『ダカールの日』-4
作者・鳴滝
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東京・総理大臣官邸***
東京・永田町にある首相官邸では、長らく留守にしていた官邸の主である
現内閣総理大臣・剣桃太郎の帰還を官邸スタッフらが出迎えていた。
茅葺「おかえりなさい、剣先生。これでわたしも
ようやく少しは肩の荷が降りますかしら?」
桃太郎「長い間本当にご苦労をお掛けしました、茅葺先生。
そしてみんなにも心配を掛けた」
火野「総理がこうして無事に戻られ、何よりです」
総理執務室の椅子に久々に座った桃太郎は、すぐに冴島危機管理監から
情勢の報告を受ける。
冴島「米議会もウィルソン大統領の尽力により、反
ロゴスの旗幟を
鮮明にする方向に固まりつつあります。コープランド前政権時代には
考えられなかった事です」
火野「中東地域の意見調整も我々の側にとって有利に運びつつあります。
ただ問題は……」
桃太郎「英国か……」
顔を曇らせる一同。英国内ではここ最近、内務大臣を中心とした一派が
ロゴス派と通じ、それに押される形で英国全体が親ティターンズの方針に
傾きつつあり、仏独など近隣の欧州諸国にもその影響で動揺が拡がっていた。
火野「どうでしょうか総理、白河尚純が失脚したとはいえ、
まだ日本国内に未だ残るロゴス派の影響力も計り知れません。
ここは連中や世界各国のロゴスシンパを刺激しないためにも、
公民権法の成立は先送りされては?」
桃太郎「いや、法案の成立を後退させては、かえって相手につけ
込まれる。ここはあくまでも毅然とした我が国の意思を国の内外に
示し、その後に来たるべき地球連邦の臨時総会に日本代表として望む!」
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地球連邦首都・ダカール***
ここはダカール市郊外にある、地球連邦大統領が主に静養等に
利用する別邸である。その正門前で、警備に当たるティターンズ兵と
訪問客らが押し問答になっていた。
カットナル「いいから大統領と国王に会わせろと言っておる!」
フィッツジェラルド「大統領経験者であるこの私でも
ダメだと言うのかね?」
ティターンズ兵「たとえ何者といえでもここは絶対に通すなとの
命令を受けております。お引取りください」
カットナル「え~い! 話のわからん奴らだ!
ドーリアン外務次官、アンタもなんか言ってやりなされ!」
リリーナ「………」
ティターンズ兵「速やかにご退去いただけない場合は、
こちらも強硬な手段に出るよう許可されております」
ティターンズ兵は銃を向ける仕草で、カットナルたちを威嚇する。
カットナル「チッ…!」
リリーナ「カットナル議員、この場はひとまず…」
諦めて一緒の車に乗り込みその場から立ち去る、リリーナ、カットナル、
フィッツジェラルドの3人。その帰りの車中では――。
カットナル「ティターンズめ、大統領と国王をあの邸の中に
軟禁しておる事はわかっておるんだ。それをこちらは指をくわえて
見ているしかないとは!」
リリーナ「しかしこちらから迂闊に仕掛けては、かえって中にいる
大統領閣下と国王陛下の御身に危険が及ぶかもしれません」
フィッツジェラルド「だが我々が手をこまねいているうちに
ティターンズは国王の詔勅と大統領令を捏造し、一気に
事を運んでしまうかもしれんぞ。そうなればそれこそ
アプロヴァール大統領と国王のお命が危うい」
リリーナ「その心配はありません。ティターンズは
自分たちの政権の正当性を主張するためにも、
臨時総会が開かれるまでお二人の生命を奪うような事は
決してしないでしょう」
カットナル「勝負は臨時総会の日というわけか…」
リリーナ「ええ…」
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地球連邦大統領別邸***
さて、リリーナたちが立ち去った後の大統領別邸の一室では、
地球連邦の象徴的存在である国王、そして国家元首である
ロゼ・アプロヴァール大統領、さらには地球上の国民的英雄である
ミスターサタンの3人が軟禁されていた。
ジャマイカン「大人しくジャミトフ閣下を新大統領に任命する証書に
署名なされればよし。さもなくば国王は急病により病死。大統領も
国王陛下の後を追って殉死ということになるが?」
国王「黙れ! このような無法が罷り通ると思うのか!?」
犬の姿をした動物型地球人である国王は、ジャマイカンの恫喝を
頑として撥ね付ける。地球連邦は権威(国王)と権力(大統領)を分離した二重元首制を採用している。アメリカ型の間接選挙によって国民から指名を受けた大統領が、議会の了承の下に国王から任命を受ける形式を取っているため、国王の詔勅は共和制民主主義国家である地球連邦においても大きな意味を持つ。
アプロヴァール「子供騙しのシナリオだね。もう少しマシな脚本を
書ける奴はティターンズにはいないのかい?」
ジャマイカン「チッ、口の減らないジジイとババアだ。
ミスターサタン、貴様の考えは決まったか?
