『聖天子と目黒の秋刀魚』-2
作者・ティアラロイド
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代議士・坂田龍三郎邸***
高見沢逸郎は芝浦を連れ、聖天子お忍びの情報を、
EP党の党首として政界に隠然たる勢力を持つ
坂田龍三郎のところへ持ち込んだ。
坂田は言うまでもなく、暗黒結社ゴルゴムの
人間メンバー。
その席には、坂田に仕える公設第一秘書の関口、
そして人間の婦人に姿を変え、同じく坂田邸を訪れていた
ゴルゴムの大神官ビシュムも同席している。
坂田「ハハハッ、聖天子様がゲームセンターにな。
ふふふ…そろそろ功を奏してきたと見えるな」
関口「聖天子お傍のご近習、桜井三郎なる者、
密かに坂田先生のご内意を受けましてな」
聖天子に外出を勧めた近習の桜井三郎は、
実は坂田を介してGショッカーと内通していたことを、
関口は高見沢に打ち明ける。
坂田「聖天子がお忍びで街を出歩けば、きっと何かが起こる」
高見沢「そこを捕らえて、聖天子ご乱行の故をもって、ご退位をお勧め申し上げる。
坂田先生のお心うちはそのようかと。聖天子を襲撃する。さすれば聖天子は名乗りを上げる。
それが公になれば、剣桃太郎以下内閣の総退陣は必定…」
ビシュム「そしてその後釜にはGショッカーの息のかかった人間を据える。
血を流さずして日本を手に入れる。シャドームーン様もお喜びになられるでしょう」
高見沢「聖天子と一緒にいた連中というのは?」
ビシュム「聖天子のお供をしていた女子高生というのは、おそらくセーラームーン。
あとの二人は民警に違いありません。その者たちは始末しておしまいなさい。
聖天子もお忍びなどというご酔狂が過ぎてのご災難。ふふふっ…」
坂田「高見沢さん、後の差配は貴方にお任せしましょう」
ビシュムと坂田たちは高見沢と芝浦を残し、部屋から退室していく。
芝浦「高見沢さん、ゴルゴムの策に乗るんですか?」
高見沢「お前や東條は気に食わないだろうが、
ここは奴らの策に乗れ。――紙忍一族!」
高見沢の一声とともにサッと姿を現した忍び装束の集団。
暗殺や汚い犯罪工作を生業とする紙忍一族である。
紙忍一族頭領「紙忍一族、これに控えおりまする」
高見沢「妖魔一族からの紹介で、高い報酬を払って雇っているんだ。
その分、充分に役に立ってもらうぞ。聖天子を密かに見張り、
お忍びを公にするんだ」
紙忍一族頭領「委細承知!」
1033
目黒界隈***
数日後、聖天子は近習の桜井のほかに
また月野うさぎ、里見蓮太郎、藍原延珠の3人を連れ、
再びお忍びで聖居から外出した。
今日は目黒不動尊でお参りである。
大本堂の前で5人が手を合わせてお参りしていると、
いきなり「グーッ」と誰かのお腹のなる音が…。
延珠「わ、妾ではないぞ!」
うさぎ「……(///)」
蓮太郎「お前かよ…」
うさぎ「う、うっさいわね…」
蓮太郎はジト目でうさぎを見つめ、
うさぎはそれを恨めしそうに睨み返す。
聖天子「うふふ、そういえばそろそろお腹がすいてきましたね」
桜井「それではそろそろお帰りを」
聖天子「なりません。あそこにちょうど茶屋があります。
あそこで皆でお食事にしましょう」
その竹の子茶屋では…。
竹の子茶屋***
ペンギン帝王「今日は常日頃からの皆の労苦をねぎらい、
私が昼食をおごろう。存分にやってくれ!」
マイケル「わーい、久しぶりの外食だ!」
リッツ「帝王様ありがとう!」
竹の子茶屋の一席では、異様なペンギンの姿の一団と人間の金髪の女の子一人が、
テーブルの上に並べられた人数分の秋刀魚(サンマ)定食を目の前にして涎をたらしていた。
宿敵・美容室プリンスとの数々の激闘を経て和解に至り、元いた平行世界へと
帰っていったはずのペンギン帝国ご一行である。
どうやらリッツの里帰りもかねて、再びこちら側の世界に戻ってきているらしい。
そこをたまたま通りかかった聖天子が、何かに青ざめて引き攣ったような表情で
ペンギン帝王をじっと見つめている。
聖天子「………」
ペンギン帝王「なんだ娘、我々に何か用か?」
聖天子「…そ、その声は、剣総理!」
ペンギン帝王「なにっ!?」
デニス「ツルギソウリ??」
ジェイク「あの日本の総理大臣の剣桃太郎だと!」
聖天子「ゆ、許してください剣総理! 私はただ…」
ペンギン帝王「失敬な! 私をあんな奴と一緒にしないでもらおうか!」
聖天子「……え?」
