魔法少女リリカルキノ プロローグ

魔法少女リリカルキノ

プロローグ



快晴でした。そりゃもう快晴でした。
雲一つない空に灼熱の塊が浮かんで、地表を温めます。
その地表に一つの学園がありました。
度重なる魔物の襲撃により、対魔物に関する設備は万全の学園です。その学園にある一つの教室で、一人の女子生徒が時計を睨んでいます。
その睨み方、まるで親の仇か長年探し求めていた復讐の相手を、視線だけで殺そうとする程の迫力です。
ちなみにこの女子生徒、別に時計が嫌いだったり時計に関して嫌な思い出があるわけじゃありません。
あと少しで彼女の、それはそれは楽しみにしている時間。お昼休みが始まるのです。
時計は正午を1時間と28分を過ぎて、長針が6の数字に触れる寸前です。

「モウスコシ…モウスコシ…」

少女の口から、まるで世界を救うために自ら封印になることを選んだ、赤いドラゴンの様な声が漏れます。はっきり言って不気味です。
少女が居る教室。つまり現在少女が授業を受けている教室では、白い髪の美人の先生が、これまた白い髪の男子生徒の頭の上に顎を載せて、英語の教科書を読んでいます。
ちなみにこの光景はこの教室では見慣れたもので、生徒たちは特に気にせず黙々とノートを取っています。慣れって怖いですね。
その間に1分経過、長針と6の数字は限りなく近くなりました。秒針があと1回転するとお昼休みを告げるチャイムが鳴ります。
時計を睨む少女の目力が更に凄まじくなりました。ここまでくると目からレーザーが出てもおかしくないほどの迫力です。
そして秒針が折り返し地点を過ぎて、残り10秒で頂点に達する所まで移動しました。
少女は思わず『じゅうびょおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』と叫びたくなりますが、グッと堪えます。
普通に考えて10秒をじゅうびょおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!! なんて叫ぶ人間がいるわけありませんもんね。
仮に叫ぶ人がいたら、その人の感性を疑いたくなります。一体誰でしょうね、こんな叫びを考えた人は。
そして秒針はついに頂点に―――達する前にけたたましい警報がなりました。黒板の上のスピーカーから、面倒くさそうな女子生徒の声が流れてきます。

『えー、校内に魔物が出現しました。場所は体育館です。生徒は速やかにグラウンドに避難してくださーい』

教室の生徒達はダラダラと筆記用具や教科書をしまい、気だるそうに外に出て行きます。そして教室に残されたのは放心状態の女子生徒が1人。
目は見開き、口は半開き。まるで時間が停止したかのように微動だにしません。

「さぁ木乃、何時も通りに魔物を倒そうよ」

教室には木乃とよばれた女子生徒が1人しかいないのに、男の子の声が聞こえてきます。
呼ばれた木乃はゆっくりと視線を自分の腰に向けました。そこには緑色の皮と黄色い金属で出来た黄色いストラップ。

「ええ…わかってるわよ…」
「機嫌悪いねー」

なんと、男の子の声はこのストラップから発せられていたのです。
そして喋るストラップに視線を向けている木乃の表情。鬼の様な形相なんて言葉が、生易しいと思えるくらい凄まじいです。
机から立ち上がった木乃は乱暴に教室のカーテンを閉め、廊下に誰もいないことを確認。教室に戻り、腰からリヴォルバーのモデルガンを引き抜きました。

「私は魔物を許さない…絶対にだ…」

まるで地獄の底から聞こえてきそうな呻き声、とても少女が出せるようなものとは思えません。
そして大きく深呼吸。肺に空気を満たして、大声で絶叫。

「フロオオオォォォォォォム!!マアアァァイコオオォォォォルド!!デエエェェェェェッド!!ハアアァァァァァンズ!!!!」

同時にモデルガンの引き金を引きます。パポン!と頼りない音が響いて、教室が光で満たされました。



場所は変わってここは屋上。あちこちに苔やら雑草が生えて、人の手が生き届いて無いことが一目でわかります。その屋上に一人の男が居ました。
純白の詰襟制服に純白のマント。鼻から額にかけてこれまた純白のマスク、頭には真っ赤なリンゴが乗っかってます。腰には本物の日本刀が一振り。
誰かが見かけたら、即座に通報されてもおかしくない格好をしている変態。その名は『サモエド仮面』。
サモエド仮面が見つめる先、そこは体育館。先程から咆哮が聞こえたり、ビリビリと振動しています。
ニィと笑う変態。白い歯がキラリ。太陽に輝きます。

「さぁ、今日も正義を行使しちゃうぞ!」



更に場所は変わって、ここは体育館の隣の校舎。ちょうど体育館を真横から一望できる教室に、1人の黒尽くめがいました。
服装は真っ黒なコートに手には黒いグローブ、顔には真っ黒なサングラス。頭髪は正反対にシミ一つない真っ白な髪。それを後ろで一纏めにして垂らしています。
サングラス越しの視線がが見つめる先は体育館。中で何かが動いているのが分かります。

「今日こそ決着をつける…」



更に更に場所は変わってここは校内の渡り廊下。そこには小さな人影。
真っ白な頭髪にエメラルドグリーンの綺麗な瞳の小さな女の子が1人。膝当てと肘当てを付けて、背中にはかなり大きなリュックを背負ってます。
緑色の瞳が見つめる先には、やはり体育館。

