本編1361~1365

『聖天子暗殺!?宇都宮釣天井』-2

 作者・ティアラロイド
1361

T県と栃木県の県境付近 第105山岳師団野営地***


弦太郎「………」
五郎「………」

静弦太郎と霧島五郎はロープで縛られて地面に座らされていた。
それを取り囲んでいるのは、どこぞの高校の制服に身を包んだ少年少女たちだが、
全員、銃や大剣で武装している。

グリンガム「ガルルルッッ!!」
ジジ「グゥゥゥッ!!」

その他にも虎ともライオンともつかぬ猛獣が数匹、
囚われの弦太郎と五郎をじっと睨みつけている。

五郎「や、やめてよ! 俺…美味しくないぜ…。
 *1)ガクガクブルブル」
弦太郎「コイツらは雷電だな…」
五郎「…らいでん?? なんだいそりゃ?」
弦太郎「俺も現物を見るのは初めてだが、
 対幻獣戦用に遺伝子操作で生み出された
 生物兵器の動物兵だと聞いたことがある…」

武装した少年少女の一団の中から、
黒髪を後ろで三つ編に束ねたキツい目つきの少女が
弦太郎と五郎に尋問する。

美姫「あなたたちはいったい何者なの?」
弦太郎「だからさっきから言ってるじゃねえか。
 俺たちは国家警備機構の隊員だ」
紫苑「それなら身分証は?」
弦太郎「あいにくとそんな堅苦しいもんは
 普段から持ち歩いちゃいねえなあ…。なあ相棒!」
五郎「そうそう!」
美姫「怪しい…」
弦太郎「そういうお前らこそいったい何者だ?
 そんな物騒な得物をぶら下げてるんだ。
 まさかただの高校生ってわけじゃねえだろ」
紫苑「僕らは第105山岳師団・第7芝村中隊の者だ。
 自分は隊長代理の竜造寺紫苑」
美姫「アタシは金城美姫」
火焔「結城火焔だ」
源「……源健司」

これまで広島を主な任地としていた第7芝村中隊だが、
北関東戦線への増援としてこの地まで赴任してきていたのだった。

弦太郎「お前ら学徒兵か?」
源「…だったらどうした?」
弦太郎「まだお母ちゃまから乳離れもしていない
 お子ちゃまだってことだよ!」
源「…んだとゴラッ!?」
五郎「おい弦太郎! あんまりこの坊主…じゃなくて
 この方たちを怒らせるな! 今の俺たちの置かれてる
 状況わかってるの!?」
美姫「源も簡単に挑発にならない!」
源「うるせえっ! 面白れえっ。
 相手になってやろうじゃねえか!」

源健司は静弦太郎の縄をほどき、周囲が見守る中
互いに素手で取っ組み合いを始めた。激しい殴り合いの末に
ぶっ倒れる双方…。

弦太郎「ガキのくせになかなかいいパンチだ…。
 へへっ…気に入ったぜ…」
源「おめえもな…オッサン…」
弦太郎「オッサンだぁ…? バカヤロウ…。
 俺はまだ23だ……」

拳と拳で培われた漢の友情に、
事態を見守っていた周囲はすっかり呆れている。

美姫「男ってどうしてみんなああなのかしらね…」
五郎「同感…」

1362

典子「尾上一佐、どうもお手数をおかけします」
せいあ「無事に見つかってよかったわ」

連絡を受けた陸上自衛隊の尾上せいあ一佐に案内されてやって来たのは、
弦太郎や五郎と同じ国家警備機構の隊員である藤森典子だった。

典子「不審者を発見・拘束したと聞いて来てみれば案の定だわ!
 静君、霧島君、やっぱりまだこんなところで油を売ってたのね!」
弦太郎「テンコ!? お前いったいなんでこんなところに!?」
五郎「これぞ地獄に仏だ! 観音様だ! 典子様だ!
 おいっ、早くこのロープを解いてくれよ~!」

突然の典子の出現に驚いた弦太郎と五郎だったが、
とりあえず五郎を縛っていた縄を解いてもらう。

五郎「ふぅ~助かった! やっぱし手足の自由はいいもんだねえ♪」
弦太郎「ところでテンコ、なんだってお前こんなところにいるんだ?」
典子「なんだってとはご挨拶ね! 静弦太郎隊員、並びに霧島五郎隊員に
 辞令と新たな命令を交付しに来ました」
弦太郎「辞令だと?」
典子「静、霧島両隊員は、本日現時刻を持って、
 独立合同部隊ブレイバーズに編入されます」

