『聖天子と目黒の秋刀魚』-1
作者・ティアラロイド
1026
赤坂・某高級料亭***
桜井「こ、これは…!?」
客間の畳の上に並べられた、自分と女性とのみだらな光景が収められた
写真の数々に呆然とする男…。
この男の名は桜井三郎。36歳。妻子あり。
財務省の将来を約束されたキャリア官僚であり、
現在は聖居に聖天子付きの近習として出向中の身である。
関口「これがマスコミの手に渡る前に我々の手で押さえたから
よかったようなものの、もしこれが明日のスポーツ紙の
一面にでも載ったりしたら…」
桜井「せ、関口さん、私はいったいどうしたら!?」
桜井とテーブルを挟んで向こう側に座っている、
「関口」と呼ばれた恰幅の良い中年男。
EP党の党首を務める傍ら日本政界に隠然たる勢力を持ち、
そして暗黒結社ゴルゴムの
人間メンバーという裏の顔も持つ、
衆議院議員・坂田龍三郎に仕える筆頭秘書である。
坂田が政界でのし上がるための、裏のダーティーワークの
一切を取り仕切ってきたのもこの男なのだ。
関口「桜井さん、耳を貸したまえ」
桜井「…は、はい!」
慌てて側に近寄る桜井に、関口はそっと耳打ちをする。
桜井「そ、それは…!」
関口「聖天子様の側近、天童菊之丞は外遊中で日本を離れている。
この計画を実行に移すのは今しかない」
桜井「しかし…」
関口「君の将来の事は坂田先生も大変ご心配なされて
いるんだよ。やってくれるね?」
桜井「わかりました…」
関口「よしっ、これで話は決まった!」
関口は手を叩いて合図し、芸者たちを呼び寄せた。
にこやかにお酌を始める芸者たち。しかしお酌を受ける立場の
桜井は最後まで浮かない顔だった。
1027
東京千代田・聖居***
進講とは天皇や貴人に対し、学者が学問の講義をすることである。
その日、聖天子は某有名大学から高名な女性経済学者を聖居に招き講義を受けていた。
女性学者「以下の通り、4月の消費増税後の個人消費の回復に明暗が出始めたざます。
3月までの駆け込みが大きかった自動車や住宅関連の消費が低迷する一方、
衣類などの身の回り品や外食分野は持ち直してきたざます」
聖天子「安定した雇用環境などを背景に、景気の回復が途切れる
可能性は少ないと見てよさそうですね」
女性学者「さすがは聖天子様、その通りざます」
女性学者は聖天子に相槌を打ちつつ講義を続ける。
女性学者「増税前に駆け込みが大きかった分だけ、増税後に消費が落ち込むのは
想定の範囲内ざます」
聖天子「ですが物価高による所得の目減りが、消費の逆風になるとの懸念
も強まってきているのではありませんか?」
女性学者「さすがは聖天子様、その通りざます」
聖天子「………」
さっきから自分のご機嫌をとってばかりの女性学者に
嫌気が差した聖天子は、突然席を立つ。
聖天子「もうやめにしましょう」
女性学者「聖天子様、いったいどちらに!?」
聖天子「先程から何かと言えば"さすがは聖天子様、その通りざます"の繰り返し…。
皆私に気兼ねして追従ばかりしています!」
女性学者「お、お待ちください聖天子様!
