が、この戦いの結末を、傘の少女の末路を物語っていた。
「私は三連星であり続けたい! こいし☆と、ぬえ☆と一緒にッッ!!」
大地が粉砕される。
五体満足の傘の少女の瞳からは、光が消えていた。
ふらん☆は動かなくなった宿敵をその場に捨て置き、何も無い場所から立ち去る。
仲間が待っている――
最終更新:2011年07月10日 13:03