本編14~17

『月と大地の邂逅』-1

 作者・シャドームーン

14

???の心の世界***



―――…夢であるとわかっている………

しかし。だがこの夢は―――

俺という存在の記憶の欠片なのだろうか…?

その夢の中では…周囲に親しみを覚える人達がいる…
誰なのかは思い出せない。一つだけ分かるのは、彼らは自分を
「ノブヒコ」と呼んでいるらしい。

「ノブヒコ」…それが俺の名前なのだろうか?

そう思い始めた時、必ずその気持ちを遮るように現れる別の夢。
――これは…悪夢である。

黒い戦士と、銀の戦士が何処かの原野で闘っている……
やがて空から雷が銀の戦士に降り注ぎ、自分の姿へと変わっていく。
黒い戦士が俺に駆け寄り、まるで古い友人にでも会ったかのように
あの名前で俺に語りかける…「ノブヒコ」と。

次の瞬間、銀の戦士に戻った自分は、鮮血のような赤い剣で
俺を名前で呼んだ黒い戦士を切り裂く…幾重にも。
倒れ伏すその黒い戦士は、最後にもう一度、あの名前で俺を呼んだ。
息絶えた黒い戦士の姿が最初の夢で見た男になって行く。
その顔はとても懐かしく、確かに以前会ったことがあるようだが…――

…ずっと昔から知っているような気がする。だが…思い出せない。
…何だこれは? ……………この記憶は…何なのだ?


とある牧場近くの草原***



青年「や、やめろ…俺はそいつを知っ…やめろぉぉおお―ッ!!!
 …! はぁ、はぁ…ここは…何処…だ?」
少女「お兄ちゃん、どうしたのー? なんで泣いてるの?」

夢に魘される青年がうっすら目を開けていく。
彼は、目に飛び込んできた日差しに眩しそうに瞬きしながら…
視界にぼんやり映る、見知らぬ少女の姿に目を細めた。
不思議とその子の顔は、何処かで見覚えがあるような気がしたが…

青年「…泣いてなどいない。少し…眠っていただけだ」
少女「ううん、泣いてるよ? ほら、涙が出てるもの」
青年「…涙… 俺が……?」
少女「うん。お兄ちゃん、怖い夢みたんだね。私も見ると泣いちゃうんだっ!」
青年「……俺は自分の事が思い出せないんだ。君の――…」
少女「ふうん。なんだか可愛そう。私の名前は茜よ。お兄ちゃんは?」
青年「俺は…俺の名前は―――…ノブヒコ…だ」
茜「お兄ちゃん、のぶひこっていうんだ! 」

この少女を見ていると、あの夢に出て来る誰かに似ている――
青年…秋月信彦の脳裏に、そんな感覚がふと過る。

誰だったのだろう…大切な、かけがえのない人だったような…。
俺に、この名で、いつも語りかける……「お前達」は一体誰だ?

信彦「ありがとう…君と話していると、少し…思い出せそうだ」
茜「本当? じゃあ、全部思い出せるまで一緒にいてあげる!」

15

茜という少女は、信彦を彼女の家がある牧場へと案内した。
どうやら此処は富士の麓であるらしい…また見覚えがあるような景色だ。
牧場…富士の山…そして今眼下に咲いている花々。

自分は以前、此処に来ていたのではないのか…誰かと再び会うために。
その誰かとは、あの男――俺を「ノブヒコ」と呼ぶあいつなのでは……?

茜「お兄ちゃん…?」
信彦「あ…いや、とても綺麗な花だと思って…」
茜「ここのお花、いつもパパ達とお手入れしてるけど、いつまでも
 枯れないのよ。あの銀色のお兄さんが寝てたからかなあ?」
信彦「…銀色の…!? ――ッ!」

普通の人間には聞き取れぬ、“魔物”達の目覚めの声が、彼には知覚できた。
人が見れば魑魅魍魎と呼ぶだろう悪鬼共が、歓喜の産声を上げている……

闇の中で蠢く異形達の鼓動。それを感じ取れるのは、自分も奴らの同類だから…?
戦いの始まる予感がする。奴らの狙いは――――…この俺だ。
全身から湧き上がる闘争の本能…それを抑える感情が今は俺を動かしている。
俺を見つめる少女。彼女とその家族だけは、決して巻き込んではならない。

信彦「さ、もうお帰り。パパ達が心配するよ」
茜「う~ん…うんっ、また遊ぼうね!」

少女は何度も振り返り、手を振りながら家の中へ入って行った。
これでいい、と彼は思った。あの子がもしかしたら、自分の記憶を呼び覚まして
くれたかもしれないが、思い出したところでもう二度と、親しみを感じる人達には
会うことはできないだろう―――…あの男を除いては。

