『魔界城の大食いクイーン』
作者・凱聖クールギン
901
東京郊外・工業地帯***
DASHのトウマ・カイト、コイシカワ・ミズキ両隊員は、
人間に擬態して東京都内に潜伏している地球外生命体ワームの情報をキャッチし、
潜伏先の廃倉庫へ急行、戦闘に突入していた。
カイト「思ったより数が多い…!」
ミズキ「まだ来るわ! 気を付けて、カイト!」
廃倉庫の奥からわらわらと湧いて来るサナギワームの群れを、
カイトとミズキはダッシュライザーのビームで次々と殲滅する。
予想以上の大群とは言え、巨大怪獣との戦いを主任務とするDASHからすれば
孵化していないサナギワームは強敵と呼ぶには当たらない。
ものの十分ほどで、ワームは一匹残らず全滅した。
ミズキ「終わったわね」
カイト「うん…」
ミズキ「情報によれば、この宇宙生命体のグループは武器の密売屋と接触して
銃器や爆薬を手に入れていた形跡があるわ。
この倉庫の中に隠してないか、調べましょう」
そんな一部始終を、物陰から見ている男が一人。
天道「…俺が出るまでもなかったか。
だが、ワームも明らかに以前より組織的な侵略を始めている。
そして、その裏にはGショッカーが…」
そこへ、両手に買い物袋をぶら下げた加賀美新がやって来て天道に声をかけた。
加賀美「よう、天道。こんな所で何してるんだ?」
天道「相変わらず鈍い奴だな…。
今、何が起きようとしているのか分かっていないのか。
それよりお前こそ、そんなに山ほど食材を買い占めてどこへ行く」
加賀美「ああ、これ? 店さ。
ビストロ・ラ・サルだよ。今、ひよりが大変なんだ」
天道「ひよりが…!? 何があった?」
加賀美「いや、別に危険とか、そういう意味じゃないから安心しろよ。
ただ、店の食材が底を突いちまってさ。肉も野菜も魚も卵も全部空っぽ。
俺は仕事の休憩時間にちょっと立ち寄ったんだけど、
厨房はもうてんやわんやの大騒ぎで、弓子さんに大急ぎで買い出し頼まれたんだ」
天道「こんな時間に…? 団体客でも来たか」
加賀美「いや、それが違うんだ。
客は一人だけ。若い女の子が一人で、信じられない量を食べてる」
天道「何…?」
902
ビストロ・ラ・サル***
東京タワーにほど近い小さな洋食店、ビストロ・ラ・サルでは、
遅めのランチを楽しみにやって来た客らが目の前の光景に呆気に取られていた。
ギャル風の派手な服装をした金髪の若い女性が、
凄まじい勢いで次々と料理を注文しては片っ端から食べまくっているのだ。
サヤカ「次! 特製丸々ポトフをもう一杯!」
ひより「何なんだ、あの人…?」
弓子「あ~もう、レタスも人参も品切れ?
ひよりちゃん、そこの扉の奥に白葱のストックあったはずだから出してちょうだい」
肥満という言葉からはほど遠いスタイルの良いこの大食い娘、
可愛い顔とは裏腹に客としての態度はいささか悪いようである。
ただ、店の厨房はそんな彼女について愚痴る暇もなく、
次から次へと注文される大量の料理を作るのに大わらわの状態であった。
サヤカ「早くしろ! 特製丸々ポトフだ!」
天道「ポトフはもう品切れだ。
注文にない品だが、こいつで我慢してくれ」
手製のお好み焼きを持って現れた天道が、そう言って皿をサヤカの前に置いた。
牛肉、イカ、タコ、エビ、キャベツ……厨房に残った食材をかき集め、
小麦粉で混ぜ合わせて焼き、特製濃厚ソースとマヨネーズで和えたものだ。
サヤカは一瞬、氷のように冷たい眼で天道を睨んだが、
すぐに無言で箸を取って食べ始め、ものの数秒で完食した。
サヤカ「…美味い」
天道「光栄だ。大した食べっぷりだが、生憎この店にはもう出せる料理がない。
済まんがこれで――」
サヤカ「いや、最後にもう一品、
私の一番好きなものを食べてからだ」
天道「? 何だ」
サヤカ「それは……お前達人間の悲鳴だ!」
次の瞬間、サヤカの頭から大蛇が生え出して天道を襲った。
サヤカの全身も妖しげな光に包まれて変貌し、
恐るべき伝説の魔族――メデューサレジェンドルガの正体を現す。
天道「…やはり怪人か。変身!!」
――Henshin!!
持っていたトレイで大蛇の攻撃を素早くガードし、
後ろへ跳び退いた天道は飛んで来たカブトゼクターをキャッチするとベルトに装着、
仮面ライダーカブト・マスクドフォームに変身した。
天道「ここで戦うわけには行かない。…外に出ろ」
903
屋外へ移動したカブトはすぐに怪物の群れに取り囲まれた。
メデューサレジェンドルガとその同族のマンドレイクレジェンドルガ、
そしてオクトパスファンガイアとシームーンファンガイア。
本来、太古の昔から宿敵であるはずの二種の魔族が手を組み、
唸りを上げてカブトに襲いかかる。
加賀美「あっ、天道!!
