HALO THE LYRICAL_02

HALO THE LYRICAL

第2話「巡り合う欲望と運命」


「互いに余りに惜しい人物を亡くしたな」

日が落ちようとしていた。
半分ほどに沈んだ太陽は、昼間の白から夕方のオレンジに変わり。世界の全てを自らと同じ色に染め上げる。
どこかの丘の上。そこには数人の人影があった。
丘の上には戦艦の折れた尾翼が立てられており、その根元には幾つもの花束が置かれ、そして数えきれない程の写真が貼られている。

「彼等こそ真の英雄だ、最後の最後まで戦い、この戦争に勝利し、そして散った彼らこそ」

一言一言を噛み締めるようにゆっくりと言葉を紡ぐのは、白いコンバットアーマーを着たエリート族の艦長、シップマスター『ラスタ・ヴァドム』、彼の隣に立つのは地球の代表者『テレンス・フッド』
かつては互いに戦火を交えた関係だったが、エリート族がコヴナントを離反、人類に協力を申し出たため、今は一時的に協力関係にある。
フッドは振り返り、一糸乱れぬ隊列で並んでいる海兵隊員に指示を飛ばす。

「この戦争で共に闘い、そして散っていった同胞たちに敬礼!」

フッドの敬礼を合図にヴァドム、アサルトライフルを携えた海兵隊員達が一斉に右手を額に当て敬礼。この戦いで散っていった多くの仲間に黙祷を捧げる。
しばし沈黙が辺りを満たし、聞こえるのは丘の上を通り過ぎる風の音。草木を揺らし、葉と葉が擦れ合って音を奏でる。
黙祷を捧げ始めた時と同じように、フットが額から手を下ろすと全員が続けて手を下ろす。

「弔銃!」

並んでいた海兵隊員が一斉に左を向き、アサルトライフルを淀みない動作で形式通りに構える。
アイアンサイトで紫色の空に瞬く星に狙いを定め、引き金を引く。
乾いた発砲音が木霊する。複数の銃声は奇麗に揃って、殆ど一発にしか聞こえなかった。









「シップマスター、彼は、アービターは…」
「仕方のないことだ、彼は『調停者』に任命された時から死ぬ覚悟は出来ていた筈だ。これも運命だ」

旗艦に戻り、色とりどりの計器が薄く照らす、司令室の中央に腰かけるヴァドム。
ヴァドムからの返答を聞き肩を落とすは、青いコンバットアーマーを装着した若いエリート族の戦士『ヌ・ソ・スラオム』。
落胆したまま自分の座席に戻り、計器のチェックを行う。

「さぁ、帰ろう。懐かしい我々の故郷へ」

計器の光が強まり、音も併せて高鳴る。
ガラスの向こうの雲が動き、まるで空が自分を中心に動いている様な錯覚に陥る。
計器の光と音が最高潮に達し、ヴァドムと多くのエリート族を乗せた旗艦は、一瞬の閃光と共に空の彼方へ消えた。
その光景の一部始終を見届けたフットと海兵隊員達は、改めてエリート族に敬礼を送る。

「二人とも、本当によく戦ってくれた…」

敬礼を終え、紫の空から祀られているいる尾翼に目を移すフット。
視線を落とすと写真の群れの下、そこに後から無理やり書き加えられた二つの単語。

『SPARTAN 117』
『Arbiter』

二人の英雄の名前が書かれていた。








眠りから覚め、体をベッドから起こす。
入口脇のクローゼットに向かい扉を開け、ハンガーにかけられている特注のトレーニングウェアに袖を通す。動きやすく、着心地も中々のもの。
次にズボンを履き、ベルトをしっかりと締めた。
最後に吊り下げられている肘当てと膝当てを装着し、準備完了。
出入り口の自動扉を屈みながら潜ると、隣人の青髪とオレンジ髪の少女が洗面所で歯を磨いていた。
少し前に、新しく越してきた隣人に気付いた青髪の少女は口を濯いで、口内の歯磨き粉を水と共に洗面台に吐き出す。
顔をタオルで拭いて、年相応の爽やかな笑顔で朝の挨拶。

「おはようございます。アービターさん!」
「おはよう、スバル」

時間は1週間と少し前に遡る。









六課に協力することを承諾したアービター、とりあえずその場は今後の処置を幾つか聞き、お開きになった。
はやて曰く、しばらくは『勾留』の形を取り、こちらで可能な限り早めに釈放するとのこと。
装備は証拠品として現在押収されているが、没収等の行為は決してさせない。
勾留されている間は大人しくしていれば大丈夫。
他にも幾つか細かい事項を聞き、はやてと共に部屋を後にした。部屋を出ると茶色の制服を着た数人の人間によって、留置所に案内される。
案内された留置所は悪くはなかった。ベッドとトイレに洗面台しかない殺風景な部屋だが、清掃は隅まで行き届いており、非常に清潔。ベッドや洗面台もシミ一つなく、文句の付けようがない。
部屋に入ると同時に後ろの鉄扉が閉められ、部屋の中は蛍光灯の音だけが響く。
ベッドに腰掛け、肘を膝に立て手を組み、目を閉じてこれからの事を少しだけ考える。

この世界の人間は自分をどのように見るだろうか?

