『咆えよベンK!怪奇と恩讐の辻斬り遍路』-1
作者 凱聖クールギン
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大戸島にゴジラとガメラが現れてから、既に三日が経っていた。
自衛隊と
GUYS JAPANは総力を挙げて二大怪獣の行方を追っていたが、
大爆発と共に海中に没した二匹の消息は未だ掴めていなかった。
東京・総理官邸***
剣桃太郎首相は、大戸島の現地視察から戻った
内閣安全保障室長・土橋竜三を官邸に迎えて話を聞いていた。
(三田村清輝の推薦で室長に起用された穏和そうなこの老人、
風貌はどこかあの立花藤兵衛に似ている…)
剣「土橋君、お疲れ様。
それで、大戸島の被害状況はどうだったね?」
土橋「いやあ、直にこの目で見てみると、
なかなか凄まじいものでしたよ。
まるでクレーターのように地面が抉られて、巨大な穴ができてましてね。
幸い、人的被害はさほど大きくはなかったですが、
それでも過疎の離島にとっては、漁村の一部が破壊されただけで相当な痛手です」
剣「大戸島については、早急に特別復興予算を手当てしよう。
怪獣の上陸に対して政府の予測と対応が遅れたのは、
言うまでもなく内閣総理大臣であるこの私の責任だ」
土橋「総理…。過ぎてしまった事より、
今後の怪獣対策にこの教訓を活かす方が大切じゃありませんか」
剣「その通りだな…。
全力を挙げてゴジラとガメラの行方を追い、次の出現に備えねばならん。
そして、もう一つ気がかりなのはラドンの眠る阿蘇山だが…」
土橋「はい。そちらについては、
特別調査団として現地に飛んでいる山根健吉君から報告が届いています。
こちらをご覧下さい」
剣「山根健吉……というと、
今は亡きあの山根恭平博士のお孫さんだね?」
土橋「ええ。大学時代にゴジラに関する論文をウェブ上に発表して、
世界を騒がせた逸材ですよ」
そう言って土橋は、九州から送られて来た動画によるレポートをスクリーンに映した。
健吉「こんにちは。阿蘇ラドン特別調査団の山根です。
土橋さん、剣首相、お元気ですか?」
画面の中で小さく手を振って見せた眼鏡の青年は、
オキシジェン・デストロイヤーを開発し初代ゴジラを葬った故・山根恭平博士の孫で、
デストロイア事件の際にはGサミットにも加わって活躍した山根健吉である。
学生時代からゴジラの研究を趣味としていた健吉は、
大学卒業後、怪獣研究者への道を本格的に志し、
今は阿蘇山に眠るラドンの観測作業にアシスタントとして携わっていた。
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健吉「このグラフは、阿蘇山の火口で眠るラドンの心拍数を
一日ごとに計測したものです。
見ての通り、日ごとに心拍数は増加していて、
これはラドンの生命活動が徐々に活発化している事を意味しています」
画面に現れた右肩上がりのグラフを示しながら、健吉は説明する。
健吉「特にグラフが大きく跳ね上がっている所がいくつかありますが…。
これは、どれも阿蘇山の近くで何か異常事態があった日です。
ガルマ・ザビの機甲軍団が福岡を爆撃した日、
猛士の響鬼さん達が阿蘇山麓の百鬼帝国基地を壊滅させた日、
そして、イーグル九州支部隊が三池にある邪魔大王国の地下炭鉱を攻撃した日…。
いずれも、火口のラドンは異変を察知して小さくない反応を示しています」
剣「う~む、地上での騒乱がラドンに影響しているという事か」
土橋「眠りを妨げられた、といったところでしょうな。
怪獣は自分の縄張りを侵害される事には非常にデリケートです」
健吉「霞ヶ浦に現れたチタノザウルスがそうだったように、
怪獣は周囲の環境の変化にとても敏感な反応を示す傾向があります。
現時点では、ラドンはまだすぐに眠りから覚める気配はないですが、
今後、異常気象や地殻変動、Gショッカーなどによるテロや戦乱が更に続けば、
それがラドンを刺激し、復活を早める呼び水になってしまうかも知れません。
――以上、報告終わり。
阿蘇ラドン特別調査団・山根健吉でした」
報告はそう締め括られ、動画が終わって画面が暗転した。
剣「ラドンに関しては、引き続き警戒が必要だな。
佐世保に自衛隊を配備し、いつでも出撃できるよう待機させよう。
周辺住民の避難も滞りなく行なえるよう、
各市町村に改めて通達しておく」
土橋「阿蘇山の北には、九州最大の人口を抱える福岡・北九州地域があります。
空飛ぶ怪獣という事もあり、更に遠方の中国・四国方面にも警戒が必要です」
剣「後は、つくばで建造中のメカゴジラだが…」
土橋「いよいよ工程は最終段階です。
あと一週間で完成し、実戦運用が可能になります」
剣「一週間、か…。
それまでは、現有戦力をフルに活用して怪獣と戦わねばならん。
例えどんなドでかい怪獣だろうと、
この日本を好きなように踏み荒らさせたりはせん!」 。
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四国・愛媛県***
地獄谷での死闘の日からしばらく経って――。
剣流星、仰木舞、北八荒、それにスプリンガーの三人と一匹は、
束の間の平和を少しでも楽しもうと四国へ旅行に来ていた。
八荒「いやいやいや、やって来ました四国!