ペンギン帝王「私の顔をよーく見てみろ。私の方がずっと男前だろう」
蓮太郎「…え~っと、ちょっと失礼」
見かねた蓮太郎がすかさず間に入る。
蓮太郎「聖天子様、剣総理大臣がペンギンなわけないだろう」
聖天子「えっ、この方は剣総理ではないのですか?」
ペンギン帝王「当然だ!」
リッツ「ちょっとアンタ、誰だか知らないけど、
ペンギンさんたちに下手な言いがかりはよしてくれる!?」
蓮太郎「お食事中邪魔して悪かったな。勘弁してくれ」
蓮太郎はペンギンたちにペコリと頭を下げて詫びを入れると、
速やかに聖天子を連れてその場から離れた。
ジム「なんだったんでしょうか今のは?」
ネルソン「世の中には不思議な人もいるもんですねえ…」
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聖天子「でも里見さん、あのペンギンさんたちの股間のところから
生えているアレはなんなのでしょう?」
蓮太郎「聖天子様、世の中には知らないほうがいいこともあるんだ。
今見たのは全て忘れろ」
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聖天子「でも今のペンギンさんたちが食していた料理は
とても香ばしくてよい匂いがしました。あれはなんと言う魚ですか?」
桜井「あれは秋刀魚という、貧しき庶民の食する卑しき下魚にございます。
聖天子様がお召し上がるようなものではございません」
今の桜井の言葉にカチンとくる蓮太郎とうさぎ。
うさぎ「……(秋刀魚が卑しき魚ですって! あんなに美味しいのに!)」
蓮太郎「……(この野郎! いつももやし炒めしか食べてない俺と延珠に謝れ!)」
内心憤慨しつつも、じっとコラえて口には出さない二人であったが、
桜井の心無い言葉に聖天子が一喝!
聖天子「黙りなさい。あなたは戦場で他に食するものがないとき、
あれは卑しき下魚だからと言って、何も食べずに飢え死にを選ぶのですか!?」
桜井「ハッ、も…申し訳ございません! 恐れ入りました!」
うさぎ「……(さすが聖天子様♪)」
蓮太郎「……(聖天子様よく言った!)」
聖天子の一言に桜井はたちまち恐縮し、
蓮太郎とうさぎは心の中で拍手喝采し溜飲を下げる。
延珠「お~いっ、ご主人、秋刀魚定食4人前頼むのだ♪
おい近習、おぬしは秋刀魚はいらぬのだよな?」
桜井「うっ…!」
こうして桜井を除いた4人の前に、焼きたての秋刀魚定食が運ばれてきた。
宮中料理に出るような高級の鯛や平目と違って真っ黒に焼けた長き魚、
欠けた皿に大根おろし、じゅ~~と音をあげる醤油。
聖天子「秋刀魚は目黒で獲れるのですか?」
うさぎ「はいはい、秋刀魚はこの辺りの名物なんですよ」
それを聞いていた蓮太郎は、うさぎにそっと耳打ちする。
蓮太郎「おい、お前今知ったかぶりで答えただろう?」
うさぎ「…え、なんで!?」
蓮太郎「海に面してない目黒区で魚が獲れるわけないだろう…!」
うさぎ「あ、そっか…(汗」
蓮太郎「おいおい…」
聖天子は最初いぶかしそうに食べ始めたが、旬のものだから不味い訳はないし、
その上目黒一帯を散歩し身体を動かした後の空腹に青空の下。
聖天子「これは美味です!」
すぐにお代わりを注文する聖天子。すっかり身も心も満腹した様子である。
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食事を終え精算を済ませ、
店外へと出た聖天子たち一行は、たまたま目黒をジョギングしていた
山地闘破・学兄弟と出くわした。
闘破「アレっ!? うさぎちゃんじゃないか?」
うさぎ「あ、闘破さんに学くん!」
セーラームーンと磁雷矢は、実は数日前に
ブレイバーベースでのヒーローたちの自己紹介で顔を合わせている。
蓮太郎「…知り合いか?」
うさぎ「紹介するわ。こちらは戸隠流の山地闘破さんに弟の学くん」
闘破「どうも」
学「こんにちわ!」
蓮太郎「……(…戸隠流の忍者か。だとすると
コイツらも
ブレイバーズの一員か。)」
闘破「で、うさぎちゃん、こちらの方たちは?」
うさぎ「えっと、こちらは…」
蓮太郎「――!!」
うさぎ「…痛っ!?」
危うく聖天子の身分を明かしそうになったうさぎを、
蓮太郎が背後から慌ててうさぎの肘をつねって遮る。
闘破「うさぎちゃん…?」
桜井「申し訳ありません。我々は急ぎますので、
ご挨拶はまた後日改めまして」
聖天子「ごきげんよう」
