『少年少女たちの恋』-前編
作者・ホウタイ怪人
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Gショッカーの人類洗脳奴隷化計画を粉砕してから、
一週間が過ぎた…。
相模原市・日の出町 海岸沿いのバス路線の車中***
瑠璃「………」
快晴の天気となったその日、宮坂瑠璃は一人
地方交通の路線バスの客席に座っていた。
きらりの声「瑠璃、どうしても行くの?」
瑠璃「きらり…?」
彼女の脳裏に、自分の身体の中に眠るもう一人の分身――
――西条きらりの声が響く。
瑠璃「止めても無駄よ。だって…このままじゃ
このはさんが可哀想だもん」
瑠璃の表情には、何かハッキリとした
硬い決意のようなものが窺える。
なぜ彼女がバスに乗ってわざわざ
東京から遠くここまで出掛けて来たかというと、
その経緯は二日前まで遡る…。
◇ ◇ ◇
その日、金桃寺には各地から届けられた救援物資が所狭しと積まれていた。
現在もGショッカー等の地球外侵略勢力による空襲やテロが散発的に続いているため、
郊外の適した位置にある金桃寺は、物資の集積所や緊急の避難所として
今も時折こうして利用されていたのである。
このは「手伝ってもらってごめんね瑠璃ちゃん」
瑠璃「いいえ、気にしないでください。
今日はどうせ暇でしたし」
運ばれて来た物資の運搬や炊き出し等で、
金桃寺を手伝いに訪れていた中3の宮坂瑠璃。
高2である舞原このはとは二つほど歳が離れているが、
この二人が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
瑠璃「――そうなんですか。桃矢さんも煌さんも
じきにエターナリアに帰っちゃうんですね。
もう少し地球でゆっくりしていけばいいのに…」
このは「エターナリアの戦線の行方もまだどうなるかわからないし、
そうもいかないみたいなのよ」
瑠璃「勿論このはさんも桃矢さん達と一緒に行くんですよね?」
瑠璃が何気に疑いなくこの問いを投げかけた時、
このはの表情が一瞬曇った。
このは「………」
瑠璃「このはさん…?」
このは「――あっ、ごめんなさい。なんでもないわ」
1573
一馬「アイツと出会ったのは戦場での事だった」
このはの父・一馬は、自身の亡き妻――すなわちこのはの母親について
語り始めた。地球連邦軍の特殊部隊員として戦地で活動していた
若き日の一馬は、従軍看護婦として負傷兵士の治療に当たっていた
若い女性と次第に魅かれあうようになり、やがて結ばれたのだという。
グレイファス「その女性がこのはの母親…」
ビークウッド「その方は確かに日本人だったのですか?」
一馬「さあな…。何しろ混乱した戦地ての事だ。
身分や氏素性なんてものは、やりようによっては
どうとでもならあな」
ビークウッド「もしこのはの母親が、アースサイドへと逃れて来た
エターナリアの人間だったのだとしたら、戦士アイレシオの魂を
宿していた事も説明がつきます」
一馬「…で、どうするんだお前さんたちは?
このはも桃矢や煌と一緒にエターナリアに
連れて行くのかい?」
グレイファス「それは……」
答えに詰まるグレイファスたち。
その夜、彼らは神城桃矢も交えて
今後について相談した。
桃矢「このはは置いて行く!」
桃矢は即座にこう断言した。
ガリエル「いいのか大将?」
桃矢「俺はこのはに戦場で殺し合いなんかさせたくねえ。
あいつはそんなのには向かない」
◇ ◇ ◇
舞原このはは金桃寺に置いて行かれる。
翌日にそれを知った瑠璃は、お節介とは百も承知ながらも
桃矢に会いに行き猛抗議。
瑠璃「本当にそれでいいんですか桃矢さん!
