ACE COMBAT ~THE UNSUNG Striker~
プロローグ
ソラからやってきた禍々しい”ソレ”…”SOLG”は、復讐心と憎悪が生んだまさに地獄の門であった。
<<こちらエッジ、フェニックスもサイドワインダーもすべて撃ち切りました、バルカンもすでに弾切れです>>
いつも冷静な2番機から悲鳴にも似た叫びが聞こえる。
<<こちらソーズマン、こっちも空っ欠だ>>
<<こちらアーチャー、残念ながらこちらも同じです>>
2番機に続き、3番機と4番機も戦闘能力を失った事を告げる。
しかし、”SOLG”を絶対に地上に落とすわけにはいかない。
”SOLG”が落ちればまた無益な血が大量に流れ、それを糧に憎悪が肥大し同じことを繰り返す。
だからここで断たなければならない、憎しみの連鎖を。
「こちらブレイズ、俺はまだサイドワインダー1発とバルカンが406発ある」
MFD(多機能ディスプレイ)に目をやり、兵装の残弾を確認する。
“SOLG”のオーレッド落下阻止限界点までは後5分を切り、後続の航空機隊はとてもじゃないが間に合わない。
“SOLG”の中枢ユニットは後一つ、そこを破壊すれば”SOLG”の砲身に装填された非核弾頭のMIRVに誘爆して”SOLG”は空中で爆散するはずだ。
しかし現状の兵装では確実に中枢ユニットを破壊できる保証は無い。
確実に”SOLG”を破壊するためには、砲身に機体ごと突っ込んで確実にMIRVを爆破する必要がある。
迷っている暇は無い。
「ブレイズよりオーカニエーバ、SOLGに現在装填されているのは本当に非核弾頭弾で”V2”では無いんだな?」
<<その通りだよラーズグリーズ、早くSOLGを破壊してくれ>>
オーカニエーバは少しでも緊張を和らげようと、軽い口調で質問に応じた。
これで最終確認はすんだ。
「こちらブレイズ、ラーズグリーズ2から4は万が一の事態に備えてこの空域から退避しろ」
万が一に備えて、仲間を安全な空域まで退避させる。
<<ブレイズ、必ず戻ってきて>>
離脱の間際にエッジがそう通信をよこす、左右にバンクを数回打ってそれに応えるが、おそらくそれは果たせないだろう。
少し罪悪感を感じるが、迷っている時間も無い。
死かも知れないというのに思考は、自分でも呆れるほどに冷静だ。
仲間の離脱を確認し、最後にもう一度エッジに回線を開く。
「ナガセへ、こちらブレイズ、悪いが約束は果たせそうに無い」
<<ブレイズ、それはいったい…>>
最後まで聞かずに、回線をとじて深呼吸をする、覚悟は出来た、後は行動に移すのみ。
スロットルを開けてアフターバーナーを数秒点火し、650ノットまで加速させる、するとF-14D+(スーパートムキャット+)の主翼の後退角が深くなり、矢じりのようになった機体が腹に響く咆哮をあげる。
ラダーペダルとスティックを慎重に操作し、機体を”SOLG”の砲身に滑り込ませる。
“SOLG”の砲身がいくら巨大といっても、音速に近い速度で飛行している戦闘機からすればあっと言う間だ。
目の前にMIRVの弾頭が迫る、バルカンを選択して減速しながら1秒ほど制射を行う。バルカンの着弾点から火球が膨らみ、それはあっと言う間に広がり、自機を包んだ。
自機が炎に包まれる瞬間に、視界が一瞬暗転し、炎よりも明るい何かに吸い込まれた。
ここでラーズグリーズ1の翼跡は一旦途絶える事になる。
光の中を抜けた時には、知らない空を飛んでいた。
とりあえず、ELT(航空機用救難無線機)を作動させて、計器に異常が無いかを確かめる。
高度計と油圧計は問題無い、挙動も正常で燃料はまだ594072ガロン有るため、暫くは問題無い。
しかし妙だ、奇跡的に”SOLG”の爆発から逃れる事が出来たのは良いとしても、VOR-TAC(戦術航法距離測定装置)に応答が無い、それにオーレッド沿岸で”SOLG”を破壊したのに今は山間部付近を飛行している。
「おいおいどうなってるんだ、場末のSFじゃあるまいし」
そう胸中で呟く。下を見るが人工物は見当たらない、少なくともオーレッド近郊では無いようだ。
