『天凰輝シグフェル、最初の事件』-1
作者・ホウタイ怪人
1764
――夜。
メガロシティ・テームブロック***
ここはメガロシティの中でも最もファッショナブルな繁華街である。
多くの若者たちが通りを行き交う中、
一人の若い女性が、ショーケースの向こう側と睨めっこしている。
女性「これが今年最先端の水着かぁ…。それにしても高い!
この値段じゃちょっと考えるわねぇ~」
お財布の中身と相談した結果、泣く泣く買うのを諦めた女性は、
店から離れて人通りの少ない裏道へと入っていく。
女性「……?」
その時、通りの奥の暗闇から何が赤く光ったような気がした。
女性「変だなあ…。何か光ったような気がしたけど。
ま、いっか!」
しかし、それは決して気のせいなどではなかったのである!
妖魔獣バランダ「グオオオッッッ…!!!!!」
女性「ええっ!? キャアアッ――!!」
――翌朝。
メガロシティ住宅街・岡島家***
山本アナウンサー@テレビ「これでテームブロックで起きた女性失踪事件は7件になります。
事態を重く見た警視庁では、メガロシティ署に特捜本部の設置を決定しました」
雄大「………」
朝食を取りながら、朝のニュースを興味深く見つめている岡島雄大。
雄大の母「雄大、早く行かないとそろそろ学校に遅れるわよ」
雄大「あっ、いけね!」
雄大は慌てて食べかけのトーストを口にしたまま、
カバンを持って玄関から飛び出した。
雄大「行ってきま~す!」
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一方、その頃…。
日本海溝・ブレイバーベース***
シグフェル「ズバッと参上、ズバット解決――」
グレートサイヤマン「それは怪傑ズバットの決め台詞だ!」
シグフェル「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が――」
グレートサイヤマン「それは仮面ライダーストロンガー!」
シグフェル「月に代わっておしおき――」
グレートサイヤマン「違う違う! それはセーラームーンの名乗り口上だろ!」
シグフェル「す、すみません……」
グレートサイヤマン「さっきから聞いていれば他人のパクリばかり。
ダメじゃないかシグフェル! もう君も一人前のヒーローなんだ。
名乗りの際の決めポーズはきちっと決めておいてもらわないと!
特別に僕が見本を見せてあげよう!
――私は正義を愛する者、グレートサイヤマンだ!!!」
シグフェル「………(汗」
シグフェルの目の前で、派手で大胆なポーズを取って見せるグレートサイヤマン。
海野「何やってるんだ? あの二人は…」
小野「何でも決めポーズの練習なんですって…」
呆れて様子を見ている、レッドマフラーの海野隊員と小野隊員。
そこへ佐原千恵が何かを伝えにやって来た。
千恵「光平君、そろそろ学校の時間じゃないの?」
シグフェル「ヤバッ!? 俺、そろそろ学校に行かないと
遅刻しちゃうんで、この辺で失礼します」
グレートサイヤマン「うむ。この次はとっておきの新ポーズを伝授してあげよう!」
シグフェル「ははは…(汗」
シグフェルの姿のままブレイバーベースから飛び立ったシグフェルは、
学校の近くまで来たところで周囲に誰もいないのを確認して、こっそりと変身を解除。
牧村光平の姿に戻り、校門前で待っていた朝倉慎哉や沢渡優香と合流した。
慎哉「随分と遅かったじゃないか?」
