- 663 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:26:23.45ID:L+dgg3mE0
- ◇の月×の日
『自分の心がわからない。
湖畔を眺めていると、何者かの気配を感じるので振り返ると
そこには魔王の姿があった。
だけど戦いたいとは思わなかった。
心が麻痺してしまったのかと思ったが、違う。
確かにあの時、あたしは魔王に慈しみを感じていたのだ。
滅ぼすべき相手に決して持ってはいけない感情を。』
- 664 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:28:59.67ID:L+dgg3mE0
- ○の月○の日
『胸が痛む。
剣を振っても、美しい湖畔を眺めても。
胸の奥で疼く痛みは酷くなるばかり。
どうすればこの痛みは治まる?
全ての景色が色あせて見える。
今日はもう眠ろう。』
- 667 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:31:35.64ID:L+dgg3mE0
- ○の月×の日
『帰ろう。
きっとあたしは戦う事に嫌気が差したのだ。
だから魔王を討つ事ができないんだ。
こんな気持ちで戦えば簡単に死ぬのは目に見えている。
死ぬ。
肉体が滅ぶ。
この世から自分という存在が消える。
そうだ、あたしは死ぬのが怖いんだ。
だから帰ろう。
戦いのない場所へ・・・。』
- 671 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:34:06.54ID:L+dgg3mE0
- ×の月□の日
『どれだけ歩いたのか。
気が付いたら、何処かの大きな街に辿り着いていた。
もう戦う必要はない。
使命も何も関係ない。
あたしはここで、ただの女として暮らすのだから。』
- 672 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:36:18.35ID:L+dgg3mE0
- ×の月▽の日
『ずっと戦いに明け暮れていた日々が遠い昔のように感じる。
幸い路銀は十二分に稼いである。
こうして過ごしてみると、市井の女というのも悪くはない。
人並みの幸せとはこういう事を言うのかもしれない。』
- 674 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:38:49.06ID:L+dgg3mE0
- ×の月△の日
『今日、初めて家庭料理を作ってみた。
いつもは簡単に肉を焼くだけとかだが、せっかく時間があるのだ。
色々試してみても罰は当たるまい。
そう思い、宿の厨房を借りたのだが・・・。
どうやらあたしには家庭料理は向いていないようだ。』
- 676 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:41:08.00ID:L+dgg3mE0
- ×の月○の日
『宿の主人が美味しいお茶の葉が手に入ったというので、幾つか分けて頂いた。
給仕係の手付きを真似て自分で淹れてみたが、悪くない。
我ながら単純だとは思うが、これなら上手くやれそうだ。
明日は市場にでも行って本格的にお茶の道具でも揃えてみるか。』
- 678 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:45:03.95ID:L+dgg3mE0
- ×の月×の日
『少し張り切りすぎてしまったようだ。
まさかお茶の道具があんなに奥深いものだとは思いもよらなかった。
何事も一歩ずつが大切なのだという事を改めて思い知った一日だった。』
- 680 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:47:17.51ID:L+dgg3mE0
- ×の月◇の日
『ずっと忘れていたのに。
夢を見た。
魔王の夢。
滅ぼすべき相手の夢。
あたしに微笑んでくれた相手の夢。
まただ。
また魔王の事を考えると胸が痛む。
何故?
これが魔王の力だとでもいうのだろうか。
わからない。
わからないのに、とても魔王に会いたい。
会って、自分の心を確かめたい。』
- 681 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:50:00.70ID:L+dgg3mE0
- □の月○の日
『この世は理不尽に溢れていると思っていたが、少しだけ望みも叶うのかもしれない。
あたしの目に前に立つ男。
見た目こそただの人間だが、あたしにはわかる。
間違いない、魔王だ。
昨日あれ程願ったのだ。
夢ではないかと最初は疑ったものだ。
だが、この間の抜け具合は見紛う事なき魔王そのもの。
そうだ、こんな人間の居る町に姿を一人で現すなどあの魔王しかありえない。
そう思うとあたしの心はおかしなぐらい喜んでいた。』
- 683 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:52:54.01ID:L+dgg3mE0
- □の月○の日(続き)
『だが、もし万が一にでも街で魔王の正体が露見してはまずい。
あたしはいつかの無抵抗の魔物を思い出し、慌てて魔王を連れて
泊まっている宿へと向かった。
魔王は終始ソワソワとあたしの部屋を眺めていた。
そんなに珍しいのだろうか?
