『紫蛇の女王』
作者・ティアラロイド
1292
新宿副都心・高層ビル街***
夜景の輝く高層ビルが立ち並ぶ新宿の街並み。
人々や多くの車が行き交うその上空では、
激しい空中追跡劇が繰り広げられていた。
剣持「ライディーンの諸君、今日こそは逃がすなよ!」
イーグル「了解です!」
新宿一円を見渡せる都庁屋上から剣持隊が指揮を執る中、
超者ライディーンたちが懸命に追尾しているのが、あのシグフェルだ。
コンドル「シグフェル、我々は君と話がしたいだけだ!
ここは止まって地上に降りてくれないか!」
シグフェル「………」
ライディーンコンドルの呼びかけにも
シグフェルは全く応じる気配はない。
ホーク「おんどりゃあ! こっちはこんだけ頭を下げとるっちゅうのに、
シカトとはいい度胸じゃ! ワイらは貴重なレッスン時間も削って
来とるんやぞ!」
シグフェル「……(レッスン…??)」
ホーク「もうアッタマ来たわ! これでもくらえ!
――ホークサンダーッ!!!!!」
アウル「よせっ、ホーク!」
ライディーンホークは落雷攻撃を繰り出すが、
シグフェルは難なくそれを避けて、
結局ライディーンたちの追跡を振り切り、
品川方面へと飛び去ってしまった。
ファルコン「あーあ、また逃げられちゃったよ。
これでもう13回目だよ…」
コンドル「いや、15回目だ…」
ホーク「キィーッッ!! ムカつくわ!!
イーグル「仕方がない。今日はもう撤収だな」
今夜もシグフェルに逃げられた事は、
都庁屋上の剣持隊も確認していた。
剣持「マッハ6以上を誇るライディーンたちの超スピードを
もってしても追跡は無理か…」
ガンテツ「あーもうッ! なにをやっとるんじゃ!
ライディーンのみんなは!!」
剣持の隣にいる、まるで昭和の浪人生のような学ラン姿のこの人物。
名前を岩山鉄五郎――通称、ガンテツ。
「柔道四段・空手四段・浪人四年」が座右の銘で東大合格を目指していたが、
レッドマフラー隊の活躍に憧れて、あっさり東大合格を諦めた。
普段からこんな恰好で通してはいるものの、一応、
今では念願叶って正式なレッドマフラー隊員……らしい(汗。
剣持「仕方がない。我々も撤収するぞ!」
村中「了解です」
ガンテツ「いやあ、残念じゃのう…」
剣持「…ん? ちょっと待てガンテツ。
その後ろに隠し持っているのは何だ?」
剣持に指摘され、ガンテツは右手に持っていた
5人分のサイン色紙を慌てて隠す。
ガンテツ「あ、いや、その…これはですなぁ~。
せっかくの機会なもんで、ANGELのみんなから
サインでも貰っとこうかと…」
剣持「やれやれ、お前という奴は…(汗」
海野「お前って意外にミーハーなところがあるよなあ」
ガンテツの意外な一面に呆れて苦笑する剣持たち。
剣持「よーし、撤収だ!」
ガンテツ「あのー、隊長、ANGELのサインは…?」
剣持「次の機会にしろ!!」
小野「そんなにサインが欲しいんだったら、
ガンテツさん、これお願いね♪」
ガンテツ「うわわっ!? なんじゃこりゃ!」
小野隊員はガンテツに大きな紙袋に入った荷物を5つ分も押しつける。
小野「ライディーンのみんなの分の着替えよ。
天賀井玲子さんから頼まれてたのよ。助かったわ~。
それじゃあしっかりお願いね!」
村中「よかったなガンテツ。今をときめくアイドル5人の
全裸を拝めるなんて、滅多にある機会じゃないぞ」
海野「じゃ、後はヨロシクな!」
ガンテツ「お~い! みんな待ってくれ!