これまで数々の悪の魔手から地球の平和を待って来た
歴戦のヒーローたちの統合組織であるブレイバーズの噂は
弦太郎と五郎の耳にも当然届いていた。

弦太郎「噂のヒーロー共同部隊か…」
五郎「でもまあ、やることは今までと特に変わりはないんだろ」
弦太郎「気に入らねえな。あいにくと俺は仲良し集団と
 つるむ趣味はないぜ」
典子「静君、これは命令よ! それに二人には
 総理直々に他にも大事な任務があるのよ」
五郎「へぇ~総理大臣から直々に? それは恐れ多いこって」
典子「この男の写真を見て」

典子は弦太郎と五郎に一枚の写真を渡す。

五郎「誰だいコイツは?」
弦太郎「…待てよ。どっかで見たツラだな」
典子「名前は石津麟一郎。数年前に政府転覆を企てた
 危険人物よ」
弦太郎「思い出した! 確か防衛省のメインコンピューターを乗っ取って
 クーデター騒ぎを起こした野郎だ! でもこの男は死んだって聞いたぜ?」
典子「黄泉がえっていたのよ。そしてこの石津が、
 近々宇都宮までご行幸される聖天子様の暗殺を
 企てているらしいの」
弦太郎「要は俺たちにそのお姫様のお守をしろってことか。
 冗談じゃねえ、そんな仕事ならやってられるか!」
典子「静君、言ったでしょ!
 これは剣総理から直々の命令なのよ!」
弦太郎「そりゃあ今の剣桃太郎ってお人は、
 今までのバカ総理に比べれば幾分かはマシな人
 らしいけどな。悪いが誰か他の適任者を当たってくれ」
典子「静君!!」

1363

宇都宮駅前***


山田そら「皆さん、たった今、聖天子様が宇都宮に到着されました!」

リボーターの山田そらが実況を続ける中、
日の丸を片手に振りながらその様子を見守る群衆の中には、
静弦太郎と霧島五郎の姿もあった。

五郎「なんでぇ。"お姫様のお守なんかご免だ"とか
 言ってたくせに、結局お前も興味があるんじゃないか」
弦太郎「うるせぇ!」

東京駅からお召し列車に乗って宇都宮駅に到着した聖天子は、
厳重な警備に囲まれる中、侍従や護衛隊を伴いつつ、
駅の玄関から待機している公用車に向かって威風堂々と歩いていく。

弦太郎「だいたいお姫様の思いつきのパフォーマンスで、
 いったいどれだけの警備費用が国民の血税から
 費やされるのかねえ!!」

弦太郎はわざと聞こえるように声を張り上げる。

五郎「バカッ、声が大きいよ。
 聖天子様に聞こえたらどうすんだ!」
弦太郎「構うもんかい!!」

その時、一瞬だけ聖天子の視線がこちらを向いたような気がした。

五郎「…ああ、ヤバイぜおい! きっと聞こえたんだよ。
 だから言わんこっちゃない。きっと総理大臣にアイツをクビにしろ
 とか言いつけられるぜ。おりゃ知らねえよ…」
弦太郎「上等だ!」

防弾ガラスが張られた公用車の後部座席へと乗り込んだ聖天子は、
同行している侍従に下問する。

聖天子「あの男は何者です?」
侍従「ハッ、国家警備機構の隊員の、
 静弦太郎と霧島五郎の両名にございます」
聖天子「………」
侍従「国家警備機構にはその任務柄、何かと荒くれ者の隊員が
 多いと聞き及んでおります。何卒あのような者の言動を
 お気にはなさいませぬよう」

