『赤心少林拳、梅花の型』-3
作者・ティアラロイド
1421
秩父山中***
三日後、無事に退院した牧村光平は沖一也に案内されて、
秩父山中にある赤心少林拳の総本山、赤心寺へと向かった。
麓まで草波ハルミの運転する車に同乗させてもらい、
途中からは車を降りて徒歩での山道である。
光平「どうもすみません。俺なんかのために
わざわざ案内してもらって…」
ハルミ「いいのよ、気にしないで♪」
一也「この先が赤心寺だ。早く着かないと日が暮れるぞ! 急ごう」
ハルミ「それにしても知らなかったわ。
一也さんがこんなカッコいい高校生の男の子と
知り合いだったなんて」
その時、3人の先頭を歩いていた一也の足が突然立ち止った。
光平「一也さん…?」
ハルミ「どうしたの?」
一也「………」
一也だけは気づいていた。自分たちを密かに取り囲みながら、
先程からずっと尾行・監視している者の気配に…。
一也「……(前方、右に二人…左にも二人…。
そして背後にも二人…いや、三人か……。
いったい何者だ?)」
最初は大石秀人の配下が自分たちを見張っているのかとも思ったが、
この気配はドグマ王国の者とも、また別のGショッカー組織とも明らかに違う。
ハッキリと隙のない敵意は感じるが、殺気は全くない。
一也「……(この感じは拳法の使い手とは違う。
忍びの術を心得た者たちか…!?)」
ハルミ「ねえ一也さんったら、いったいどうしたのよ!
突然立ち止って黙り込んじゃって!」
一也「…いや、すまない。少し考え事をしていた。
さあ、行こう!」
森林に身を隠す正体不明の監視者たちは、
特にこちらに襲いかかってくる様子もなかったため、
とりあえず一也はそれらを無視して、
ハルミと光平を連れて赤心寺へと急ぐことにした。
1422
秩父山・赤心寺***
多くの拳法家を志す若き修行僧たちが日夜その腕を磨いている、
流派・赤心少林拳の大修練場、禅宗・赤心寺である。
弁慶「おおーっ、一也か! よく来たな!!」
一也「弁慶か! 元気そうじゃないか!!」
弁慶「水臭いぞ。たまには顔を出せ」
一也「アハハハハ!!」
寺の境内に到着するや否や、出迎えた巨漢の僧が一也と再会を喜び合う。
彼の名は弁慶。この寺の住職である玄海老師の一番弟子であり、
老師の不在時には寺の留守居の役目も担っている。
ハルミ「弁慶さん、ご無沙汰しております」
弁慶「ハルミさんもお元気そうで。
それで一也、その少年は?」
光平「はじめまして、牧村光平といいます。
よろしくお願いします」
一也「弁慶、老師は今ご在宅か?」
弁慶「昨日旅路から戻られたばかりだ。案内しよう」
本堂へと通される一也、ハルミ、そして光平。
そこで光平は、寺の住職である老僧と出会った。
玄海「一也か。久しぶりじゃな。達者そうでなによりじゃ」
一也「老師、ご無沙汰しております」
一也は敬愛する師に深く一礼する。
一也「光平君、紹介しよう。こちらは玄海老師。
赤心少林拳の最高師範にして、俺の拳法の師でもある」
光平「……(この人が玄海老師)」
赤心少林拳の頂点に立つ高僧を、初めて間近に見る光平。
こうして側にいるだけで、目に見えないオーラのような物が
体中にひしひしと伝わってくるのが解る…。
玄海「昨日一也からの手紙を読んで、大方の事情は知っておる。
光平君とやら、君は拳法の腕を磨き、今よりも強くなりたいとのことじゃが…」
光平「はい! 是非ともお願いします!」
玄海「よいか、拳法に限らず武道の道は、敵よりもまず己に克つ事。
精神の修養こそが大事じゃ。まずは座禅から始めなさい」
光平「座禅…ですか?」
てっきり何か新しい技でも伝授してもらえると思い込んでいた光平は、
玄海からの意外な言葉に呆気にとられる。
玄海「不満かな?」
光平「い、いえ…そんなわけじゃ」
玄海「では、光平君を部屋まで案内してあげなさい」
弟子「ハハッ。さあ、こちらへ」
光平「は、はい…」
1423
控えていた弟子の一人に案内され、光平は修行着に着替えさせられて