ワシはサインは欲しくても、野郎の裸なんかには
興味ないんじゃ! 置いていかんでくれ~!!(泣」
1293
その翌日…。
東京都内 某大手スタジオ・稽古場***
一夜「遅いッ!!」
電光「好きで遅れたんやないわいッ!!」
その日、今や飛ぶ鳥落とす勢いの美少年人気アイドル、
ANGELとTHE HEARTSの両グループは、来たるべきライブに備えて
今日も合同稽古を実施する予定であったのだが…。
忍武「寝坊するだなんてプロとしての自覚が足りないな。
弛んでる証拠なんじゃないのか?」
飛翔「いやぁ…面目ない」
電光「毎晩毎晩シグフェルとの追いかけっこに駆り出される
ワイらの身にもなってみいや! 寝不足にもなるわ!」
カイル「フフン…聞いたでござるヨ、電光殿。
昨日もまた、シグフェルにまんまと逃げられたそうでは
ござらんか?」
電光「ほっといてんか!!」
カイルの嫌みに、電光はそっぽを向く。
藤丸「シグフェルってそんなに手強いんですか?」
疾風「手強いっていうかさあ、いつもいつも
凄いスピードで僕らの追跡を振り切って
逃げちゃうんだ…」
銀牙「おまけに我々の攻撃すら全く受けつけぬ
あの身のこなし…。やはり只者ではないな」
電光「さらにアタマに来るのがコレや!」
電光は、今日の朝刊の社会面の記事を
THE HEARTSの面々に突き出す。
その記事には、昨日昼間に起こった火災現場の様子と
その場にいたシグフェルらしき姿が写真に写っていた。
忍武「…え~と、なになに。"謎の鳥人間、白昼の高層マンション
火災現場にて人命救助。ニューヒーロー誕生か!?"
なんじゃこりゃ…??」
エース「なんか俺たち
ブレイバーズ所属のヒーローの
お株を奪われてるみたいだな…」
エースはそう言って苦笑する。
聖人「確かシグフェルの件に関しては報道管制が
敷かれていたはずだろ…?」
銀牙「真っ昼間からあれだけの目撃者がいたんだ。
マスコミも無視はできまい」
一夜「そのシグフェルとやらが何者だろうと関係はない。
今俺たちの成すべきことは、まず目の前の敵を叩き潰すことだ」
1294
一方、その頃…。
江東区豊洲 朝倉家・リビングルーム***
慎哉「光平、なんだこれは…?(;一一) ジィー」
光平「いや…その、なんというか……(汗」
慎哉は今朝の朝刊の社会面の記事を突きつけ、
光平に説明を迫っている。
その記事の内容は、シグフェルによく似た鳥人間が
はしご車も届かないような火災現場から、逃げ遅れた人々を全員
見事に救助したというものだった。その鳥人間は名も名乗らずに
あっという間にその場から飛び去って行ったという。
光平「たまたま昨日の通学途中で高層ビルの火事の現場に
出くわしてさ。それで見過ごしておけなかったというか…」
慎哉「お前、あんなに目立ちたくないって
自分で言ってたじゃないか…」
光平「それは…まあ、そうなんだけどさ…。
消防の到着も遅れてたみたいだし、
救助するなら早い方がいいかと思って……」
慎哉の追及に困り果てた様子の光平に、
その場に居合わせた優香が助け船を出す。
優香「あら、私は困っている人を見捨てておけなかった
っていう光平くんのそういうところ、好きだけどな」
慎哉「沢渡まで…!」
慎哉はムシャクシャしたように右手で頭を掻く。
慎哉「光平、まさかとは思うけど、
せっかく変身できるようになったんだからこの際、
正義の味方になろう♪――だなんて思ってないよな…!?」
光平「まさか。俺だってそこまで考えてないよ…」
慎哉「いいか光平、本来こういった人命救助は警察か消防、
あるいはブレイバーズあたりの仕事だ。俺たちは単なる民間人
なんだからな。あまり余計なことに首を突っ込むなよ…」
、
心配そうに光平に忠告した慎哉だったが、
気を取り直して分厚い文書ファイルを光平と優香の前に差し出した。
光平「慎哉、これは…?」
慎哉「昨日、一日かけて東条寺理乃の事について
調べてみたんだよ。ここまでまとめるのに苦労したんだぜ。
何かアイツの行方を捜す手がかりになるかもしれない」
光平と優香は二人で手分けして
調書の束に関心深く目を通して見る。
優香「凄い…。よくここまでわかったわね」
光平「サンキューな、慎哉。早速、東条寺の父親が
勤めてたっていう大学から当たってみるよ」
城南大学・長沢キャンパス***
東条寺理乃の父親、東条寺宗晴博士は、
