外宇宙編150~155

『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-7

作者・ティアラロイド
150

帝都星フェザーン・郊外の廃寺院***


首領の男「ふふふ…案ずるより産むが易しとはこの事よ」
黒ずくめA「お待ちしておりました」

銀河帝国皇帝アレクサンデル・ジークフリードと間違われて
誘拐された連坊小路が監禁されている廃寺院に現れた、
一味の首魁と思しき男。頭巾をかぶっており顔は見えないが、
その声色から歳は20代前後ではと推測される…。

黒ずくめA「皇帝陛下、これまでにございます」
連坊「そ、その方ら…あくまで予を殺そうと言うのか!?」

首領の男「――!!」

囚われている連坊小路の顔を見た途端、
一味の首領は目を丸くして驚愕した。

首領の男「…違う! こやつはアレクサンデルではない!」
黒ずくめA「ええっ!?」
黒ずくめB「な、なんと!?」
連坊「……(マズい、バレた!)」

周囲がざわめく。

首領の男「たわけ! おそらくこやつは影武者だ!
 アレクサンデルがこのような手に出る事は
 計算のうちに入れておくべきであった…」
黒ずくめA「この男はどうします?」
首領の男「殺せ」

首領の命令で、黒ずくめの一人が鋭利な短剣を抜いて、
抵抗できない連坊小路に向ける。
もはやこれまでか…と連坊小路が諦めかけたその時!?

黒ずくめC「ぐわああッッ!!!!」

黒ずくめの一人が悲鳴と共にぐったりと倒れた。
その場にいた全員が異変に反応して視線を向けると、
そこに立っていたのは、サイ・ブレードを手に構えた
黄金色の髪と青石色の瞳をもつ青年であった。

連坊「ア、アレク陛下ぁ~!!(涙」
首領の男「アレクサンデル!?」

アレク「………」

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連坊「どうしてアレク陛下がここに?」
アレク「俺の大事な分身の、お前を死なせるわけにはいかぬ!」

人を安心させるように優しく微笑みながら
力強く答えるアレクの言葉に、連坊小路を感涙する。

首領の男「ふはははは!!! わざわざ死にに来てくれるとは御苦労!
 アレクサンデルを討ち取るのだ。殺せ…二人とも殺せ!!」

首領の号令で、一斉に暗殺用の短剣を抜いた黒ずくめたちが
アレクに向かって飛びかかる。それに対してアレクは退かずに
サイ・ブレードを突き出した。その光の刃は先頭の黒ずくめの胸を貫き、
さらにアレクは襲い来る敵を切り捨てながら前進を続ける。

一方のフェリックスは応援に駆け付けたパラベラム号の船員たちと共に、
ブラスターによる敵との銃撃戦を繰り広げていた。
ブラスターの閃光は、黒ずくめの一味を次々とハリネズミと化していく。

フェリク「大丈夫か連坊!?」
連坊「ミッターマイヤー中尉~!!(涙」

フェリックスは連坊小路の縄を解いてやり、
まずはその身柄の安全を確保した。
だがそれで安堵する暇などはなかった。
突然その場から轟音が鳴り響き、
全高が18m前後と思われる人型機動兵器が数機ほど姿を現し、
こちらに向けて攻撃する姿勢を見せたからだ。

フェリク「あれは…!」
アレク「マズい、逃げろ!!」

瞬時に状況を冷静に判断したアレクが叫ぶ。

GAT-04ウィンダム――地球連邦軍、特に地球至上主義者である
ロゴス派の部隊が好んで使用するするモビルスーツである。
まだ銀河帝国軍には、この手の2足歩行型の機動兵器はほとんど導入されていない。
おそらくこのような場合に備えて暗殺団が事前に用意していたのだろう。

追い詰められるアレクたち。
しかし危うしという時に、黒と赤のカラーリングをした人型機動兵器――
――正確には霊長兵器・ヴァルヴレイヴⅠ「火人」のハンドガンから撃ち出された
硬質残光が瞬く間に2機のウィンダムを撃ち落とした。
さらにもう2体の霊長兵器、ヴァルヴレイヴⅣ「火ノ輪」と
ヴァルヴレイヴⅥ「火遊」が、それぞれ遠隔操作兵器「スピンドル・ナックル」と
鳥の翼のようなピッケル型の杖状の装備「ハミング・バード」を駆使して
残ったウィンダムを全て殲滅した。