ここで何の問題も無く暮らしていけるだろうか?

そもそも自分を受け入れてくれるだろうか?

様々な考えが頭の中を駆け巡り、現れては消え、また現れては消えるを繰り返す。
しばらく繰り返した後、頭を振って考えることをやめ、ベッドに横になる。
壁際のスイッチで消灯し、異形の戦士は眠りについた。









次の日の朝。

「起きろ、身体検査を行う」

雀がさえずる早朝、部屋に一つしかない鉄扉の覗き窓から声がかかった。
目を開け、意識を覚醒。ゆっくりと立ち上がると扉が開く。昨日と同じく茶色い制服を着た人間数人が待ち構えていた。
簡単にボディチェックや部屋の捜索が行われ、何も異常が無いことを確認すると、今度は『ついてこい』と言われ別の場所に向かう。
ここに来た時と同じように前に数人、後ろに数人の状態で移動するアービター。確認はしていないものの、後ろにいる人間が自分を凝視していることを気配で悟っていた。
移動する最中も行き違う様々な人間が、自分を珍しそうに見つめてくる。
好奇心、物珍しさ、畏怖と様々な感情が入り混じった幾つもの視線が異形の戦士へと突き刺さる。
しばらく歩くと、入口上部に『医務室』と書かれたプレートが張り付けてある部屋に着いた。
自動扉が開くと、部屋の中には椅子に座り白衣を着た金髪の女性が微笑んでいた。

「いらっしゃい、この人が?」
「ええ、そうです。なにかあったらすぐに呼んでください。それでは」

そう言い残して制服を着た集団は医務室を後にした。部屋には異星人と金髪女医が残されどことなく気まずい空気が流れる。
アービターが何を言おうか考えている最中に、女医が先に口を開いた。

「どうぞお掛けになって、貴方の事ははやてちゃんから聞いてるわ」

言われるがままに、女医の向かいにある椅子に腰かけるアービター。女医は持っているファイルに目を落とし、読み上げる。

「えーと、アービターさん。ですね」
「ああ」
「私の名前は『シャマル』ここで手当てなどをしています。さっきも言ったけど貴方の事ははやてちゃんから詳しく聞いたわ。大丈夫、直ぐにでも釈放されるから安心して」
「…」
「ああ、それと時間が無いからさっさと始めますか。二人ともお願い」
「「はーい」」

シャマルと名乗った女性が、医務室の奥にある衝立に向かって声をかけると、男女の声が返ってきた。
衝立を開けて出てきたのは、共に眼鏡をかけた紫色の髪の男に茶髪の女、二人ともメジャーとバインダーを持っている。

「さて、『身体検査』を始めますか」

どことなく含みのある言い方をして、シャマルは微笑む。
それからアービターは眼鏡をかけた二人によって胸囲を測られたり、股下を測られたり、体重を測定されたりした。
身長を測る際にアービターが非常に背が高いため、脚立を使ったりと慌ただしく『身体検査』は進む。
最後に幾つかアレルギーについてシャマルから質問され、その答えとアービターの身体データを書いた紙を持って男女は医務室を後にした。

「見つからないようにね~」

去っていく二人に呑気に声をかけるシャマル。二人が去って自動扉が閉まるとアービターがシャマルに問いかける。

「どういうことだ?」
「『身体検査』なんてただの名目、本当は貴方が着ることになる、制服やトレーニングウェアの採寸をしたのよ」

ペロッと、少女のように舌を出して悪戯っぽく笑う。
最後に紙に何かを書きこみながらアービターに質問。

「これで取り敢えずはおしまい。他に何か聞きたいことはあるかしら?」
「一つだけ」
「ん?」
「私が恐くないのか?」

その言葉を聞いた途端、ペンの動きが止まる。
机に紙とペンを置き、最初に医務室を訪れた時のような微笑みを見せた。

「ええ、貴方がとても良い人だって事は聞いてるから」
「…」
「『人は見かけによらぬもの』って誰かが言ったわ。人を見かけで判断するなんて、最低以外の何物でもないのよ」
「わかった、世話になった」
「何かあったらいつでも来て頂戴、それでは」