国に無認可で人体改造学の研究を密かに推し進め、
妻を人体実験で死なせてしまい、業務上過失致死罪で逮捕され服役。
当然学界からも追放され、出所後はどこかで人知れず亡くなったらしい。
光平と優香は、宗晴博士が勤めていたという城南大学を訪れた。
しかし残念ながら現在は当時を知る関係者は誰もおらず、
僅かに噂だけなら聞いたこともあるという初老の事務員の男性から
話を聞けた程度だった。
事務員「あまり大きな声じゃ言えませんけどね。
あまり東条寺宗晴博士の周辺を探ろうなんて
しない方がいいよ。どうもあの人は変なオカルトにも
手を出してたみたいでね。下手にかかわると
ろくなことにはならんと思うよ…」
光平「ありがとうございました」
光平と優香は事務員に一礼して退席して行った。
ちょうどそれと入れ違いに事務室に入って来たのは、
その普段から鍛え抜かれた肉体が一目でわかる
屈強な体つきの白衣の人物――そう、本郷猛である。
彼の日常の顔は、ここ城南大学の生化学研究室に在籍する研究員なのだ。
事務員「これは本郷先生」
本郷「今の二人は? うちの大学の学生にしては
見ない顔ですが…」
事務員「いや、うちの学生じゃなくて高校生ですよ」
本郷「高校生? すると来春の受験希望者ですか」
事務員「それが違うんですよ。なんでも昔、本学に在籍していた
東条寺宗晴博士の事を詳しく聞きたいとやって来たんですわ」
本郷「東条寺宗晴……」
その名に、本郷は少しだが聞き覚えがあった。
本郷「……(確かその昔、緑川先生の弟子の中に
そんな名前があったような。ルリ子さんなら
何か知っているかもしれないな。まあ、
どうでもいいことかもしれんが…)」
1295
キャンパスの通用門から外の脇道へと出た光平と優香。
結局今回は何も手がかりを得られず空振りに終わった。
優香「宗晴博士の人体実験で亡くなった奥さんって、
やっぱり東条寺理乃のお母さんよね…」
光平「たぶんな…。あまりこういうことを言っちゃ
いけないのかもしれないけど、あの東条寺理乃が
あんな奴だったのもなんとなく納得だぜ。
"親も親なら子も子"ってやつなのかな…」
優香「宗晴博士が関与していたオカルトって、
いったい何なのかしら…」
そして、あまり人通りのない道に差し掛かった時…。
突然二人は、すぐ側を通りかかったワゴン車から飛び出してきた
チンピラ風の男たち数人に襲われた!
優香「むぐっ!うぐううううぅっ!!」
光平「――優香っ!? むぐぐっ!」
二人は悲鳴を上げる間も無く、ハンカチを顔に押し当てられ、
そのまま急発進するワゴン車の中へ連れ込まれてしまった。
広域指定暴力団・龍神会総本部***
優香「イヤッ、放してください!」
光平「何なんだ! アンタたちは!?」
ロープで縛られた光平と優香が連れ込まれた場所は、
大きく立派な一筆が掲げられた額縁と、飾られた高価そうな甲冑と日本刀。
そして居並ぶ強面の男たち。素人が見ても明らかにヤクザのアジトである。
光平「……(ここって暴力団の組事務所じゃないか!?)」
組員A「親分、連れてまいりやした!」
組長「ご苦労!」
親分と呼ばれた組長らしき恰幅のいい老人が、
得体の知れぬ笑いを浮かべながら、光平と優香に近づいて来る。
組長「いやあ、おどろかせて悪かったね。
実は私たちはね、東条寺博士に研究費として
多額の融資をしてましてね。その返済が
滞ったままで困ってるんですよ」
光平「それと俺達と何の関係があるんだ!」
組員B「このガキッ、口を慎め!」
組長「まあ待て。いたいけな子供を怖がらせるもんじゃない」
光平「………」
激昂する子分を宥める組長だが、そもそも未成年者をこうして
強引に拉致させておいて何を言ってるんだと、光平は内心呆れる。
組長「聞けば東条寺博士の身辺を嗅ぎまわっているという
妙な高校生の二人組がいると言うじゃないか。そこで、
これは是非とも詳しいお話をお聞きしたいとお越し願ったわけで…」
優香「そんなっ…! 私たちは何も知りません!」
組長「何も知らない人間が、どうしてその人物の身辺を
探ろうとしていたんだね…?」
優香「それは……」
光平も優香も言葉に詰まる。まさか「東条寺宗晴の娘に得体のしれない
人体実験を施されて怪物にされた。だからその張本人である娘の行方を
探している」などと正直に申告したところで、ヤクザたちは到底