南国の風が暖かくて気持ちいいね~」
舞「フフッ。はしゃぎ過ぎよ八荒さん。
でも喜んでくれて良かった。
元々、四国に来なきゃいけなかったのは私の仕事の都合だけど、
折角また流星さんやスプリンガーと再会できたんだし、
この機会にみんなで楽しく旅行するのもいいかなと思って」
八荒「四国に来たのは昔、バイク仲間と一緒に突っ走った時以来だよ。
宇和島の海が綺麗だったんだよな~」
舞「それって、暴走族じゃない…。
今回は『週刊アップ』の、四国八十八箇所巡礼の旅特集・愛媛編。
弘法大師ゆかりの霊場を取材して回るのが目的なんだから、
そういうバチ当たりな不作法は謹んでよね」
八荒「分かってるよ舞ちゃん。昔の話さ」
スプリンガー「悪い事が起きなきゃいいけどな。
ゴジラが本土に上陸するかも知れないってんで、
警報発令で朝から飛行機がストップしてひどい目に遭ったぜ」
八荒「もう何回目だろうな、そういうの。
怪獣の脅威に、世の中みんなピリピリしてるよ」
流星「この四国にはたくさんの神様や仏様がいて、人々を見守っている…。
自然災害や、怪獣からもみんなの暮らしを守っているんだ」
そう言って南予アルプスの山並を見上げる流星に、
舞と八荒はちょっと不思議そうな顔をする。
だが、その視線の向こうの山で何か異変が起きようとしている事までは、
さしもの流星もまだ気付いてはいなかった…。
鬼ヶ城山***
南予アルプスの西端にそびえ、宇和島の街を見下ろす鬼ヶ城山。
その山頂に、Gショッカーが密かに基地を建設しようとしていた。
ドクガンバ「働け働けい! 休憩など無用だ!
フハハハハ~! この鬼ヶ城山の頂に砲台を築けば、四国全土を砲撃できるわ!」
ヒルビラン「そしてその砲撃には、
一発で街一つを消滅させる威力のあるバリチウム弾が使われる。
かつてクライシス帝国さえも征服できなかった四国が、
我らネオショッカーによって焼け野原と化すのだ!」
ネオショッカー怪人ドクガンバとヒルビランは、
拉致した近隣住民や登山客らを奴隷として働かせ、
鬼ヶ城山の山頂に砲台基地を築こうとしていたのである。
アリコマンド「ケィ~ッ! ドクガンバ様とヒルビラン様に申し上げます。
昨夜から行方不明となっていた奴隷3名の死体がエリアDの山林で見つかりました。
何者かに襲われて殺されたらしく、
いずれも死体には鋭い刃物で斬られたような深い傷があります」
ドクガンバ「ええ~い、また例の傷か」
ヒルビラン「一体誰の仕業なのだ?
パトロールを強化し、犯人を一刻も早く見つけ出せ!」
奴隷や戦闘員が何者かに襲われ、殺されるという怪事件が建設現場一帯で続発していた。
被害者の遺体には全員、刃物で斬られたような深い裂傷があるのだが、
犯人の姿を見た者はなく、一体誰の手による殺害なのか、
真相は未だ謎のままであった。
ヒルビラン「この基地の存在はまだ仮面ライダーや
奴らの仲間達には勘づかれていないはず…。
しかも捕らえてきた奴隷どもまで殺すとは、
正義とやらを守ろうとする奴らの手口とは思えん。
一体、誰がこの基地の周りをウロウロしておるのだ!?」
ドクガンバ「とにかく、この四国砲撃作戦に失敗は許されん!