フェリク「あれは…!」
アレク「ああ、きっとサキ先生に教母様たちだ」

サキ@通信「アレク陛下、ご無事ですか!?」

連坊「サキさま! アキラさま! ショーコさま~!。゜゜(´□`。)°゜。ワーン!!」

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アキラ「連坊ッ!!」
連坊「ううっ…」

連坊小路アキラは、影武者の任から逃げ出した連坊小路を怒鳴りつけた。
しかしアレクは連坊小路を庇った。

アレク「教母様、そんなに連坊を責めないでやってください」
アキラ「陛下は連坊に甘すぎます」
ショーコ「いいんじゃないかな。

 当のアレク陛下がそんなに怒ってないんだし」
アキラ「ショーコちゃんまで…」
サキ「ふふっ…」

連坊小路はアレクの側に飛びついて跪く。

連坊「アレク陛下!」
アレク「連坊、怪我はないな?」
連坊「はい。陛下、私はついさっきまで影武者の任務に嫌気がさしておりました。
 折を見て逃げ出してやろうかと本気で考えておりました。でも今は違います。
 こんな僕のために、陛下は命をかけて助けに来てくださいました…。
 僕は…陛下のために、死んでも影武者の任をやり遂げます! きっと!」
アレク「連坊…」

その後、ケスラー総監率いる憲兵隊が到着し、
一味のいなくなったアジトの現場検証が始まった。

ケスラー「現場に残った死体や逮捕者の中に、
 一味の首領と思しき人物はおりませんでした」
ビッテンフェルト「ケスラーの敷いた緊急配備を潜り抜けるとは、
 これは只者ではありませんな」
フェリク「いったい何者だろう…」
アレク「頭巾で顔は解らなかったが、
 俺の顔を知っている人間である事は確かだ」

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宇宙港で多くの臣民が歓声と共に見送る中、
銀河帝国皇帝アレクサンデル・ジークフリード一世を乗せた
旗艦ブリュンヒルト率いる宇宙艦隊は、ついに帝都星フェザーンを出発した。
フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト元帥の乗艦「王虎(ケーニヒス・ティーゲル)」と、
ナイトハルト・ミュラー元帥の乗艦「パーツィバル」が両脇を固めている。

アレク「さて、そろそろ俺たちも出発するか」
フェリク「いよいよフェザーン回廊だな」
アレク「鬼が出るか蛇が出るか、とにかく長い旅になりそうだ」

こうしてパラベラム号に乗り込もうとしたアレクたちの目の前に、
いきなりひょっこりと現れたのは、あのデスカル三将軍たちだった。

アレク「アクアルさん!?」
ブレアード「よっ!」
アクアル「お願いっ。アタシたちも一緒に旅に同行させてよ♪」
アレク「エ━━ΣΣ(゚Д゚;)━━ッ!!」
フェリク「エ━━ΣΣ(゚Д゚;)━━ッ!!」

アクアルたちからのいきなりの申し出に困惑するアレクたち。

ブレアード「確かアレクって言ったよな。お前の事は気に行ったぜ♪
 俺はブレアードだ。ヨロシクなっ!!」
サイクリード「サ、サイクリードと申します。よろしくお願いします…」

勝手に自己紹介を始めて話を進めようとするブレアードたちに、
鉄の髭が待ったをかける。

鉄の髭「そのような事を認める訳にはいかん!」
ブレアード「そんなケチくさいこと言うなよ、オッサン!」
シェイン「いきなりそんなこと言われても、
 うちの船はもう定員オーバーだ。あんたたち
 自分の船は持ってるのか?」
ブレアード「へっへっへ…それなら心配はいらねーよ。
 ――ドリルアングラーァッ!!!」

ブレアードが一声叫ぶと、なんと地中から
先端にドリルのような装備がついたモグラのようにも見える中型の宇宙戦艦が
地割れと共に姿を現した。それを見ていて呆気にとられる一同。

ブレアード「これが俺たちの船だ」
アクアル「これなら文句ないでしょ」
アレク「いいじゃないかキャプテン。
 旅は道連れ。賑やかな方がいい」
鉄の髭「う~む…」
アクアル「うふふ、ありがとっ!」