シャマルは椅子から立ち上がり、壁に掛けてある内線用の電話で連絡を入れる。
数分もしない内に、制服の集団が医務室にやってきた。









それから数日間、何の変化も訪れない日が続く。
医務室に行く事は無くなり、定期的に身体検査を行い、差し出された食事を食べる。
食事は中々のものであり、異星人であるアービターも問題なく食べられた。
食べて、寝て、暇を見つけては腕立て等の運動を行い、ある日―――

「釈放だ」

ある日の朝、扉の覗き窓から声がかかる。
いつもの『身体検査』ではなく、『釈放』。
扉が開くと、そこには何時ものように制服の集団―――の中に見知った顔があった。

「御苦労さん、後は私がやります」

制服の集団が見知った顔に一礼すると、去って行く。
後に残されたのは異形の戦士と、

「ご迷惑をおかけしました、アービターさん」
「気にするな」

髪留めを交差させて前髪に付けた少女、『八神はやて』だった。





「これがアービターさんの部屋になります」

留置所を後にして、はやてに案内された場所。クローゼットやベッドに全身鏡、机に本棚など簡単な家具が置かれている。これからアービターが暮らすことになる部屋。
ふと、アービターは机の上に二つの包装された二つの箱が置いてあることに気付く。
はやてもその視線に気付き、ニヤニヤとしながら箱の説明を始めた。

「ああ、それはアービターさん用の制服とトレーニングウェアです。今から皆にアービターさんの事を紹介するから着替えてくれませんか?」
「わかった」
「それでは~」

手を振りながら部屋を出ていくはやて、扉がしまったことを確認すると机の上の箱を手に取り、蓋を開けた。
中には新品の茶色い制服がビニールに包まれており、ビニールが部屋に差し込む光を反射して光っている。
丁寧にビニールを開け制服を取り出し、目の前で広げまじまじと見つめた。
卸し立ての制服は皺一つなく、ボタンの一つ一つまでもが輝く。
自分の世界でしばらくは人類と共に過ごしていた為、袖の通し方やボタンの掛け方などに問題はなかった。
ズボンを穿きベルトを締め、最後に紺色のネクタイを手にする。
うろ覚えだが、記憶を頼りになんとかネクタイを締め。部屋の隅に置いてある全身鏡で自分の身嗜みをチェック。
鎧姿が当たり前だったアービターにとって、今の自分はまるで自分自身ではないような錯覚に陥った。
ふと、はやてが待っていることを思い出し、部屋を後にする。

「お? よく似合ってますやん」
「そうか?」

部屋の入口脇で待っていたはやては、アービターの姿を見るなり嬉しそうに感想を漏らす。
アーマー以外の物を着たことがない彼にとって、戦闘になんの有用性も無い服を褒められることは、あまり理解ができなかった。

「ささ、早く行きましょう。みんな待ってますよ」

早足で駆け出す少女を、異形はゆっくりと後を追った。












天窓から日が差し込む六課のロビー。そこには複数の人影。
機動六課に所属する部隊『スターズ』と『ライトニング』の隊員達の姿があった。
全員は部隊長であるはやてから「新しく入る人を紹介するから、ロビーで全員待機すように」と言われ、十分ほどロビーで待っていた。

「はやてちゃんが新しく人が来るって言ってたけど、どんな人だろう?」
「はやてが言うには『物凄く頼りになる人』らしいけど…」

言葉を交わすのは、スターズとライトニングの隊長である、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。互いに向かい合って首を傾げる。
その周りでは副隊長のヴィータにシグナム、新人フォワード達がこれから来るであろう人物について、互いに話し合っていた。
ふと、なのはが廊下に顔を向けると、件の八神はやてがやって来る。なのはにはその顔は気のせいか、どこかニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているように見える。

「あ、はやてちゃん。今日新しく配属する人って…」

なのはの表情が凍りつく。その声に反応した他の面々も顔を廊下に向け、同じく表情を凍り付かせた。
はやての少し後ろ、ちょうど廊下の曲がり角を曲がった所に『それ』がいた。
身長は2メートルを有に越え、肌は爬虫類を思わせる質感。首が異様に長く、顎が左右に割れている。
そんな人外の存在が管理局員の制服を着ており。なのは達の思考は一瞬にして停止した。

「ん? どうしたんや皆?」
「あの、はやてちゃん。新しく来る『人』って…」
「ああ、紹介するで。今日から新しく機動六課に配属になった、アービターさんや。みんな仲良くしてな」
「アービターだ、よろしく頼む」

人外の挨拶に思考が再起動するメンバー。挨拶を返すのが礼儀であるのだが、突然の出会いに全員が戸惑っている。
そんな中、逸早く行動に移ったのは、青い髪の少女『スバル・ナカジマ』。その場から一歩踏み出し、右手を差し出す。

