渋谷凛&ランサー ◆Y0s8yQbTc2
「貴方は夢なのよ……」
暗い部屋の中、カノジョは疲れたように、言葉を漏らした。
液晶越しに映る、輝く少女。
カノジョはカノジョを知っているが、カノジョはカノジョを知らないだろう。
液晶は壁だった。
カノジョとカノジョを隔てる、壁だった。
「私の夢……私の、私達の……靴を履けなかった……私達の……」
誰もが見た光、誰もが背負う影。
その光は自分ではなく、しかし、その影は自分自身だ。
「私達が見た、光なのよ……」
己が選び出した希望の光をもって、己が絶望を背負う。
矛盾。
彼女は希望であり、同時に絶望でもあるのだ。
誰もが光を見る。
誰も影を見ない。
「私の……夢……」
しかし、夢は現実ではなかった。
光が暗い部屋を照らしていた。
光が、影を強めた。
■
男が、口元に付いた髭を撫でる。
恐らく、日本でなくとも目の前の男を知らぬものは居ないだろう。
いや、知らぬものも増えたかもしれない。
『知らない』ことが、『知っている』者に得も知れぬ恐怖を与えるような、そんな男だった。
彼の者は
アドルフ・ヒトラー。
召喚主――――
渋谷凛が開いた、なんてこともない歴史の教科書にも名前と顔写真が乗った英霊。
此度の聖杯戦争においてランサーのクラスで召喚されたサーヴァントである。
教科書を閉じ、凛はヒトラーを見る。
ヒトラーは不気味に嗤っていた。
恐怖は感じなかった。
そもそも、現実味を感じていなかった。
「アドルフ・ヒットラー……本当にそっくりね」
「私は本物のアドルフ・ヒトラーさ」
「本物じゃないんでしょう?」
「アドルフ・ヒトラー本物ではないが、人々の心が噂となっていでて生み出した本物だ」
ランサーのサーヴァント、アドルフ・ヒトラー――――そんな仮面をつけられた無貌の神、ニャルラトホテプ。
かのサーヴァントは己の真名を隠すことはしなかった。
「言ってしまえば……私は魔法使いなのだよ、灰かぶりのお姫様」
「知っているの、私の事」
「可能性の一つとしてならばな。数多の少女に求められた少女よ」
数年前までただの少女であった渋谷凛。
現在の渋谷凛は、そんな過去すら信じられないような輝かしい『偶像少女<アイドル>』。
普通の少女がアイドルのトップに立つ。
誰もが夢見る、可能性という希望だった。
凛にとっても、夢の様な出来事だった。
――――凛はうなじを触った、特に意味はなかった。
思えば、自分の経歴も信じられないようなものだ。
目の前の英傑の経歴も、ある意味では一緒なのかもしれない。
這い寄る混沌、ニャルラトホテプ。
噂話の中に生きる、願いを叶える存在。
そんな神そのものである素性を語り、現在では仮面をつけられた月に吠えるもの。
「しかし、呆けているかのように冷静だな。
ひょっとして、信じていないのか?
