本編655~666

『吹き飛ばせ!怨念の炎』-4

作者 ボー・ガルダン
655

関東甲信越付近・地底世界***


既に宇宙進出すら果たした地上人類であるが、未だ自らの足元の世界については
ほんの薄皮をめくっただけに過ぎない。彼らの手の届かぬさらにその奥深く、
一見無明の闇のみが広がるこの世界には、地上と全く異なる種族による
独自の文明が数多点在していた。そしてここに宇宙から飛来した原生生物から進化し、
地底世界に適応した種族とその国家が存在する。その名も新生ジャシンカ帝国!


新生ジャシンカ帝国・奥御殿***

小姓「帝王に謹んで奏し奉ります。 

 先頃、九州よりカー将軍がお戻りになり、御目通りを願っております」
帝王メギド「おおっ、将軍が!目通りを赦す、すぐさまこちらへ通せ」

 小姓「ははっ!」

カー将軍「帝王におかれましてはご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます。 

 愚臣カー、ただ今九州より戻りまして御座います」
メギド「堅苦しい挨拶は臣下の前だけにしてくれ。 

 それが嫌でわざわざここまで呼び立てたのだからな」
カー将軍「やれやれ…ようやく私めに敬語を使う癖が抜けたと思えば…。 

 陛下、君臣の別はきっちりとつけねば他の臣下にしめしがつきませぬぞ」
王妃キメラ「まぁ、よろしいではありませぬか。 

 私共にとって将軍は永遠に尊敬すべき師にして、第二の父… 

 その念だけは枉げる事はできませんわ」
メギド「うむ、キメラの言うとおり。

 まして将軍には、ゼノビアを討つためとは言え、 

 あのような姦計に陥れた一人である俺…いや余の下に馳せ参じてくれた事に、 

 感謝してもしきれんからな」
カー将軍「いえいえ、私めはあくまでジャシンカ帝国の臣。 

 いかに罵られようと五体を砕かれんとも、主君に忠節を尽くすのは当然でございます。 

 いえ、むしろこの新生ジャシンカ帝国の姿と、かの計略に陛下が加わっていた事を知り、
 「あの」メギド王子がよくぞここまで御成長あそばされたと、歓喜の念さえ覚えた次第…」

新生ジャシンカ帝国…。

ダイナマンに敗れ墜落炎上するグランギズモと運命をともにしたかに見えた若き帝王メギドと王妃キメラだったが、二人は重傷を負いながらも奇跡的にその命を取り留めていた。

僅かに残った兵たちとともに、地底に戻った二人は、傷が癒えるとすぐさま大打撃を受けた帝国の建て直しに取り掛かり、尻尾による身分制度の廃止に代表される政治改革を断行、尻尾の本数はおろか種族にしばられぬ実力主義の人材登用を行い、国力の回復と以前以上の富国強兵に努め、大部分の国民の熱狂的な支持を背景に、5年で地上征服開始前以上の国力を回復させたのであった。

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 メギド「ま、まて!

 今、妙に「あの」にアクセントをつけたのはどういうわけだ!」
キメラ「まぁ、陛下のダークナイトになられる以前の姿からはとても…ねぇ…」
メギド「キ、キメラお前まで!」
キメラ「それだけ貴方の成長は素晴らしかったという事よ、メギド」
カー将軍「王妃陛下のおっしゃられる通り。 

 むしろ責められるべきは傅役を努めながらその才に気づけなんだ私めに御座います」
メギド「よせよせ!千年洞窟に幽閉されるまでの己の未熟さは俺自身が痛いほど自覚している。  

 それに今も余はまだまだ未熟だ。力、知恵、精神!