どうするべきか思案している最中にレーダーに20ほど反応があった、編隊を組んで飛んでいるそれは、鳥の群れにも見えるがそれにしては1つ1つの反応が大きすぎる、しかし有人航空機にしては小さい、とすればUAVドローン(無人航空機)ということになる。
IFFに応答は無いが迷っている時間は無いか、そう呟き念の為マスターアームをオンにした状態で接近する。あのUAVがオーシアの物ならこちらを攻撃してくる事は無いはずだ、だが万が一ベルカの手の物だったら間違い無く戦闘になる。
UAVの編隊まで400m程の距離まで接近したところで、全てのUAVがこちらに機首を向けた。
反射的にダイブをすると、先ほどまで機体があった場所に鋭い光が殺到する。
「レーザー機銃、クソッ奴等はベルカか!?」
アフターバーナーを点火して離脱を試みる、あっけない程すんなり敵を引き離す事に成功した。
追ってくるUAVの編隊から3kmほど距離を離し、インメルマンターンで反転しUAVに向かって近接信管に設定した最後のAIM-9Xサイドワインダーを発射する。
「ブレイズ、FOX2」
受け取る者は居ないが、すでに癖になってしまった発射コールを呟く。
サイドワインダーは一瞬で音速を超えて、吸い込まれるようにUAVの群れに飛び込み爆散した。サイドワインダーの破片をもろに浴びたUAV6機ほどが黒煙を上げながら墜ちてゆく、編隊の崩れたUAV群に正面からバルカンを2秒ほど乱射しながら突っ込む、それで4機を撃墜し一旦離脱する。
交差する瞬間、UAVの形状を間近で確認する。
「おいおい、あんな形状の機体見た事無いぞ」
敵機は形状からすると、ベルカの手の機体ではない。それに考えてみればベルカ、いやノースオーシア・グランダーI.G.ですらTLS(戦略レーザー)を有人戦闘機に搭載するのがやっとの技術のはずだ。
そうなると、今対峙しているUAVの異常性が浮き上がってくる。
離脱する事も考えたが、警告無しで突然攻撃してくるような危険な無人兵器を野放しにすることを良しと出来ない自分に苦笑しつつも、反転し再び攻撃態勢に入る。
バルカンは後96発、墜とせて後1~2機が限界だ。
考えるのは後だ、一旦頭の外に疑問を押し出す。
敵を十分引き付けてバルカンを撃ち放つ、1秒にも満たない射撃で、全弾を撃ち切る。
これで更に、2機を撃墜することが出来たが敵は後8機、すべての武装を使い切り完全に攻撃能力を失った今の状態では、もうどうする事も出来ない。
こちらの弾切れに気づいたのかUAVは、2機1編隊を組みこちらを追い込もうとする。
まるでこうなる瞬間を待ち構えていたかのように、桜色の閃光がUAVを1編隊まとめて吹き飛ばす。
その閃光の発生源に目をやると、白いコートのような物を羽織った女性が杖のような物を構え浮かんでいた。
「おいおい…、SFの次はファンタジーか!?」
そんな言葉が思わず口をついて出た。
とりあえず浮いている女性の上で旋回を始める、すると彼女の足元に円形の模様が現れ、何本もの桜色の光球が現れて、その一つ一つが意思を持った蛇の様にUAVを貫いてゆく。
「すごい…」
誰にとも知れず口中に呟く、するとそれが聞こえていたかのように彼女がこちらに視線を送る。
それに気付きこちらに戦意が無い事を示すため、飛行灯を点灯させランディングギアを降ろし、その状態で左右にバンクを数回振る。
気付いてくれよ、そう祈るような気持ちで彼女を見つめる。
彼女はどうやらこちらの意図に気付いてくれたらしい、杖の先をこちらに向けたままではあるが、攻撃の意思は感じられない。
安堵のため息が漏れる。
彼女がこちらに近づいて来た、彼女に速度を合わせる為にエアブレーキを展開しエンジン出力を絞る。
ヘルメットのバイザーを上げマスクを外す。
彼女は手招きする様なジェスチャー、付いて来いと言う事だろう、行く当ても無く何時までも飛んでいられない現状から考えると、決して最良の選択とは言えないが従うより他無い、また数回バンクを振ってから敬礼をして了解の意を伝える。
そのまま彼女に追従して数分飛行をすると、下に鉄道のレールらしい物が見えてきたところでレーダーに反応が現れた、3km先12時方向に反応、IFFにもちろん応答は無くUNKNOWNと表示されている、前方に目をやるとヘリが上昇してきているらしい。
