ACE COMBAT ~THE UNSUNG Striker~
Ep.01 邂逅
そのまま、高町一等空尉ともう一人居た女性、テスタロッサ執務官(階級的には一尉相当官だそうだ)に連れられて彼女等のヘリに乗せられた。
ヘリに乗り込んだときに驚いたのが、子供が乗っていた事である。
まだエレメンタルスクールに通っていてもおかしくない位の年齢の子供が居るのはどう考えても不自然だ、しかしここは元居た世界とは違うという感覚がそれから実感を奪っていた。
この事で後にひと悶着起こすのだが、それはまだ先の話である。
話によれば、これから彼女等の基地に連れて行かれてそこで色々と調べるらしい。
なんでも俺は次元漂流者と言って、意図せずに平行世界(次元世界)の壁を越えてしまったらしい。
時空管理局とはそういった人間の保護と、元の世界への送還も行っているらしい、高町一等空尉はすぐに戻れると行ってくれたが、こちらの所属を言ったときに僅かに動揺したと言うか予想外の答が返ってきた時の驚きの様なそんな目を一瞬した。
という事は、少なくとも彼女はオーシア空軍を知らない可能性がある。
そうなると長期間…いや元の世界に帰れ無い事も想像に難くない、だが絶望するにはまだ早い、もっと絶望的な状況下でも自分は生きて此処までやって来た。
だから、今回もなんとかなるさ。
そうやって頭の中から不安を追い出す。
ヘリに乗り込んでから40分程で目的地である機動六課の隊舎に着いた。
ヘリから降りると、そのまま高町に案内されてドラマでよく見るような取調室の様な部屋に通された。
まずは事情聴取という事らしい、事情聴取ということはある程度の役職の人間が現れるのだろうと思い身構えつつも、高町にことわって手近な椅子に腰を掛ける、暫くして高町と入れ替わりで現れた人物に今日何度目か分らない驚愕を覚えた。
今目の前に居るのはどう見ても17~8歳の女性だ、いやこの世界に来てからと言うもの会話してきた人物は皆ティーンエイジャーだったと思う。
この世界は15歳ほどで成人なのだろうか…。
そんな取り止めの無い事を考えていると、声を掛けられ慌てて返事をする。
「は、はいっ!?」
「ブレイズさん、大丈夫ですか?」
目の前の彼女が怪訝そうな表情でこちらを見据える。
「失礼しました、自分はオーシア国防空軍第108戦術戦闘飛行隊、通称サンド島分遣隊ウォードック飛行隊隊長のブレイズです、階級は一応少佐です」
椅子から立ち上がり、敬礼する。
彼女は一瞬呆気にとられた様だったが、まぁお掛け下さいとこちらに着席を促す。
促されたので再び椅子に腰を下ろす。
「ご丁寧にどうも、私は時空管理局古代遺物管理部機動6課部隊長の八神はやて二等陸佐です、今回はとんだ災難でしたね、それに戦闘に巻き込んでしまったことは心よりお詫び申し上げます」
そう言って彼女は頭を下げようとするが、それを手で制する。
「そう言うのは無しにしましょう、そちらからして見れば私が突然現れただけですし、それにあの時は微力ながらこちらにも戦闘能力は有りましたからね、それと敬語と営業スマイルは止して下さい、ここでは貴女の方が立場が上ですし、そう畏まられるとこちらが恐縮してしまいます」
そこまでこちらが言い終わると八神二等陸佐はそれまで顔に貼り付けていた営業スマイルを消し、ふぅと溜息を吐いてニヤリと笑う。
「いやーお見通しでしたか、でも話の分りそうな人で安心しましたわ、しかし随分と落ち着いてはる様やけど?」
「現状は一応把握出来てますし、それに多少の修羅場は潜って来ましたからね、それでどうなんですか、私の元居た世界の見当は付いたんですか?」
そう言って苦笑した俺を見て、彼女は沈痛そうな面持ちで首を振った。
そんな彼女を横目に俺は小さく溜息を漏らして言った。
「なぁに、そんな顔はやめて下さい、こっちまで憂鬱になってしまいます」
そう言って苦笑する俺を見て、怪訝そうな視線を寄こす。