決してそのようなことは!」
そのような事があった日の午後、内閣総理大臣・剣桃太郎は宮中へと参内し、
聖天子に対して内奏(国政の報告)を行なった。
聖天子「よきようにはからってください」
桃太郎「陛下、アジア・アフリカ各国とのバラニウム貿易協定に関わる
重要な案件にございます。何卒お目通しを」
聖天子「あなた方内閣の決定したことです。粗忽はないでしょう」
桃太郎「…恐れ入ります」
聖天子は午前の進講での事もあり、その表情はどこか鬱屈としている。
聖天子「剣総理、何か面白いことはありませんか?」
桃太郎「…ハ?」
聖天子「進講の相手は追従ばかり。国政はあなた方内閣の
思う通りです。退屈しないほうがおかしいでしょう…」
桃太郎「………」
聖天子「総理、あなたは時折夜な夜な民情視察に出ているそうですね?」
桃太郎「夜な夜なは恐れ入ります」
聖天子「たまには私も連れて行きなさい」
桃太郎「陛下、世の中は未だ世情不安にございます。
どうか決してお忍びなどは…」
聖天子「前大戦終結後の混乱期、お母様と東京エリアの各地を
回っていた頃が懐かしいです」
桃太郎「………」
桃太郎は深く一礼して退室した。
それと入れ替わりに近習の桜井三郎が入ってきた。
桜井「聖天子様に申し上げます。今宵私、宿直(とのい)にござりますれば、
お忍び、お供させて頂きます」
聖天子「そうですか!」
聖天子は桜井の言葉に、まるで水を得た魚のように
顔満面に喜びの表情を露にした。
1028
その日の夕方…。
東京麻布・月野家***
育子「さあ、ご飯が出来たわよ」
進吾「へえ、今日は秋刀魚かあ…」
うさぎ「美味しそう…」
その日の月野家の夕食の食卓に上がったのは、
秋刀魚の香ばしい塩ふり焼きだった。
進吾「おい、バカうさぎ。口から涎が垂れてるぞ」
うさぎ「涎なんか垂らしてないわよ! うっさいわね!」
姉のうさぎをからかう弟の進吾。
その時、電話が鳴り、育子が応対に出る。
育子「もしもし、月野でございます。
まあ火野さん? ちょっと待っててね。
うさぎ、火野さんからお電話よ!」
うさぎ「レイちゃんから? なんだろう…」
育子から受話器を受け取り、電話に出るうさぎ。
うさぎ「あー、もしもしレイちゃん?
…え、宮内庁から連絡が? それって…」
その翌朝…。
火川神社***
聖天子「それでは皆さん、今日一日、うさぎさんをお借りします」
亜美「うさぎちゃん、くれぐれも聖天子様に粗相のないようにね…」
うさぎ「もうっ、大丈夫だったら♪」
レイ「…本当かしら」
近習の桜井を連れ、密かに聖居の外へお忍びで出た聖天子は、
火川神社で月野うさぎたちと待ち合わせをしていた。
聖天子「それではうさぎさん、参りましょうか?」
うさぎ「はい、聖天子様」
亜美たち内部太陽系4戦士たちが、それは露骨に心配そうに見送る中、
聖天子とうさぎを乗せた黒塗りの高級車は火川神社から出発していく。
聖天子「それではうさぎさん、今日はまずどこに行きましょうか?」
うさぎ「…う~ん、どこって言われても。あ、そーだ!」
1029
矢吹コンツェルン本社・会議室***
高見沢「ではどうあっても、推挙は受け付けないと言われる訳ですか」
矢吹「………」
高見沢グループ総帥・高見沢逸郎は、自分も出資者の一人である立場をよいことに、
他の出資陣に対して
ブレイバーズ指導部への人事介入のゴリ押しを認めさせようとしていた。
高見沢は自分の息のかかった人間を、ブレイバーズ中枢に送り込むつもりらしい。
しかし矢吹郷之助以下、出資陣たちは頑として高見沢の要求に首を立てに振ろうとはしない。
万丈「そもそも高見沢さん、貴方は誰をブレイバーズの参謀本部に据えようと
しているんですか?」