 すべてにおいてシャドームーンやマッドギャランら他の世紀王候補にまだまだ劣っている…。 

 と…話がだいぶ横道にそれてしまったな。

 して九州での作戦はどうやら失敗したようだが…」
カー将軍「はっ…Wジーグを討ち滅ぼす事ができなんだのは、私めの不徳の致すところ…。
 されど既に次の一手は打っております。

 今回の作戦実行で地上人側の九州防衛戦力も多大な損害を受けております。

 その点を力説し、邪魔大、不知火の両勢力を焚き付けておりますれば…」

将軍の瞳が鋭く光り、メギドが頷く。

メギド「奴らが再び行動を起こす日も遠くは無い…という事だな?」
カー将軍「左様。聞けば百鬼帝国も九州で小競り合いを起こしたとの事、 

 地上人はこれを脅威とみなし、九州防衛のために注力する事は必定。 

 さらに百鬼帝国と対立する恐竜帝国、他の地下帝国軍加盟組織に完全に遅れを取っている 

 チューブ、アクマ族らも早晩、行動を開始するでしょう。 

 それらの対処で地上人の戦力が各地に分散した頃合を見計らい――」
メギド「我らジャシンカ帝国が一気に関東周辺域に打って出る!というわけか」
カー将軍「然り。さればメギド様、九州方面に適当な人材とメカシンカ1体、 

 進化獣3体を常駐させ、いつでも邪魔大王国、 

 不知火一族に合力できる体勢を整えていただきたい」
キメラ「メカシンカと進化獣を?奴らと我々の関係が地上人に気付かれてしまうのでは?」
カー将軍「ハッ。確かに我らはこれまで常に裏の裏で行動してまいりましたが、 

 必要な下ごしらえは全て済みましてございます。 

 これ以上、彼奴等のみを矢面に立たせていては強い不信を招きかねません。
 助力するにしてもこちらもある程度の損害を覚悟した姿勢を見せねば、 

 形ばかりと受け取られましょう。
 失礼ながら我らジャシンカ帝国はGショッカー内ではまだまだ弱小、 

 今ここで連携が崩れては地上平定への大きな痛手となります。 

 彼らとの付き合いは薄情になりすぎず、肩入れしすぎず。
 ともに勝利を掴めればそれでめでたしめでたしですが、あちらが倒れた場合、 

 その煽りを受けるほど近づくことはありませぬ。 

 それともう一つ、我らも九州に姿を現すことにより、 

 地上人勢力の目をそちらに逸らす事もできましょう」
メギド「なるほど。しかし、いかな陽動部隊とは言え、どうせ戦うなら勝つ気で行かねば。
    よし、キメラ、今回はそなたが指揮を執れ!シンカ獣選出も任せる。
    王女が直々に援軍に来たとあれば、文句は言うまい。そうだ、
    新規登用した将校や兵士も実戦に触れさせておくよい機会だな。
    見込みのありそうな者を副官として随行させよう!やってくれるな?」
キメラ「ええ、もちろんですわ。 

 ジャシンカ帝国の健在ぶりをしかと見せ付けてご覧にいれます」
メギド「ハハハ、頼もしいぞ!さすがは我が妻、我が后!」

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カー将軍「オッホン(と咳払い)!」

メギド「……しかと戦果を挙げて来るのだ!」
キメラ「…かしこまりました…。 

 しかし将軍、仮に再び日本各地が戦場になった場合、 

 首都圏攻略を狙う組織は我々の他にゴマンといるのでは?」
カー将軍「まさしくその通り。 

 仮に首都圏が制圧できれば他の世紀王候補を大きく引き離す事となるは必定、
 それが叶わずとも戦果いかんでは今後の戦略を楽に進める事ができましょう。 

 ゆえに虎視眈々と機会を狙う組織も多いはず…。 

 地上人とて首都圏防衛には身を砕いておりますれば、 

 手薄になったとは言えおいそれとは打ち破れぬでしょう。 

 いかに生き馬の目を抜き、そして相手の綻びを突くか、
 疾風迅雷かつ一枚岩の用兵が必要となるでしょうな」
メギド「それが余に出来るか…?」
カー将軍「陛下、先ほど御自身がシャドームーン殿下やマッドギャラン様に