信じてはくれないだろう。
組長「どうしても話す気がないのなら仕方がない。
おいっ、この子たち二人をVIPルームへとお連れしろ!」
組員C「わかりやした!」
組員D「大人しくこっちに来い!」
光平「やめろ! 何をするんだ!」
優香「放してっ!」
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光平「うわぁっ!!」
優香「きゃあっ!!」
光平と優香は組事務所の中にある冷凍庫室に押し込められてしまった。
組員C「カチンコチンにならないうちに
全部話す気になった方が身のためだぜ!」
ヤクザたちはそう言い放つと、冷凍室の重い扉を閉めてしまった。
そして外からはしっかり鍵がかけられる音が聞こえた。
あの「東条寺宗晴には関わるな」という城南大学事務員の
忠告が、不幸にして的中した格好だ。
光平「くそっ、とんだVIPルームだぜ…」
光平はひょこっと立ち上がると、目を瞑って精神を集中させる。
そして両腕の筋肉に力を入れて、自分を縛っている縄を力ずくで引き千切った。
その後、すぐに優香を縛っていた縄も解き自由にする。
光平「優香、大丈夫か?」
優香「ありがとう。私は大丈夫よ」
光平「東条寺の父親って、闇金にまで手を出していたんだ…」
優香「これからどうするの…?」
光平「危ないから少し後ろに下がってて!」
突然、大轟音と共に冷凍室の分厚い鉄製の扉が破られた。
見張りに立っていた組員たちはびっくり仰天する。
冷凍室の中からは、紅蓮の翼をもつ異形が姿を現した。
シグフェル「………」
組員C「な、なんだ、てめえは!?」
組員D「やっちまえ!!」
組員たちは一斉に懐から拳銃を取り出し片っ端から発砲するが、
勿論そんな弾などシグフェルには掠り傷一つすら与えられない。
組員C「…バ、バケモンだ!?」
組員D「ひいっ…助けてくれええっ!!」
叶わないと悟ったヤクザたちは、
あっという間に一人残らず一目散に逃げ出した。
優香「光平くん…?」
シグフェル「優香、俺の側を離れるなよ!」
優香「うん…」
その時、さっき連れてこられた組長の部屋の方向から
幾多の悲鳴が聞こえた。
「ギャアアッッ――!!」
「誰か助けてくれええっ!!」
優香「何かしら!?」
シグフェル「行ってみよう!」
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優香「キャアァァッ――!!」
シグフェル「これはっ…!?」
辺り一帯には、悲惨な光景が広がっていた。
きっきの組長も含め、組員たちは無残に大量の血を流して
全員惨たらしく死んでいたのだ。
その光景に、シグフェルと優香は戦慄する。
キマイライーバ「ゴォォォォォッ…!!」
そして中央には、死んでいるヤクザの一人をその大きな口に銜え、
残忍そうに噛み砕いて楽しんでいる怪物がいた。
金属の胴体に四本足の四肢、そしてライオンと雌山羊とドラゴンの頭に
蛇の尻尾が生えている、全長5メートルはあろうかという巨体。
ギリシャ神話の魔物キマイラが、メカの装甲と融合したような姿である。
シグフェル「コイツっ…! あの怪物たちの仲間か!?」
キマイライーバ「グゥオオオンンッッ!!」
キマイライーバはシグフェルたちに一瞥をくれると、
口に銜えていたヤクザの死体を放り投げ、
コンクリートの壁を突き破って外に出て行った。
シグフェル「待て!!」
シグフェル、そして優香もその後を追いかけていく。
そしてそこにいたのは、まるで自身のペットのように
キマイライーバを手懐けていた"あの女"だった。
理乃「フフフッ…よしよし、いい子ね」
キマイライーバ「キャイイィィンンッッ…!!」
シグフェル「お前はっ…!?」
優香「――!!」
理乃「あら、これは驚いたわ…。
妙なところで会うものね」
シグフェルたちの存在に気づく東条寺理乃…。
以前とは違って、まるで西洋の魔女のような黒衣を
身に纏った姿をしているが、間違いなく、
光平に謎の人体実験を施した"あの女"その人だった…。
理乃「久しぶりねえ、牧村光平君……いえ、今は
シグフェルと呼んだ方がいいのかしら?」
シグフェル「…シグフェルシグフェルシグフェルッ!!
お前までシグフェルって言うのか! シグフェルってのは
いったい何なんだ!?」
優香「光平くんの身体に何をしたの!?