「…」







さてさて、ここは件の体育館。中ではお察しの通り魔物が暴れています。
まるで人とライオンを中途半端に掛け合わせたような、なんとも不格好な魔物。
手当たり次第に近くにあるカーテンや歴代校長の写真、バスケットゴールなどを壊しています。
と、そこに突然。天窓を突き破って、ド派手にダイナミックエントリーしてくる人影が!
粉々に砕け散ったガラスのシャワーを浴びながら、体育館に降り立つ影。
一見すると姿は全く変わって無いですが、実際は全くの別人に変身した我らが『謎の美少女ガンファイターライダーキノ』! 正義のヒーローが参上しました。
キノは俯いていた顔をゆっくりと上げます。最初に見えた双眸に宿っていたもの、それは明確すぎるほどの『殺意』でした。
正義のヒーローが絶対に見せてはいけない瞳になっています。
口端が歪な角度で釣り上がり、見えた犬歯がやたらと鋭く見えます。完全に悪人の面構えです。

「さぁ、覚悟しなさい…、お昼を邪魔された罪は…、死を持って償って貰う…」
「キノ、殺しちゃダメだよ」

そんなエルメスの言葉を完全に無視。腰にぶら下げたポーチに右手を伸ばします。
タバコ2箱分の大きさしかないのに、あるとあらゆる銃器が詰っている四次元ポーチ。はてさて、今回はどんな銃が出るのでしょうか。
少しだけ中を漁って、遂に今回の銃器を掴みました。気の弱い人が見たら失禁してもおかしくない程に、キノの顔が残酷に微笑みます。怖いです。
勢いよく引き抜かれた右手が高々と掲げられます。その手に握られていた銃は、

「キノ、いくらなんでもそれはちょっと…」

銃身の下部に並んだ幾つもの刃。普通の銃には必要無い、されど普通じゃないこの銃には必須のガソリンエンジン。
良く見ると、銃身のあちこちに赤黒いものがこびり付いています。ここまで書けば、わかる人にはもうお判りでしょう。
今回キノが選んだ獲物、作者もこよなく愛している銃。それは―――

「覚悟せええぇぇぇやあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ギ○ーズ・オブ・ウォーを象徴する。チェーンソー付きアサルトライフル、ランサーアサルトライフルです。
素早くエンジンを始動。黒煙を噴き上げながらチェーンソーが動き出します。
勢いよく床を蹴り付け、魔物へと全力疾走。あと数秒もしない内に魔物がランサーでミンチにされるかもしれない、その時でした。
再び響き渡るガラスが砕け散る音が、しかも複数。思わずキノは立ち止まってしまいます。
次々と体育館に降り立つ人影。その正体は、

「ふはははは! ピンチの様だな、謎のキノ!」
「けりを着けて…じゃなかった。けりを着けようか、サモエド仮面!」
「…」

一人は変態仮面男。一人は黒コート。そしてもう一人はとことん無口な少女が現れました。
ここに、史上稀に見るカオスフィールドが展開されました。
変態仮面はカッコつけるようにゆっくりと顔を上げます。そして真っ先に見えた者は、

「…」
「ぴぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

彼の唯一にして最大の天敵であり弱点。爆弾使いのティーが目の前に立っていました。
何を考えているか分からない瞳で、サモエド仮面を見詰めています。
サモエド仮面、恐ろしい早さの後退りで一瞬にして体育館の隅に逃げ込み、縮こまります。物凄く情けないです。
そして原作の初登場から、何故かサモエド仮面を目の敵にしている。黒尽くめことワンワン刑事。
これ幸いと言わんばかりに、両手に持っているMP5SDの銃口を変態に向けようとした瞬間。

「うわっ! は、離れろ!!」
「…」

ティーがゼロシフトでも使ったかのような速さで、ワンワン刑事の頭にしがみ付きます。
ワンワン刑事、じたばたと暴れたり。頭を激しく振ったりしますが、接着剤でも使ったようにティーは離れません。
ただでさえカオスな空間が更に混沌を極めます。収集がつきません。

「…」
「キノ、魔物」

ハッと我に返る主人公。突然の事態に茫然としていました。
ランサーを握り直し、至福の一時(昼飯の時間)を邪魔した、憎たらしい魔物をミンチにすべく改めて突撃しようとして、

「え?」
「あ?」
「む?」
「ふぇ?」
「…?」

その場にいた4人と1つが疑問符を頭上に浮かべます。無理もありません。
だって魔物の体がいきなり発光を始めましたから。
光はどんどん強くなって、終いには光源である魔物の姿すら見えなくなるほど強くなりました。
余りの眩しさに4人は目を細め、手で目を覆います。
そして光が最高潮に達した時でした。

「「「「わああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…」」」」

何とも情けない叫び声を残して、発光は収まりました。
そして後に残ったのは、体育館の中央に倒れている。気絶した男子生徒が一人だけでした。
キノ達の姿はどこにも見当たりません。一体どこに消えたのでしょうか―――







さてさて、そんなこんなで運命の歯車は動きだします。書いた作者が言うのも何ですが、この言葉ちょっと古臭く感じますね。
キノ達は読者の皆様の予想通り、ミッドチルダに飛ばされました。質量兵器が禁止された世界で、キノ達はどうやって闘うのでしょう。
魔法少女リリカルキノ、いよいよ開幕―――

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最終更新:2010年08月26日 23:59