高見沢「それは今は申し上げられない。私からの要求をお聞き届けくださると
確約いただけるなら話は別ですが」
矢吹「高見沢君、どこの誰ともわからない人間を参謀本部に推挙などはできんよ」
高見沢「つまり、その名を明かしたところで私からの推挙を聞き届けるつもりなど
最初からないということですな」
万丈「そのようにお考えになられても結構です」
高見沢「なにっ…!」
睨みあう破嵐万丈と高見沢逸郎。見えない火花が激しくぶつかる中、
仲裁で間に入ったのは、ブレイバーズ出資陣の中でも矢吹郷之介に次ぐ
年長者である鴻上光生である。
鴻上「まあまあ、高見沢さんも悪気があるわけでもなし。
ここはブレイバーズの総司令官に内定しているタシロ提督に
お引き合わせしてもよいのではありませんかな」
高見沢「さすがは鴻上さん、他の方々より話がよくわかるお人だ。
で、タシロ提督は今どちらに?」
鴻上「地球から遠~く離れた、冥王星です」
高見沢「………」
つまりこれは、要求を聞いてもらいたければ、
タシロ提督のいる冥王星近くのイカロス基地まで
わざわざ距離をかけて往復して来い――すなわち、
お前の要求なんか聞き入れる用意はないと遠まわしで
暗に示唆しているのである。
高見沢「狸どもがっ…! 話にならん。帰らせてもらう」
高見沢は怒って席を立って退室した。
鴻上「やれやれ、高見沢さんにも困ったものですな」
万丈「あの男が裏でGショッカーと繋がっているのは間違いない。
だが証拠がない以上、出資メンバーから追い出すわけにもいかない」
矢吹「しばらくは高見沢逸郎に要注意せねばならんな…」
1030
麻布十番商店街 ゲームセンター・クラウン***
うさぎ「えいっ! やあっ!」
聖天子「いやっ! そこっ!」
蓮太郎「………」
その日、里見蓮太郎は呆然とその光景を見つめていた。
今朝いきなり社長の天童木更から呼び出され、緊急の護衛依頼だと聞いて来て見れば、
目の前で日本の天子と地球の次期女王候補が一緒になって、それはもう楽しそうに
モグラ叩きやクレーンゲームに興じているのである。
まだ月野うさぎ=セーラームーンが次期地球女王候補に推戴されたという事実は世間一般には報道されていない。
しかし蓮太郎は民警であるという職業柄、そうした国際政治の裏情報には接する機会は多々あるのだ。
蓮太郎「…おいっ、ちょっとアンタ」
うさぎ「…え、なに?」
蓮太郎は脇からコッソリうさぎの服の袖を引っ張る。
うさぎ「えっと…確か里見蓮太郎くんだっけ?
あたしは月野うさぎ。ヨロシクね♪」
蓮太郎「ヨロシクね♪じゃねーよ! アンタ…セーラームーンなんだろ?
こんなところに聖天子様を連れ込むだなんてどういうつもりだ!?」
聖天子「よいのです、里見さん。
今日は庶民の皆さんの普段の暮らしをこの目で見たくて、
私の方から無理を言ってうさぎさんにお願いしたのです。
そもそも庶民の楽しみを知らずして、何が政(まつりごと)でしょう」
蓮太郎「ジジイが帰ってきたら大目玉だぞ」
聖天子「菊之丞さんがいない今だからこそ、滅多にない機会なのです」
聖天子付きの主席補佐官であり、江田島平八と並ぶ日本のフィクサーと恐れられる
天童菊之丞は現在、重要な公務で海外歴訪中のため日本から離れている。
延珠「二人だけでズルいのだ! 妾も一緒に混ぜるのだ!」
聖天子「では次はあちらのスロットゲームに参りましょう」
うさぎ「さんせーい!」
聖天子とうさぎに混じって、蓮太郎の相棒である
イニシエーター・藍原延珠までも遊び始める。
もうこうなっては蓮太郎にも手がつけられない。
…だが、その様子を少し離れたところから
シューティングゲームに熱中していた一人のゲーマー青年が
偶然目撃していたことには誰も気づいていなかった。
芝浦「アレは確か…」
