本編1357~1360

『聖天子暗殺!?宇都宮釣天井』-1

 作者・ティアラロイド
1357

東京・大川端***


隅田川の下流右岸に停泊している屋形船がある…。
中で極秘の密談を交わしているのは、内閣総理大臣・剣桃太郎。
そしてもう一人である白髪に髭の老人は、天童菊之丞。
東京エリアの政治経済を裏から牛耳る天童家の当主であり、
聖天子を側近くから支える補佐官として、聖居の一切を取り仕切る重鎮である。

菊之丞「剣総理、わざわざこのようなところまで
 お越し願いましてかたじけない」
桃太郎「菊之丞殿、何事ですかな?」
菊之丞「実は総理に折り入ってご相談致したき事がある。
 事は極秘、火急を要する仕儀でしてな」
桃太郎「火急を要する仕儀とは?」
菊之丞「来たる二十日の聖天子様北関東ご行幸に関わる事で、
 実はその道筋で、さる者が謀叛を企んでおるとの噂が…」
桃太郎「謀叛…? いったい誰が…」
菊之丞「総理は、この男についてご存知かな?」

菊之丞は一枚の写真を取り出す。
それには自衛隊の制服を着た一人の青年将校の姿が映っていた。

桃太郎「なんと、この男は…石津麟一郎!」
菊之丞「いかにも…」

石津麟一郎とは、かつての防衛省のエリート将校であり、
自衛隊内部に急進的な秘密結社「G機関」を秘密裏に結成。
元防衛省副長官・竜崎と結託して国家転覆を企てた怪人物である。

菊之丞「昨年の暮れ、念のため密偵をかの地に潜入させたのだが、
 もはや半年にもなるのに、今もって消息不明。しかるに
 聖天子様ご行幸のみぎりは、宇都宮にご一泊なされるのが定め。
 もしその情報が事実だとしたら、聖天子様の御身に容易ならぬ事が…」
桃太郎「うむ…」
菊之丞「その日取りが間近に迫った今、もうどうにも方策が…」
桃太郎「わかりました。こちらでも探索してみましょう」
菊之丞「そう願えれば、何よりのこと。言うまでもないとは存ずるが、
 事が事だけに、くれぐれもこの件は極秘に…」

そう言うと菊之丞は、石津の顔が写った写真を
火鉢に入れ燃やしてしまった。

桃太郎「………(女か?)」
船頭「………」

屋形船を出る際、桃太郎は傍らに控える船頭が、
ほっかむりを深くかぶり顔こそよく見えないが、
実は女性、しかもその身のこなしから
只者ではないと見抜いた。

天童菊之丞は水面下で隠密の類を好んで使うという噂は、
桃太郎の耳にも入っていた。おそらくこの女もそうなのだろうと、
それ以上は深く詮索せずに、待機していた公用車へと乗り移り、
すぐに官邸へと戻って行った。

菊之丞「聞いていたな?」
船頭「はい」

船頭に扮したこの女、名を千坂朱音という。
元民警のプロモーター崩れのくノ一である。

菊之丞「万一の異変に乗じて、あのブレイバーズ
 事を起こす事態も考えられる。直ちにその方も
 かの地に赴き情勢を見張れ」
朱音「ハハッ」

1358

東京・国会議事堂・地下***


国会議事堂の地下に住む夢見の姫・丁(ひのと)は、
最高の力を持つ『夢見』の少女で、これまで政治家たちのために
日本の未来を予見していた。

緋炎「どうぞ」
聖天子「お点前(てまえ)頂戴いたします」

聖天子は丁姫から、ささやかな茶席に招かれていた。
丁姫は体が不自由であるため、側近くに仕える女官である
緋炎が代わって茶を立てる。

軽く茶わんを上げ神仏に感謝を示し、
茶わんを左手にのせて軽く右手を添えながら
聖天子は出された茶を味わう。

聖天子「結構なお手前でした」

茶わんを前に置く聖天子。
しかしどこか晴れない表情をしている。

聖天子「………」
丁「聖天子様にはさぞかしお疲れのご様子。
 先日のGショッカーによる東京エリアへの奇襲に際し、
 懸命に都内の避難所を回られ、被災者を慰問なされたゆえ、
 それも無理からぬこと…」
聖天子「前線で戦っている自衛隊の兵士や、
 戦禍に見舞われた国民の苦労に比べれば、
 この程度のことがなんでありましょう」
丁「政府と何かございましたか…?」
聖天子「来たる二十日の北関東行幸のことです。
 菊之丞さん、剣総理、江田島のじいまで
 私の行幸に反対しているのです…」
丁「天童補佐官も剣総理も江田島殿も、聖天子様の御身を
 心配されてのことなのでしょう」
聖天子「丁姫の夢には、なんと出ましたか?」
丁「さあ、それは…」