彼の身体を元に戻して!!」
理乃「おや、貴女がそれを言うの? 沢渡優香さん。
そもそも自分の彼氏に災難を押しつけたのは、
どこのどなたさんだったかしらね…」
優香「――!!」
理乃の言葉は優香の罪悪感を鋭く刺激した。
まるでナイフで心臓を抉るかのように…。
優香「いや…やめて……聞きたくないっ!」
シグフェル「優香…!?」
理乃「自分の大切なボーイフレンドを
醜い怪物の姿に変えた張本人は、
沢渡優香さん、貴女よ!!」
優香「いやああっ!!」
優香は両手で両耳を塞ぎ、
精神的ショックで激しく動揺する。
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シグフェル「落ち着くんだ優香!
お前は何も悪くなんかない!
アイツの言葉なんかに惑わされるな!!」
優香「………」
シグフェルの必死の叫びで優香は落ち着きを取り戻すが、
その瞳からは放心状態が抜け切らない様子である。
理乃「あら、優しいのね。アハハハ…」
シグフェル「黙れッ!! それ以上優香を傷つけるなぁぁっ!!」
シグフェルは理乃に殴りかかるが、その前に理乃を庇うように
時空クレパスが三つ発生し、中からろくろ首のように
ライオン、雌山羊、ドラゴンの頭が伸びて来て
シグフェルに攻撃を仕掛けて来た。
シグフェル「くっ…!?」
キマイライーバの三位一体の攻撃に苦戦するシグフェル。
そうしているうちに三つの時空クレパスが一つに合体し、
中からキマイライーバの本体が突進してきた。
驚いた隙を突かれたシグフェルは、キマイライーバの右前足に
踏みつけられ、その動きを封じられてしまった。
シグフェル「くそっ! 放せコイツっ!!」
キマイライーバ「ゴォォォォォッ…!!」
シグフェルは懸命に逃れようとするが、
キマイライーバの右前足はビクとも動かない。
シグフェル「東条寺、今まであの怪物たちを操っていたのはお前か!
なんで人間を襲わせる!?」
理乃「我ら"堕落の烙印を押されし神々"に仕えし者の使命は、
"女神の器"を探し出すこと…。黄泉がえった人間を始末して
回っているのはそのためよ」
シグフェル「……("堕落の烙印を押されし神々"…?
"女神の器"…? いったい何の事だ…??)」
シグフェルには、理乃の発した言葉の意味を
理解できなかった。
シグフェル「あのヤクザたちを皆殺しにしたのも
そのためなのか?」
理乃「…ああ、アレは違うわ。東条寺宗晴の余計な痕跡を
単に消していただけよ。後々誰かさんに無用な勘ぐりを
されないためにね」
シグフェル「まるで他人みたいな言い方だな。
自分の父親なのにっ…!」
理乃「父親ですって…? そういえばそうとも言えるわね。
でもそれはもう過去の事だわ」
シグフェル「……??」
理乃「さあ、お遊びはもう終わりにしましょう」
1299
シグフェルをキマイライーバに任せて、
理乃は優香に近づく。
優香「――!!」
理乃「さあ、沢渡さん、貴女は私と一緒に来るのよ」
シグフェル「やめろ! 優香に近づくな!!」
理乃「あの日に貴女と二人きりでやるはずだった、
実験を改めてやり直しましょう。私のメスで
今度こそ奇麗に切り刻んであげるわ!」
優香「いや…いやあっ! やめてえっ!!
助けてええっ!!」
シグフェル「――優香ァァッ!!!!!」
優香の危機にシグフェルは渾身の力を振り絞って、
キマイライーバの右前脚を力ずくで振り払うと、
蛇の尾部分を掴んで勢いよく振り回し、
理乃のいる方向へと放り投げた。
キマイライーバ「グゥオオオンンッッ…!?」
理乃「――!!」
シグフェルはすぐさまに理乃と引き離された優香を保護する。
シグフェル「優香に指一本でも触れてみろッ!!
その時はお前を殺すッ!!」
優香「光平くん……」
理乃「………」
キマイライーバ「ゴォォォォォッ…!!」
理乃は澄ましたように、シグフェルと優香を見つめている。
理乃「チッ、仕方がないわね!」
シグフェル「――!?」
理乃は右手の爪を自分の額に突き立て、
そこから体全身に向けて引っ掻くように
自分の皮膚を剥ぎ取った。それはまさに驚愕の光景だった。
中から現れたのは、不気味な紫に光る鱗に覆われた
大蛇のような怪人だったのだ。
優香「あ…ああッ……!?」
シグフェル「東条寺…お前はッ!?」
スネイザ「我が名は紫蛇(シジャ)の女王スネイザ!
