『月と大地の邂逅』エピローグ
作者・シャドームーン
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大爆発を起し、原子の塵に還る機械獣母艦フォッグマザー。
その光景を離れた場所から眺めている人物がいた。
ラ・ドルド・グ「ガライ王子…フォッグマザー、
共にバトルファイトより脱落…」
黒いコートを羽織り、奇妙な形の算盤を手に何かを数えている
長身の人物。声は男性のものだが、顔は目深に被っている
黒のニット帽と、鼻の上までグルグルに巻かれた白いマフラーの
ためにほとんど判別がつかない。
その怪人物は、算盤を使い終わるとその場から姿を消した―――
◇ ◇
仮面ライダーJと別れた影の王子シャドームーンは、
爆発の余波で丸焼けになった樹海を歩いてた。
シャドームーン「…どうした、かかって来ないのか?」
突然指先から「シャドービーム」を放つ世紀王。
一点に収束された光線は、レーザーのように焼け残った
木々の一本を撃ち抜いた。
「ギェェェェ―ッ!!」
カン高い女の悲鳴を上げて、一匹の蛇が木から地面に
転がり落ちる。立ち上る煙と共に、女改造魔人が現れた。
ヘビ女「チィ、レディに向かってなんて乱暴な奴だい!」
傷口を押さえながら悪態をつく女改造魔人の首を、
突然白銀の鋼の手が掴み上げた。
ヘビ女「グゥゥ…!? な、何をする~苦しいじゃないか!」
シャドームーン「ずっと俺をつけていたな…言え、貴様は何者だ? 」
ジェネラルシャドウ「その女は私の命令で動いていたに
過ぎぬ者――…どうかご容赦頂きたい」
突風が吹き、人間大のトランプ「スペードのキング」が出現した。
トランプが裏返り、ジェネラルシャドウが一礼しながら姿を見せる。
ヘビ女「シャ…、シャドウ様…ごぉっ!?
ガハッ、ゲホ…ッ…」
シャドームーンは白い改造魔人を見つめ、掴んでいた首を離した。
シャドウ「私はGショッカーデルザー軍主催のジェネラルシャドウ。
失礼ながら、影の王子殿の実力が次期創世王候補として
相応しいものか否か拝見する目的で一部始終を監視させてもらった。
その非礼は謹んでお詫び致そう…が、これが私の流儀。
右も左も分からぬ状態の貴方を、組織に案内するのはつまらぬ
と思いましてな。噂通りの力、しかと見届けましたぞ…フフフフ…」
シャドームーン「この俺を試したというわけか…フン、丁寧過ぎる態度
が気に障る奴だ。ゼネラルシャドーとやら…貴様、あまり周囲から
快く思われてはいまい?」
シャドウ「ゼネラルではない、ジェネラルッ!
俺の名はジェネラルシャドウ だ!! おっと…コホン、失礼ミスター
…ですが以後はお間違え無きよう…」
シャドームーン「組織に案内する、とか言ったな…では少なくとも今は、
俺に戦いを挑みに来たわけではないということか」
シャドウ「左様。私の仕事は貴方をGショッカーへ招聘すること。
…私は他の連中のように、次期創世王の地位になど興味がないのでね」
シャドームーン「フッ…変わった男よ。では何が望みで黄泉帰った…?
分かっている…俺だけではない、貴様も他の連中も…この世界で
死して尚、果たさねばならぬ妄執を抱いているから蘇ったのだと。
聞こう――…お前はその新しい魂で何を目的に生きているのだ…」
シャドウ「ハ…それは勿論…一度は不覚をとった好敵手に
今一度勝負を挑み、今度こそ我が手でその男の息の根を
止める事…にございます――」
顔を覆っているフードの奥で、シャドウの両目が一瞬だけ鋭い眼光を覗かせる。
シャドームーン「ほう。…貴様にも、宿敵がいるようだな…」
シャドウ「フフその通り…貴方と同じようにね、ミスター。…ククク」
シャドームーン「フッフッフッフ……」
ヘビ女「…(シャドウはこいつを高く買い過ぎじゃないかねぇ)」
66
宿命の敵の打倒に燃える男達。不適に笑う彼等の前に、
数人の兵士チャップを伴い歩いて来る人物がいた。
黒いマントを羽織り、獅子の彫刻をあしらった兜を被っている
軍人風の男。どことなく気品を漂わせる出立ちは高い地位に
ある事を思わせる。
ダスマダー「ゴルゴムの世紀王シャドームーン殿とお見受けする。
私はクライシス帝国皇帝直属特別査察官、ダスマダー大佐だ!