光平「ごめんごめん!」
優香「光平くん、チャックさんと美姫さんから、学校が終わったら
警察署の方に寄ってほしいって」
光平「チャックさんと美姫さんが…?」
――そして、学校の放課後。
光平たちは言われた通り、帰りにメガロシティ署へと立ち寄った。
メガロシティ警察署・刑事課***
チャック「よっ、お前ら! わざわざ来てもらってすまなかったな」
光平「どうしたんですか?」
美姫「あなた達も、ここ最近メガロシティ署管内で
連続して発生している女性失踪事件については知ってるわね?」
優香「ええ…」
慎哉「そりゃ俺たちだってニュースは見てますから。
それがどうかしたんですか?」
美姫「…あなたたち、何か思い出さない?」
光平「――!!」
美姫の言葉で、光平たちはハッとなる。
かつてメガロシティ近辺では同じような事件が起こった事があった。
その犯人は東条寺理乃。光平に人体実験をしてシグフェルにした張本人と思われる女だ。
理乃は、他にも同様に多数の女性たちを拉致して実験のモルモットとして利用し、
無残にも殺害していた事が判明している。
光平「もしかして東条寺がこの街に戻ってきたんじゃ!?」
チャック「それについては、まだ何とも言えん」
美姫「だけど一応警戒は促しておこうと思ってね」
光平「俺も今夜からパトロールに加わってみます!」
優香「光平くん…」
美姫「光平、今のあなたは一人ではないわ。私たちがついている。
だから決して一人で先走ったりしてはダメよ」
光平「わかってますよ♪ 心配しないでください」
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――再び、夜。
メガロシティ・テームブロック***
繁華街の中をそれとなく警戒しながら歩く光平。
光平「……(特にどこも異常はないみたいだけどな)」
その光平をこっそりと尾行する人間がいた。
光平たちの後輩である岡島雄大だ。
雄大は光平の日頃の挙動不審から、
「実はシグフェルの正体は光平ではないか?」と
勘づき始めていたのだ。
雄大「やっぱり今日も光平先輩は同じところに出かけてる…。
そういえば最近マスコミでシグフェルの話題が急に流れなくなったけど、
ますます怪しい。今日こそシグフェルの正体を暴いてやるぞ!」
気付かれないようにこっそりと光平の後をつける雄大だったが、
同じく付近を巡回中だったチャック・スェーガーに捕まり職務質問を受ける羽目に…。
チャック「コラッ! 小学生がこんな夜遅い時間に
こんなところで何してる!?」
雄大「失敬なッ! こう見えても僕は立派な高校生ですよ!
……ってアレ? もしかしてチャック先生??」
チャック「……??」
雄大「お忘れですか!? サイソニック学園の初等部にいた
岡島雄大ですよ!」
チャック「ええっ!? お前、まさかあの泣き虫っ子の雄大か!?」
記憶を辿り、ようやく思い出したチャック。
実は雄大はサイソニック学園の卒業生であり、
教師時代のチャックの教え子だったのだ。
雄大「いやあ懐かしいなあ…」
チャック「あのちびっ子雄大がこんなに大きくなってたとはなあ」
雄大「では僕はこの辺で…」
チャック「ちょっと待て! たとえ高校生だとしても
未成年者には変わりがないぞ! 夜遊びを見過ごすわけにはいかん!
このまま家に送り届けて親御さんにしっかり叱ってもらうからな!」
雄大「だから夜遊びじゃないんですったら!