気になったあたしはお茶を淹れて尋ねてみると、
あたしの住む場所だから気になったと言う。
本当にこいつは変わった奴だ。
でも、そんな変な奴相手にあたしは今まで感じた事がないくらい
安らぎを感じていた。
もっと魔王と話をしてみたい。
もっと魔王の事を知りたい。
もっと魔王と一緒に・・・居たいと。』
- 686 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)20:55:19.04ID:L+dgg3mE0
- □の月◇の日
『気が付けば、あっという間に日が過ぎていた。
不思議だ。
あれ程痛かった胸の疼きが今はなんともない。
ただあるのは、強く溢れ出す思い。
そうだ、どう足掻いてもあたしが勇者である事は変わらないし
あいつが魔王である事も変わらない。
ならば、その役目をあたしは貫いてみせる。
待っていろ、魔王。
あたしはあたしの方法でお前を討ってみせるぞ!』
- 697 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)21:03:03.90ID:L+dgg3mE0
- □の月×の日
『迷いは一切ない。
ずっと重かった剣が嘘のように軽かった。
さぁ、踊ろう魔王。
2人だけの輪舞を。
あたし達の役目を舞台に!』
- 710 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)21:19:20.45ID:L+dgg3mE0
- □の月▽の日
『湖畔で魔王を待った。
それから程なくしてあいつは現れた。
言葉も約束もない。
でも、その沈黙が心地よい。
次はいつ会おうか。
なぁ魔王。』
- 717 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)21:33:32.39ID:L+dgg3mE0
- □の月□の日
『しばらく鍛錬を怠っていたので、宿の空いてる場所を借りた。
無心に剣を振っていると、心の奥底から喜びが湧いてくる。
凶器を振るって喜びを感じるなど、あたしはきっと狂っているのだろう。
だがこの一振りが、突きが、魔王と踊るステップに思えてならない。
お前は今何をしている?
あたしはこんなにもお前の事を考えているぞ。』
- 722 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)21:46:21.57ID:L+dgg3mE0
- ▽の月◇の日
『今日は珍しいものを見た。
この地方では今の季節に降るもので、雪というらしい。
こんな魔法のようなものが自然現象として現れるなんて。
やはりこの地は変わっている。
肌を刺すような冷たさだが、見ていると不思議と心は暖かくなる。』
- 734 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)22:00:44.32ID:L+dgg3mE0
- ▽の月△の日
『魔王はずるい。
寒いからとあたしにくれた食べ物。
あんなに美味しい物を食べてしまったら、また食べたくなるではないか。
今度はあたしもお茶を持っていくとしよう。
あの甘さなら少し渋めの方がよく合うだろう。』
- 752 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)22:14:07.50ID:L+dgg3mE0
- ▽の月×の日
『困った。
まだ顔が熱い。
魔王のやつ、いきなりあたしに寄り掛かかってきたかと思うと
眠りだしてしまった。
きっと疲れているのだと思い───。
ダメだ。
今日はもう寝よう。』
- 772 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)22:24:20.14ID:L+dgg3mE0
- ▽の月□の日
『今日は思いも寄らぬ再会があった。
故郷の幼馴染だ。
あたしが勇者として教会に連れられて以来だから、実に何年振りだろう。
見た目こそ変わっていたが、色濃く残る面影はあの頃のままだ。
そう言うと彼女はお互い様だと笑った。
確かにそうかもしれない。
だが一つだけ確実に変わった事はある。
それは彼女が一児の母となっていた事だ。
何処か逞しさを感じさせるのは、母の強さなのかもしれないな。』
- 784 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)22:32:43.37ID:L+dgg3mE0
- ▽の月○の日
『彼女の家庭に招かれた。
残念ながら彼女の夫君は城勤めで、しばらく離れて暮らしているらしい。
それは寂しいだろうと問うと彼女は、子を守らなければならないのに
寂しいなんて言えないと笑顔で答えた。
強いと思う。
あたしなど、あの変わり者の事を考えると寂しさを覚えるというのに。
彼女の強さが少し羨ましい。』
- 791 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI:2006/12/13(水)22:42:49.95
ID:L+dgg3mE0
- △の月◇の日
『家庭。
孤児だったあたしにはずっと縁のないモノ。
あたしにあるのは剣と勇者としての力だけ。
欲しくないと言えば嘘になる。
だが、自分が手に出来るものだとも思えない。
それでも。
それでも願ってよいならば。
あたしは・・・。』
- 798 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI
:2006/12/13(水)22:52:56.23 ID:L+dgg3mE0
- △の月×の日
『そういえば教会から何の通達もないのが気に掛かる。
監視役を付けるくらいだ。
今のあたしの動きも把握しているはずなのに。
一度教会の動きを探ってみる必要がありそうだ。』
- 820 :まさかの富樫◆hPAjjoCLiI :2006/12/13(水)
23:10:17.29 ID:L+dgg3mE0
- △の月○の日
『バカな!
教会の殲滅部隊を魔物の森に送ったなどと!
あいつらは教会の闇の部分。
表立って行動する事はないはずではなかったのか!
一体あたしの知らない所で何が起きているというのだ。
自分に何が出来るかわからない。
それでも、今は一刻も早く魔王の元へ行かねば。』
- 851 :まさかの富樫
◆hPAjjoCLiI :2006/12/13(水) 23:34:29.28 ID:L+dgg3mE0
- ◇の月○の日
『後少し。
後少しで魔王の元に着く。
神よ、貴方にこのような事を願うのは間違っているとわかっている。
それでも。
どうか、魔王をお守り下さい。』
日記はここで終わってしまっているようだ。
最終更新:2006年12月13日 23:36