今行くぞ! ――変身!!」
――Henshin!!
買い物袋を提げて戻って来た加賀美もガタックゼクターを手に取って変身し、
仮面ライダーガタックとなってカブトの応援に加わった。
ガタック「大丈夫か、天道」
カブト「ああ。タコとクラゲは絶品の海の幸だ」
余裕の呟きを口にしながら二体のファンガイアを軽くいなすカブトだが、
マンドレイクレジェンドルガの伸ばした無数の蔦に胴体を縛られ、拘束されてしまう。
マンドレイクレジェンドルガ「キシャァァァ~!!」
カブト「それがどうした。――キャストオフ」
――Cast off!!
――Change beetle!!
カブトがベルトのカブトゼクターを操作すると全身の装甲が展開し、
巻きついていた蔦ごと爆発的に弾け飛んだ。
マスクドフォームからライダーフォームへチェンジしたカブトは、
怯んだマンドレイクレジェンドルガにカブトクナイガン・ガンモードの連射を叩き込む。
マンドレイクレジェンドルガ「シャァァァ~!!」
カブト「これで最後だ」
カブトクナイガンを素早くクナイモードに持ち替え、
再び伸ばされた蔦を逆袈裟に斬断したカブトはカブトゼクターのフルスロットルを押し、
ゼクターホーンを上げて必殺技のエネルギーを発動、右足に収束させる。
――1・2・3
カブト「ライダーキック」
――Rider kick!!
激昂し正面から体当たりして来たマンドレイクレジェンドルガに
強烈な回し蹴りの一撃を放つカブト。
ひとたまりもなくマンドレイクレジェンドルガは爆発消滅した。
ガタック「キャストオフ!」
――Cast off!!
――Change stag beetle!!
一方、ガタックもマスクドアーマーを吹き飛ばし、
ライダーフォームとなってメデューサレジェンドルガに戦いを挑んでいた。
両肩のガタックダブルカリバーを抜いて果敢に斬りかかるガタックだが、
メデューサレジェンドルガはなかなか手強く、
加えて二体のファンガイアが左右から援護するため、
ガタックはやや苦戦を強いられる展開となった。
904
名護「あれは、ファンガイア!?」
恵「どうしてレジェンドルガと手を組んで…?
操られているわけでもなさそうなのに」
偶然、近くを通りかかっていた名護啓介・恵の夫妻が騒ぎを嗅ぎつけ、
戦闘の様子を目にして驚く。
名護「確かに、古来ファンガイア族とレジェンドルガ族とは決して相容れない仇敵のはず…。
それが手を組んだということは…」
恵「とにかく、倒さないと。啓介!」
名護「うむ。任せなさい。――変身!!」
――Fist on!!
イクサナックルをベルトに装着し、
仮面ライダーイクサ・セーブモードに変身した名護は
イクサカリバー・ガンモードを撃ちながら歩み寄り戦いに乱入。
ガタックの背後を襲おうとしていたオクトパスファンガイアを蜂の巣にし、
接近するとカリバーモードに切り替えてシームーンファンガイアに斬りつける。
ガタック「あ、あなたは…!?」
イクサ「下がっていなさい。
俺は無敵のバウンティハンター・名護啓介だ。
ファンガイア、レジェンドルガ…その命、神に返しなさい!」
顔のシールドを十字に展開し、バーストモードへチェンジしたイクサは
まずシームーンファンガイアを獲物に定め突進する。
大胆不敵な名護の物言いにやや唖然としつつも、
ガタックもすぐに後に続いてオクトパスファンガイアを攻撃した。
オクトパスファンガイア「グガァァァ…!」
敵わぬと見たオクトパスファンガイアは下肢を車輪に形状変化させ、
時速450kmの速度で一目散に逃走した。
ガタック「逃がすか! クロックアップ!!」
――Clock up!!
時間流を操るクロックアップの前には、その程度の高速移動はまるで意味を為さない。
スローモーションに見えるオクトパスファンガイアの疾走にガタックはたちまち追い付き、
正面に回り込んで強烈なパンチを浴びせた。
――1・2・3
ガタック「ライダーキック!!」
――Rider kick!!
ゼクターホーンを操作してタキオン粒子をチャージしたガタックの
渾身の飛び蹴りがオクトパスファンガイアに炸裂し、爆散させた。
シームーンファンガイア「キシャァァァ!!」
イクサ「魑魅魍魎が跋扈する地獄絵…。
名護啓介はここにいる!」
カリバーフエッスルをベルトにリードさせ、
イクサカリバーにエネルギーを集中させたイクサの必殺技、
イクサ・ジャッジメントがシームーンファンガイアを一刀両断し爆死させた。
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メデューサレジェンドルガ「おのれ、ライダーども…!」
配下三体を倒され、カブト、ガタック、イクサの三人ににじり寄られて、
さすがに形勢不利を悟ったメデューサレジェンドルガは後ずさる。
イクサ「レジェンドルガ族のクィーン…。
覚悟を決めなさい」
その時、突如として放たれた銃弾が三人のライダーを薙ぎ倒した。
メデューサレジェンドルガ「…アポロガイスト!?」
アポロガイスト「ランチタイムはもう終わりだ!