放してくださいよォ~!!」
雄大はチャックに無理やりパトカーに乗せられ、自宅に強制送還されてしまったのだったww。
その様子をこっそり遠くから見ていた光平、慎哉、優香の三人。
光平「参ったな。まさか雄大まで俺の正体に気づき始めていたなんて…」
慎哉「アイツ妙なところで勘が鋭いからなあ…」
優香「このまま秘密にしているのも、好奇心旺盛な岡島くんには
かえって危険なんじゃないかしら。いっそのことシグフェルの正体を
打ち明けて事情をしっかり説明した方がいいのかもしれないわ」
光平「そいつは剣持隊長たちとも相談だな。
とりあえず明日も続けて周辺をパトロールしてみるよ」
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――さらに翌日。
翌朝のことである。学校への登校途中だった光平たち三人は、
通学路で黒髪のロングヘアの若い女性が
数人のチンピラに絡まれている現場に遭遇した。
朱音「いやあ! 何をするの!!」
チンピラA「このアマッ!!」
チンピラB「騒ぐなよ。これから俺たちと楽しい事しようぜ。ヒヒヒヒ…」
朱音「誰か助けてえ!!」
優香「大変ッ!?」
慎哉「すぐに助けなきゃ!!」
光平はチンピラ一人の腕をぐいっと掴む。
チンピラA「痛タッッッッ!!!」
光平「よせよ! その人は嫌がってるじゃないか!」
チンピラB「なんだこのガキッ! すっ込んでろ!!」
チンピラC「やっちまえ!」
逆上したチンピラたちは一斉に光平めがけて襲いかかってくるが、
光平はいとも簡単に余裕で全員を返り討ちにする。
チンピラA「…ち、ちきしょう! 覚えてやがれッ!!」
チンピラたちは皆一目散に逃げ出して行った。
光平たちは倒れていた女性を介抱する。
朱音「………」
光平「しっかりしてください! 大丈夫ですか!」
優香「気を失っているわ」
慎哉「もう学校まですぐそこだ。医務室まで運ぼう!」
気絶しているその女性を学校の医務室まで運ぶ光平たち。
ベットの上で女性はようやく目を覚ました。
朱音「ここは……」
光平「気がつきましたか?」
朱音「あなたたちが助けてくれたのね? どうもありがとう。
なんとお礼を言ったらいいのか…」
光平「いいですよお礼なんて。困った時はお互い様です。
気にしないでください」
優香「いったいどうしてあんな目に遭っていたんですか?」
朱音「道を歩いていたら、突然チンピラたちに因縁をつけられて…」
慎哉「ひどい奴等もいたもんだな。まったく…!」
光平「あの連中ももうこれに懲りてちょっかいを出してくる事は
ないと思いますよ」
朱音「だといいのだけれど…」
その時、学校の始業時間を告げるチャイムが鳴った。
慎哉「まずい!」
優香「早く教室に行かないと!」
朱音「あなたたちここの学校の生徒なんでしょう?
私の事なら大丈夫だから、早く教室に行きなさい」
光平「すみません。校医の先生に話は通してありますから、
落ち着くまでゆっくりして行ってください」
朱音「ありがとう」
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慌てて教室に滑り込み、遅刻を免れた光平たちだったが、
何やら教室が騒がしい…。
慎哉「どうしたんだいったい?」
男子生徒A「なんだよ朝倉に牧村、知らないのか?
今日新しい担任の先生が来るんだってさ」
男子生徒B「なんでも凄い美人らしいぜ♪」
光平「ふ~ん…」
そして暫くして現れたのは、先程のチンピラから助け出した女性が、
教壇に立つ姿だった。驚く光平たち。
光平「ええっ!?」
慎哉「どうなってんだいったい!?」
朱音「本日から産休に入った鈴木先生に代わって、
このクラスを担任として受け持つ事になりました千坂朱音です。
担当科目は英語科になります。みなさんよろしくお願いしますね♪」
千坂朱音は、同時に光平と慎哉の所属する男子テニス部の顧問も
担当する事になった。朱音はその美しい容姿もさることながら、
生徒たちにも分け隔てなく親しげに接し、あっという間に
校内ナンバーワンの人気教師となった。
朱音「英語で一番大切なのはメッセージを伝える事です。例えば"猫の手も借りたい"を
"I want to borrow Cat's hand"と直訳する人がいますけど、これは当然間違い!