こちらはお前の孫娘を抑えてあるのだぞ!」
サタン「フン、貴様らのような小悪党如きにやられる
パンちゃんではないわ! 断じて貴様らの言いなりにはならん!」
ジャマイカン「後悔するなよ老いぼれ共!」
ドアを叩くようにして退室するジャマイカン。
サタン「フン、おととい来い!」
アプロヴァール「しかしミスターサタン、ここにいるあたしたち
3人はどの道老い先短い老いぼれだから、元々命など惜しくは
ないがね。お前さんの孫は本当に大丈夫なのかい?」
国王「私も大統領も今の地位に就いた時から元々命は捨てているが、
貴方は民間人だ。ましてやまだ将来のあるお孫さんの生命が
かかっているのであれば、仮に悪の脅しに屈したとしても
きっと国民も理解してくれるでしょう。人の命は何よりも尊い。
貴方だけは奴らの要求を呑みなさい」
サタン「ハッハッハ…ご冗談を! なあに、心配は要りません。
何しろパンちゃんはこのわしが目に入れても
痛くないほどの可愛い孫娘。そして過去に地球を
何度も救った"本当の英雄"の血も引いているんですからな」
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同別邸内・廊下***
ジャマイカン「これから私はジャミトフ閣下に報告するため
司令部に戻る。その間反対派が何を仕掛けてくるか油断は
できん。しっかり見張っておけよ」
ティターンズ兵「ハッ!」
その時、作業着の帽子を深く被っているため、顔はよく見えないが
年頃の若そうな、長髪を三つ編みに束ねた清掃夫が、
作業中にうっかりジャマイカンとぶつかった。
清掃夫「おっと、すいません」
ジャマイカン「気をつけんか馬鹿者!」
この時、清掃夫がこっそりジャマイカンの衣服に
盗聴器のような小型メカを仕掛けた事には誰も気づかなかった…。
別邸を出で、首都中心部へと向かうジャマイカンを載せた
黒塗りの軍ナンバーの公用車の中では―――。
ジャマイカン「いくら閣下のご命令とはいえ、
老人どもの相手は骨が折れる」
運転手「しかしミスターサタンがセルを倒したというのは
本当なんでしょうか?」
ジャマイカン「知るか! そんな事はどうでもいい。
我々が着目しているのは、地球全国民のあの男に対する
絶対的なまでの人気だ。あの男が一言ティターンズに
忠誠を誓うといえば、愚民どももすぐにそれに倣うだろう。
さしものICPOも、まさかサタンの孫娘が英国内相の別荘に監禁されて
いるとは思いもすまい。ふははは!!」
―――再び、別邸の方に場面は戻る。
先ほどジャマイカンにぶつかり、慌てて謝った清掃夫の少年は、
逃げるようにそそくさとその場から立ち去り、清掃員用の
控え室に一人きりで入り、隠していた盗聴傍受用のマシンで
何やら傍受を開始する。
もう言うまでもないが、この少年は、リリーナと
レディ・アンの密命を受けて清掃業者を装い別邸内に
潜入したプリベンターのデュオ・マックスウェルである
デュオ「さあて、いったい何を話してやがるんだ?
