リリカル自衛隊1549 第2話

『・・・たった今入ってきた速報です。防衛省は先ほど記者会見を開き、陸上自衛隊東富士演習場にて、演習中の1個中隊約200名がヘリの墜落により死亡したと発表しました。詳しいことはまだわかりませんが、発表された情報によると、弾薬を積載した攻撃ヘリコプターが演習直前に密集した車両群の上に墜落し、車両群に搭載された弾薬類が誘爆し付近の隊員達を巻き込んだとの事です。詳しい事は情報が入り次第お伝えします・・・』


リリカル自衛隊1549 第2話 「侵食」


新暦76年 9月19日 第97管理外世界 日本国 静岡県 某城

「すみませんね~。改修工事が始まって、今は誰も中に入れないんですよ~」
「そんな・・・」

係員の言葉にそう言って床に崩れ落ちたシグナムは、この世の終わりのような顔をしていた。どよんとした空気を漂わせるシグナムの周りでは、他のヴォルケンリッターの面々と八神はやてが、彼女を慰めるように肩を叩いている。
最近日本の城や武家屋敷を見ることに興味があるらしいシグナムは、休みを利用して度々それらを訪れている。

「もう3回目・・・。主はやて、私は何かしたのでしょうか?」

最近シグナムが日本を訪れる度に、それらの城や武家屋敷が改装だったり改修だったりで閉鎖されているのだ。具体的にいうと、

一ヶ月前に有名な城を訪れようとしました。→ちょうど二日前に改修工事が始まっていました。
3週間前にある武家屋敷を訪れようとしました。→ちょうど前日から改装工事が始まっていました。
そして今日ある城を訪れました。→今日からいきなり改修工事が始まりました。

「そんなん偶然やて。なあヴィータ?」
「そうそう。古い建物だからいっぺんにボロくなってきてるだけだ。だから落ち込むなってシグナム」

一緒に城を見に来たはやてとヴィータ、シャマル(城内は動物禁止なので、ザフィーラは車で待機中)はそう言ってシグナムを慰めようとしたが、絶望オーラを醸し出しているシグナムには効果が無い。

「・・・・・・最近どんどん古い建築物が閉鎖されています。何か私がしたのでしょうか・・・」

そうぶつぶつ呟くシグナムを引きずって、はやて達は城の外に出た。

昨年、科学者ジェイル・スカリエッティはガジェットドローンや戦闘機人を使い、次々とロストロギア「レリック」を強奪していた。はやて達機動6課の面々もスカリエッティを追跡していたが、1年前にスカリエッティが突如として襲撃を止めた。
最初は何か大きな事件を起こそうと企んでいるのでは、と管理局は考えたが、一月たち、二月たっても一向にスカリエッティは何も行動を起こさなかった。
やがて管理局は捜査の末にスカリエッティのアジトを発見、武装局員3個中隊をもって強襲したが、アジトはもぬけの殻だった。ありとあらゆる機材が持ち出されていて、しかも大分前に放棄されていたらしい事がその後の調査で判明した。
当初1年限定で設立された機動6課も、スカリエッティが捕まらなく、彼の持つロストロギアも行方不明であるために、ずるずると運用期間が伸びていった。
しかし依然としてスカリエッティは行動を起こさず、しかも目立ったロストロギア関連の事件・事故も起きないため、機動6課は実質新人の教育をメインにする部隊となってしまっている。
そんな訳ではやて達は休暇を取り、地球にやってきたのだ。


座り込んで動かないシグナムをどうにかして城から連れ出し、はやて達は近くの高台にある公園で昼食を食べた。昼食を食べた後しばらく公園を散策し、することも無いので帰ることになった。

「あ、ごめん、ちょっとトイレ行って来るわ。先に車に戻っといて」

はやてはそう言い、公園に設置されている公衆トイレへと向かう。今日は休日なので、公園には親子連れも何組か見受けられる。
はやてがトイレにたどり着くと、5歳くらいの少女がトイレの前でしゃがんで何かを覗き込んでいる。何だろうとはやては思い、少女に声をかけた。

