『赤心少林拳、梅花の型』-2
作者・ティアラロイド
1413
海防大学付属高校・テニスコート***
授業の時間も終わり、放課後のクラブ活動の練習風景である。
部員たちはそれぞれサーブやスマッシュの練習に打ち込んでいる。
その中で玉拾いをしている一年生部員がいる。名前は岡島雄大。
牧村光平や朝倉慎哉とは兄弟みたいに親しい仲の後輩だ。
そこへ空手部の一年生部員が血相を変えて駆けこんで来た。
雄大「お前、空手部の武井じゃないか!?
どうしたんだよそんな顔色変えて…」
武井「ゼェ…ゼェ…ゼェ……岡島ッ…!
牧村先輩はいるか…!?」
空手部の一年生部員・武井を、雄大は光平のところまで連れて行く。
ちょうど光平は、トスを背中側に上げてラケットを右上に振り向き、
ネット向こう側の慎哉に向けてスピンサーブを打ち込むところだった。
雄大「光平先輩~ッ!! 大変ですぅ~!!!」
光平「どうした雄大? 君は確か空手部の…?」
武井「ま、牧村先輩、すぐ来てください!!」
雄大「道場破りです!!」
慎哉「道場破り?」
雄大と武井の言葉に、思わず何の事かと
光平と慎哉は互いに顔を見合わせる。
江戸時代以前の昔、百歩譲っても昭和の時代ならともかく、
今時このご時世に「道場破り」だなんて
少なくとも自分の周囲では今まであまり聞いた事がない。
雄大「なにボケッとしてるんですか!
早く道場の方に来てくださいよ!」
武井「お願いしますッ!」
光平「あ、ああ…」
武井の話によると、突然学校に何の前触れもなく
大石秀人と名乗る格闘家が現れ挑戦してきたのだと言う。
すでに剣道部、柔道部、ボクシング部、相撲部までもが全滅。
残る空手部もかなり危うい状況らしい。
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同校・空手部道場***
部長「む、無念…ッ。ぐぶっ…」
大石「………」
光平たちが駆けつけて来た頃にはすでに遅く、
部長以下空手部員たちは全員、大石に倒されてしまった後だった。
他の部活の生徒たちも騒ぎを聞きつけて大勢集まって来ていて、
その中には陸上部の沢渡優香もいた。
優香「光平くん! 朝倉くん!」
光平「優香も来てたのか!」
慎哉「こりゃひでぇ。何もここまでしなくたって…」
大石に敗れた部員たちは皆、ひどい痣だらけで
ほとんどが意識も失い倒れこんでいる。
中には大怪我を負い骨折している者までいた。
光平は横たわっていた部長をそっと安静に抱き起こす。
武井「部長!」
光平「先輩、何があったんですか!?
しっかりしてください!!」
部長「ま、牧村か…。よく…来てくれた…。うっ……!!」
一方の大石は、いかにも欲求不満のつまらなそうな顔をしながら、
また部室の看板を取り上げて立ち去ろうとする。
大石「フン! では、看板は頂いて行くぞ」
光平「……待てよッ!!」
大石「……?」
部長の身を武井に預け、静かに立ち上がり大石を引きとめる光平。
その両目の瞳には怒りがこみ上げていた。
大石「なんだ君は?」
光平「こんなのは空手でも格闘技でもなんでもない!
ただの暴力じゃないか!!」
大石「甘いな。この世の中は常に弱肉強食!