なになに…ミスターサタンの孫娘は英国内務大臣の
別荘に監禁…なーるほどね―――」
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○剣桃太郎→東京の首相官邸に戻り、総理の職務に復帰。
○茅葺よう子→剣桃太郎の復帰により、総理臨時代理の任から離れる。
○冴島十三→剣桃太郎に情勢を報告する。
○火野隆司→剣桃太郎に情勢を報告する。
○リリーナ・ドーリアン→大統領と国王への面会を求めるが、追い返される。
○スーグニ・カットナル→大統領と国王への面会を求めるが、追い返される。
○ウィリアム・ウォーレス・フィッツジェラルド→大統領と国王への面会を求めるが、追い返される。
○デュオ・マックスウェル→地球連邦大統領別邸に潜入。パンの監禁先を突き止める。
○国王→ダカール市郊外の地球連邦大統領別邸に軟禁されている。
○ロゼ・アプロヴァール→ダカール市郊外の地球連邦大統領別邸に軟禁されている。
○ミスターサタン→ダカール市郊外の地球連邦大統領別邸に軟禁されている。
孫娘のパンをティターンズに人質に取られているが、パンの実力を知っている
ためか、あまり心配はしていない模様。
●ジャマイカン・ダニンガン→地球連邦の国王と大統領、ミスターサタンの3人を軟禁している。
【今回の新規登場】
○リリーナ・ドーリアン(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)
地球圏統一連合のドーリアン外務次官の娘。しかし彼女の本当の出自は
完全平和主義を唱えた末に滅ぼされた亡国サンクキングタムの王女であ
り、本姓はピースクラフト。ゼクス・マーキスという偽名でOZに所属し
ていたミリアルド・ピースクラフトとは兄妹の関係にある。若干15歳に
して世界国家元首の地位にまで登り詰め、戦後は地球圏統一国家の外務
次官の職に就き活躍している。
○スーグニ・カットナル(戦国魔神ゴーショーグン)
元ドクーガ三幹部の一人。かつてアメリア国大統領の子として生を受け
たが、テロで父を失い、自身の左目を失う。また、この事件が元で情緒
不安定な性格になっており、常に精神安定剤を持ち歩いている。強面だ
が酒は飲めない。ドクーガ崩壊後はアメリア国大統領(第3次SRWαでは
地球連邦上院議員に当選して地球安全評議会の一員)に就任。
○ウィリアム・ウォーレス・フィッツジェラルド(超重神グラヴィオン/超重神グラヴィオンZwei)
地球統合政府EFAの大統領(今作では地球連邦の大統領経験者)。
得体の知れない民間人に地球の防衛を委託する事に抵抗を抱いていており、
グラヴィオンに対抗してGソルジャー隊を結成させるなど、サンドマンの
行動に対しては警戒心を抱いていたが、最終的にサンドマンと和解し、
アースガルツへの協力を約束した。
○デュオ・マックスウェル(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)
プロフェッサーGの指示で行動していたガンダムのパイロットで、L2コロ
ニー群近くの「スイーパーグループ」と呼ばれる宇宙遊牧民の出身。
XXXG-01D2ガンダムデスサイズヘルのパイロット。スイーパーグループで
受けた訓練により、工作員として卓越した手腕を備える。その為、ヒイロ
たち5人中、最も宇宙空間の戦闘に長けているとされる。その一方、性格
については工作員らしからぬ天性の明るさを持ち、人なつこく楽天家。
腿まで伸びた三つ編みがトレードマーク。表向きはヒルデと共にジャンク
屋を営む。
○国王(ドラゴンボールシリーズ)
長年に渡り地球国王の地位に就く、犬の姿をした動物型地球人。
ピッコロ大魔王から世界を救った名も無き少年(孫悟空)のこと
を知る数少ない人物。
○ロゼ・アプロヴァール(勇者王ガオガイガーFINAL)
国連事務総長兼国連最高評議会議長(今作では地球連邦大統領)。
GGGの直属の上司に該当。老齢ながら冷静にして剛胆な人物で、
高いカリスマ性を持ち、判断力にも優れる。さらに各国要人との
間にも広い人脈を有する。大河長官や火麻参謀とは旧知の仲で、
「幸太郎坊や」「激坊主」と呼んでいる。長官不在時のゴルディ
オンハンマー・ファイナルフュージョン・各種ハイパーツール群
の使用許可を出す権限を有し、ゴルディオン・クラッシャーの発動
には彼女による許可が必要不可欠である。
○ミスターサタン(ドラゴンボールシリーズ)
格闘技世界チャンピオンで、一般市民の間では「セルを倒し、その後
現れた恐怖(魔人ブウ)からも世界を救ったヒーロー」ということに
なっており、地球規模に及ぶ知名度を持つ英雄。孫悟飯の妻ビーデル
の父であり、パンの母方の祖父に当たる。
最終更新:2020年11月12日 14:02