本編676~681

『ダカールの日』-11

作者 鳴滝
676

地球連邦首都・ダカール***


国王の宮殿キングキャッスルへと戻った地球国王は、
直ちに地球連邦大統領と地球連邦議会の助言と承認の下に、
地球上から地球至上主義の勢力を一掃する旨の詔勅を発した。

再開された臨時総会の演壇に立ったロゼ・アプロヴァールは、
ナチュラルとコーディネイター、ノーマルとエスパーなど
種の違いに優劣など存在しないこと。知性を持ったロボット生命体も
人間の友人であること。そして閉ざされかけた異星の人々との交流を
速やかに再開することを、地球連邦大統領の名において宣言して
総会を締めくくった。


議事堂・ロビー***


マイケル「戻ってくるつもりはないかね?」
マリュー「………」

アメリカ合衆国大統領マイケル・ウィルソンは、
マリュー・ラミアスらアークエンジェルのクルーに
米軍(大西洋連邦軍)への復隊を勧めていた。

マイケル「JOSH-Aでの一件、非は明らかに当時の司令部にある。
 国防長官はまたうるさく言ってくるだろうが、私は直ちに
 君たちの名誉回復及び恩赦に関わる手続きを開始する大統
 領令に署名するつもりだ」
マリュー「お気持ちはありがたいのですが、オーブには
 これまで世話になった恩義もあります。私も部下達も
 今の立場で平和のために尽くす所存です」
マイケル「そうか…。だが諸君らはすでに脱走兵ではない。
 これからは地球の平和のために共に戦う仲間だ。この事は
 忘れないでほしい」
マリュー「ありがとうございます、大統領。ただイスマエル王子から お聞きしましたが、今回の件で最終的には上手くまとまったとはいえ、 中東地域の意見調整には大分手間われたとか?」マイケル「サラジアにいろいろと条件を呑まされたよ。 あの国もなかなかしたたかだ」 サラジアは中東有数の産油国の一つで、潤沢なオイルマネーをテクノロジーの発展に投資
している技術大国でもある。その反面、イデオロギー的には反米の側に立ち、生物化学兵器の製造疑惑も浮上していて、米国からはテロ支援国家の指定を受けている…。

大空魔竜・艦橋***


ウイリス「これで、ティターンズの息のかかった議員は一掃されるでしょうね」
セイラ「お疲れでしたでしょう、フォーラ准将」
ブレックス「ははは、少し走りまわったせいだな。さすがに年には勝てんよ」
桃太郎「さて、これからどうするか…。議会はしばらく検察の手入れで、
 おおわらわだろうが、ティターンズは権力を握りそこねたとはいえ、
 まだ力を持っている。このまま大人しく引っ込んでいるとは思えんな」
ミドリ「月面基地のアオイ中佐から、通信が入っています」
大文字「アオイ君から? つないでくれ」

通信用モニターに、月面基地からのアオイ・ジュンの顔が映る。

ジュン@モニター「作戦は大成功でしたね。こちらも衛星を通じて、
 放送をキャッチしましたよ」
ブレックス「うむ、これでティターンズは、実質的に解散したのと同じだ。
 ただ、ジャミトフが行方をくらましてしまったのが気にかかるが…」
ジュン@モニター「ジャミトフが…では、まだそちらは大変でしょうね…」
ブレックス「どうかしたのかね?」
ジュン@モニター「衛星イオに陣取るジュピトリアンの動きが活発になっています。
 イオ基地に最初に向かった偵察隊も、まだ行方不明のままですし……」
桃太郎「人手不足…というわけか」
ブレックス「では、私は急いでナデシコと共に宇宙に戻ろう。後の事は君達にまかせる」
リリーナ「わかりました。准将、お気をつけて」

677

イカロス基地***


小惑星帯(アステロイド・ベルト)に存在する、地球連邦宇宙軍基地。
内部には天文台の施設や航宙士官学校が存在するなど、それなりの規模を
誇っている。ここの基地司令は、かの名将タシロ・タツミ提督であるが、
この基地にはさらにその上位に一人の女性将校が君臨している。
地球大公の称号を持つ、ニルバール・ネフュー中将である。