弱い者はこういう末路をたどって当然なのだ!」
優香「…なんて人なの!」
大石の言葉を聞いていた優香も憤慨する気持ちを隠さない。
大石「…何だ? 何か文句があるようだな。
見たところ君はテニス部員のようだが、ハハ…
まさかそのラケットで俺を倒すつもりか?」
光平「武井、空手部の道着を貸してくれ…」
武井「えっ…!」
慎哉「待てよ光平! こんな奴の挑発に乗るな!」
優香「そうよ! 光平くんらしくないわ!」
雄大「よした方がいいですよ!!」
慎哉たちは光平を必死に止めるが、
光平の決意は変わらなかった。
光平「いいから早く!!」
武井「…は、はい!」
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武井から予備の道着を借りてテニスウェアから着替え、所定の位置についた光平は、
臨時で主審を務めることになった武井を挟んで、目の前の大石秀人と対峙する。
光平と大石は無言で立礼する。
武井「勝負始め!」
大石にめがけて上段突きを繰り出す光平。
しかし自分の拳が大石の肉体の肌に接した時、
光平は何とも云い知れぬ違和感を覚えた。
まるで人間の体ではなく、無機質な鋼鉄の壁に
拳を打ち付けたような感触だった。
大石「どうした? その程度か!」
光平「……(まるで効いてない!?)」
光平は、目の前の相手・大石秀人が
実はドグマ王国の改造人間であることなど全く知らない。
違和感の正体を掴めず困惑する光平に、
今度は大石の側が容赦なく上段蹴りを浴びせる。
大石「とりゃああッ!!!」
光平「うわああッッ!!!」
光平は道場の壁際まで吹っ飛ばされる。
その後の光平は一方的に大石の繰り出す技に
打ちのめされ続けた。もう立っているのも
やっとな状態の光平に、大石は止めの顔面殴打をお見舞いする。
光平「うっ………」
がっくりと床に崩れ落ちてしまう光平。
優香「光平くんッ!!」
雄大「光平先輩ッ!!」
もはや勝負あったかに見えたが、それでも大石は
攻撃の手を止めるどころか、ますます光平を徹底的に痛めつける。
慎哉「何やってるんだ武井! 早くやめさせろ!!」
武井「は、はいッ!! やめーッッ!!」
主審が試合終了を宣言したのにも関わらず、
尚も大石は光平をいたぶり続けた。
大石「どうしたッ! さっきまでの大きな口を叩いた態度はどこへ行った!
さあ立て! 立つんだこの腰ぬけがァッ!!」
優香「もうやめてください!!」
堪らずに飛び出した優香が光平を大石から庇う。
大石「どけッ! 邪魔だ!」
優香「いいえ退きません! もう充分だわ!
やめてください!!」
光平「優…香……」
優香に介抱される光平を、大石は鼻で笑って見下した。
大石「女の子に助けてもらうとは…情けない奴め!」
光平「なん…だと…ッ」
優香「もうやめて光平くん!!」
大石「俺はたとえ女といえども容赦はしないぞ。
お望み通り、二人まとめて地獄に叩き落としてやろう!」
光平「優香…逃げろ……逃げ…るんだッ」
優香「イヤッ!!」
大石「覚悟!!」
雄大「光平先輩!!」
慎哉「光平ッ!! 沢渡ッ!!」
大石の拳が光平と優香の二人に振り下ろそうとされたその時、
危うく寸前のところで別の拳によって防がれた。
大石「貴様はッ!?」
一也「もうそのくらいでいいだろう!」
沖一也が現れて間に入り助けに入ってくれたことで、
慎哉たちや他の観衆の生徒たちは皆、一様にホッと胸をなでおろして安堵する。
慎哉「た、助かった~!」
雄大「慎哉先輩、あの人誰なんです?」
慎哉「え~っと確か沖一也さんって言って、
ここの空手部のコーチだよ」
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大石「ここでは落ちついて話も出来ん。表へ出ろ」
一也「いいだろう!」
大石は周囲の生徒たちの目を気にし、
沖一也に一緒に外へと出るように促した。
慎哉「一也さん、大丈夫なんですか!?」
一也「大丈夫だ。後は俺に任せろ。それから救急車を呼んで、
光平君たち怪我人を病院に運んでくれ」
慎哉「わかりました」
道場の裏手に出て、二人きりになる沖一也と大石秀人。
一也「よくもあんな惨い事を! 許さん!