 大きく劣っているとおっしゃられましたな?
 御無礼を承知で申し上げますが残念ながらその通り。貴方はまだまだ危うい。

 しかし、ただ一点、その御二方はおろか、他のどの世紀王候補に勝る所がおありです」
メギド「それは!?」

思わず身を乗り出すメギドにカー将軍が答える。

カー将軍「人の和で御座います。 

 世紀王候補を擁するどの組織をみてもこれほどの一枚岩はありますまい。 

 臣下、兵、国民、皆が陛下の徳を御慕いし、意気は天を焦がさんほど!」
キメラ「わずか5年の間でこれだけの国土復興を成し遂げ、 

 尻尾原理主義の反改革派貴族が起こした反乱も短い期間で鎮圧或いは恭順させる事ができたのも、

 ひとえに国民が陛下を支持し奮起した結果。
 再度の地上侵攻の意を表明された折も、多くの者がこれに賛同した事からも、 

 皆がいかに陛下をお慕いしているか一目瞭然ですわ」

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カー将軍「シャドームーン殿下やマッドギャラン様は生まれながらの孤高ゆえに、 

 尊崇こそされども親しみ難き御方。

 末端まで目を移せば心底より慕っておる者はそう多くありますまい。 

 しかし陛下、あなたは挫折から身を起こし、 

 皆と一体になって血と汗を流しここまで這い上がってこられた。
 我らが帝国未だ力弱しと言えども、この団結はなにものにも変え難い」
メギド「うむ…。一時はこのまま地底に留まることも考えたが、 

 カー将軍が戻って来てくれた今、戦力の不安は払拭された。 

 このまま地底に留まっていては我ら有尾人の行く末も限界が見えている。 

 それにGショッカーにも復興の支援を受けてはいる手前、打って出ぬわけにはいくまい。
 もっとも全面的に信用するにはいささか危険な感じもするが…」
キメラ「Gショッカー中枢には、 

 地上人類をも組み込んだ帝国建設という陛下の考えに相反する思想の持ち主も多くいると聞き及びますわ。あのゼノビアめも尻尾原理主義者の残党を匿い、
 後宮にしきりに出入りしているとか…」
カー将軍「左様、彼らと対立した際、或いはあの強大なGショッカーの大部分が敵になった場合、
 それに対抗しうる戦力を得るためにも地上平定は必要不可欠」
メギド「うむ、最早、地上人類を尾のない下等生物と見下すつもりは毛頭無い。 

 恭順の意を示すものあれば手出しはせぬし、有能なものは積極的に登用していくつもりだ。 

 だからこそ、今度の戦いは決して侮らぬ、手を抜かぬ! 

 あのダイナマンへの雪辱も俺の手で果たしたい。
 亡き先帝アトンも御照覧あれ!ここまで付き従ってきた皆のためにも、 

 そして俺自身の誇りと意地のためにも、必ずや地上平定を成し遂げ、 

 我ら有尾人が光を手に入れるのだ!」

腰の帝王剣を抜き放って頭上に掲げ、メギドは高らかに地上侵攻への決意を宣言した。
王妃キメラとカー将軍はそれに恭しく傅く。

また一つ、地上人類に挑戦する脅威がここに誕生した。

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福島県西南部・南会津郡山中***


川のせせらぎと草木のざわめき、鳥のさえずり以外なにも聞こえぬこの深山幽谷に、
ポンチョを纏い、黒いテンガロンハットを被った男が平たい大岩に腰を下ろし、
一人釣り針を垂れていた。そのまま苔むさんというほどに微動だにしなかった男が、
突如、背後の草音に身を翻し被っていた帽子をブーメランの如く投擲した!

霧島五郎「おおわぁっと、危ねぇなぁ!弦の字!俺だよ、俺!」
静弦太郎「…なんだぁ、随分と見飽きた顔だねぇ。つまんねぇなぁ」
五郎「おいおいおいおい、半年ぶりに顔を合わせてつまんねぇは無いだろぉ!
   この唯一無二の相棒、生涯の伴侶である霧島五郎さんに向かってあんまりよ…!
   ひどいわ、ひどいわ!アタシもう泣いちゃう!ヨヨヨ…」
弦太郎「気持ち悪い事ぬかすな、このオタンチン! それに俺はもうお前とは相棒でもなんでもないの!
 あなたは国家公務員、私は一般ピープル。わかったらとっととかえんな」
五郎「随分探すのに苦労したんだぜ。辞表だけ残して突然いなくなっちまうんだもの…。
   一体どうしちまったんだ、弦の字よぉ…」
弦太郎「…」