死ねいっ!シグフェルッ!!」
一瞬の出来事だった。東条寺理乃――いや、スネイザと名乗った女怪人の
頭部から長く伸びている巨大な尾が、シグフェルの身体に何重にも巻きついたのだ。
シグフェル「うっ…うわあああっ!!」
スネイザ「アハハハ…そのまま骨まで砕けておしまい!!」
スネイザの尾に強い力でぐいぐいと締め付けられる
激痛に苦しむシグフェル。
優香「――光平くん!!」
優香はスネイザの尾に捕らわれたシグフェルの側に駆け寄った。
シグフェル「…優香ッ…何してる!?……
俺なんかに…構わずに……早く、逃げろッ…!!」
優香「いやっ!! 絶対に放さないっ!!」
その時、遠くからパトカーのサイレンが鳴る音が
段々と近づいてきた。
スネイザ「――チッ!!」
スネイザは尾を頭部まで巻き戻すと、
解放されたシグフェルはその場にぐったりと崩れ落ちた。
シグフェル「ぐっ…!!」
スネイザ「命拾いをしたわね。
いずれまた会いましょう…」
キマイライーバ「グォォォォォッ…!!」
警察が来て騒ぎが大きくなっては
いろいろと面倒だと考えたのか…。
スネイザとキマイライーバは発生させた
時空クレパスの中へと消えていった。
シグフェル「くっ…待て!」
優香「光平くん、早くしないとパトカーが来ちゃう!
私たちも行きましょう!」
シグフェル「くそっ……」
今回は東条寺理乃に再び接触できたにもかかわらず、
その目的も、シグフェルの身体の秘密も詳しい事は
何も掴むことはできなかった。
"堕落の烙印を押されし神々" "女神の器"
果たしてその二つの単語は、いったい何を意味するのか…?
そして最後に一つだけだが、確かにわかった事がある。
東条寺理乃は、今も沢渡優香を狙っている…!
シグフェル「優香……」
優香「なに?」
シグフェル「君は必ず俺が守る…!
例えこの命に代えても!!」
優香「光平くん……」
優香を横にしてしっかりと両腕で抱き上げ、
上空に飛翔するシグフェル。その意思は
新たな決意に燃えていた。
1300
数日後…。
東京赤坂・某高級料亭***
伊達「龍神会の総本部が壊滅した話は聞いたな?」
富樫「ああ、驚いたな…」
盃を酌み交わしながら話している人物は、
片や日本の首領(ドン)と恐れられる江田島平八の懐刀である
男塾OBのまとめ役・富樫源次。
そしてもう片方は、関東極天漠連合会長、初代伊達組組長として
日本の極道界に重鎮として重きをなす、同じく男塾OB・伊達臣人である。
伊達「組長から末端の構成員に至るまで皆殺し…。
しかも発見された死体はどれもこれも、
野獣に噛まれたような惨い傷跡ばかりだった。
人間の仕業とは考えられん」
富樫「龍神会は勢力拡大のためなら堅気の衆も
危険に巻き込むことすら何とも思っていない
外道どもの集まりだったからな。どこの誰だか
知らんが組織が崩壊してくれたのは、市民の安全に
とっても何より――と、言いたいところだが……」
伊達「龍神会がなくなって出来たポッカリ空いた穴を狙って、
また有象無象どもが一悶着を起こす恐れがある」
龍神会の縄張りをめぐって、暴力団同士の抗争が
激化する事を伊達は危惧する。
伊達「尤も、そちらの方は俺の方で何とか抑える。
子分どもにも下手な挑発には乗るなと伝えてある。
それよりも問題なのは、その現場に"紅蓮の翼"が
いたことだ…」
富樫「"紅蓮の翼"…? 例のシグフェルか…?
しかし警察が駆けつけた時には誰もいなかったと
報告には聞いてるが…」
伊達「子分たちに詳しく調べさせた。どういうわけか
どうもシグフェルもその場に居合わせたらしい。
間違いない。もしもシグフェルの存在を
ダッカー辺りに嗅ぎつけられる可能性が
ないとも言い切れん」
富樫「わかった。そっちの方の報道管制は引き受けるぜ。
しっかし、この間は火事の現場で人命救助をしたかと思えば、
今度はヤクザの事務所に殴りこみとはな。
シグフェル…奴さんの考えがどうにも今一つ読めん…」
一方、その頃…。
GOD秘密基地アポロン宮殿・総司令室(キングダーク謁見の間)***
ジンギスカンコンドル「キングダーク様!」
ガマゴエモン「東京侵攻作戦の準備、整いましてございます!」
GOD悪人怪人軍団が一斉に集う中、上座にその身長42mもあろうかという
巨体を寝転がせて鎮座する、Gショッカー巨神邪将キングダーク!