現在はGショッカー
秘密警察副長官も兼任している。
以後お見知りおき願おう!」
シャドウ「あんたか…珍しいな。
秘密警察副長官が、
わざわざお見えになるとは…」
ダスマダー「Gショッカーの造反者フォッグマザーを、我々に成り代わり
成敗して頂いたシャドームーン殿に一言御礼申し上げたく参上したのだ。
さすがはかつて皇帝陛下も一目置かれた、ゴルゴムの影の王子……
世紀王最有力候補と目されるだけの事はある」
シャドウ「(…静観しておきながらよく言う。なるほど、地球を大孵化
の為の餌場としてしか看做していないフォッグマザーとGショッカーの
利害は必ずしも一致していない。影の王子覚醒の土台に利用し、
ついでに始末できれば
秘密警察にとっても有益というわけか…)」
シャドームーン「ダスマダーとやら…白々しい物言いだな。
俺はフォッグの内部で貴様の声を聞いているはずだが――」
ジェネラルシャドウ「………?」
ダスマダー「フッフフ…どうやら貴公には、隠し事はできぬらしい…
だが私は偽りを述べているつもりはないよ、シャドームーン。
“この私”が君に会うのはこれが初めてさ…お分かり頂けたかな?」
その一瞬…査察官ダスマダーの瞳が赤い光を放ったのを、
シャドームーンもジェネラルシャドウも見逃してはいなかった。
ダスマダー「私の用件は済んだ。これで職務に戻らせて頂くが……
我々Gショッカー
秘密警察は貴殿の復活と参入を歓迎する。
では影の王子殿――ようこそGショッカーへ…」
ダスマダーは一礼した後、供のチャップ達と共に
その場から立ち去った――。
シャドウ「ではシャドームーン殿…これより貴殿をGショッカー本部に
ご案内致す。貴方の着任を待ちわびているゴルゴムの方々に、
これ以上恨まれてはかないませんので…フフ」
シャドームーン「…断る、と言ったらどうする――…」
ヘビ女「何だって! お前さん…シャドウ様に恥をかかせる気かい?」
女改造魔人が蛇頭の腕と鞭を構え、シャドームーンを睨みつける。
シャドウ「よさんかヘビ女。…断ってどうするおつもりかね? 」
シャドームーン「…少し、気になる事があってな」
シャドウ「ではそれが済めば、私と共に来て頂けるのですな?