作戦と関係ない無益な戦いを切り上げて、さっさと撤収しろ!」
メデューサレジェンドルガ「くっ…。覚えていろ!」
アポロガイストに高圧的に指示されて、
メデューサレジェンドルガは口惜しそうに撤退。
アポロガイストもライダー達が武器を向ける暇さえなく、マントを翻して姿を消した。
それを見届けて、三人のライダーもそれぞれ変身を解除する。
加賀美「アポロガイスト…。
やはりあいつが対立する二つの魔族を纏めていたのか」
天道「ああ。ワームだけじゃない。
あらゆる種族のモンスター達が一つの勢力に結集し、組織化されている」
加賀美「俺達も、これまで以上に力を合わせて戦っていかなきゃな。
そのために今、
ブレイバーズの結成が進められているんだ」
名護「その通り。
奴らの魔の手に対抗するには、
ブレイバーズの組織を今以上に大きくしなければならない。
そうしてGショッカーから人類を守るだけでなく、
行く行くは私がその長となり、世界のあり方を管理していくつもりだ。
天道君、君も早く
ブレイバーズの一員になりなさい」
天道「下らん…。勝手にしろ。俺は天の道を往く」
尊大に肩に手をかけてくる名護を払いのけてそっぽを向き、
負けず劣らず不遜な所作で空を指差す天道。
恵「あのね…。
ブレイバーズのメンバーは別にあなたの部下じゃないから」
加賀美「天道もほら、そういう自分勝手な事言わない」
どこかズレた二人の確執を相方の常識人が宥めつつ、
ともかくも
ブレイバーズへの加入を正式に果たした三人の仮面ライダーであった。
906
○トウマ・カイト、コイシカワ・ミズキ→東京郊外の廃倉庫でワームの大群を殲滅。
○天道総司→ビストロ・ラ・サルに来店したメデューサレジェンドルガと戦闘。
○加賀美新→天道を助けてファンガイア&レジェンドルガと戦闘。
○名護啓介→カブト&ガタックを助けてファンガイア&レジェンドルガと戦闘。
○名護恵→ファンガイアとレジェンドルガを発見、戦いを見守る。
●メデューサレジェンドルガ→ビストロ・ラ・サルでランチを大食い。
仮面ライダーカブト、ガタック、イクサと戦い敗退する。
●マンドレイクレジェンドルガ→仮面ライダーカブトと戦い倒される。
●オクトパスファンガイア→仮面ライダーガタックと戦い倒される。
●シームーンファンガイア→仮面ライダーイクサと戦い倒される。
●アポロガイスト→仮面ライダーカブトらと戦っていたメデューサレジェンドルガを呼び戻す。
【今回の新規登場】
○名護啓介=仮面ライダーイクサ(仮面ライダーキバ)
素晴らしき青空の会に所属するファンガイアハンター。
仮面ライダーイクサの装着資格者。
普段はバウンティハンターとして活動している。
己が抱く正義を常に信じて貫こうとするゆえに常識外れの奇行に走る事も多々あるが、
紅渡を仲間として認め助けるなど面倒見の良い男でもある。
一連の戦いの終結後、同じファンガイアハンターの麻生恵と結婚した。
○名護恵(仮面ライダーキバ)
旧姓・麻生。素晴らしき青空の会に所属する女ファンガイアハンター。
普段はファッションモデルの仕事をしている。
死んだ母・麻生ゆりの志を継いでファンガイアと戦う道を選んだ。
名護啓介とは当初は反りが合わなかったが行動を共にする内に互いを認め合い、
やがて結婚した。
○竹宮弓子(仮面ライダーカブト)
洋食店ビストロ・ラ・サルの店長。
心を閉ざしがちな日下部ひよりや無断欠勤の多い加賀美新を雇い続けて見守るなど、
度量の広い女性である。
●サヤカ=メデューサレジェンドルガ(仮面ライダーキバ 魔界城の王)
レジェンドルガ族の戦士で、蛇女の伝承を残す女怪人。
無類の大食いで、食べ物を頬張る可愛らしい外見とは裏腹に性格は残忍。
頭から生えた大蛇で敵を攻撃する。
●マンドレイクレジェンドルガ(仮面ライダーキバ 魔界城の王)
レジェンドルガ族の戦士で、マンドレイクの伝承を残す怪人。
無数の蔦を伸ばして相手を攻撃し、巻きつけて窒息死させる。
●オクトパスファンガイア(仮面ライダーキバ)
ファンガイア族・アクアクラスに属する蛸型怪人。
真名は「満月に引き裂かれた貴婦人の肖像」。
怪力の持ち主で、下半身は車輪に変化し時速450kmで疾走できる。
●シームーンファンガイア(仮面ライダーキバ)
ファンガイア族・アクアクラスに属する海月型怪人。
真名は「ラジエーターと葡萄の陰鬱な同棲」。
ビショップに強い忠誠心を持ち、命を賭けるような任務をも厭わず実行する。
最終更新:2020年11月22日 13:42