高見沢グループ本社・応接室***
東條「まさか。聖天子が街中のゲーセンなんかにいるわけがないじゃないか」
芝浦「でもアレは確かに聖天子だったぜ。ニュースや新聞で
顔は何度も見ているんだから間違いない」
東條「夢でも見ていたんじゃないのかい?」
聖天子が街中にいた、いないで芝浦淳と東條悟が口論しているところへ、
二人の飼い主である高見沢逸郎が姿を現した。
芝浦「高見沢さん、戻っていたんですか?」
高見沢「話は聞かせてもらった。そいつぁ間違いなく聖天子本人だろう」
芝浦「…え!」
東條「…!?」
高見沢「聖天子は元々知見に優れ、頭脳もある女だ。
それが剣桃太郎以下内閣閣僚が働けば働くほど浮き上がってしまう。
ちっとは羽を伸ばしたいはずだ。この件、使えそうだな…」
1031
○聖天子→お忍びで東京視察に出る。
○剣桃太郎→聖天子に内奏する。
○月野うさぎ→聖天子のお忍びのお供をする。
○火野レイ→宮内庁から内々の連絡があり、月野うさぎに電話する。
○月野育子→火野レイからの電話を、娘のうさぎに取り次ぐ。
○月野進吾→姉のうさぎと一緒に夕食に秋刀魚の塩焼きを食べる。
○里見蓮太郎→聖天子のお忍びのお供をする。
○藍原延珠→聖天子のお忍びのお供をする。
○矢吹郷之助→高見沢逸郎からのブレイバーズ指導部人事要求を突っぱねる。
○鴻上光生→高見沢逸郎からのブレイバーズ指導部人事要求を突っぱねる。
○破嵐万丈→高見沢逸郎からのブレイバーズ指導部人事要求を突っぱねる。
●高見沢逸郎→芝浦淳から聖天子目撃情報を聞く。
●芝浦淳→偶然、お忍びの聖天子を街中で目撃。
●東條悟→芝浦淳から聖天子目撃情報を聞く。
●関口秘書→桜井三郎をハニートラップにひっかけ、手駒とする。
●桜井三郎→スキャンダルをネタに関口に脅され、聖天子をお忍びに誘い出す。
【今回の新規登場】
○里見蓮太郎(ブラック・ブレット)
勾田高校に通う2年生。天童木更が社長を務める「天童民間警備会社」の
プロモーターでもある。相棒であるイニシエーター・藍原延珠と共に、
危険な任務を引き受け、数々の死地を潜り抜けていく。
肉体をサイボーグ化されている。
○藍原延珠(ブラック・ブレット)
ガストレアウィルスを体内に宿す「呪われし子供たち」の一人。
超人的な能力を秘める、ちょっとオマセな10歳。相棒の里見蓮太郎に
懐いていて、天童木更を恋敵として認識している。
○鴻上光生(仮面ライダーオーズ)
巨大財団・鴻上ファウンデーションの会長。見た目によらず人当たりは良いが、
常にハイテンションで、グリードのアンクを口先だけで手玉に取るほどのしたたかさも持っている。
物事の誕生に価値を見出し、その原動力が欲望にあると考え、欲望を全肯定する。
しかし本人の「欲望は世界を救う」という言も、決して悪意によるものではなく、
彼独自の哲学から来る信念である。見た目と行動が胡散臭く見えるものの、
実は良い人であり、火野映司=オーズを様々な局面からサポートしてくれた。趣味はケーキ作り。
○月野進吾(美少女戦士セーラームーンシリーズ)
月野うさぎの弟で小学生。姉の事を普段は「バカうさぎ」などと呼び捨てにすることが多いが、
その姉が正体とも知らずセーラームーンに関しては大ファンを公言している。
●関口(闘争の系統オリジナル)
坂田龍三郎代議士に仕える公設第一秘書。坂田が政界でのし上がるための
裏のダーティーワークの一切を取り仕切ってきた男。
●桜井三郎(闘争の系統オリジナル)
聖居で聖天子に使える宮内庁の近習。私生活で借金と女性問題を抱えており、
その隙を突かれてハニートラップに引っかかり、坂田龍三郎の飼い犬となった。
今シナリオ限りの
オリジナルキャラクター。
最終更新:2020年11月22日 14:07