アクアルはそっとアレクの頬にキスをする。

アレク「――!?(///)」
フェリク「…なっ!!」

かくて前代未聞空前絶後の
銀河帝国皇帝による隠密道中が開始された。
夢を追う青年アレクの行く手に待ち受けるものは何か…。
目指す星間評議会の首府・惑星エンペリアスは、
4万8千光年の彼方にある。

       ◆

       ◆

       ◆

首領の男「…アレクサンデル、待っていろよ。
 自由を求めたお前の行いが、いずれ貴様の命取りとなるのだ。
 不慮の死を遂げたアレクサンデルに代わり皇帝となるのはこの私だ!
 エルウィン・ヨーゼフ・フォン・ゴールデンバウムだ!!」

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地球・ヒマラヤの地球教本部***


部下の主教から報告を受ける、
地球教団の総書記代理たる大主教ド・ヴィリエ。

獅子帝ラインハルトの勅命を受けたワーレン提督率いる銀河帝国軍によって、
地球教の総本山は一度壊滅させられたはずであった。
しかし「黄泉がえり」という名の超自然現象によって、
歴史の闇の彼方に葬り去られたはずの狂信者たちは再び現世へと舞い戻り、
敵対者に対する憎悪を燃やし続けていたのである。

ド・ヴィリエ「では皇帝アレクサンデルが忍び旅に出たというのは事実であったか」
主教「これこそ神の与え賜もうた恩寵。この機を逃してはなりませぬ」
ド・ヴィリエ「無論の事よ。フフフ…それにしても皇帝アレクサンデル、
 名君・英雄と謳われた父親とは比べ物にならぬ愚帝の器と見えるな」
主教「しかしエルウィン・ヨーゼフ2世…あの男、果たして役にたちましょうや…」
ド・ヴィリエ「過去の亡霊という奴は煽てれば扱いやすい。
 いずれこの日が来ることを予期して、一緒に逃げていたランズベルク伯の手元から
 赤子をすり替え今日までお育てしていたのよ。日々人助けはしておくものよな」
主教「まさに功徳にございまするな…」

ド・ヴィリエは片手を宙にかざし、血気にはやる部下たちを制した。
三次元銀河宇宙の安定に寄与する大国・銀河帝国の皇帝に不測の事態が起きれば、
一気に情勢は流動化し、乱世と各勢力による潰し合いが開始されるであろう。
それこそまさに地球教の望むところであった。
そのためには、旧ゴールデンバウム王朝という過去の亡霊でさえも
地中から穿り返して利用するだけ利用する。
そして用が済めば、まだコントロールの効く内に使い捨てればいいのだ…。

ド・ヴィリエ「フフフ…フハハハハッ!!!!!!」


バード星・銀河連邦警察本部***


仮面の女「………」

ジュリアス・カミュエル卿の使いとして
バード星の銀河連邦警察本庁を訪れた仮面の女は、
ロビーで待ち合わせていた人物が来るのを待っていた。

撃「銀河連邦警察・特務担当宇宙刑事、十文字撃。
 コードネーム・ギャバン! 召請により只今参りました!」
シェリー「同じく、ギャバンのパートナーのシェリーです」

二人は仮面の女の前で並んで敬礼する。

仮面の女「お待ちしていました。おかけください」

席に座った撃とシェリーの二人に、
テーブルを挟み対面する形で座った仮面の女は用件を話し始める。

仮面の女「ギャバン、貴方の事は一条寺烈隊長より伺っております。
 何度も命令違反を繰り返しては一直線に突っ走り、
 手を持て余している非常に扱いが厄介な部下だと…」
撃「いやあ…お恥ずかしい限りです」

隣に座るシェリーもクスクスッと笑っている。
しかしその撃の一途なまでの熱血なところが、
これまでマクー再興の野望やスペースショッカーの陰謀、
そしてゴードン長官父娘のスキャンダルなど
数々の難事件を解決へと導いてきたのだ。

仮面の女「そんな貴方の腕と実績を見込んで
 極秘任務をお願いしたいのです。これからする話は
 くれぐれも他言無用です」
撃「はい」

仮面の女は撃とシェリーの二人に、銀河帝国皇帝
アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムが
艦隊を率いてエンペリアス星に向けて出発した件を話しだした。