無貌である私に仮面をつけられた事実、これはお前が考えている以上に『深刻』なのだよ」
『深刻さを感じていない』など、誰が原因だと思っているのだろうか。
そんな野卑な言葉を飲み込む。
嘲りを浮かべたままのランサーは、ランサーが口にする文面ほどの真剣味を持っていない。
運命を嘲笑うもの。
目の前の存在はニャルラトホテプ、人々の無意識の海から生まれでた存在。
不思議なことに、凛はそのことに対してあまり疑いの念を抱かなかった。
話のスケールが大きすぎて、何もかもが夢のようだった。
魔女に化かされたような、そんな気分だった。
――――渋谷凛は再びうなじを触った、理由は、特になかった。
強いて言えば、その動作で一人の男を思い出せた。
その記憶が凛の心を落ち着かせた。
「……」
そもそも、何もかもが夢のようだった。
夢だ、夢だ、と、言い続けた物語。
叶える、叶える、と、進み続けた道。
二人で走った道と、二人で叶えた物語。
本当に嬉しかったのに、少し経つと、本当に夢だったのではないだろうか。
凛は誘われた、あるいは、叩きこまれた。
少なくとも、凛の心の表面と呼べる場所には願いといえるものはなかった。
なにせ、願いが叶ってしまったのだろうか。
少女たちが夢を見、少女たちがそんな少女を求める『少女のための偶像<シンデレラ・ガール>』
少女たちが求めた偶像である凛もまた、ある一面においては英霊と言えるのかもしれない。
崇める少女たちが、偶像がより英霊であることを求め、聖杯戦争へと運んだ。
そんな馬鹿なことがあるのかもしれない。
「……」
それを、ヒトラーという混沌は、凛をじっと見ていた。
手を明かしたのも、混沌の計略。
あらゆる方法で、混沌は影として試練を与えようとしていた。
少女が光であるために、影を生みだすものとしてより強い光を発するように。
混沌は、偶像に試練を与えようとしていた。
時計の長身と短針が重なった。
今は魔法がかかった時間か、それとも、魔法が解ける時間か。
這い寄る混沌は、静かに笑った。
人を試す笑みであり、物を捨てる笑みだった。
■
耳障りの良い言葉。
煌かしい栄光。
崇め上げる視線。
世界を救う使命と使命への勇猛を、選民の傲慢と非選民への排他へと変える。
己の抱く夢と他者へと与える希望を、他者への蹂躙と自らの優越へと変える。
現在、万能の願望器そのものである宝具、『這い寄る混沌<ニャルラトホテプ>』の解放は行われていない。
聖杯戦争が聖杯戦争であり続ける限り、解放することは出来ない。
しかし、アドルフ・ヒトラーという仮面の奥に潜むものは、無謀の神だ。
この世の影であれとされて、生まれた悪意の権化だ。
一年前まで街を歩いていただけの少女が、今はスポットライトを浴びている。
そんな夢みたいな物語が実現することを体現することで、少女へと夢を与えるもの。
ああ、少女よ。
他でもない、『少女のためだけの偶像<シンデレラ・ガール>』を生み出した者達よ。
お前たちが善意の元に生み出し、自らの手に収まらぬ光に悪意を抱いた灰かぶりの姫。
お前たちが求めた偶像は今、この世全ての悪意の前に晒されているのだ。
お前たちがお前たちの生み出す灰かぶりの姫に成ろうと思う限り、そこに影はあるのだ。
影を背負わぬものが栄光であると思い続ける限り、お前たちは邪神の悪意に晒され続ける。
影を見続ける者こそが、影は消せぬものである知る者こそが、影は善ではないと気づいた者こそが。
唯一、邪神に抗えるのだ。
お前たちはお前たちが生み出した光なんて、そんな下らないものに、何を見た。
光に目が眩み、影を背負ったことに気づかず。
灰かぶりの姫を視認した目に未来への希望を宿し、影響を受けた心に灰かぶりの姫への敵意を抱いた。
灰かぶりの姫へと向ける其れは希望か?
灰かぶりの姫へと浴びせる其れは悪意か?