1364

宇都宮城址公園***


宇都宮城は、平安時代に藤原宗円が二荒山の南に居館を構えたのが初めである。
江戸時代に改修された時は、輪郭と梯郭形式を合わせた土塁造りの平城であった。

宇都宮城といえば、「宇都宮釣天井事件」で有名である。
当時の城主であった徳川譜代の大名・本多正純は、精力的に城下町を拡張・整備し
近世以降の宇都宮の基礎を築いた名君であったが、
元和8年(西暦1621年)、突然幕府により改易されてしまう。
家康の七回忌のために日光東照宮に参詣した二代将軍秀忠と世継ぎ・家光父子が宇都宮城に泊まる際、
城内の将軍の寝所に釣天井をしかけて将軍父子を圧殺し、日頃より乱行を起こし問題のあった
越前宰相・松平忠直卿を代わって傀儡将軍に擁立する陰謀があった。あるいは政敵であった
土井利勝の画策で権力の座から排除されたとされる説もあるが、今の世となっては真相は不明だ。

五郎「なんだよ弦の字、今度は宇都宮市内を観光でもしようってのか」
弦太郎「そうじゃねえ。あれを見ろ」

城址公園の一角で、何やら急ピッチで工事を進めている区画があった。
青シートで覆われているため、中の様子を窺い知る事は出来ない。

五郎「なんだありゃ。石垣の修理か何かかな?」
弦太郎「バカ! よく見ろ。あんなところに石垣なんかあるか!
 どうも臭いな…」

弦太郎と五郎が工事現場の方向をじっと見ていると、
そこに胡散くさい感じの中年男が近寄り、二人に声をかけて来た。

中年男「よっ、お二人さん、旅のお方だね?」
弦太郎「なんだいアンタは?」
中年男「日当3万円っていう美味しい仕事があるんだが、
 一口乗らねえかい?」
五郎「するってぇと、お前さん、職業紹介の業者か何か?」
中年男「まあそんなところよ」
弦太郎「いったいどんな仕事をするんだ?」
中年男「お城で働くんだよ。近々聖天子様がお城にもお見えになるんでな。
 その際にお成りになる御休息所を仕上げる仕事よ」
弦太郎「へぇ~なるほど、聖天子様のための御休息所をねえ…。
 そいつは豪気なこった。面白い! その話乗ったぜ♪」


独立幻野党・秘密基地***


ここは、現代まで続く大和王朝の転覆を志す暴力革命集団、
独立幻野党――またの名を幻兵団のアジトである。

アラビア風の衣装に身を包み武装した構成員たちが居並ぶ中、
一人だけスーツにサングラス姿の男・石津が、
テーブルの上に大きな図面を広げ、
向かい合うように独立幻野党の首領・幻の月光と
謀議を重ねている。

石津「これが現在建設中の宇都宮城御休息所の見取り図だ」
月光「前線部隊を督戦した聖天子は、帰り際に御休息所に立ち寄る。
 その際に仕掛けられた釣天井で確実に仕留める」
石津「聖天子さえ亡き者にすれば、残る難敵は剣桃太郎と江田島平八だが
 その混乱に乗じて我々の別働隊が東京主要各所を制圧する」
月光「そのついでに剣桃太郎らの命も頂くわけか。
 クーデター成功が確認された後、大阪エリアの指導者である
 斉武宗玄が臨時新政府の樹立を宣言する。まさに完璧な計画だ。
 かつて徳川幕府転覆の野望を果たせなかった本多正純の無念は、
 現代の世に移り、我々が代わって晴らしてやるわ!」

月光は懐から自慢げに一枚の封書を取り出す。
その中には、計画成功後の段取りについて定められた、
斉武宗玄サイドとの取り決めが書かれてある。
云わば、一蓮托生の約定書というやつである。

石津「だが油断するな。斉武は所詮は狸だ。
 いざとなれば我々を切り捨てる腹に違いない。
 そんな約定書など紙切れにすぎんからな」
月光「もし斉武が我々を裏切れば、
 その時は我らの鋼鉄の同志が大阪エリアを
 蹂躙するだけの事だ!」