ヘリは今まで匍匐飛行をしていたからレーダーに反応が無かったらしい、見たところヘリは大型の輸送ヘリだ。
彼女はそのヘリの開けっ放しになったカーゴハッチから機内に収まった、どうやらこのヘリは兵員輸送ヘリで彼女が所属する組織の主な移動手段なのだろう、まぁそんな事はどうでもいいのだがこのヘリも今までに見た事の無い物だった。
もっともポピュラーな兵員輸送ヘリのMH-60はテイルローターを装備してキャビンのドアは両サイドに配置してある、陸軍の大型輸送ヘリであるMH-49のカーゴハッチは機体後部に配置されているがメインローターがタンデムで配置してある、しかし今目の前にあるヘリはそれらのヘリの特徴と一致しない、見たところメインローターのトルクを打ち消すための装備が無いように見えるが、ノーター機であればその説明は付くのだが、ノーター機は実験機が数機製造されただけで実用化には至っていない。
「これは益々SFだな」
自分が知っている世界とはまったく違うレベルの技術をこうまで見せ付けられると、此処が自分の世界とは似て非なる世界なのだと言う絵空事のような感覚が現実味を増す。
そのままヘリに追従して飛行すると、30分弱で洋上空港にさしかかった。
ヘリは高度を落としギアを下ろして着陸態勢に入る、どうやらエプロン(駐機スペース)に降りるようだ。
その洋上空港には民間機はおろか軍用機の姿も見えず、誘導灯も点灯していない、明らかに現在は使用されていない様子だったが、ここに降りる以外の選択肢は残されていない、ギアが下りっぱなしになっているのを確認しフラップを下げてエンジン出力を調整し着陸態勢に入る。
数秒後に軽い衝撃とともに数時間ぶりに大地に帰ってきた。
しかしいつもの様な開放感や安堵感はこっれぽっちも感じない、その代わりにこみ上げてきた物は焦燥感と喪失感だった。
しかしここで茫然自失としていても事態は好転しない、訓練生時代にバートレット大尉に最もしごかれた不時着後やベイルアウト後にやるべき事を思い起こしながら、キャノピーを開けタラップに足を掛けてシートからサバイバルキットとMP9サブマシンガンを取り出す。
エプロンの方に目をやると着陸したヘリから2人の女性がこちらに向かって文字通り飛んできている所だった。
反射的にメインギアの裏側に隠れた、隠れて如何こうしようという訳ではないが、とりあえずは相手の出方を伺う必要があった。
「あの、この飛行機のパイロットの方?」
若い女性の声、ひょっとすると少女と言っても差し支えない程に澄んだ声だった。
チラッと様子を伺うと2人のうち片方は先程こちらを援護した女性だった、腹を括って話しかける。
「先程は危ないところを助けていただき感謝している、だがまだ君達が確実に味方であるという確証が無い、だから武器を収めて欲しい、そうすればこちらは君達の指示に大人しく従う」
そう言って、MP9からマガジンを抜き、チャージングハンドルを引きチェンバーをオープンにして彼女達の方に放り投げる。
こちらが非武装だという事はコレでアピールはできた、後は運を天に任せるのみだ。
「そちらに交戦の意思が無い事は分りました、しかしこちらの武装解除はどうあっても聞き届ける事が出来ません、しかし私たちは貴方の敵ではありません、どうか信じてください」
こちらの意向は分って貰えた様だがやはり武装解除は土台無理な相談だったか、だが彼女の言葉からは悪意と言うか嘘を吐いている様な印象は感じられない。
どの道、今は彼女の言葉を信じるより他は無い。
「分った、君達を信じよう」
両手を上げて、メインギアの影から彼女達の前までゆっくりと歩みだす。
「貴方がこの飛行機のパイロットですか?」
その問いに首肯で応える。
「私は時空管理局古代遺物管理部機動6課所属の高町なのは一等空尉です、貴方のお名前は?」
そう促され条件反射で敬礼をしながら答える。
「申遅れました、私はオーシア国防空軍サンド島分遣隊ウォードック飛行隊体長の…ブレイズ、階級は少佐です」
コレがこの世界と彼女たちとのファーストコンタクトであり、もう一つの謳われない戦いの始まりだった。
最終更新:2010年10月17日 04:51