次は俺が相手だ!」
大石「慌てるな。今はまだお前と戦うつもりはない。
お前たち
ブレイバーズも、シグフェルの正体は
喉から手が出るほど知りたがっているはずだ」
一也「するとシグフェルの正体を突き止めるために
こんな真似を!」
そこへパトカーのサイレンの音が、
校舎の方に近づいて来るのが聞こえた。
大石「…チッ! 面倒な奴らがやって来たようだ。
沖一也、いや、仮面ライダースーパー1!
勝負はいずれまたの機会に預けるぞ!
…フハハハハハハ!!!!!」
一也「待て!!」
大石は空高くジャンプして校舎の屋上へと上がり、
そのまま引き揚げて姿を消してしまった。
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京南大学附属病院***
京南大学附属病院の病室へと収容された光平を見舞う沖一也。
ちょうど優香も、光平の病室をお見舞いと介抱のために訪れていたところだった。
優香「あ、一也さん」
一也「どうだい、光平君の様子は?」
光平「心配かけてすみません。ほらこの通り、
もう大丈夫で――痛てッ!?」
ベットの上の光平は、もうすっかり全快したとアピールしようとして、
無理に腕を振り回して一瞬激痛が走り、表情を歪めてしまう。
一也「コラコラ、無理をしちゃいけないな」
優香「もう光平くんったら、まだ無茶しちゃダメよ!」
光平「本当にもう大丈夫だったら!」
一也や優香が止めるも、ムキになった顔をして不満そうな光平。
そこへ担当医が今日の回診にやって来た。
伝通院「おや、沖さん?」
一也「伝通院先生じゃないですか」
優香「…え? 一也さん、先生とお知合いなんですか?」
一也「あ、いや…」
伝通院「まあ、ちょっとね…」
沖一也と伝通院洸。
その正体はそれぞれ仮面ライダースーパー1と超星神グランセイザーのセイザーレムルスであり、
スーパー1の方がグランセイザーより戦いを開始した時期が早いため先輩ヒーローに当たるが、
どちらも裏の顔は、共に同じブレイバーズに所属する地球の平和を守る戦士である。
無論、そんな事を一般人の光平と優香が知る由もない。
伝通院「光平君、すっかり元気になったようだね。
その調子なら明後日にも包帯が取れて退院できるだろう」
光平「ありがとうございます!」
伝通院「沖さん、ちょっと今いいですか?」
一也「ええ」
病室を出て廊下に出た一也と伝通院は、
光平の事について話し始めた。
一也「では光平君は以前にもこの病院に入院した事が?」
伝通院「ひどい火傷でしたが、驚異的な生命力で回復しました。
どうもあの少年は我々とも何かと縁があるようだ」
一也「………」
伝通院「沖さん、光平君は怪我の方こそ回復しましたが、
立て続けに大きな災難を経験しています。見た通りの強い子ですが、
きっと内面にも傷を負い心中も決して穏やかではないでしょう。
もし今後も引き続き彼に会う事があれば、精神面のケアの方をお願いします」
一也「わかりました」
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豊洲住宅街・朝倉家***
雄大「慎哉先輩! 見つけましたよ!」
慎哉「どれどれ、どこだ!?」
自宅自室のパソコンで、後輩の岡島雄大も部屋の中に連れ込んで
何やらずっと検索して調べている朝倉慎哉。
パソコンのモニター画面に映し出されているサイトのトップページには、
大きく「中国拳法・拳竜会」の文字が書かれてある。
雄大「大石秀人……中国拳法団体・拳竜会の代表で、
数年前に一度謎の失踪を遂げてますけど、最近になって
また姿を現し、門下生の数を急激に増やしつつ勢力を拡げてます。
市議会議員とか街の有力者の中にもスポンサーになっている人間が
かなりいるみたいです」
慎哉「光平の仇だ! 絶対にコイツの正体を暴いて