ニルバール「おかげで反乱勢力の頭目にされずに済みました」

やや冗談めかしてモニター画面越しの通信の相手に答えるニルバール。

ダカールでの政変で反ティターンズ派が勝利した事は、
ここイカロス基地にも知らせが届いていた。
地球連邦は連邦統合の象徴である国王、行政の実権を握り、連邦軍の最高司令官でもある大統領、そしてその国王と大統領に万一の事が起こった場合の控えの役目として大公が存在する、いわば三重元首制を採用している。
もし今回の政変で反ティターンズ派が善戦虚しく敗れた場合、
残存戦力がニルバールを神輿に担いでイカロス基地に立てこもり、
政権を握ったティターンズに対して最後の抵抗を試みる手筈に
なっていた。「勝てば官軍、負ければ賊軍」の言葉通り、
ティターンズが名実共に地球を制圧していたとしたら、
それに抵抗する側は賊軍=反乱軍という扱いになっていた事だろう。

モニターの向こう側にいる若い女性が口を開く。

ディアネイラ@モニター「今回の事は何よりの朗報でした。これで本格的に
 例の統合部隊設立の交渉を進めることが出来ます」
ニルバール「では、いよいよですか?」
ディアネイラ@モニター「星間評議会は正式に交渉のための使節を
 地球に向けて発する事を決定しました。近々外交ルートを通じて
 地球側にも通達が届く事でしょう。その折にはくれぐれも
 万事抜かりなきよう取り計らってください」
ニルバール「承知致しました。お任せください」

ニルバールと通信を交わしている、この金髪の聡明そうな美しい少女こそ、
今や外宇宙にまで勢力を拡げた地球人類が築いた銀河連邦唯一無二の指導者である、
ディアネイラ・イ・ライシャ・アルトリア・オル・ユーノスその人であった。

678

地球・フランス上空***


鉄人28号FXとブラックオックスの母艦である移動基地エアロトレッカーは、
英国で救出したパンを護衛しつつ、現在ICPO本部のあるリヨン市に向けて移動中である。

荒井「お嬢ちゃん、たった今ダカールから連絡があって、
 君のおじいさんはご無事だそうだ」
パン「そうなの!? よかった…」

ティターンズに囚われていた祖父ミスターサタンが無事であると聞き、
ホッと胸を撫で下ろすパン。

正人「…しっかし、いったいあの時はどんな手品を使ったんだ?」
パン「手品?」
正人「ほら、あれだよ。いきなりモビルスーツを回し蹴りで、
 山の向こうまで吹っ飛ばしたヤツ」
パン「だからあれは、手品なんかじゃなくて私の実力だって
 さっきから何度も言ってるでしょうが!」
三郎「しかし、いくらミスターサタンのお孫さんだからといって、
 女の子がモビルスーツを蹴り飛ばすだなんてな…」

パンが襲い掛かってきたハイザックを返り討ちにしたのは紛れもない事実であり、
正人も三郎もその現場をしっかり目撃しているのだが、未だに納得が
出来ないという表情だった。その会話をICPOのベテラン捜査官である荒井誠も
横で聞いていた。荒井も仕事柄、素手や生身で怪人や巨大メカと互角以上に
戦える実力を持っている人間に何人か心当たりはあるが、パンのような
幼い女の子が、そのような高い戦闘能力を有しているという話は初耳で
ある(そもそも荒井は、セルを倒したのがミスターサタンだという話も
充分眉唾物で怪しいと思っているが…)。

そうこうしているうちに、エアロトレッカーはICPO本部へと到着した。


リヨン市・ICPO本部***


パン「パパ! ママ!」
悟飯「パン!」
ビーデル「よかった、無事で…」

ICPO本部では、パンの両親である孫悟飯・ビーデル夫妻が
わが子を迎えに来ていた。ビーデルは愛娘を強く抱きしめる。

悟飯「本当にありがとうございました」
ビーデル「何とお礼を申し上げてよいのか…」
荒井「いえいえ、ダカールに監禁されていた
 お父上もご無事で何よりです」
悟飯「義父が人質にとられていなければ、
 僕一人でティターンズくらい何とかしてみせた
 んですが――」
荒井「…え?」

悟飯からの思いもよらぬ発言に、荒井は一瞬呆気に取られる。

ビーデル「――あ、いえいえ! 何でもありません!
 今の話はどうかお気になさらずに」
荒井「………」

ビーデルが慌てて必死にフォローを入れる。
しばらくして荒井は突然何を思ったか、悟飯に向かって
強烈なパンチを放った。しかし悟飯はそれを余裕で難なくかわす。

荒井「…失礼。蚊が止まっていたもので」
悟飯「……??(汗」
荒井「しかし見事な身のこなしです。何か武術の心得でも?」
悟飯「え? ええ…まあ多少は」
ビーデル「え、えーっと…ともかく、この度はありがとうございました。
 私共はこれで失礼致します」
荒井「どうかお気をつけてお帰りください」