「ブレイズさんは悲しゅう無いんですか?」
「悲しくないと言えば嘘になります、しかし悲しんでいたって何も始まりはしません問題はこれからどうするかですよ、と言うわけでこの話はここまでにしましょう、それより八神二等陸佐には還る時の為にトムキャットの燃料と武装の補給とは言いませんが、せめてチャフとフレアの補給はお願いしたいのですがよろしいですか?」
そう言って彼女の返答を待つと返ってきたのは予想の斜め上を行く発言だった。
「チャフ?フレア?それって何やろか?」
「はぁっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
いやしかし、彼女は部隊司令という事は文官だろうし階級に陸と付いているので陸軍属という事だろう、航空機に関する知識が無くても納得が出来るのだが、しかし所属が同じ高町一等空尉は空尉と付いている以上、空軍属のはずだ。
という事はこの部隊はタスク・フォース、混成部隊という事だろうか……あぁ駄目だこんがらがって来た。
「あの…ブレイズさん?それでチャフやらフレアやらっていったい?」
そう促されてやっと我に返り、慌てて答える。
「あぁご存知無いんですか、デコイですよミサイルを回避するための、チャフは長~中距離レーダー誘導方式のミサイル回避用で、フレアが短距離IR誘導方式のミサイル回避用の物です、原理的な話は割愛しときます」
そう言って愛想笑をする。
「でも何でそないな物が必要なんですか?」
「あぁ理由ですか、理由は元居た世界で戦争やってたんですよ、まぁこっちに転移する前に終わらせてきた筈なんですが、ちょっと事情が複雑でしてね、まぁ念には念をというやつですよ」
戦争という単語を聞いたとたん彼女の顔から笑みが消えた。
「よければその事情を詳しく話してはもらえへんやろか?」
そう言った彼女の眼には、好奇等の色は一切無く深い悲しみを湛えた真摯な眼差しだった、彼女になら話しても大丈夫か。
そう思いまずは確認をする。
「話せば長いですが、よろしいですか?」
静かに深く頷く彼女を確認してから、口を開く
「15年前、世界を巻き込む大きな戦争がありました、そして今回の戦争は15年前のベルカ戦争が引き金になっていました……、ベルカ公国、その比類なき工業力で強力な軍事力を整備していたかつての大国は、世界情勢を見誤り自らが引起した戦争により滅びの道を歩みました、そしてそのベルカ公国から牙を奪った2つの超大国、それがオーシア連邦とユークトバニア連邦共和国です、その2大国に戦争の責任を擦り付けて憎悪を肥大化させていった旧ベルカ公国軍上層部は国際協力の名の下にそれぞれの軍部に食込みました、冷戦構造下の2大国がベルカ戦争以来の反戦ムードを汲んだ和平路線政策を嫌った好戦派の軍人に取り入って互いの猜疑心を煽り力を蓄えながら冷戦を灼熱の戦争に変えようと暗躍しました、その結果起こったのが今回のオーシア、ユークトバニア間における戦争です」
ここまで一気に話して、一心地つけてからここまでは理解できましたか、と彼女に尋ねる。
「えぇ、一応は」
俯き加減に彼女がそう応えたのを確認して続ける。
「それで私は、所謂”知りすぎた人間”って奴でして、オーシア空軍にアグレッサー(仮想敵部隊)として派遣されていた元ベルカ空軍のエースパイロット部隊、通称グラーバク飛行隊の関与とオーシア連邦の大統領の行方不明と言う事実を知ってしまい、好戦派の軍上層部の策略でスパイとして追われる身となりました、その後この戦争に疑問を持った部隊と合流して、大統領と同じく囚われていたユークトバニア首相をベルカの手から救い戦争を終わらせた所で私はこちらに転移してしまいました、だからどの部隊にベルカの息がかかっているのか私には分りません、戻った途端に味方のフリをした敵に即撃墜されるなんて私は嫌ですからね」