とにかく貴方には、一度“謁見の間”にて至高邪神様に拝謁
して頂かねば役目が立ちませぬゆえ、ご承知頂きたい」
シャドームーン「…承知した」
ヘビ女「キィィィ…ッ! 青二才の分際で、シャドウ様をなんだと…!」
シャドウ「かまわん。お前は黙っていろ…では、お待ちしておりますぞ」
シャドームーンは二人に背を向けると、何処かへ歩き始めた…
シャドームーン「ジェネラルシャドウ―――…」
シャドウ「ハ…」
シャドームーン「すまぬな…世話をかける。何、すぐに済む事だ…」
シャドウ「フフフ、これも仕事のうちですよ、ミスター」
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富士山麓 柴田牧場***
茜「お花…、枯れちゃった…グス…」
兄「元気だせよ~茜…あの人に会えただけでもいいじゃないか」
耕司「(フォッグマザーが地中に根を伸ばし、大地の生命エネルギー
を吸い上げていたのか…すまない、君達の花畑を守れなくて…)」
茜「うん、お兄ちゃん……クスン……? あっ…!」
弘「え…? う、うわぁー花が!」
耕司「これは……!?」
見るも無惨に枯れ果てた花々が、みるみる瑞々しい輝きを
取り戻していく…そこには以前と変わらない、
美しく咲き乱れる花畑が蘇った。
ガシャン―――ッ…
耕司「あの音……!」
遠くで微かに鳴ったその音を、改造人間である彼だけが感知できた。
茜「うわーいっ! 耕司お兄ちゃん、見てー! お花が、お花がぁ!」
兄「すげーーーー! ど、どうして!?」
耕司「ああ…きっと君達の優しい心が、お花に届いたんだよ
…良かったね! (あいつ…)」
茜「…お兄ちゃん、いっちゃうの?」
耕司「うん。茜ちゃん、弘くん、元気でな。またきっと取材に来るから…」
茜「絶対また来てねっ! それまで私、一生懸命お花のお手入れしてる!」
耕司「ははは、そうだね…ここのお花は不思議な花だから…
またたくさん写真を撮らせてもらうよ」
兄妹に別れを告げ、バイクのアクセルを吹かす瀬川耕司。
茜&兄「さようならぁーーっ!」
茜「あっ!」
少女が何かを言い忘れたように、去っていくオートバイの
後を追いかけ、精一杯手を振る。
茜「ありがとぉーーー! 仮面ライダぁーーーっ!」
段々と遠ざかる少女の声、バイクを走らせる瀬川耕司は、
ヘルメットの下で微笑を浮かべていた。
耕司「(シャドームーン…今度会う時は、敵同士か)」
◇ ◇
シャドウ「用は済んだようですな、ミスター」
ヘビ女「………」
シャドームーン「待たせたな…では行こう、Gショッカーとやらに」
シャドウ「畏まりました…おっと、俺からも貴殿に言わせて頂こう。
――Gショッカーへようこそ、影の王子殿…フフフ」
シャドウのトランプが舞い、三人の姿が消える。
太陽の子RXと、影の王子シャドームーン…煌き、ぶつかり合う心が
かつて二人を分かった富士の地で、知られざる戦いの記録が幕を閉じた―――。
△シャドームーン→シャドウの導きでGショッカー本部へ。
○仮面ライダーJ→シャドームーンの本心を見抜く。
●ジェネラルシャドウ→シャドームーンを本部に連れ帰る。
●ラ・ドルド・グ→フォッグの全滅を見届け、姿を消す。
●ダスマダー→シャドームーンに挨拶に現れる。
【今回の新規登場】
●ラ・ドルド・グ(仮面ライダークウガ)
超古代戦闘民族グロンギの数少ない“ラ”族に属する怪人。ラ族はゲゲルと呼ばれる
グロンギ族の行う殺人ゲームの進行役で、彼はゲリザキバスゲゲル(セミファイナルゲーム)
を行う“ゴ”集団の審判役ような存在。バグンダダなる算盤に似たカウンターを常に持ち歩いている。
Gショッカーでは
秘密警察に属し、バトルファイト参加者(世紀王候補)の成績を計算している。
戦闘の必要がある時のみコンドル種怪人の姿に変身し、武器としてトンファーを用いる。
●ダスマダー大佐(仮面ライダーBLACKRX)
クライシス帝国の皇帝直属特別査察官。皇帝の所懐を代弁して、ジャーク将軍以下
地球攻撃兵団を独断で処罰できる大佐の権限を持つ。何度倒されても黒煙と化して
復活を果たす不滅の術を体得しているが、その秘密は彼自身が皇帝の分身だったからである。
Gショッカー
秘密警察副長官として生前と変わらぬ暗躍ぶりから、組織内では煙たがられている。
なお皇帝の分身とはいえ彼には彼自身の人格も存在している模様。
最終更新:2020年10月29日 10:06