リリカル自衛隊1549 第1話

リリカル自衛隊1549 第1話 「消失」

新暦0070年 第97管理外世界 現地呼称「地球」の日本国にて―――


《ヘリの給油完了》
《了解、直ちに退避しろ》
そんな言葉が無線で飛び交う中、的場毅一等陸佐は待機していた82式指揮通信車から外に出た。外には多数の車両が配置され、それを取り囲むように巨大なアンテナ塔が立ち並んでいた。
陸上自衛隊東富士演習場。ここにてある極秘実験が開始されようとしていた。
《01から21までの無線、異常なし》
《弾薬の積載を急がせろ》
直径数百メートルの円内に配置された、陸上自衛隊が保持するありとあらゆる装備品が集められ、現在その整備が大至急行われている。

アクエリアス計画

それが今回の実験の名称だった。
定期的に発生する太陽からの電磁波、ソーラーマキシマムは精密機器に重大な影響を及ぼす。軍事用の通信衛星の回線でさえブラックアウトさせる電磁波は、高度に情報化された現在の軍事組織にとっては致命的なものだった。
よって防衛省はこの現象から装備品をシールドする機器の開発を民間企業に依頼、その中で橘工業が開発に成功した。
数度の実験を経た後、今回が初めて人体がシールド下にある事を想定した実験だ。陸上自衛隊部隊が作戦行動中である事を想定し、陸上自衛隊の装備するありとあらゆる武器兵器が集められた。
個人携行の89式小銃から、最新鋭の戦車でようやくお披露目したTK-Xまで。航空部隊には、国内に十数機しか配備されていないAH-64Dアパッチ攻撃ヘリや海上自衛隊や航空自衛隊の掃海、哨戒、救難ヘリまで用意された。
シールドが実弾、燃料、車両部品等に与える影響を調べるため、各種車両の後方には物資集積所が設けられ、実戦同様に大量の物資が集積された。
この戦力があれば、地方の小都市くらいなら簡単に制圧できるだろう。的場はそんな事を考えたが、今は実験が滞りなく実施できるかどうかを確認することが最優先だ。
的場は自ら進行状況を確認するため、各種車両やヘリの間を見回る。幸い、作業は問題なく進行しているようだった。
「・・・でよ~、昨日俺の古いダチから聞いたんだけどよ」
「またその話か。だからガセじゃねえの?」
的場が96式装輪装甲車の脇を通った時、若い陸士達が雑談しているのが聞こえた。彼らは戦闘防弾チョッキに身を固めつつ、実弾の装填された89式小銃を握っていた。だがその顔にはやる気が見当たらない。
当然だろう。この実験中隊に配属された者は、さまざまな理由で所属原隊で疎まれている者たちだ。彼らは厄介払いのようにこの部隊に配属され、自らを「冷凍食品」と揶揄していた。ただ突っ立って訳の分からない電磁波を浴びるからそう言ったらしいが、確かにその通りだと的場は思った。それに「冷凍食品」なんてモルモット役をやらされる隊員達が、真面目にやる気を起こすはずもない。
自分自身、特殊部隊のFユニットを解散させられて依頼、様々な部隊を転々とさせられていた。今回いきなり第三特別実験中隊の隊長を命ぜられ、同じく数年前にFユニットに所属していた部下達も、今回副官として着任した。
「だから本当だって。え~と、何だっけ。何年か前に海鳴市で・・・」
「空飛ぶ白服ロリ魔法少女が目撃されたってんだろう。もう何度も聞いたよ」
「あれ、そうだっけ」
都市伝説の類かと的場は思い、次の場所に向かう。幸い、滞りなく実験準備は進んでいる。
《実験開始5分前。作業員は退避してください。各要員は車両または航空機に搭乗して下さい》
その言葉で作業員は次々と退避し、入れ替わりに次々と自衛隊員が割り当てられた車両に搭乗する。
車両群を取り囲むように配置された鉄塔の向こうにあちこちある天幕には、自衛隊関係者だけでなく米軍関係者の姿もちらほら見える。話によるとこの計画は日米共同プロジェクトらしいが、実際にはアメリカが殆ど日本に開発、負担させているのが現状である。おそらくF-2支援戦闘機を開発した時のように、勝手に口出しされて、挙句の果てに技術だけ持っていかれるのがオチだろう。
「変わらんな、この国は・・・・・・」
的場はそう呟き、自身も82式指揮通信車に乗り込んだ。

《電圧異常なし》
《全システム、異常なし。人口磁場シールド展開準備完了》
その言葉と共に、シールド発生装置の発する重低音がかすかに増え、緊張で辺りの空気も張り詰めてゆく。
《人口磁場シールド展開。全て順調に稼動しています》
《人口電磁波発生》
《第3特別実験中隊、状況開始》
状況開始とはいっても、各車間における無線通信やGPS、それに車両本体や装備品に異常が無いかを確認するだけである。的場は無線機を手に取り、通信に問題が無いか確認する。
「01より各車、応答せよ。送れ」
しばらくして、各車から続々と返信が返ってくる。
《03より01、通信に問題なし。各種機器も正常に作動中。送れ》
その後全車から似たような内容の連絡が届き、的場が通信に異常が無いと本部に報告しようとした、その時だった。

《イレギュラーです!シールドの耐久予測値を超えます!!》
その言葉に車内が一瞬ざわつくが、的場が手で制するとすぐに静まった。
《ソーラーマキシマム発生!!》
《シールド内の気圧異常!気温低下しています!!》
「どうした、何があった?」
的場はそう問いただしたが、返ってくるのは本部の混乱しているような通信だけだった。
《神崎2尉、実験の中止を!》
《理論上では十分対応できます。シールド出力を最大に》
「おいおい、一体何が・・・」
通信士の一名がそう呟いた、その時だった。
瞬く間にシールド内に霧状の渦が発生し、第3特別実験中隊を包み込んだ。
これはただ事ではないと的場は直感し、本部に状況を問いただそうとした、が・・・。
「01より本部、何が起こっている!?状況を報告」
そこまで言ったとき、強烈な光が窓から差込み、本部との通信は永久に途切れた。

《どうした、何があった!?》
《第3特別実験中隊との連絡途絶!応答ありません!!》
《GPS信号途絶!第3特別実験中隊の位置を捕捉できません!!》

《第3特別実験中隊消滅・・・消滅しました!!》





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最終更新:2009年10月31日 20:47