孫一家を本部の玄関まで見送る荒井。一見学者肌の人間に見える
パンの父親・孫悟飯の、華奢に見えながらも鍛え上げられたその肉体から
武闘家特有の闘気が常に発せられている事を、荒井は見逃してはいなかった。
ひょっとするとあの少女パンの異常なまでの強さの秘密とは、母方ではなく
父方の方の血脈に何か関係しているのではと考えるのであった。そして、あのセルを倒したのも本当はひょっとすると…?

正人「あれっ? ところで父さんは?」
三郎「長官なら今、容疑者を取調べ中だそうだ」
正人「容疑者を取り調べ…?? いったい何だろう」

679

同ICPO本部内・取調室***


ルクス「ICPO長官直々に自ら取調べとは、ご大層な事だ」
正太郎「………」

机を挟んで正太郎の向かい側に座っている老人。
前大戦でロゴスメンバーとしてザフト軍に拘束された後、
国際法廷に身柄を引き渡され、終身刑の判決を受け、
現在は米国カリフォルニア州のスタンフォード特別刑務所にて
服役中のルクス・コーラーである。

ルクス「ティターンズを倒していい気になっているだろうが、
 このままでは世界は確実に滅ぶ。停滞は容易に退化へと変わる。
 未曾有の危機を乗り越えるには指導者が必要だ。独裁でなければ
 まとめられない世界というものがある」
正太郎「御託はよろしい。それよりもそろそろ話しては
 頂けませんかね。貴方が知る限りのロゴスという組織の全貌を――」
ルクス「知らん」
正太郎「そもそもロゴスと地球教とはどういう関わりなのか?」
ルクス「知らんと言っている。仮に知っていたとしても、
 それを口にした途端、わしは命を落す」
正太郎「………」


ヒマラヤの地球教本部***


決して誰一人として足を踏み入れぬヒマラヤ山脈の奥地に、
老衰と疲労の皺を深くたたみこんだ地がある。
年老いた石造の建物の中を、黒衣に身を包んだ壮年の男が
正確だが緩慢な足取りで動いていた。
とある扉の前にたつと、侍衛の者が一礼してそれを開く。
広い室内は鈍い白濁した光に包まれていた。
男より遥かに長く時間との交際を続けてきたらしい老人が
玉座に鎮座しているのが見える。

ド・ヴィリエ「総大主教猊下……」

うやうやしく呼びかけた男は、反応を示さぬ相手に
さらに語りかけた。

ド・ヴィリエ「ティターンズが失敗し、地球連邦の首都ダカールから
 撤退いたしました」

それを聞くと、ロゴスの真の支配者である黒衣の老人は初めて顔を上げ、
干からびた皮膚に覆われた手でド・ヴィリエを差し招いた。

総大主教「それからその後どうなっておる?」
ド・ヴィリエ「異教徒どもは背教者ロゼ・アプロヴァールなる者を
 再び連邦の大統領の地位に据え、それぞれ自分の国へと帰還した由に
 ございます」
総大主教「……で、ゼーレの座の方はどうなっておる?」
ド・ヴィリエ「はい。ゼーレに関しましては、
 いささか不確定の要素が多すぎます」
総大主教「キール・ローレンツとの連絡は取れているのであろうな?」
ド・ヴィリエ「一応は。ですがあの男、どうにも心の底が知れませぬ。
 単に服従の精神が疑われるに留まりません。ジャミトフやアズラエル以上に
 恐ろしく不逞な野心を抱いておるやに思われます。ご用心のほどを……」
総大主教「そんなことは承知の上じゃ」