月光は構成員たちの前に立ち、高らかに宣言する。

月光「同志諸君、革命だ! 今こそ大和政府を打倒し、
 俺たちの時代を作るべき革命の時が今来たのだ!」
党員たち「「「ウオオオッッ!!!!!」」」

石津「………」

独立幻野党のメンバーたちの叫びがアジト内に木霊する中、
一人、石津麟一郎だけが、その様子を冷めた目つきで
見つめているのだった…。

1365

○静弦太郎→宇都宮に到着。ブレイバーズ編入の辞令と、聖天子暗殺計画阻止の命令を受ける。
○霧島五郎→宇都宮に到着。ブレイバーズ編入の辞令と、聖天子暗殺計画阻止の命令を受ける。
○藤森典子→静弦太郎と霧島五郎に合流。ブレイバーズ編入の辞令と、聖天子暗殺計画阻止の命令を伝える。
○尾上せいあ→藤森典子を、静弦太郎と霧島五郎のいる場所まで案内する。
○源健司→静弦太郎と霧島五郎に出会う。
○竜造寺紫苑→静弦太郎と霧島五郎に出会う。
○金城美姫→静弦太郎と霧島五郎に出会う。
○結城火焔→静弦太郎と霧島五郎に出会う。
○グリンガム→静弦太郎と霧島五郎に出会う。
○ジジ→静弦太郎と霧島五郎に出会う。
○山田そら→聖天子の宇都宮到着の様子を実況生中継する。
○聖天子→宇都宮に到着する。静弦太郎に興味を覚える。
●石津麟一郎→独立幻野党と手を組み、聖天子暗殺の陰謀を進める。
●幻の月光→石津麟一郎と手を組み、聖天子暗殺の陰謀を進める。

【今回の新規登場】
○尾上せいあ一佐(勇者警察ジェイデッカー)
 陸上防衛軍東北方面大隊第9師団を率いる一等陸佐。女性ながらも軍人としての行動力と判断力に優れている。
 マクレーンとは気質が似通っている所があり、互いに気兼ねなく語り合えるかけがえのない存在として彼に惹かれる。部下の一人に実弟の真琴がいる。

○源健司(ガンパレード・オーケストラ 緑の章)
 第105山岳師団所属。日常に本能的な反抗心を持つ17歳の少年。
 好戦的かつ粗暴な不良で、正義という理念を馬鹿にしているが、彼自身本質的に正義感が強い。
 パートナーの雷電はグリンガム。

○竜造寺紫苑(ガンパレード・オーケストラ 緑の章)
 第105山岳師団所属。政府高官の息子でエリート。
 優等生で少々潔癖症な所のある性格だが、正反対のタイプの源健司とは何故か仲が良い。
 パートナーの雷電はジジ。

○金城美姫(ガンパレード・オーケストラ 緑の章)
 第105山岳師団所属。16歳。 美人な外見とは裏腹に、キツめな性格でかなりの女傑。
 頭の切れる家事技能保有者であり、兵站部門を統括する。
 雷電のクィーンがパートナーとなっている。

○結城火焔(ガンパレード・オーケストラ 緑の章)
 第105山岳師団所属。15歳。容姿は良いものを持っているが、男勝りな性格。
 その上、無謀かつ壮絶な馬鹿で、命令違反も頻繁に行っている。
 性格とは裏腹に美術品愛好家で、戦闘時も大型の青龍刀を武器にして戦う。
 相棒の雷電はコガ。

○グリンガム(ガンパレード・オーケストラ 緑の章)
 源健司の99式雷電。鵺タイプ。

○ジジ(ガンパレード・オーケストラ 緑の章)
 竜造寺紫苑の99式雷電。狐タイプ。

●石津麟一郎(少女コマンドーIZUMI)
 元国防省のエリート将校であり、現在は石津産業の社長。
 その正体は、自衛隊内部のクーデター組織「G機関」の首領である。
 元国防省副長官・竜崎率いる上部組織「R機関」からの指示の下、
 そのカリスマ性や日本を変えるための熱意を買われ、若者たちを拉致して
 バイオフィードバック兵士や強化された兵器類の開発実験などを行っていた。
 五条いづみにバイオフィードバック実験を施した張本人。

●幻の月光(アイアンキング)
 怪獣型ロボットを操るテロ組織・独立幻野党のリーダー。
 頭にターバンを巻き曲刀を持つなど、僧兵風ともアラビア風ともつかない
 無国籍調の服装を身にまとっている。不知火族と同様に日本の現体制を
 「大和政権」と呼び、その打倒を目指している。静弦太郎が戦ってきた
 敵の中で唯一、アイアンキングの正体が霧島五郎であることを見破った。

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最終更新:2020年11月26日 10:23

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