座禅をするための部屋へと連れていかれて行った。
そして本堂の部屋には、玄海、弁慶、一也、ハルミの四人だけが残る。
一也「それで、老師は今までどちらに」
玄海「うむ。少し吉野の方に足を伸ばしておった」
一也「吉野?」
平安時代の昔、当時の京の都には魔化魍と呼ばれる魑魅魍魎が跳梁跋扈し、
都の人々はその恐怖に怯え眠れぬ日々を過ごしていた。
事態を憂慮した当時の朝廷が、希代の陰陽師・安倍晴明をはじめとする
手錬の術法者たちを集め、魔化魍を駆逐するよう対策を命令したのが、
鬼の一門、猛士(たけし)の始まりである。
現在その総本部は奈良県吉野郡にあり、表向きは
オリエンテーリングのNPOとして活動している。
近年ではその鬼の中から何人もの仮面ライダーを輩出して
活躍している事も記憶に新しいところだ。
玄海「幾多の魑魅魍魎や物の怪の事情にも通じる彼らであれば、
例のイーバなる正体不明の魔物どもの正体についても
何か掴めるかもと思ってな。まあ、結果は徒労に終わったが。
ハハハハ…」
ハルミ「でもニュースで聞いたけれど、そのイーバって
黄泉がえりで生き返った人たちを襲ってるんでしょ。
和尚様まで襲われたりしないかしら…」
一也「老師、俺もハルミと同意見です。
迂闊に出歩かれて、もし老師の御身に
万一の事があっては!」
玄海「心配してくれるのは嬉しいがな…」
一也「現にここに来る途中も、何者かが寺の周囲を
監視しながら様子を伺っているようでした」
ハルミ「ええーっ!? それってどういうこと?」
一也「ハルミ、実はな…」
ここで一也は初めてハルミに、光平を含めた3人でここまで来る途中、
正体不明の何者かがこちらをずっと監視していた事を打ち明ける。
話を聞いてゾッと背筋が凍るハルミ。
ハルミ「そんなことがあっただなんて…」
一也「老師、いったい奴等は何者なんでしょう?」
玄海「
ブレイバーズのヒーローたちが、やがて権力を握る野望を抱くに至る…。
そんな余計な心配をする御仁が、どうも政府の中におるようじゃ」
ハルミ「でも今の剣総理大臣って、ブレイバーズの味方なんでしょう?」
玄海「これは残念なことじゃが、日本政府も必ずしも一枚岩とは言い難い。
特に聖天子様お側近くにお仕えの補佐官、天童菊之丞殿などは、
ブレイバーズに対して強い不信の念を抱いておられるようじゃ」
一也「天童菊之丞といえば、影の総理との噂も名高い大物」
これで一也にもいろいろ合点がいった。
赤心寺までの山道で自分たちを見張っていたのは、
ほぼ間違いなく天童配下の忍者だったのだろう。
ハルミ「そんな偉い人に睨まれてるだなんて…一也さん大丈夫?」
話を聞いたハルミは心配そうに一也の顔を見つめる。
一也「なあに、俺の事なら心配ない」
弁慶「すでにこの寺の周囲も天童の鼠どもが
常に目を光らせている」
玄海「奈良までの道中でも天童の忍びにずっとつけられたわ。
おそらくその監視の目は、谷さんたちや
ジュニアライダー隊にも例外なく向けられておろう。
天童が直ちに彼らに危害を加えたりするような事は
あるまいと思うが、念のため心に留めて
用心するように伝えておいてはくれぬか」
一也「わかりました。おやっさんやチョロたちには
必ず伝えておきます」
1424
○沖一也→牧村光平を赤心寺に連れて行く。
○草波ハルミ→沖一也と牧村光平を車に乗せて、赤心寺近くまで連れて行く。
○弁慶→赤心寺を訪れた沖一也たちを出迎え、一也と久々の再会を喜び合う。
○玄海老師→奈良から赤心寺に帰還。牧村光平に座禅を組む事を命じる。
○牧村光平→大石秀人に勝つための特訓を受けるべく、沖一也と共に赤心寺を訪問。
【今回の新規登場】
○弁慶(仮面ライダースーパー1)
玄海老師の一番弟子を務める巨漢であり。沖一也の兄弟子。
一也を弟のように思っているが、拳法家として心を鬼にして、彼を厳しく鍛える。
ドグマ王国との最終決戦で、ドグマ親衛隊が放った矢から一也を守るべく盾となり絶命。
最終更新:2020年11月26日 10:33