老人の声はこともなげであった。

総大主教「我らの掌の上で踊る限り、どんな形で舞おうとも
 意に介するには及ばぬ。フフフフフ……」

歴史の逆転を願って密やかに語らい続ける彼らの遥か頭上を、
繚乱たる星々の光が飾り始めていた。

680

○地球国王→地球至上主義勢力追放の詔勅を発する。
○ロゼ・アプロヴァール→異星との交流再開を宣言して臨時総会を締めくくる。
○マイケル・ウィルソン→過去のアークエンジェルの脱走の罪を取り消す。
○マリュー・ラミアス→マイケル・ウィルソンから米軍(大西洋連邦軍)への
 復隊を勧められるが、辞退する。
○フジヤマ・ミドリ→月面からのアオイ・ジュンからの通信を繋ぐ。
○アオイ・ジュン→月面基地から地球に連絡を入れる。
○ブレックス・フォーラ→宇宙へ帰還する。
○ニルバール・ネフュー→ディアネイラから、星間評議会が地球に向けて
 使節を発する事を正式に決定したとの連絡を受ける。
○ディアネイラ→イカロス基地にいるニルバールに、星間評議会が地球に
 向けて使節を発する事を正式に決定したとの連絡を入れる。
○孫悟飯→ICPO本部で娘パンと再会。
○ビーデル→ICPO本部で娘パンと再会。
○パン→ICPO本部で両親と再会。
○荒井誠→ICPO本部に帰還。
○金田正人→ICPO本部に帰還。
○夏樹三郎→ICPO本部に帰還。
○金田正太郎→ルクス・コーラーを取り調べる。
●ルクス・コーラー→現在、終身刑の判決を受け服役中。金田正太郎から
 直々に取調べを受ける。
●ド・ヴィリエ→ティターンズ敗退の報を、総大主教に報告する。
●総大主教→ド・ヴィリエから、ティターンズ敗退の報告を受ける。

681

【今回の新規登場】
○フジヤマ・ミドリ(大空魔竜ガイキング)
 大空魔竜の通信担当。大空魔竜戦隊の男性陣に人気があるが、
 特に気のある男性はおらず、サンシローやヤマガタケ等、自身に
 気のある男性のあしらいに長けた一面も持つ。幼い頃に記憶を
 失っていたところを大文字博士に拾われて養女として育ったが、
 実はピジョン星人という意外な正体を持っている。

○ディアネイラ・イ・ライシャ・アルトリア・オル・ユーノス(ヒロイック・エイジ)
 アルトリア星系を統治するユーノス王家の王女。
 人類存続のため、巨大宇宙船アルゴノートで旅に出る。
 優れた精神感応力を持ち、空間的距離を超越する事ができる。
 自分とは全く異質な「男性」全般が苦痛の種。

○ニルバール・ネフュー中将(ヒロイック・エイジ)
 ユーノス王家の中年の女性将校。一帯の星系を制圧するために
 鳴り物入りで派遣されたが、あっという間に援軍が来なくなり、
 青銅の種族との激戦によって制圧すべき「ターミナル・プラネット」
 も崩壊したにもかかわらず、青銅の種族に星系を支配されないための
 消極的な守戦を繰り返していた。現実的な判断に長けているが、
 やや悲観的な性格。

○孫悟飯(ドラゴンボールZ/ドラゴンボールGT)
 伝説の超サイヤ人・孫悟空と地球人チチとの間に生まれた長男。
 ピッコロに戦闘に対する資質を見いだされ修行し、武道家として成長。
 自身も父と同様に超サイヤ人に覚醒した。セル消滅後、普通に高校生
 として過ごす傍ら、正義の戦士「グレートサイヤマン」として平和を
 見守る。魔人ブウ消滅後は勉学に専念して学者となる。
 ビーデルと結婚、娘パンを授かった。

○ビーデル(ドラゴンボールZ/ドラゴンボールGT)
 ミスターサタンの一人娘で、孫悟飯の妻。パンの母。
 夫の悟飯とは高校在学中に知り合った。武道の素質と心得があったことや
 自分なりに修行していたこともあって、悟飯との修行では並外れたスピー
 ドで気の使い方、舞空術をマスターする。現在は専業主婦だが、
 時折、夫と同様「グレートサイヤマン2号」のコスチュームに身を包んで
 出撃する事がある。

●ルクス・コーラー(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 ロゴスメンバーの1人。デュランダルの打倒ロゴス演説後
 各地で蜂起した民衆の反ロゴス暴動を逃れ、ジブリール他
 ロゴス幹部と共に連合軍最大拠点「ヘブンズベース」に逃亡したが、
 基地は陥落し逮捕・拘束された。

●ド・ヴィリエ(銀河英雄伝説)
 地球教の大主教であり、総書記代理。官僚、陰謀家として極めて有能。
 知識を集積させ、それを分析して統計的に結果を導き出せる犀利な
 頭脳を持つ。自らの野望に従い、地球教の数々の陰謀を主導した。
 外見は痩せた、鋭角的な印象の男。

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最終更新:2020年11月16日 03:17