この男、静弦太郎は内閣直属の特務機関・国家警備機構の「密使」と呼ばれる凄腕のエージェントであり、今やってきた男―霧島五郎とともに日本国家を転覆せんとする数々の秘密結社を滅ぼしてきた。
その彼が突如、機構を辞任し失踪したのは今から半年前のこと。その失踪にもあの三輪長官と、それを裏で操る白河代議士やティターンズが大きく関っていたのであるが、事、この男の件に関しては他のヒーローとは事情が大きく違っていた。

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――――半年前・熱海某高級料亭

弦太郎「国家警備機構隊員・静弦太郎、ただ今参りました」
三輪「おおっ!待ちかねたよ、静君!なぁに堅苦しい挨拶は止してくれ。
   今日は君が客、ワシが持て成す側なのだからな!ささ、席について
   楽にしてくれ」

突如、三輪長官に会食の招待を受けた弦太郎。不審に思いながらも
別段断る理由も無いのでその招きを受けたのだ。食事の席で三輪は
多くの犯罪組織が跳梁し、非ナチュラルや異星人が跋扈する現状と
今の防衛組織のそれに対する対策の手緩さを大いに嘆いていた。
弦太郎はその意見全てに賛同したわけではなかったが、常々、
防衛体制と事件捜査の甘さには不満を抱いていたので、その主張に
概ね頷いていた。

三輪「我が国、いやこの地球を取り巻く環境は人類始まって以来の危機的な状況になっている!
 にも関らずだ、自分たちはなんの手も汚さぬ立場の連中は綺麗ごと、絵空事を振りかざし、  

 我々の苦心を思いもせず、非難の矛先を向け、それでいて自分たちが危機に瀕すれば
 ただひたすらに我々に頼りきり、被害が出ればまたしても罵倒の嵐! 

 ふざけるのも大概にしろとは思わんかね? 

 あまつさえ国軍、連邦軍を問わずそいうった連中に迎合する腑抜けが内部にも多すぎる!」
弦太郎「まったくおっしゃる通りで。 

 私もね、日ごろは人権だの博愛だの声高に叫んでおきながら、結局は我が身が一番大事、 

 そういう連中には虫酸が走るんですよ。そいつらの顔色と自らの体面を気にして、 

 1殺せば済む戦いで結局100死なせる、そんな連中も同じくらい嫌いですがね」
三輪「うむ、やはり君はワシの見込んだ男。最近の若者にしては気骨に溢れ取る! 

 どれ、次はワシから…」
弦太郎「へっへっへ…有り難く頂戴いたしやす。 

 で…長官はつまるところ何をおっしゃりたいので?」

三輪が弦太郎の猪口に熱燗を注ぐ手を止める。

三輪「ワシの口から言わせるのかね?

 単刀直入に言おう。連邦軍に来ないか」
弦太郎「引き抜き…って奴ですかい?私が?なんでまた?」
三輪「今の剣首相、あの方の下にいたのではダメだ。 

 君のような研ぎ澄まされた名剣も錆付いてしまうだろう?」
弦太郎「いやぁ、買いかぶりすぎですよ長官。 

 私ゃ、まだまだケツの青い若造、それに出世の見込みも無い不良の万年平隊員。 

 それに周囲の目ってもんもありますし…」

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三輪「知っているぞ、君が不良隊員の仮面の下に、 

 不知火一族、独立幻野党、宇虫人タイタニアンと三つもの我が国及び地球を脅かす不逞組織を    壊滅させた凄腕の顔を隠している事を。もちろんそれなりのポストも用意するし、
 世間の連中のいらん中傷からは全責任をもって保護させてもらう。 

 我ら地球連邦軍は『地球』と『地球人類』に害を為す脅威を水面下で排除するための 

 特務機関を立ち上げんとしている。君はその極東支部の室長だ。 

 我々の下す指令を果たしてくれる限り組織人事、運営管理については君に一任する。 

 基地に胡坐し指令しようとも、自ら敵地に赴こうとも自由だ!
 報酬も今の3倍、不満とあらば出来うる限りのものは用意しよう。 

 どうだ、悪い話ではなかろう?」
弦太郎「私の為にそこまでしてくださるなんて…いや、この静弦太郎感謝感激雨霰でございます!
 いや、でもやはり踏ん切りがつかぬと申しましょうか…」
三輪「頼む!君のような愛国心溢れ実力のある者が我々には必要なのだ。 