丁姫は一瞬、言葉に詰まる。
どうやら彼女も不吉な予感を意味する夢を見たようだ。

聖天子「ガストレアに占領された地域を奪還し、
 人間の居住地域を広げていくことは、
 先々代の聖天子の頃よりの悲願…。
 ですから私自らが、かの地の戦線に
 赴かないわけにはいかないのです」

1359

T県と栃木県の県境付近***


ここは北関東エリアにおけるT県と栃木県の間の
県境付近である。険しい山々と深い山林に囲まれ、
言うまでもないことながら周囲に人家などは全くない。
プロの登山家ですら滅多に立ち入らないこの地域を
ひたすら突き進む二人の青年の姿があった。

五郎「お~い弦の字、ちょっと待ってくれよ~!
 いい加減そろそろ休もうぜ!」
弦太郎「大の男が女みたいな情けない声出すんじゃねえやい!」
五郎「だってよぉ! もう三日も山ん中を
 飲まず食わずで歩きづめなんだぜ」

国家警備機構の密使、静弦太郎と霧島五郎。
南会津から出発し、関門海峡のビルドベースを目指しながら
只今隠密の旅の真っ最中であり、ちょうど北関東エリアの奥地に
入った頃合いであった。

弦太郎「てめえ元々登山家だったんだろ。
 こんな程度でへたばるとは情けねえやつだな」
五郎「登山の専門家だから言ってるの!
 だいたいここをどこだと思ってるわけ!
 T県だよT県! 昔住んでた人間は完全に駆逐されて、
 今や幻獣やガストレアが我が物顔で跳梁跋扈する巣窟じゃねえか!
 ここを通る途中でどんだけ気持ちの悪い化け物の群れに
 追いかけまわされたと――」
弦太郎「うるせえ! こっちの方が近道なんだよ!
 ぐだぐだ文句を言ってると置いてくぞ!」

公共の交通機関を利用せず、徒歩で移動していた弦太郎と五郎は、
実はガストレアや幻獣の完全な占領下にある"T県"の山中に
足を踏み入れていたのだった。

弦太郎「そういえばあれから不知火の連中も
 すっかり鳴りを潜めちまったみたいだが…」
五郎「何事もないに越したことなし。平和が一番よ」
弦太郎「それならとっとと次の目的地に到達しないとな」

その時、弦太郎と五郎の二人は、
いつの間にか容易ならぬ殺気を放つ集団に
囲まれていることに気付いた。

五郎「…おや、お客さんですかい?」
弦太郎「どうやらそうみたいだな。ちょうどいい。
 相手をしてやらあっ!」

腰のアイアンベルトに手をかける弦太郎。
大きな猛獣らしき影が数体、一斉に暗闇の中から
弦太郎と五郎めがけて襲いかかる!?

1360

○剣桃太郎→天童菊之丞と会談。石津麟一郎が動き出した事を知る。
○丁→聖天子を茶会に招く。
○緋炎→茶会の席で、聖天子にお茶を出す。
○聖天子→北関東への行幸の決意を固める。
○静弦太郎→栃木県境を移動中。
○霧島五郎→栃木県境を移動中。
△天童菊之丞→剣桃太郎と会談。石津麟一郎が動き出した事を伝える。

△千坂朱音→天童菊之丞の命令で宇都宮へ飛ぶ。

【今回の新規登場】
△天童菊之丞(ブラック・ブレット)
 聖天子付き補佐官。天童木更の祖父で、政治家として最高権力者の座に
 あると同時に、東京エリアの政治経済を裏から牛耳る天童家の当主。
 年齢に似合わず偉丈夫で、仏師として高い評価を得、人間国宝に指定
 されている。聖天子を名君として深く敬愛し支える一方、ガストレアに
 対する深い憎しみから、呪われし子供たちへの暗い感情も抱えている。

△千坂朱音(闘争の系統オリジナル)
 ブレイバーズを危険視する天童菊之丞が、密かにヒーローたちを
 監視するために送り込んだ密偵。ある時はブレイバーズの味方、
 またある時は敵となる、神出鬼没のくノ一である。

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最終更新:2020年11月26日 10:22