このはさんはずっと一人で寂しかったんですよ!」
桃矢「余計な御世話だ! ほっといてくれ!」
このは「もういいのよ、瑠璃ちゃん。
私が一緒に行っても足手まといになる
だけだもの…」
瑠璃「このはさん…」
かえって桃矢の逆鱗に触れてしまい、
仕方なくその日は帰ることにした瑠璃を、
寺の山門でビークウッドが呼びとめる。
瑠璃「ビークウッドさん…」
ビークウッド「瑠璃、貴女はどうしてそこまで
桃矢とこのはの事を気にかけるのですか?」
瑠璃「私…知ってるんです。桃矢さんが帰るまでの間、
このはさんがどれだけ孤独で辛かったかを…」
瑠璃は戦士への変身能力に目覚める際に、
ガルキーバ、ライディーン、セイクリッドの三つの力の作用で
一時的にこのはの意識とシンクロしていた。
その時に桃矢と離れ離れだった頃のこのはの
記憶と感情がどっと瑠璃の心の中にも流れ込んで来た。
ゴッドライディーンの体内に長い間囚われて、
鷲崎飛翔と離れ離れだった瑠璃にも、
その気持ちは痛いほど解るのだ。
ビークウッド「貴女の気持ちはよく解りました。
ですがこれは桃矢とこのはが自身で結論を出す問題です。
ここは我々は二人を静かに見守るべきではないでしょうか」
瑠璃「そうですね……」
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天使更生組合の事務所に顔を出した瑠璃は、
飛翔にもベランダで二人きりでこの件を相談してみた。
飛翔「俺も桃矢さんの気持ちがわかるな。
好きな女の子を危険な目に遭わせずに済むなら
その方がいいよ」
瑠璃「じゃあ飛翔は、ライディーンセイラに変身できるようになった
私の事はどう思ってるわけ?」
飛翔「それはもちろん、戦場には出ないでほしいよ。
昔から危険な仕事は男の役目って決まってるからな。
女の子は家庭で男の帰りを待っているのが普通じゃないかな」
瑠璃「飛翔って意外に保守的な考えだったのね。ももいいわ…」
瑠璃は飛翔の話を聞いて表情が不機嫌そうになり、
ベランダから建物の中へと戻ってしまう。
飛翔「おい瑠璃!? なにいきなり拗ねてるんだよ」
瑠璃「飛翔も桃矢さんも女の子の気持ちが全然解ってない!!」
たとえ危険な地であろうとも、女の子は好きな男の子と
どこまでも一緒に居たいものなのだ。
それをちっとも理解しようとしない桃矢や飛翔に
瑠璃はいら立ちを募らせる。
ちょうどリビングで寛いでいた鷹城電光と大鳥疾風を見つけた瑠璃は、
ついでにと彼らにもこの件をぶつけてみる。
疾風「ふ~ん。女心って複雑なんだねえ…」
電光「確か神城桃矢の他にもエターナリアの戦士には
金剛煌というのもおったやろ。そいつにも聞いてみたら
どないや?」
瑠璃「それが煌くんはここ数日、何か用事があるらしくて
ずっとどこかに出かけてるみたいなのよ」
この日は結局、結論は出なかった…。
◇ ◇ ◇
こうして瑠璃は、最後に行き着いた相談先として、
ある場所へと路線バスに乗って向かっているのであった。
きらりの声「これは桃矢さんとこのはさんの問題よ。
私たちが口を挟む事ではないな」
瑠璃「それはわかってるけど、ほっとけないのよ!」
脳裏に響くきらりの声と議論する瑠璃。
しかしその様子は他者から見れば、
先程から意味不明な独り言を延々と口にしている
イタい女の子にしか見えないのであったww。
乗客の男の子「ねえママ、あのおねえちゃん
さっきから何て言ってるの?」
乗客の母親「しーっ!! 見ちゃいけません!」
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瑠璃「着いたわよ…」
停車したバスから降りた瑠璃の目の前に建っていたのは、
壮大な面積の豪邸とその敷地であった。