草の根を分けても犯人を探し出し、始末するのだ!」
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鬼ヶ城山・麓の村***
鄙びた山道の脇に佇む地蔵に、静かに手を合わせる巨体の男。
黒と青の袴の上に白いメカニカルアーマーを纏い、
古の武蔵坊弁慶を彷彿とさせる風体のこの大男は、名をベンKという。
ベンK「このお地蔵様は随分と痛み、砂埃を被っている…。
きっと昔からここにいて、この山を見守ってきたのだろうな」
かつてネロス帝国のヨロイ軍団激闘士として武名を馳せた彼は、
メタルダーと戦って敗れ、命を赦されたのをきっかけに改心し、
己の罪を償うため巡礼の旅に出ていた。
メタルダーを助けるため、ヨロイ軍団の影と戦って落命した彼だったが、
黄泉還り現象によってこの世に戻ってからも変わる事なく、
こうして各地を遍路し、前世の罪を神仏に懺悔し続けている…。
ベンK「こんな事をしても、俺の犯した罪が消えるとは思わない。
だが俺には、今はこうする事しか出来ない…」
自分をこの世に黄泉還らせたのは、誰、あるいはどんな宇宙の摂理だろうか?
黄泉還った時、ベンKはかつての武器である鎌を装備していた。
戦いを忌む自分に、再び戦う運命を与えようという神の見えざる意志なのか。
ネロス帝国が復活し、巨大な悪の組織Gショッカーの一翼となって
再び平和を脅かしているとの噂はベンKも耳にしているが…。
ベンK「メタルダー…。
あいつは今、どこで何をしているだろうか…」
祈りを終え、地蔵の土埃を丁寧に払い落としてから
立ち上がってゆっくりとまた歩き出すベンK。
その寂しげな後ろ姿を奇怪な眼差しで見送った、
道端の水溜まりにいた一匹のタガメが突如巨大化し、怪人の姿となった。
タガメラス「あれは確かに、ネロス帝国の脱走者ベンK…。
奴の背負っているあの鎌は…?
もしや、ネオショッカー基地の周りで辻斬りをしているのはあいつか~!!」
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ネロス帝国・ゴーストバンク***
クールギン「何!? ベンKの辻斬りだと…?」
チューボ「はっ。ネオショッカーの情報網が、
大鎌を担いで鬼ヶ城山の麓をうろつくベンKの姿を確かに捉えたとの事。
魔神提督からは軍団長宛てに、
『貴殿の軍団の裏切り者によって大迷惑を被っている。何とかしろ』と、
厳重な抗議が届いております」
クールギン「まだ奴の仕業と決まったわけではあるまいに…。
相変わらず、気ばかりが早い男よ」
チューボ「いかが致しましょうや。
証拠不足の言いがかりではこちらこそ迷惑だ、とでも突き返しますか?」
クールギン「いや、ここはGショッカーの友邦同士、
いたずらに摩擦を招くような対応は控えねばならん。
それに鬼ヶ城山の事件の真相がどうであれ、
ネロス帝国の脱走者の居場所が分かったのは幸いだ。
辻斬りがベンKの仕業であろうとなかろうと、
帝王ネロスを裏切ったあの男に我らが与えるべきものは死しかない…。
――ガラドー!!」
クールギンの呼びかけに応じ、音もなくその足元に参上したのは、
ネロス帝国一の忍術使い、ヨロイ軍団爆闘士ガラドーである。
ガラドー「お呼びにございますか、軍団長」
クールギン「ガラドー、直ちに四国へ飛べ。
ネオショッカーと協力して裏切り者のベンKを追い、抹殺するのだ」
ガラドー「はっ!」
クールギン「同時に、鬼ヶ城山で起きている怪事件についても独自に調査を進めろ。
魔神提督はベンKの辻斬りと決めつけているようだが、
私には何か別の不吉な予感がする…」
ガラドー「と、仰せられますと…?」
クールギン「あの鬼ヶ城山の付近で一週間前、
時空クレバスの発生が確認されているのだ。
ごく小さなもので、わずか数分で消滅してしまったが、
Gショッカー
巨獣軍のレーダーは確かに時空の穴の出現を感知した。
それがこの怪事件と果たして無関係かどうか…。
時間的な符合を考えても、私には気にかかる」
ガラドー「なるほど。心得ました」
クールギン「それから…戦闘ロボット軍団から、