空気が重くなってしまったので笑ってみる、しかし彼女は笑わない。
「あの…最後は笑う所ですよ?」
「いや笑えませんて、そんな重たい話!!」
若干息を巻いて詰め寄る彼女なだめて続ける。
「いや…確かに辛い事や後悔も沢山有ります、ですがそれを考えて答を出す時間が来るのは全てを片付けた後ですよ、それでこちらの要請は受諾して頂けるんですか?」
彼女は最後の問いに少々不意を付かれたのか、少々面食らった様だったが慌てずに答えてくれた。
「えぇ、攻撃兵器では無いようやしチャフとフレアそれに燃料に関しては補給が出来るように手配しときます」
「有難うございます、八神二等陸佐殿」
一応、礼儀は通しておかねばと思い、起立して敬礼するが今度はこちらが手で制される。
「そういうのはお互い無しにしまへんか?」
そう言って彼女はニヤリと笑う
コレは一本取られた、俺は苦笑いで返す。
「では改めまして、ありがとう八神さん」
「いやー当然の事をしたまでですよ、それよりもう2~3聞きたいことが有るんやけど、大丈夫やろか?」
「えぇ、勿論かまいませんよ」
じゃあ遠慮なくと言いつつ彼女はまたニヤリと笑った。
「ブレイズっちゅうのは本名なん?本名なら出来ればフルネームを教えてもらいたいんやけど」
静かに首を左右に振って答える。
「いいえタッグ・ネームです、本名はさっき言った通りの事情なので使うのは控えてるんですよ、それに本名を使わないのは大統領から直接下された命令なので本名は申し訳ありませんが明かせません」
そう言って一応、頭を下げる。
「言えない言われたら余計気になってきたけどまぁ一旦置いときましょか、では次の質問や、ここに転移する直前は何やっとたんや?」
おぉ、これはまた確信に迫った質問だ、答えたいのは山々だが信じてもらえる確証が無かった、それはそうだろう戦闘機たった4機で落下してくる超大型軍事衛星を破壊してたなんて、しかしちょうどいい嘘も思いつかない、ここは有りのままを語るしか無い。
「信じてもらえないかも知れないのですが、ここに転移する直前に首都に向かって落下中だった超大型戦略軍事衛星を物理的に破壊していました、転移する直前はその衛星の爆発に巻き込まれた時でした…で信じてもらえます?」
「もちろん信じますよ、それくらいの事があらへんと次元転移なんて起きまへんもん」
驚くほどあっさり信じてもらえた様だ、彼女はなぜか自慢げに胸を張っている。
「まさか一発で信じてもらえるなんて思いませんでしたよ、そういえばこの後、俺はどうなるんです?」
「一応、身柄は拘束させてもらいます、あぁでも軟禁するわけや無いんで安心しといてくださいと言っても、この隊舎とブレイズさんの乗ってきた戦闘機が置いてある第8臨海空港しか自由に行動はさせてあげられへんけど」
そう言って少し申し訳無さそうにする彼女を見ていると、何故か自分がとても悪い事をしたのではと言う感覚を覚える。
「十分ですよ、あとF-14D+の整備と調査の時は立会いを許可していただきたいのですが」
「分りました、許可が出るように手配しときます」
「いや、助かりましたよ本当になんとお礼を言えばいいのか」
「だからお礼なんていいですって」
そう言って照れくさそうに笑う彼女を見て少し安心する、しかし彼女が若くして司令なんて役職をやっているのかがわかる気がした。
「今日はお疲れのようやし事情聴取はこれくらいにしとこか、じゃあ私はこれで失礼しますわ、ブレイズさんは直に案内を寄越しますんでそれに従ってや」
そう言って足早に部屋を出る彼女を見送り、背もたれに体を預けて少し眼をつぶる。
「そういえば、最後にベッドで寝たのは何時間くらい前だったっけ……」
そう呟いた瞬間、溜まっていた疲労がどっとあふれ出し、瞼と頭が重くなる。
「少しだけ…案内の人が来るまで……」
そう呟き、意識を手放してしまった。
最終更新:2010年10月17日 04:47