「機動六課スターズ隊所属、スバル・ナカジマです。よろしくお願いします!」
「よろしく頼む」

差し出された右手を人外の手が握った。スバルは肌の質感から、ヌメヌメとした感触を覚悟していたが、握られた手の感触は人間と差ほど変わりがなかった。
数度手を上下させ、握られた手を解く。スバルの後に続いて、残るメンバーを自己紹介を始める。

「スターズ隊隊長、高町なのはです」
「ライトニング隊所属、エリオ・モンディアルです」
「同じく、キャロ・ル・ルシエです」

スバルと同じように互いに握手を交わし。次に副隊長陣が自己紹介。

「ライトニング隊副隊長、シグナムだ。よろしく頼む」
「スターズ隊副隊長、ヴィータだ、よろしくな」

副隊長二人と握手し、最後に残るはフェイトとティアナ。二人は顔を引きつらせ、どう動くべきが必死に考えていた。
当然ながら、ここで自分たちも自己紹介するのが普通であろう。しかし、頭では理解していても、何故か体が金縛りになったかのように動かない。
そんな二人の様子に、なのはは首を傾げる。

「どうしたの、二人とも?」
「え? いや、その…」
「いや、なのは、あのね…」

突然話しかけられ、慌てふためくティアナとフェイト。互いに横目でチラチラと視線を送る。
二人はどうしても自分から進んで、アービターに自己紹介をする気になれない。
だからせめて隣の人が先に済ませれば、少しは気が楽になると思い、先ほどから視線を送りあう。

「ほらほら、時間がないからまずはティアナから」
「ふ、ふぇ!?」

何の前触れもなく突然先鋒を決められ動揺するティアナ。
一瞬下を向いたかと思うと、何かを決意したかのように即座に顔を上げ、一歩前に踏み出す。
目の前の異形に右手を差し出し、どことなく引きつった笑みを浮かべ、

「ス、スターズ隊所属、ティアナ・ランスターです。よ、よろしくお願いします」
「よろしく頼む」

握手を交わし、再び元の位置に戻るティアナ。しかし、その動作の一つ一つが何所かぎこちない。
ティアナが自己紹介を終え、最後に残ったのは一人。言うまでもなくフェイト。既に自己紹介を終えた全員の視線が、一斉にフェイトに向けられる。
本人たちにそんなつもりは無いだろうが、フェイトには16の瞳が自分を睨みつけているように感じられた。
出来ることならここで泣き出したい、しかし、泣き出すわけにはいかない。フェイトの脳裏に目の前の異形と初めて出会った記憶が呼び覚まされる。
その記憶を必死にかき消し、遂に腹を括り、意を決して踏み出した。

「ラ、ライトニング隊隊長のフェイト・T・ハラオウンです。よ、よ、よろしくお願いします」

先ほどのティアナよりも、かなり声と動作を震わせながら手を差し出す。
手を握られた瞬間に、喉まで出掛かった悲鳴を呑み込み、握手を終える。
全員の自己紹介を終えたことを確認し、最後にはやてが声をあげた。

「よーし、みんな終わったな。改めて、アービターさんと仲良くするように!」

フェイトとティアナを睨みながら。
















「ほう、これはこれは…」
「ドクター、如何いたします?」

光が殆んど存在しないどこか。そこには二つの人影。
片方は興味深そうな男の声、もう片方は艶やかな女性の声。
二人の視線の先には、この空間の数少ない光源である巨大なモニター。

「ウーノ、コンタクトを試みよう。すぐに準備してくれ」
「わかりました」

女性が一礼し、どこかに去ってゆく。その姿が闇に消えるまで見届けた後、男はモニターに視線を戻す。

「これはまた、珍しい『お客様』が現れたものだ」

そう言って口元を押さえ、忍び笑いを漏らす。
巨大なモニターに映し出された映像―――
紫を基調とした奇妙なフォルムの、空飛ぶ船団が映っていた。















オマケ
「アービターからのメッセージ(?)」



「現在XBOX360にて、無料配信されているHALO WAYPOINT」

「そのWAYPOINTにて、日本のクリエイターが制作したアニメ『Halo Legends』が隔週土曜日に無料配信されている」

「ゲームとはまた違ったHALOの世界を、是非とも見てほしい」

「なお、たとえ見逃してしまっても2010年にBDとDVDにて販売が予定されている為、心配は無用だ」

「新たなるHALOをその眼に焼き付けろ!!」




「…はやて、これでいいのか?」

「OK、OK、バッチリや~、さーて、HALO3のオンラインをやらな、今度は24時間耐久を目指すで~」

「は、はやてちゃん。お仕事しなくちゃ」

「なのはちゃん、私は息をするのと同じくらい、コントローラーを握っていたいんや~…」

「…平和なものだ」

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最終更新:2009年11月22日 23:01