意味などないのだ。
意味など、何もない。
善意に意味は無いように、悪意にも意味など無いのだ。
灰かぶりの姫が、物語の後も幸福であり続けた意味など、何もないのだ。
ただ、灰かぶりの姫はそこに居るだけなのだから。
【クラス】
アドルフ・ヒトラー(ニャルラトホテプ)@ペルソナ2罪
【真名】
ランサー
【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運A+++ 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:A+
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
神の御子を手にしたヒトラーは、神の御子と同等の対魔力を持つ。
事実上、現代の魔術師ではヒトラーを傷つけることは出来ない。
【保有スキル】
カリスマ:A+
大軍団を指揮・統率する才能。
カール・グスタフ・ユングは「ヒトラーの力は政治的なものではなく、魔術である」と語っている。
人間観察:EX
人々を観察し、理解する技術。
人類の影であるニャルラトホテプは、本人が否定したい、隠したい部分も含めた全てを把握している。
しかしその性質故に、希望や創造性を決して認める事はない。
月に吠えるもの:-
無貌であるはずのニャルラトホテプが聖杯戦争においてアドルフ・ヒトラーの仮面を被せられたことで生じたスキル。
普遍的無意識に存在する、神や悪魔の姿をした人格。
あるいは、ニャルラトホテプの一側面。
自らの化身の一つである『月に吠えるもの』を行使する。
ごく限定的に後述の宝具を使用できる。
具体的に言えば、『ニャルラトホテプが被ったヒトラーの仮面』に属する集団・逸話を召喚、模倣できる。
【宝具】
『神聖魔槍・失楽園(ロンギヌス・オリジナル)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2~5 最大捕捉:1人
アドルフ・ヒトラーが生涯の探索の末に手にした、神の御子の処刑に用いられ聖痕の一つを創りだした槍。
この宝具において傷を負った者は、永遠に治らぬ傷が創りあげられる。
それが高い神性を誇る者の場合、血を流し続けるという神秘的な概念性の毒は強さを持つ。
また、この槍を持って殺害された者はより上等な神秘を持ってしなければ蘇生されない。
『這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~999 最大捕捉:1000人
アドルフ・ヒトラーの仮面の奥に潜む、人々の普遍的無意識の世界に潜むニャルラトホテプという存在そのもの。
『意思』というものが全ての意味を持つ普遍的無意識の世界が存在する場合、ニャルラトホテプは全能の力を持つ。
それはニャルラトホテプが望めば世界の創造すらも容易く可能とするほどである。
ニャルラトホテプは全ての人間が抱え持つ影そのものである、正しく人間の考える『邪悪の権化』である。
人が己の中の影を見つめ続けない限り、ニャルラトホテプは悪意によって願望を叶え続ける。
すなわち、世界以外を嘲り笑うニャルラトホテプそのものが最悪の形で顕現し続ける『万能の願望器』なのである。
スキル:月の吠えるものによって限定的に一部を使用できるが、
聖杯戦争が聖杯戦争であり続ける限り、完全に聖杯の枠組みを超越した能力であるため使用不能。
【weapon】
宝具である聖槍ロンギヌス
【人物背景】
アドルフ・ヒトラーは第一次世界大戦~第二次世界大戦期において世界を混乱の渦に貶めた、大きな一因。
ゲルマンドイツを巧みな政治手腕によって支配し、第三帝国を名乗りヨーロッパを蹂躙した。
そんな男の仮面を被った、這い寄る混沌・ニャルラトホテプ。
全ての人間の意識が眠る普遍的無意識の海に生じたダークサイドの権化。
ニャルラトホテプは全ての人間が抱え持つ影そのものである為、人が人である限り絶対に滅ぼせない。
ニャルラトホテプに対抗する手段はただ一つ。
「全てを受け入れた上で、決して諦めないこと」である。
【マスター】
渋谷凛@アイドルマスター・シンデレラガールズ
【参加方法】
何者かに誘われた、そして、その何者かは他人かもしれないし、自分かもしれない。
【マスターとしての願い】
光を強めることを何者かに願われた、そして、その何者かは他人かもしれないし、自分かもしれない。
【weapon】
ある意味では、トップアイドルである凛自身が兵器とも言える。
【能力・技能】
容姿、歌唱力、挙動、愛嬌、知性――――そんな言葉では説明できない、『言葉ではない魅力』
【人物背景】
彼女は少々勘違いされることが多いだけの、何処にでも居る普通の少女である。
『本当は』『実は』『意外と』、そんな言葉で修飾されることの多い、普通の少女である。
彼女はこの世のものとは思えないほど完璧な、誰もが羨むトップアイドルである。
『やっぱり』『思った通り』『さすが』、そんな言葉で修飾されることの多い、トップアイドルである。
その二つが渋谷凛であり、切っても切れない、二つの渋谷凛である。
【方針】
彼女は人から生まれたものに試されている。
最終更新:2015年02月05日 02:17