GODでは総司令に次ぐ大権力者である。
キングダーク「今こそ時は来た! 我らはザンギャック艦隊による
艦砲射撃のサポートの元、一気に東京に攻め込む。
人間どもを皆殺しにするのだぁ~!!」
キングダークの号令に応え、怪人たちがおぞましい雄叫びを次々に上げる。
Gショッカーによる東京総攻撃が今、まさに始まろうとしていた…。
1301
○剣持保→都庁屋上でシグフェル追跡の指揮を執る。
○村中隊員→都庁屋上からシグフェル追跡作戦に参加。
○海野隊員→都庁屋上からシグフェル追跡作戦に参加。
○小野隊員→都庁屋上からシグフェル追跡作戦に参加。
○岩山鉄五郎→ANGELにサインをねだろうとして、小野隊員から着替えを押しつけられる。
○ライディーンイーグル/鷲崎飛翔→新宿上空でシグフェルを追跡するが、振り切られる。
○ライディーンコンドル/エース羽田→新宿上空でシグフェルを追跡するが、振り切られる。
○ライディーンホーク/鷹城電光→新宿上空でシグフェルを追跡するが、振り切られる。
○ライディーンアウル/鳥飼銀牙→新宿上空でシグフェルを追跡するが、振り切られる。
○ライディーンファルコン/大鳥疾風→新宿上空でシグフェルを追跡するが、振り切られる。
○南条一夜→稽古場でANGELの面々からシグフェルについて話を聞く。
○カイル・ムーン→稽古場でANGELの面々からシグフェルについて話を聞く。
○椿聖人→稽古場でANGELの面々からシグフェルについて話を聞く。
○海堂忍武→稽古場でANGELの面々からシグフェルについて話を聞く。
○武者小路藤丸→稽古場でANGELの面々からシグフェルについて話を聞く。
○本郷猛→城南大学の事務室で、訪れた牧村光平、沢渡優香と偶然に入れ違う。
○富樫源次→龍神会崩壊後の極道の世界の均衡について協議。
○伊達臣人→龍神会崩壊後の極道の世界の均衡について協議。
●キングダーク→東京攻撃作戦開始を号令する。
●ジンギスカンコンドル→キングダークの号令に従う。
●ガマゴエモン→キングダークの号令に従う。
○シグフェル/牧村光平→東条寺理乃と対峙。理乃の変身したスネイザと交戦。
○朝倉慎哉→東条寺理乃の父親について調べ上げる。
○沢渡優香→東条寺理乃と対峙。理乃がスネイザの正体を現したのを目撃。
●スネイザ/東条寺理乃→スネイザの正体を現し、自らを紫蛇(シジャ)の女王と称する。
●キマイライーバ→シグフェルと交戦。
【今回の新規登場】
○岩山鉄五郎(大鉄人17)
レッドマフラー隊の押しかけ隊員。通称ガンテツ。
赤シャツに学ラン、下駄履きという典型的な浪人生スタイル。
東大合格を目指していたがレッドマフラー隊の活躍に憧れて
あっさり東大合格をあきらめたという経緯から、
幾度も南三郎やレッドマフラー隊の危機を救った。
○小野隊員(大鉄人17)
レッドマフラー隊の女性隊員で、主に佐原千恵と同じく
通信班として活動する。村中隊員とは恋仲らしい。
○鷲崎飛翔=ライディーンイーグル(超者ライディーン)
アイドルグループ「ANGEL」のメンバーで、中学3年生。
両親が離婚しており、母まりえ、妹であるつばさとの3人暮らし。
家はあまり裕福とは言えなかった。学校の屋上から落ち昏睡状態に
陥ったガールフレンドの宮坂瑠璃を常に気にかけていた。
ライディーン戦士としては火の力を操り、ANGEL5人の中で
攻撃・防御・技・スピードの全てにおいてバランスがとれている。
○エース羽田=ライディーンコンドル(超者ライディーン)
アイドルグループ「ANGEL」のメンバー最年長。
日本人である父とアメリカ人である母(既に他界)のハーフ。
以前はニューヨークでストリートギャングのボスをやっていた。
超魔に襲われライディーンとして覚醒するも、自分のためらいのせいで
仲間達を殺されてしまったことを悔いている。その後天賀井玲子と出会い、
天使更生組合のタレント第一号となる。ライディーン戦士としては大地の力を操り、
ANGEL5人の中で最も攻撃力に優れている。