聖天子一行はまるで逃げるかのように
そそくさと黒塗りの高級車の中に乗り込み立ち去っていった。
闘破「今の人は確か…」
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坂田龍三郎邸***
坂田「ハハハ、聖天子様が秋刀魚をな。これは面白い」
今日一日聖天子の動向を密かに監視していた紙忍一族の下忍から
報告を受ける坂田龍三郎たち。
高見沢「しかし剣桃太郎によく似た声のペンギンというのが腑に落ちん…」
ビシュム「ただの偶然です。他人の空似でしょう」
高見沢「やはり別人か…」
坂田「剣総理はアジア・アフリカ諸国とのバラニウム貿易協定に関連して、
このところ毎日、各国大使と会食が続いている。そんなことはない筈だ」
武神館***
その日、戸隠流忍法道場・武神館には一人の客が訪れていた。
哲山の弟子の一人であり、表向きの顔は人材派遣会社「フォグブルー」の
代表取締役を務める織田八重である。
八重「ご無沙汰しております。哲山先生」
哲山「八重さん、よく来てくれた。こちらでも話は聞いている。
いろいろと大変だったろうが、元気そうで何よりだ」
八重「フォグブルーもおかげさまで活動を再開する目処がつきましたので、
本日はそのご報告に挙がりました」
ケイ「今日はゆっくりして行ってくださいね」
そこへちょうど、闘破の言いつけで先に一人だけ武神館へと戻った学が
見てきた事の一部始終を哲山に報告した。
学「それでどこかで見た顔だなと思って、
兄ちゃんはもしかしたら聖天子様じゃないかって」
ケイ「まさか、あまりに突飛過ぎるわよ。
聖天子様は毎日の多忙なご公務と国事行為で、
とても聖居の外を出歩く時間なんかないはずよ」
哲山「…あるいはな」
ケイ「お父さん…??」
哲山「学、この事を他の誰かに話したか?」
哲山の問いに、学は首を横に振る。
学「兄ちゃんも俺も、まだ誰にも話してないよ」
哲山「よし。この事はくれぐれも他言は無用だ。わかったな」
八重「哲山先生、私からもそれなりに事情を探ってみましょう」
哲山「申し訳ないがよろしく頼む」
哲山はその後、どこかへと電話をかける。
哲山「もしもし、私だ。内閣安全保障室の土橋さんを頼む」
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翌日…。
聖居***
目黒で秋刀魚を食して以来、聖天子は聖居に帰ってからも
秋刀魚が頭から離れ無くなってしまった。
すっかり秋刀魚に恋いこがれる毎日である。
侍従「聖天子様、剣内閣総理大臣がお目通りを
願い出ておられますが?」
聖天子「今日は誰にも会いたくはありません…」
聖居・御所の控えの間で待っていた剣桃太郎に、
聖天子の言葉が侍従から伝えられる。
桃太郎「会いたくない…そう仰せられたのか?」
侍従「はい」
桃太郎「昨日の聖天子様の御身の回りは?」
侍従「ハッ。昨日は近習の桜井三郎にございます。
朝から夕刻まで二人きりで書をお読みになっていたとか」
桃太郎「その前日は?」
侍従「私でございます」
桃太郎「宿直(とのい)は?」
侍従「同じく桜井三郎」
桃太郎「…わかった。下がってよい」
首相公邸***
聖居から公邸へと戻った剣桃太郎は、山地哲山の訪問を受けた。
桃太郎「ではやはり、聖天子様は聖居の外に出ておられたか…」
哲山「先代の聖天子様の急なご逝去で、お若くして今の地位に就かれ、
日々毎日、国と国民のためにご公務に心身を砕いておられる。
たまには聖居の外の世界を覗いて見たいというお気持ちも、
けっしてわからなくはありませんが…」
土橋「エラいことになりましたなぁ…。
もしお忍びで外出中の聖天子様にもしものことがあったら、
内閣総辞職に追い込まれるのは勿論の事、宮内庁長官や
警察庁長官の首もまとめて吹っ飛びます! 政治空白は
避けられませんぞ」
額の汗をハンカチで拭う土橋竜三。
桃太郎「あるいはそれが何者かの目的かもしれん…」
土橋「総理…!?」
桃太郎「哲山先生、ご苦労ですが、
聖天子様付きの近習・桜井三郎という男を
それとなく見張ってもらいたい」
哲山「その桜井という男に何かご不審な点でも?」
桃太郎「それはまだわからん。私の取り越し苦労ならいいが…」
哲山「心得ました。お任せを」
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○聖天子→目黒で食べた秋刀魚の味に感激する。