撃「銀河帝国の皇帝陛下が身分を隠してお忍びの旅をねえ…」

なんか水戸黄門みたいな話だなと撃は内心思った。
そういう事が今の世の中、しかも地球から遠く離れた宇宙の星で
実際にあるとは…。まったく偉い人の考える事はわからない。

仮面の女「そこで貴方がたお二人には、陰ながらアレク陛下の
 警護をお願いしたいのです」
撃「わかりました。お引き受けしましょう」
仮面の女「もし旅の途中でアレク陛下の御身にもしもの事があれば、
 その混乱の影響は測り知れません。そのような事態は絶対に
 避けなければなりません。何卒よろしくお願いいたします」

155

○アレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラム→連坊小路の危機を救い、いよいよ帝都星フェザーンから旅立つ。
○フェリックス・ミッターマイヤー →連坊小路の危機を救い、いよいよ帝都星フェザーンから旅立つ。
○ウルリッヒ・ケスラー →緊急配備を敷くが、暗殺団の首領には逃げられる。
○フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト→皇帝(影武者)のお供をして、いよいよ帝都星フェザーンから旅立つ。
○鉄の髭→デスカル3将軍が旅に同行する事に難色を示す。
○シェイン・マクドゥガル→デスカル3将軍が旅に同行する事に難色を示す。
○指南ショーコ→時縞ハルトから引き継いだヴァルヴレイヴⅠ「火人」を駆って、アレクたちの危機に駆けつける。
○流木野サキ→ヴァルヴレイヴⅣ「火ノ輪」を駆って、アレクたちの危機に駆けつける。
○連坊小路アキラ→ヴァルヴレイヴⅥ「火遊」を駆って、アレクたちの危機に駆けつける。
○連坊小路→アレクたちに危機を救われ、影武者の任をやり遂げる覚悟を固める。
○火将軍ブレアード→アレクたちの旅に無理やり同行する事に。
○風将軍サイクリード→アレクたちの旅に無理やり同行する事に。
○水将軍アクアル→アレクたちの旅に無理やり同行する事に。
○十文字撃→仮面の女から、銀河帝国皇帝アレクサンデル警護の任を任される。
○シェリー →仮面の女から、銀河帝国皇帝アレクサンデル警護の任を任される。

●エルウィン・ヨーゼフ2世→皇帝アレクサンデルの命を狙う。
●ド・ヴィリエ→皇帝アレクサンデル暗殺計画の影で糸を引く。

△仮面の女(ユーフェミア・リ・ブリタニア)→十文字撃とシェリーに、銀河帝国皇帝アレクサンデルの警護を要請。

【今回の新規登場】
●エルウィン・ヨーゼフ2世(銀河英雄伝説)
 旧ゴールデンバウム王朝銀河帝国第37代皇帝。
 祖父である先帝フリードリヒ4世の急逝に伴い擁立された幼君で、
 常に傀儡として他人に利用され続け、まともな躾もされなかったためか、
 自我が抑制された時、過剰な暴力によってしか抵抗の意思を示す事が
 できなかった。銀河帝国正統政府の崩壊後、行方不明となる。
 その後発狂したランズベルク伯アルフレットの抱いた赤子の死体が
 発見されるが、後にそれは関係者の証言で別人と判明した。

○十文字撃=宇宙刑事ギャバンtypeG(宇宙刑事ギャバンTHE MOVIE/宇宙刑事NEXT GENERATIONシリーズ)
 地球人であり、元サイドカーレーサーで宇宙飛行士。
 スペースシャトル『かなた』の事故で宇宙空間を漂っていた所を
 地球でのアシュラーダの野望を食い止め帰還していた一条寺烈に助けられ、
 その後、銀河連邦警察で一年に及ぶ訓練を受け、宇宙刑事となり
 伝説のコードネーム『ギャバン』の名を継いだ。
 幼少期から『光を超えるぜ』が口癖。

○シェリー(宇宙刑事ギャバンTHE MOVIE)
 コム前長官の姪で、十文字撃のパートナー。
 非常に明るい性格のムードメーカーだが、たまに空気の読めない発言をする事も……。
 撃に対しては淡い恋心を抱いている様子。
 従姉妹のミミー同様、レーザービジョンでインコの姿に変身が可能。

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最終更新:2021年01月07日 07:11