○鷹城電光=ライディーンホーク(超者ライディーン)
アイドルグループ「ANGEL」のメンバーで、中学3年生。
実は大企業の御曹司だが、将来お笑い芸人になりたいという夢のために
関西人でもないのに関西弁を喋り、出会って間もなく飛翔と無理矢理お笑いコンビを組む。
ライディーン戦士としては雷の力を操る。ANGEL5人の中で最も防御力に優れている。
○大鳥疾風=ライディーンファルコン(超者ライディーン)
アイドルグループ「ANGEL」の最年少メンバーで、
IQ250の天才で、自ら設立したゲーム会社の社長。
ライディーン戦士としては風の力を操り、
ANGEL5人の中で最もスピードに優れている。
ザ・ハーツの武者小路藤丸とは大の親友同士である。
○南条一夜=ライディーンクロウ(超者ライディーン)
人気絶頂のロックバンド「THE HEARTS」のリーダーであり、ギター担当。
鷲崎飛翔を一方的にライバル視している節がある。
ライディーン戦士としては影の力を操り、攻撃・防御・技・スピードの
全てにおいてバランスがとれている。
○カイル・ムーン=ライディーンアーザス(超者ライディーン)
人気絶頂のロックバンド「THE HEARTS」のメンバーで、
ドラム担当のオーストラリア人。趣味は日本のアニメ・時代劇鑑賞。
日本語は流暢であるが、全てアニメや時代劇から学んだため
語尾が「〜でござる」など多々怪しい部分がある。
ライディーン戦士としては虹の力を操り、技に優れている。
○椿聖人=ライディーンフェニックス(超者ライディーン)
人気絶頂のロックバンド「THE HEARTS」のメンバーで、ベース担当。
ニューヨークでエース羽田率いるストリートギャングの一員となり、
一度超魔に襲われ死亡するも、ゴッドフェザーによって甦り、
南条一夜と出会いザ・ハーツに入るという数奇な運命を辿る。
鷲崎飛翔とも幼馴染の関係。ライディーン戦士としては炎の力を操り、
防御力に優れ、ヒーリング能力も持つ。
○海堂忍武=ライディーンブラッド(超者ライディーン)
人気絶頂のロックバンド「THE HEARTS」のメンバーで、ヴォーカル担当。
根っからのスポーツマンで、暇さえあればいつも腕立て伏せをしている。
ライディーン戦士としては音の力を操り、攻撃力に優れている。
○武者小路藤丸=ライディーンダイノ(超者ライディーン)
人気絶頂のロックバンド「THE HEARTS」の最年少メンバーで、キーボード担当。
趣味は俳句を読む事。ライバル関係にあるANGELの大鳥疾風とは大の仲良し。
ライディーン戦士としては氷の力を操り、スピードに優れている。
●キングダーク=呪博士(仮面ライダーX)
GOD機関悪人怪人軍団を率いる最高幹部。
身長42m、重量1500tを誇る巨大ロボットである。
GOD総司令から全権を委任されており、怪人を将軍へ推薦する権限を有している。
その正体は、GOD機関の支配者・呪博士のサイボーグボディであり、
内部には侵入者を迎撃するためのトラップが仕掛けられていたり、
戦闘工作員が巡回警備しており、このロボット自体が呪博士を守る要塞の
役割を果たしている。
●ジンギスカンコンドル(仮面ライダーX)
世界最大の帝国を築いた独裁者チンギス・ハンの死体に
コンドルの能力を与えたGOD悪人怪人。口から火炎を吐く。
吸血鬼ビールスで都民の吸血鬼化を計画した。
●ガマゴエモン(仮面ライダーX)
伝説の大泥棒石川五右衛門とガマガエルのGOD悪人怪人。
●キマイライーバ(闘争の系統オリジナル)
堕神の使徒で、ギリシャ神話の怪物キマイラに、メカの装甲を融合
させたような姿の、4本足で歩く全長5メートルほどの魔物。
別々に発生された時空クレパスからライオン、雌山羊、ドラゴンの
三つの頭部を伸ばして行う攻撃が得意。武器はドラゴンの口から
吐き出す高熱ガスと、雌山羊の口から吐く冷気。そして両前足の鋭い爪。
最終更新:2020年11月26日 10:12