『流浪の超人機』
作者・凱聖クールギン
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悪の帝王・ゴッドネロスを倒し、ネロス帝国を滅ぼした超人機メタルダー。
だが彼は、その最後の戦いで超重力エネルギー制御装置をネロスに破壊されて自爆の危機を迎え、
地球を道連れにしての爆死を避けるため、
体内の超重力エネルギー装置を仲間の手を借りて破壊せざるを得なかった。
それによって彼は超人機としての力を失い、剣流星の姿へ戻る事すらも不可能になって、
ただ一匹の相棒であるロボット犬・スプリンガーを連れ親愛なる仲間達の前から去った。
「生まれてきて良かった」――そんな言葉を残して。
それからどれくらいの月日が経ったのだろう。
人気のない荒野を、メタルダーとスプリンガーはずっと歩き続けていた。
帰る場所などないし、これからどこへ行こうという当てもない。
傷付いたメカニックが朽ちていつか機能を停止する日まで、
こうして無為に放浪の旅を続けるしかないのかも知れない。
???「そこにいたか、メタルダー」
不意に背中にかけられた声に、メタルダーは驚いて振り返った。
夕焼けの向こうに立っている二つの人影。
それは紛れもなく、かつて倒したはずのネロス帝国の軍団員、
ヨロイ軍団豪将・タグスキーとタグスロンの兄弟だった。
スプリンガー「そ……そんな馬鹿な!?」
タグスロン「驚いたかメタルダー。我ら兄弟、お前を倒すために地獄から蘇ったのだ!」
激しく吠えて威嚇するスプリンガーには目もくれず、
タグ兄弟はゆっくりとメタルダーへ歩み寄りながら語る。
タグスキー「よいかメタルダー。
一度はお前に敗れた我らネロス帝国だが、今こうして再興の時を迎えた。
我ら兄弟だけでなく全軍団の戦士が――いや、我らネロス帝国のみに非ず、
世界征服の志を同じくするあらゆる闇の軍団が地獄からの黄泉がえりを果たし、
無限なる帝国、
ガイスト・ショッカーの旗の下に集ったのだ!」
メタルダー「
ガイスト・ショッカー……!?」
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タグスロン「我ら新たなる帝国の力をもってすれば、
メタルダー、お前如きをひねり潰すのは最早たやすい事だ。
だが光栄に思うがいい。メタルダー、帝王ゴッドネロスはお前を高く評価し、
破壊された超重力エネルギー装置を修理してお前の超人機としての力を回復させた上で、
バルスキー殿と並ぶ戦闘ロボット軍団凱聖としてお迎え下さるとの仰せだ」
タグスキー「いかにも。我らはその使者として、
お前をゴーストバンクへと連れ帰るべく参ったのだ」
メタルダーをネロス帝国の戦闘ロボットとして生まれ変わらせる。
それはあの最終決戦の時、確かにネロスが言っていた事だった。だが――。
タグスロン「さあメタルダー、悪いようにはせん。
我々と一緒にゴーストバンクへ来るのだ!」
メタルダー「――断る! 僕は自分の力を、悪の野望のためになど使いはしない!」
メタルダーが拒絶すると同時に、タグスキーは剣を抜き、タグスロンは薙刀を構えた。
タグスキー「ならば斬る! もしお前が誘いを断った場合、
我ら兄弟はお前を抹殺せよとの指令を受けているのだ!」
タグスロン「その通り。覚悟はいいか、メタルダー!」
メタルダー「……来い!」
身構えるメタルダーに、タグ兄弟の剣と薙刀が唸りを上げて襲いかかった。
兄弟の息の合った攻撃を素早くかわし、パンチで応戦するメタルダーだが、
超重力エネルギー装置を破壊された彼の拳にかつての破壊力はない。
崖へと追い詰められて逃げ場をなくしたメタルダーは、
たちまちタグスロンの薙刀に左肩を斬り下げられ、裂傷から火花を散らして転倒した。
タグスロン「どうやら本当に戦闘力を失ったようだな…。