尻尾を掴んでやる!」
慎哉は拳竜会のホームページの誰も近づけぬ最深部に
更なるアクセスとハッキングを試みる。
拳竜会本部道場***
本部のコンピューターの異変に気付いた弟子の一人が、
すぐに大石に報告する。ちなみに大石の周りにいる弟子たちは、
皆全てドグマファイターの変身である。
弟子「先生、道場地下のメインコンピューターに
何やら不法アクセスを試みる者がいます!」
大石「なんだと!? 小癪な…。
よーしっ、直ちに逆ハッキングして発信元を割り出し、
そいつをこの場に引きずり出せ!」
弟子「ハハーッ!」
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京南大学附属病院***
伝通院洸との話を終え、光平の病室へと戻る沖一也。
一也「おや、優香ちゃんは?」
光平「もう帰りました」
一也「そうか…」
光平はベットの上に横になったまま
意を決したように一也に話を切り出す。
光平「一也さん、実はお願いがあります」
一也「どうしたんだ? 急に改まって」
光平「退院したら、俺に稽古をつけてください!」
一也「光平君、まさか君は大石に再挑戦するつもりじゃ
ないだろうな?」
光平「………」
一也「そうか…それでその話を聞かれたくなくて
優香ちゃんを無理に早く帰したな?」
図星を突かれた形の光平だが、
一也に特訓を頼む姿勢に一歩も引く様子はない。
光平「どうかお願いします! 一也さん!」
一也「光平君、大石は恐るべき暗殺拳の使い手だ。
とても君のような平凡な高校生の太刀打ちできる
相手じゃない。危険だ。あの男の事は俺に任せて、
あとはもう忘れるんだ」
光平「俺にはどうしても負けられない理由があるんです!」
一也「なぜだ? なぜそうまで勝ちにこだわる?」
光平「それは……」
光平は思い出していた。シグフェルに変身した自分が
東条寺理乃の化身スネイザに一方的に痛めつけられ、
その時一緒にいた優香の身を危険に晒した事を…。
そしてネロス帝国の戦闘ロボットに偶然襲われた時も、
幸い軽傷だったものの、優香は怪我を負った…。
そして今回の大石秀人との件…。
自分の大切な人を守るためには、
どうしても自分自身が強くなければならなかった。
光平「お願いします! 一也さん!!」
一也「わかった。考えておこう…」
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○沖一也→重傷を負わされた牧村光平を救い、大石秀人を追い払う。
○伝通院洸→牧村光平の事について沖一也と話す。
●大石秀人→海防大学付属高校空手部に道場破りに現れ、牧村光平に重傷を負わせる。
○牧村光平→大石秀人に敗れ大怪我を負い、京南大学附属病院に入院。
○朝倉慎哉→拳竜会のメインコンピューターにハッキングを試みる。
○沢渡優香→京南大学附属病院に入院した牧村光平をお見舞いにする。
○岡島雄大→拳竜会のメインコンピューターにハッキングを試みる。
【今回の新規登場】
○岡島雄大(闘争の系統オリジナル)
海防大学付属高校・情報処理技術科コースに通う高校1年生。16歳。牧村光平たちの一年後輩。
クラブ活動は光平や慎哉と同じくテニス部だが、一方でオカルトや都市伝説に興味があり、
民俗研究会にも掛け持ちで所属している。ネット上ではハンドルネーム「YOU」を名乗り、
その世界ではかなり知られているオカルトサイトを運営しており、そのサイトを通じて
(リアルでの直接の面識こそ無いものの)日向冬樹や佐天涙子、清十字怪奇探偵団の清継と
連絡を取り合っている。ちなみにサイソニック学園の卒業生であり、響リョウ、チャック・スェーガー、アニス・ファームの3人は小学校時代の恩師に当たる。
最終更新:2020年11月26日 10:32