○里見蓮太郎→聖天子のお忍びで目黒までお供をする。
○藍原延朱→聖天子のお忍びで目黒までお供をする。
○月野うさぎ→聖天子のお忍びで目黒までお供をする。
○山地闘破→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
○山地学→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
○山地ケイ→武神館に来た織田八重を出迎える。
○山地哲山→聖天子お忍びの件を首相官邸サイドに連絡。
○織田八重→山地哲山の弟子の一人であり、武神館に挨拶に訪れる。
○剣桃太郎→山地哲山から聖天子お忍びの通報を受ける。
○土橋竜三→山地哲山から聖天子お忍びの通報を受ける。
○ペンギン帝王→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
○リカンツ・シーベリー→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
○マイケル→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
○デニス→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
○ジェイク→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
○ジム→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
○ネルソン→目黒で偶然、お忍びの聖天子一行と出くわす。
●高見沢逸郎→ゴルゴムと手を組み、紙忍一族に命じて聖天子を監視する。
●芝浦淳→坂田龍三郎邸まで高見沢逸郎に同行する。
●坂田龍三郎→高見沢逸郎と手を組み、聖天子失脚の陰謀を進める。
●大神官ビシュム→高見沢逸郎と手を組み、聖天子失脚の陰謀を進める。
●紙忍一族頭領→高見沢逸郎に雇われ、聖天子の動きを密かに見張る。
【今回の新規登場】
○織田八重(隠の王)
戸隠の里首領であり、表の世では人材派遣会社「フォグブルー」代表取締役社長。
禁術「飯綱心眼」を習得しており、心を読む事が出来る。
○ペンギン帝王(健全ロボ ダイミダラー)
大いなる野望を掲げ、ペンギン帝国を治める帝王。95歳。
とある平行世界で人間に敗北し、部下が偶然見つけたHi-ERo粒子が濃厚な
こちら側の世界からエネルギーを調達すべく、試作品のペンギン装置を使ったところ
操作を誤り単身こちら側の世界にやって来てしまった。
好色でいまいち威厳に欠けるところもあるが、部下達からの信頼は厚い。
○リカンツ・シーベリー(健全ロボ ダイミダラー)
ペンギンを溺愛し、人間でありながらペンギン帝国のために戦う少女。愛称は「リッツ」。
出身地はアメリカで、一人称は「朕(ちん)」。ペンギン伯爵の称号を持つ。
戦災孤児で、戦場でペンギン帝王に拾われ、人里までペンギン帝王と旅をしていたことがある。
しかし、本人はおぼろげにしかそのことを覚えていなかった。
普段は可憐な少女であるが、ペンギンコマンドらが傷つくと豹変して凶悪な一面を見せる。
○マイケル(健全ロボ ダイミダラー)
ペンギン帝国に所属するペンギンコマンドの一人。陽気で明るいグッドペンギン。
デニスとコンビを組むことが多い。
○デニス(健全ロボ ダイミダラー)
ペンギン帝国に所属するペンギンコマンドの一人。冷静沈着なクールペンギン。
マイケルとコンビを組むことが多い。
○ジェイク(健全ロボ ダイミダラー)
ペンギン帝国に所属するペンギンコマンドの一人。武闘派で自信家のフューチャーペンギン。
○ジム(健全ロボ ダイミダラー)
ペンギン帝国に所属するペンギンコマンドの一人。悟りの境地に達したラブリーペンギン。
一人称は「拙者」で「~でござる」と侍風な口調が特徴。
○ネルソン(健全ロボ ダイミダラー)
ペンギン帝国に所属するペンギンコマンドの一人。お調子者で人なつこいミラクルペンギン。
●紙忍一族頭領(世界忍者戦ジライヤ)
抜け忍となった紙忍・折破を追い、妖魔一族と手を結んだ紙忍一族の頭領。
強力な竜巻の術を使い、その実力は屈指の忍術使いである折破を凌駕するレベルである。
最終更新:2020年11月22日 14:08