「こんにちは。何見てんの?」

はやてがそう訊くと、少女は無言で自分の前を指差した。どれどれ?とはやてが覗き込むと、そこには異様な物体があった。
何か黒い塊が、トイレの外壁部分にあったのだ。昼間だというのに、その物体は光を吸収しているかの如く光を反射することさえ無い。
(なんやこれ?今までこんなもん見たことない)
はやてはそう思い、もっとよく観察してみた。よく見ると、近くの落ち葉や枯れ枝が、わずかにではあるがその物体に引き寄せられているのがわかった。
気味が悪いとはやては思い、ヴォルケンリッターの面々を呼んでみようとした、その時。

少女が、黒い物体に頭を突っ込んだ。

「なっ・・・・・・!?」

慌てて少女に駆け寄り、急いでその物体から頭を出させようと少女の腰に手をかけ、はやては思い切り引っ張った。少女は地面に手をついた格好のまま倒れ、そしてはやては悲鳴をあげた。

少女の頭があった所には、何も無かった。血の一滴すら流さず、少女の頭は消失していた。

「あ、あああ、ああ・・・・・・」

いきなり頭を消失させた少女の体を見て、はやては震えながら叫んでいた。

「あああああああああああああああああ!!」

その後すぐさま駆けつけて来たシグナム達は、その異様な光景を見て目を見開いた。すぐさまシャマルによって周囲に結界が形成され、ひとまず死体を一般人が見ることの無いようにした後、時空管理局に一報が入れられた。


????年 第97管理外世界 日本国 某所

広い草原が、延々と死体で埋め尽くされていた。死体の殆どは鎧兜を装着し、刀や槍、矢を持っている。ある者は目を見開き、ある者は何かから逃げようとするように手を伸ばし、ある者は喉をかきむしって死んでいた。

「・・・ええ。敵対勢力は壊滅。こちらの損害は皆無です」

死体で埋め尽くされた草原を、死体を踏みながら歩く人影が数個あった。数人は迷彩服を着て89式小銃を所持し、残りは鎧兜を装着して帯刀していた。
ただ一つ共通している事は、それらの人物全ての顔に、ガスマスクが装着されていることだった。彼らの上空を、装飾の施されたUH-1Jヘリコプターが飛び去ってゆく。
迷彩服を着た男が、部下の背負う無線機で今回の戦果を報告しつつ、足元の死体を検分している。

「現在第3小隊と第4小隊が、羅漢兵1個中隊を率いて残敵を掃討しています」
《・・・了解。“ドクター”製作のガスの効力はどうだ?》
「素晴らしい効力です。これを使えば、戦闘を効率的に進められると思われます」

そう言って迷彩服の男は、足元の死体を眺めた。足軽らしき男は口から泡を吹き、顔が真っ青になって死んでいる。

《わかった。“ドクター”にもガスの製造数を増やすように要請しておく。他に何か報告は?》
「敵の総大将を確保しました。処遇はいかがしますか?」

しばし沈黙のあと、

《殺せ。そいつに用は無い。殺した方が歴史の変革も進む》
「了解しました」

そう言って男は、一度無線を切った。そして別の相手と交信を開始する。

「1-1より2-1、目標射殺の許可が出た」
《2-1了解。命令を実行する》

すぐに遠くから銃声と悲鳴が聞こえ、そしてすぐに沈黙した。

《2-1より1-1、目標の死亡を確認》
「1-1了解。これからヘリを寄越す。それでこちらに合流せよ」

それだけを言って交信を終了する。そしてすぐに先程の男との交信を再開した。

「目標を射殺しました。私もこれからヘリで帰還します。それでは」




「的場1佐」



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最終更新:2009年11月04日 18:25