ゴチャックとゲバローズを援軍として連れて行け。
バルスキーには、私の方から話を通しておく」
ガラドー「お言葉ながら、このガラドーに援軍など無用!」
クールギン「言わせるなガラドー…。政治的配慮というものだ。
先の地獄谷での大敗戦で、戦闘ロボット軍団は帝王のご不興を買い、
それからしばらく経った今も、奴らをご覧になる帝王の眼差しは冷たいまま…。
帝王のお怒りは全くごもっともながら、
しかしネロス帝国四軍団の一角がいつまでもこうした半謹慎状態では、
帝国全体の先行きにもやがては影が射そうというもの」
ガラドー「故に、彼らの名誉挽回の機会を与えよ、と」
クールギン「ゴチャックとゲバローズなら、
気を回さずとも手柄を立ててお前の役にも立つだろう。
ゴチャックとお前は階級では同格だが、今回は我らヨロイ軍団が恩を売る形ゆえ、
当然、指揮権はお前が持てるよう私が計らっておく。
二体の戦闘ロボットを手足として存分に使い、
しかと成果を上げて来るのだ」
ガラドー「この“忍びのガラドー”にお任せを!」
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○剣桃太郎→土橋竜三と山根健吉から大戸島と阿蘇山の状況について報告を受ける。
○土橋竜三→大戸島の被害状況を視察し剣桃太郎首相に報告。
○山根健吉→阿蘇山に眠るラドンの観測結果を剣桃太郎首相に報告。
○剣流星、仰木舞、北八荒、スプリンガー→旅行で四国・愛媛を訪れる。
●ヒルビラン、ドクガンバ→四国の鬼ヶ城山に基地を建設中。
●タガメラス→鬼ヶ城山の麓を巡礼中のベンKを発見。
●クールギン→ベンK抹殺と鬼ヶ城山の怪事件調査のためガラドーを差し向ける。
●ガラドー→ベンK抹殺と鬼ヶ城山の怪事件調査のため四国へ飛ぶ。
●チューボ→鬼ヶ城山の怪事件と魔神提督からの抗議をクールギンに報告。
○ベンK→巡礼のため四国・鬼ヶ城山の麓を訪れる。
【今回の新規登場】
○土橋竜三(ゴジラVSキングギドラ/ゴジラVSモスラ)
内閣安全保障室室長。
キングギドラとゴジラの出現に際し、保障室内にGルームを編成して対応した。
後に国家環境計画局へ出向し、ゴジラ・モスラ・バトラの日本上陸事件に関わった。
○山根健吉(ゴジラVSデストロイア)
オキシジェン・デストロイヤーの発明者、山根恭平博士の孫。
ゴジラの研究を趣味にしている青年で、ゴジラの体内構造に関する私的考察の論文を送って
評価された事からGサミットにオブザーバーとして参加するようになった。
○ベンK(超人機メタルダー)
ネロス帝国・ヨロイ軍団元激闘士。ハンマーと鎌を武器とする怪力の持ち主。
メタルダーと戦って敗れ、命を助けられた事で改心しネロス帝国を出奔、
それまでに犯した罪を償うために巡礼の旅に出ていたが、
再会したメタルダーに助太刀してヨロイ軍団の戦闘員・影と戦い壮絶な最期を遂げた。
帝国出奔後は数珠と錫杖を武器に使っている。
●爆闘士ガラドー(超人機メタルダー)
ネロス帝国・ヨロイ軍団爆闘士。
“忍びのガラドー”の異名を取る帝国きっての忍術使いで、様々な忍術を技として戦う。
また魔術師としての一面もあり、多彩なマジックを駆使して引田天功に勝負を挑んだ。
執念深い性格で、ウィズダムの一件ではモンスター軍団との間に遺恨を残した。
●ヒルビラン(新・仮面ライダー)
ネオショッカー怪人。
ヒル毒液やヒル爆弾を武器にするヒルの怪人で、戦車を操縦して8人ライダーと戦った。
当初は怪人二世部隊の隊長も務める予定だったほどの実力者。
小さなヒルに姿を変える事も可能。
●ドクガンバ(新・仮面ライダー)
魔神提督がギリシャから呼び寄せたネオショッカー怪人。
全身のドクガ鱗粉を散布して伝染病を発生させ、人々を大量殺戮するのが使命。
戦闘では鎖のついた鉄球を振り回して武器とする。
小さな蛾に姿を変える事も可能。
●タガメラス(新・仮面ライダー)
ネオショッカー怪人。
水中戦を得意とするタガメの怪人で、右手の剣状の大きな爪が武器。
口から出す針で人間の血液を吸い取りミイラ化させる。
小さなタガメに姿を変える事も可能。
最終更新:2020年11月19日 07:19