 それに君も綺麗ごとばかり口にする連中は好かんと言っておっただろう?」
弦太郎「へぇ…まぁ、その通りですが…」
三輪「さる筋から聞いたぞ君の活躍ぶり。 

 実力もさる事ながら、その鋼の精神力をワシらは高く買っておる。
 大の為には小を切り捨て、明日の平和の為には悪の芽は徹底的に摘み取り、多少の犠牲は厭わない!
 そして利用できるものはモノであろうと人であろうと全て利用する! 

 全て一流の軍人として必要な覚悟、それを全て備えておるのだ、君は! 

 あんな軟弱者の下で一生芽の出ない汚れ役で終わりたくはないだろう。
 薄汚い原住民に愚かな反体制分子、畜生どころか虫けらの宇宙人どもを

 綺麗に排除してきた君のその腕、ともに存分に振るおうじゃないか。

 地球の平和を守り、悪を叩き潰すためにな!」

口角泡飛ばしながら、自らの主張を語る三輪長官に対し、突如押し黙る弦太郎。
そして、数分の後、再び口を開いた彼の口から飛び出した返事は以下のものであった。

弦太郎「…三輪長官、申し訳ないがやはりその話、お断りさせて頂きます…」
三輪「なっ…なにが気に入らなかったのかね」
弦太郎「いや、やはり俺はあんたが望んでるほど人間が出来ちゃいねぇもんでね。 

 血の絨毯と屍の座布団の上に胡坐書いてふんぞりかえっていられるほどの覚悟も無ぇし、
 神経も図太かぁない。俺たちみたいな人間は 所詮どこまでいっても汚れ役が相応しいんですよ」
三輪「そ、それはワシに対するあてつけか!無礼な!」
弦太郎「お気に触られたってんなら、謝罪します。へへへ」
三輪「もうわかった!今日の所は諦めよう。

 だがな、君は確実に我々側の人間だ!いずれこちら側の門を叩く日が必ず来る! 

 その時、居辛くならんよう早めに結論を出すことだな!」
弦太郎「………」

662

―――――

五郎「そうか、そんな事があったのか――」
弦太郎「人間、この目で会って見るまでどんな奴かはわからねえ…が、結局の所、
    ただのレイシストだったよ、三輪長官は。あの人は国や地球を愛してるんじゃなくて、
    愛国者である自分を愛しちまってるのさ。それにまるで気がついていない。
    滑稽というか始末が悪いというか、可哀相な奴だぜ。もっとも、世間的にみりゃ、
    俺も奴と同類なんだろうがね。だからこそああいうありがてぇ~ラブコールが
    来たって訳だ。へへっ、ゾッとしねぇや」
五郎「おいおい、そんな事いうなよ。 

 確かに一緒に旅してる時はなんども『この冷血漢!』と思ったよ、俺も。
 けどさぁ、そういう決断を下す度に、一番苦しんでたのはお前じゃないか。 

 今回だってそうだろ。三輪長官があの手この手でお前を引き抜こうとすれば、

 俺たちにも迷惑がかかるんじゃないかと思って――」
弦太郎「手前ェの憶測で物事をかたるんじゃねぇやい! 

 そう思うんだったらとっとと帰んな」
五郎「おい、流石に新聞ぐらい読んでるんだろ!?もう三輪長官たちは日本に――」
弦太郎「関係無ぇよ、そんな事!俺はもう戦いだの殺し合いだのには飽き飽きしてんだ。 

 帰った帰った」
五郎「これを見てもそんな事が言えるのか!」

珍しく語気を強めた五郎が、懐から携帯電話を取り出しそのディスプレイを弦太郎に突きつけた。

弦太郎「……ジャイロゲス…モンスターゾロ!」
五郎「出たんだよ、九州に。

 こいつらはもう倒されたみたいだけど、不知火の連中がまた復活したんだ!」
弦太郎「そんな連中の事は忘れ――」
五郎「11人!11人死んだんだぞ!ほっといたらもっと死ぬぞ!」
弦太郎「今更どうこう出切る立場じゃ―――」
五郎「ったく、素直じゃねぇなぁ…そこまで言うなら、ぱんぱかぱーん!」