これ以上の抵抗は無駄だ! 大人しく降伏したらどうなのだ?」
メタルダー「くっ…! レーザーアーム!!」
右手を天へ突き上げ、必殺技の構えを取るメタルダー。
だが、壊れた超重力エネルギー装置ではかつてのような十分なエネルギーが発生しない。
弱々しい青い光だけが、メタルダーの手刀に灯った。
タグスロン「――覚悟ォッ!!」
メタルダー「ヤアッ!!」
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メタルダーの手刀とタグスロンの薙刀が斬り結ぶ。
空中に爆発が起き、そして吹っ飛んだのはメタルダーの方だった。
危うく崖から転落しそうになったメタルダーを、今度はタグスキーが首を掴んで持ち上げる。
タグスキー「メタルダー、もう一度だけ訊ねる。
帝王ネロスにお仕えする気は本当にないのか!?」
メタルダー「……くっ……こ…断る…っ……!」
タグスキー「ならば止む無し、首を刎ねてやる!」
既に抵抗する力もなくなったメタルダーの首を放して崖の上に膝立ちさせ、
介錯の剣を一閃、振り下ろそうとした瞬間、
スプリンガーが背後からタグスキーの腕に噛み付いた。
スプリンガー「ワン!ワン! グルゥゥ…!」
タグスキー「うあっ!? 放せ、この犬め!」
タグスロン「ええい、こいつめ、兄者から離れろ!」
メタルダー「ううっ……。ヤアッ!!」
タグスキー「ぐっ!?」
タグスロンがスプリンガーを引っ張って後ろへ放り投げたと同時に、
メタルダーは最後の力を振り絞り、発光した右手をタグスキーの胸に突き刺す。
胸の装甲を突き破られて悶えながら、
タグスキーは遂に大上段から剣をメタルダーに叩き込んだ。
メタルダー「うわぁぁっ!!」
スプリンガー「メタルダーッ!!」
胸を斬り裂かれ、白煙を噴き上げながらメタルダーは崖の下へ転落。
スプリンガーはしばし呆然としていたが、やがて崖を下りる道を探して走り出し、
脇にあった森の中へと姿を消した。
タグスロン「あ、兄者…。やったか!?」
タグスキー「うむ…。だが完全に機能停止した奴の残骸を見るまで安心してはならん。
咄嗟の事とは言え、崖に落としてしまったのは失策だったな…」
メタルダーの必死の抵抗で少なからずダメージを負いながらも、
タグ兄弟は己の使命を完遂するため、崖の下に消えたメタルダーの追跡を開始した。
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○メタルダー→タグ兄弟からネロス帝国への勧誘を受けるが、 拒否し戦闘。タグスキーの剣で重傷を負い崖の下へ転落。
○スプリンガー→タグ兄弟に敗れたメタルダーを追って崖の下へ。
●タグスキー&タグスロン→メタルダーをネロス帝国へ勧誘するが、 拒否され戦闘。メタルダーに重傷を負わせ崖の下へ落とす。
【今回の新規登場】
○剣流星=メタルダー(超人機メタルダー)
太平洋戦争中、旧日本軍の戦闘兵器として古賀竜一郎博士が開発した超人機。
内蔵された自省回路の働きによって人間に限りなく近い心を持つ。
剣流星の姿は戦死した古賀博士の息子・古賀竜夫をモデルにしている。
○スプリンガー(超人機メタルダー)
メタルダーのサポート機として古賀竜一郎博士が開発したドーベルマン型ロボット犬。
人語を話し、メタルダーの整備や修理を担当する。趣味はアニメ観賞。
●豪将タグスキー(超人機メタルダー)
ネロス帝国・ヨロイ軍団豪将。タグスロンの義兄。
柳生石舟斎宗巌の剣術を帝王ゴッドネロスから直々に教え込まれた剣士。
●豪将タグスロン(超人機メタルダー)
ネロス帝国・ヨロイ軍団豪将。タグスキーの義弟。
浄妙明秀の薙刀術を帝王ゴッドネロスから直々に教え込まれた薙刀使い。
最終更新:2020年10月29日 09:54