藍羽邸・応接間***
ユミコ「こちらにてしばらくお待ちください」
応接間へと通された瑠璃は、棚に飾られてある
鬼瓦が少し気になった。
鬼瓦「………」
瑠璃「随分と変わった鬼瓦ね…」
何でこんな物がこんなところに飾ってあるんだろうと気にはなった瑠璃だったが、
すぐに忘れて席について待つ。やがて瑠璃と同じ名前の読みの、
この屋敷の主人である少女が懐刀の執事長を連れて現れた。
ルリ「お待たせしました」
藍羽ルリ――巨大財閥である藍羽財団のCEOにして、
人間に危害を成す悪石(アシ)と戦うセイクリッド・テイマーの支援者。
そして
ブレイバーズの有力スポンサーの一人でもある。
瑠璃「こちらこそ急にお邸に押しかけて来て申し訳ありません」
ルリ「それで、お話というのは?」
瑠璃はルリに全ての経緯(いきさつ)を説明した。
ルリ「なるほど、事情はわかりました。
これは難しい問題ですね」
瑠璃「私、桃矢さんの気持ちもわかるんです。
確かに大事な人を危険な戦地へは連れて行けないのかもしれない…。
でも桃矢さんにはこのはさんの寂しい気持ちも
わかってあげて欲しいんです」
ルリ「確かに…」
瑠璃「あの…藍羽さんは丹童子アルマさんの事が
好きなんですよね?」
ルリ「えっ…!?(///)」
鏡「なっ…!!」
瑠璃からの思わぬ言葉に、ルリと鏡は赤面して絶句。
ルリ「わ、私とアルマさんは別にそういった関係では…」
???「ワハハハ!!! 随分とハッキリ物を言う娘だオニ」
瑠璃「誰っ!?」
???「ここだオニ」
よく見ると、その謎の声は部屋に飾られている鬼瓦から
聞こえているものだった。
瑠璃「鬼瓦が喋った!?」
鬼瓦「おい娘、気に入ったオニ。
ここは一つわしが知恵を貸してやるオニ」
藍羽家に居候する悪石(アシ)・鬼瓦は、
前回の戦いでは悪石絡みではなかったため、
出番がないと暇を持て余していた。
果たして宮坂瑠璃に手を貸そうという鬼瓦は
何を企てようとしているのか。
そして神城桃矢と舞原このはの二人の思いは
どこへ行く…?
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○神城桃矢→舞原このはを金桃寺に置いて行くと言う。
○グレイファス→戦士に目覚めた舞原このはの今後の処遇について話し合う。
○ビークウッド→戦士に目覚めた舞原このはの今後の処遇について話し合う。
○ガリエル→戦士に目覚めた舞原このはの今後の処遇について話し合う。
○舞原一馬→亡きこのはの母親について語る。
○舞原このは→前回の戦い以来、宮坂瑠璃と親しくなる。神城桃矢の言に従い、金桃寺に残ると言う。
○宮坂瑠璃→前回の戦い以来、舞原このはと親しくなる。金桃寺に残されそうなこのはを気遣う。
○西条きらり→宮坂瑠璃に慎重であるべきと苦言を呈する。
○鷲崎飛翔→宮坂瑠璃から、神城桃矢と舞原このはの件について相談される。
○鷹城電光→宮坂瑠璃から、神城桃矢と舞原このはの件について相談される。
○大鳥疾風→宮坂瑠璃から、神城桃矢と舞原このはの件について相談される。
○藍羽ルリ→宮坂瑠璃から、神城桃矢と舞原このはの件について相談される。
○鏡誠→宮坂瑠璃の待つ応接間に、主人である藍羽ルリと同席。
○ユミコ→藍羽邸を訪れた宮坂瑠璃を応接間へと通す。
○鬼瓦→ハッキリ物を言う宮坂瑠璃を気に入り、彼女に協力を申し出る。
【今回の新規登場】
○鬼瓦(セイクリッドセブン)
かつて藍羽ルリに助けられた経緯から、今はルリに協力している悪石(アシ)。
悪石を感知する能力から、レーダー的な役割を担う。自称「鎌倉大仏殿の鬼瓦」とのことだが、
真偽の程は定かではない。オヤジギャグとシモネタが大好き。自称800歳
最終更新:2020年12月03日 08:13