と五郎は今度は背中のリュックサックから2通の封筒を取り出した。

663

弦太郎「…おい、そりゃ俺の出した辞表」
五郎「そ、見てみろ、この辞表はまだ受理されてない。そして俺がもってるこっちの封筒は
   これを俺がどうとでも出切るっていう津島博士からの委任状だ」
弦太郎「やれやれ…まいったぜ。ま、そこまで皆様がおっしゃるのなら…男・静弦太郎、
    征かぬわけにゃあ征かねぇなぁ…」
五郎「このこのこの~本当はうれしいくせに!というわけでこれは―――」

五郎は手元の辞表を細かく引きちぎり、その紙片は渓流の中へと飲み込まれていった。

弦太郎「恥ずかしながら、静弦太郎、帰って参りました!いよっ、憎いね、五郎さん!」
五郎「古いんだよ、お前はよぉ!おし、それじゃこれ津島博士からの選別だとよ」

五郎が弦太郎に細長い金属の棒を投げ渡す。

弦太郎「おっ!アイアンベルトじゃねえか!やっぱこれが腰に収まってねぇとしまらねぇや」
五郎「博士が射出速度、威力、強度強化したアイアンベルト改だ!改造といや不知火ロボットも
   強化されてるらしいぜ。なんでも前はなかった光学兵器や磁力兵器を装備してたらしい」
弦太郎「なにっ…不知火の連中はそこまでのものは作れなかったはずだ…。こりゃ臭ぇな…」
五郎「だろ?だから俺とお前で九州まで調査に向かえって指令を預かってるの。
   おっと、津島博士にも連絡しなきゃな」」
弦太郎「んー、なんだ五郎さん、携帯なんて買ったのか?」
五郎「おうさ、画像や動画もやりとり出切るから、任務遂行には大きな手助けになるぜ。
   いやー、科学の力ってスバラし!ほれ送信と―」
弦太郎「けぇー、自分がその最先端科学の申し子ってのによく言うねぇー。 

 なな、俺にもちょっと貸してくれよ」
五郎「いいけど、お前携帯なんて使えるのか?

 触ったこと無いだろ、ホレ、ちょっとだけよ」
弦太郎「へえぇー小さいねぇー! 

 まぁ、確かに俺『たち』には必要無いわな、こんなもの」

664

ポーイッ


と、ごく自然な動作で弦太郎は五郎から受け取った携帯電話を崖下へと投げ捨てた・・・。
それを目で追った後、しばし呆然とする五郎。

五郎「あ…アアアアアアアアッ!!!なにすんだよ!!!!」
弦太郎「あーいう文明の利器に頼りすぎるとね、世の中狭くつまらなくなるの。 

 豊かな人生を送るためには必要ありましぇーん!」
五郎「馬鹿!馬鹿ッ!!馬鹿ァッ!!!この人でなし! 

 あぁ、折角旅先で女の子たちとメアド交換しようと思ってたのにぃ~!!!」
弦太郎「結局それが目的じゃねえかよ! 

 お前、世間でなんて言われてるかしってるかアイアンキング?

「史上最弱の巨大ヒーロー」「日本一スタミナの無いヒーロー」

「ウルトラセブンもどき」「赤いシルバー仮面ジャイアント」。 

 かぁーっ、他人の事ながら、俺ァ情け無くって涙が出てくらぁ。 

 そんなんだから幼稚園児にまで舐められるんだよ、悔しくないのか!」
五郎「僕ちゃんはお子様たちの評判よりも、女の子と仲良くなるほうが大事なのぉー!」
弦太郎「相変わらずダメだねぇあんた。 

 それにな、一期一会の出会いの方が思い出に残るもんなの、わかる? 