それだけは、夢の中でもはっきりと自覚できていた…
秋月信彦は意を決したように、富士の裾野にある樹海へと歩き始めた。

16

信彦が立ち去ったあと、先程の花畑から一匹の蛇が這い出て来た…
そして白煙と共に、甲高い女の笑い声が響き始める。

ヘビ女「イ~ヒヒヒ…あれが秋月信彦、世紀王シャドームーンか…
 どうやら本当に記憶を全部無くしたまま“黄泉帰った”ようだねぇ…
 ジェネラルシャドウの睨んだ通りかい。…あいつらも動き出したようだねぇ。
 さぁぁぁて…今の状態で、しかも一人で勝てるかねぇ…ヒッヒッヒ…」

ジェネラルシャドウ「――それで消されれば、それだけの男と言うことだ」

頭に二本角を生やす蛇の顔をした女改造魔人の背後から、
白いマントを翻えして透明なフードに被われた顔を持つ怪人物が現れる。

ヘビ女「イヒヒヒヒ…ジェネラルシャドウ様。」
ジェネラルシャドウ「あの男を連れ帰るのも仕事の内だが、記憶喪失の若僧を
 わざわざ俺が組織へ案内するなどつまらん。影の王子…噂通りの器かどうか
 そのお手並みをとっくりと拝見させてもらおうか…フフフ」
ヘビ女「ヒッヒッヒ…でもシャドウ、あいつらを放っておいていいのかい?」
ジェネラルシャドウ「闇女王同盟の企みなど、我々は知ったことではない。
 万一の時は秘密警察が釘を刺すだろうが、連中も静観していると見た…
 フフッ世紀王候補はいくらでもいるからな。後始末も兼ねる連中の事、
 どうせなら不甲斐無い輩は早めに消えて貰ったほうが楽なのだろう」
ヘビ女「ヒヒヒ…このまま無事に連れ帰ったなら、マシーン大元帥の鼻も明かせたものを」
ジェネラルシャドウ「言うなヘビ女よ。俺がそういう事に興味が無いことは知っていよう?」
ヘビ女「ヒッヒ…そうでしたね、ご無礼を。ではシャドウ様…」

ジェネラルシャドウ「クククク…さぁ、宴の始まりか。トランプフェイド!」

ジェネラルシャドウ一派――
Gショッカー内でもアウトローと目されるデルザー改造魔人の二人組は、
不適な笑みを浮かべ姿を消す。後には多数のトランプが舞っていたが、
やがてそれも風と共に消滅した。辺りにはあたかも大地が怯えているかのように、
小さな地鳴りがあちらこちらで起き始めていた……。

△秋月信彦→富士の樹海へと向かう。
●ジェネラルシャドウ→まだ不完全な状態のシャドームーンの実力を見ている
●ヘビ女→分身の蛇を用い、シャドームーンを見張っている。

17

【今回の新規登場】
△秋月信彦=世紀王シャドームーン
(仮面ライダーBLACK/仮面ライダーBLACKRX/仮面ライダーワールド)
暗黒結社ゴルゴムの世紀王にして南光太郎のかつての友、そして最大の宿敵。
三神官の天・海・地の石で復活し、BLACKと宿命の対決の末、崩壊して行く
ゴルゴム神殿と運命を共にしたが記憶という重い代償を払い、生き延びていた。
打倒仮面ライダーの本能に付き動かされ、BLACKRXと再戦、富士で敗れる。
その際に信彦の自我を取り戻し、クライシス帝国の卑劣な罠から子供を助け出したのち、
光太郎達に見守られ静かに息絶えたが…――――。

○柴田茜(仮面ライダーBLACKRX)
富士山麓で牧場を経営している父親、兄と暮らす少女。
クライシス帝国の富士山噴火作戦に巻き込まれ、兄と共に人質にされた
過去を持つ。影の王子を光太郎と共に看取ったが、彼女達は
「疲れて眠っているだけ」と光太郎に聞かされ、安堵して父の元へ帰った。

●ジェネラルシャドウ(仮面ライダーストロンガー)
元ブラックサタンの雇われ幹部で、デルザー軍団主催者の改造魔人。
後に故郷である遠い魔の国から、同胞を呼び寄せてクーデターの末
ブラックサタンを壊滅させデルザー軍団を統制する。トランプカードを駆使した
数々の攻撃・幻惑術と、更にはシャドウ剣による驚異的な剣捌きを具える。
十二邪将筆頭に昇格したマシーン大元帥以下、次期創世王の座に意欲を
燃やす軍団員とは何かと意見が合わず専ら別行動を取る。

●ヘビ女(仮面ライダーストロンガー)
シャドウの片腕と呼ばれる女性改造魔人。 デルザー軍団で唯一、
彼に忠実に付き従う古女房的存在。人間の額に赤い鱗を貼付して
傀儡の吸血蛇人間と化し、左腕の蛇頭からは電気エネルギーさえ
液体状として吸血できる。

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最終更新:2020年10月29日 09:53