要は"忙しい"という"I'm busy"という意味が伝わっていないといけないわ♪」
生徒たち(特に男子)の中には、いつも明るい授業をしてくれる
彼女に対して親しみも込めて「朱音ちゃん」と呼ぶ者も次第に増えて来た。
当の朱音本人は「せめて授業中は先生と呼ぶように」と注意しつつも、
本音では「朱音ちゃん」と呼ばれる事に満更でもないらしい。
光平たちも、そんな朱音に完全に信頼を寄せるようになるのに
そう時間はかからなかったのである。
慎哉「さすが朱音ちゃんだよな。昔この学校にいた東条寺理乃とはエライ違いだ♪」
優香「東条寺先生なんかと比べたら朱音先生に失礼よ!」
慎哉「そりゃそうだ。あははは!!!」
光平「朱音ちゃんの英語の授業は本当に分かり易くていいよ。
こんな楽しい授業もあるんだなって初めて知った」
だが、この千坂朱音には、実は光平たちも知らない
裏の顔が隠されていたのである…。
◇ ◇ ◇
その日、学校の授業を全て終えて
自宅のマンションの部屋へと帰宅した千坂朱音。
朱音「……?」
玄関ドアの間に、忍びの合図に用いられる鷹の羽根が挟まっているのを確認した朱音は、
それを抜き取ると部屋の中へと入る。そこでは彼女の上役と思しき
黒サングラスにロングコート姿の男が待っていた。
文蔵「首尾は…?」
朱音「上々です」
文蔵「して、近づいた手口は?」
朱音「街のゴロツキを金で雇い、私を襲わせました」
文蔵「他愛もない手だが、連中にはそれが一番効く…!」
朱音「はい…」
ロングコートの男の名は「世羅 文蔵」という。
天童菊之丞に仕える隠密衆の組頭であり、云わば朱音の本当の上司だ。
朱音が光平たちの通学路途中でチンピラに襲われていたのは、
全ては光平に近づくために仕組んだ芝居だったのだ。
文蔵「それで、その後の
ブレイバーズの動きは?」
朱音「メガロシティで起こっている連続女性失踪事件の捜査に
何やら肩入れし始めた様子にございます」
文蔵「よいか朱音、ブレイバーズは言わば休火山。
世間の連中から"正義の味方"だの"世直し大明神"だのと
持て囃される奴らが、いつ噴火して日本の国家体制を揺るがすか、
それは誰にもわからん。特にあの牧村光平という少年は、
その出自に曰くがある存在。片時たりとも気を許すな」
朱音「必ずやご期待に添うと、天童閣下にお伝えくださいまし」
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○山本アナウンサー →メガロシティ署管内で発生している連続女性失踪事件について報道。
○グレートサイヤマン→シグフェルに決め台詞&ポーズの特訓をする。
○海野隊員→シグフェルとグレートサイヤマンの決めポーズの練習を見て呆れる。
○小野隊員→シグフェルとグレートサイヤマンの決めポーズの練習を見て呆れる。
○佐原千恵→グレートサイヤマンと決めポーズの練習中のシグフェルに、そろそろ学校に登校するように促す。
○チャック・スェーガー →メガロシティ署管内で発生している連続女性失踪事件について、牧村光平たちに警戒を促す。
その後、夜に巡回中に教師時代の教え子だった岡島雄大と再会する。
○桂美姫→メガロシティ署管内で発生している連続女性失踪事件について、牧村光平たちに警戒を促す。
●妖魔獣バランダ→メガロシティのテームブロックで、若い女性を襲っている。
○牧村光平/天凰輝シグフェル→グレートサイヤマンと決め台詞&ポーズの特訓をする。
その後、夜になってからメガロシティのテームブロック繁華街をパトロールする。
○朝倉慎哉→メガロシティ署管内で発生している連続女性失踪事件について、桂美姫たちから警戒を促される。
○沢渡優香→メガロシティ署管内で発生している連続女性失踪事件について、桂美姫たちから警戒を促される。
○岡島雄大→シグフェルの正体が牧村光平ではないかと怪しみ始める。光平を尾行中、小学生時代の恩師だったチャック・スェーガーと偶然再会する。
△千坂朱音→海防大学付属高校2年A組に新任の担任教師として赴任。
△世羅文蔵→千坂朱音から報告を受ける。
【今回の新規登場】
●妖魔獣バランダ(超音戦士ボーグマン)
妖魔の犯罪組織GILの三神官の一人ケルベルス配下の妖魔獣。
外見は巨大なバッファローのような姿で、舌を伸ばして獲物を捕らえる。
人間から生体エネルギーを吸収してマネキンに変えてしまう。
△世羅文蔵(闘争の系統オリジナル)
天童忍軍の組頭で、千坂朱音の直属の上司。
最終更新:2020年12月03日 08:47