 ほら、ぐずぐずしてないでいくぞ!」
五郎「あぁ~、さらば俺のケータイちゃん…。て、お前なにで九州まで行くんだよ」
弦太郎「決まってるだろ。ホレ」

そういって自分の脛を叩く弦太郎。

五郎「オイオイいいのかぁ?徒歩で」
弦太郎「俺たちゃ隠密。公共の交通機関に用はねぇ。

 それに、不知火の連中が九州だけにいるとは限らねぇんだ。
 敵が不知火だけとは限らねぇしな。こうして自分たちの足で調査しながら行くのが一番よ!

 あ、水筒に水汲んでおけよ」
五郎「ヘイヘイわかってますよ。あーあ、津島博士がまた始末書の肩代わりだな、コリャ。

 あっ、オイ待てよ~ッ!!!」
弦太郎「久々の世直し旅だ。腕が鳴るぜ!…って待てよ…

 まだ誰か足りねぇ気がするが…まぁ、いっか!」


東京・国家警備機構本部***


藤森典子「津島博士!霧島君から連絡は!」
津島博士「ああ、来たよ。弦太郎も九州に向かってくれるそうだ」
典子「で、今二人はどこに!?」
津島博士「それが、さっぱり返事が来なくてね。最後に電波が発信されたのは南会津付近だが、
     通信機も例によって電源切ってあるみたいでね…」
典子「ああっ!もうっ!やっぱり!博士!

 もうこの時点で規約をみっつも破っているじゃありませんか!
 やっぱり私がついて行くべきだったわ!」
津島博士「まぁまぁ、典子君。

 そう焦らなくても二人はこれまでもちゃんと任務を遂行してきたじゃないか」
典子「いいえ!博士はふたりに甘すぎます!あの二人に任せてたら九州が沈没してしまいますわ!
 私、藤森典子、静、霧島両隊員の監督の為、すぐさま2人を捜索し、

 発見次第その監督にあたりますので、失礼致します!

 鬼怒川方面かしら、あの2人温泉好きの女好きだし。

 ああ、裏をかいて若松方面から新潟に抜ける可能性もあるわね…。

 待ってらっしゃい二人とも…今度こそビッシビシしごいて真人間に更正してあげるんだから!」
津島博士(ああ…この娘も完全に2人に毒されてる…)


ま~ぼろしのぉ~♪みどぉ~りもとめてぇ~♪

665

○静弦太郎→三輪長官のスカウトを蹴ってそのまま行方をくらませていたが、南会津で五郎に発見される。不知火族復活の報せと、改造アイアンベルトを受け取り、黒幕を調査するべく徒歩で九州への珍道中を開始。
○霧島五郎→弦太郎と南会津で再開。不知火一族の野望を阻止するためともに徒歩で九州へ。
○藤森典子→相変わらず好き放題の二人を監督するべく、北へ出発。
○津島博士→改造アイアンベルトを託した五郎から弦太郎発見と任務開始の報せを受け取るが、その後二人は音信不通に。
●帝王メギド→ダイナマンとの決戦に敗れた後、ひそかに生き延び、尻尾による身分制度廃止を掲げて5年で国を再建、民衆の絶大な支持を受け、再び地上征服とダイナマンへの雪辱に意欲を燃やす。カー将軍の関東攻略電撃作戦を実行に移すべく、虎視眈々と機会を狙う。
●王妃キメラ→ダイナマンとの決戦に敗れた後、ひそかに生き延び、政治改革と国力回復につとめるメギドを支える。
闇女王同盟に所属してはいるが、後宮との関りは浅く滅多に足を運ばない模様。
邪魔大王国、不知火一族への増援と関東攻略電撃作戦のための陽動部隊となるため、メカシンカ1体とシンカ獣3体、及び若手の副官らを引き連れ九州地下へと向かう。
●カー将軍→再びジャシンカ帝国とメギド、キメラに忠誠を尽くす。各地で地下帝国軍が蜂起し関東の守備が手薄となった隙を突き、一気に侵攻する関東攻略電撃作戦を計画、実行の機会を耽々と狙う。
●三輪防人→(回想)着任中、静弦太郎に引抜をかけようとしていた。その裏には白河らティターンズの意向があった。

【今回の新規登場】
○静弦太郎(アイアンキング)
 国家警備機構の擁する「密使」と呼ばれる凄腕のエージェント。剣にも変化する特殊鞭アイアンベルトを操り、正真正銘生身の人間でありながら、巨大ロボットや怪獣とも臆する事無く渡り合う超人。普段は、陽気で社交的かつ女好きの好青年だが、強い正義感の持ち主であり、任務遂行の為なら他人を利用したり、他人はおろか自分すらも犠牲にする事を辞さないなど非情な側面を持つ。しかし、すべて割り切れる冷血漢ではなく、葛藤し、わざと偽悪的に振舞うことも。旅先で知り合った女性も自分の戦いに巻き込むのを恐れ、わざと突き放した態度を取ることが多い。霧島五郎とは性格は違うが妙に馬の合う名コンビであり、旅の中でも戦闘でもお互い助け合ってきた無二の相棒である。なお、本編の最終回まで五郎がアイアンキングである事に気がつかなかった。
 音楽を愛し、よくギターでの弾き語りを披露している。乗馬も得意。

○霧島五郎/アイアンキング(アイアンキング)
 国家警備機構隊員。登山衣装にサングラスが特徴の青年。静弦太郎の相棒として送り込まれた男だが、ドジで間抜けでおっちょこちょい、戦闘力も低く、オマケに女好きと、本当に特務機関の人間か疑わしくなる人物。
 だが実は以前、登山中の落雷事故で瀕死の重傷を負い、その際、津島博士の手によって、巨大ロボット・アイアンキングに変身できるようになった改造人間。1分間しか戦えず、エネルギーとして大量の水を要するためイマイチ活躍しきれないが、静弦太郎の危機を度々救い、そのコンビネーションで多くの的を葬ってきた。
 弦太郎とは対照的にお人好しで、任務の際も情を捨てきれず、危機に陥ったり、弦太郎と激しく対立する事も多いが、弦太郎がただ非情なだけの人間ではないと理解しているため、一般人との緩衝材的な役割を果たしたり、非情な決断を下さざるを得ず、打ちひしがれる弦太郎を慰めたりなどその支えにもなっている。

666

○藤森典子(アイアンキング)
 国家警備機構隊員。あまりに上層部をないがしろにする静、霧島両隊員への目付け役として送り込まれた女性隊員。
 なかなかの美人だが、極めて真面目でやや融通の利かない杓子定規的な性格。そのせいか、未だに男性経験は無い模様。弦太郎、五郎からは本人がいやがっているにもかかわらず「テン子」と呼ばれており、強烈すぎる2人のキャラクターの前にその暴走を阻止仕切れていない。

○津島博士(アイアンキング)
 国家警備機構に所属する科学者。捨て子であった静弦太郎を育て、霧島五郎をアイアンキングに改造した。不良隊員とレッテルを貼られている彼らにとって唯一の理解者である。

●若き帝王メギド(科学戦隊ダイナマン)
 有尾人一族ジャシンカ帝国の帝王。先帝アトンの息子。もとは5本尻尾だったが、ダイナレッドに1本を斬り落とされ彼をライバル視する。真面目で血気盛んだが、どこかお人よしで間の抜けている所がある。度重なる失敗をゼノビアの奸計に突け込まれ、全ての尻尾を切られた上、父アトンの手により、千年洞窟に幽閉されてしまった。
 しかし後に脱獄し、闇の使者・ダークナイトとしてダイナマンを翻弄、ゼノビアを罠に嵌めて滅ぼし、父であるアトンをも倒して、尻尾よりも一人一人の修練が強さに繋がると証明。成長を認めたアトンとから帝王剣を託され正式にジャシンカの王となった。

●王妃キメラ(科学戦隊ダイナマン)
 有尾人一族ジャシンカ帝国の王妃。4本尻尾。

 先帝アトンの妹の娘でありメギドとは従兄弟どうしである。
 妖術とスティックを武器として操る。なにかというと熱くなりがちなメギドとは対象的に冷静沈着であり、当初、メギドとは喧嘩友達に近い間柄であったが、メギドの帝王即位後はその成長を認めたのか、心底彼を慕っている様子である。ダイナブラックこと星川竜に服を奪われてしまったことがある。

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最終更新:2020年11月16日 03:13