THE OPERATION LYRICAL_24

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


第24話 御稜威の王


憎しみの炎よ、空を焦がせ。
大地を葬る薪に火をつけて――それが、人の受けるべき救いである。


いきなり病室全体が揺れて、なのはは目を覚ます。
"ゆりかご"戦にて負傷した彼女は、周囲の者たちの手で半ば強引にここ、聖王医療院に入院させられていた。六課の医務室は先の爆撃で崩れたま
まなのもあるが、それ以上に「放っておくとまた無茶をする」と言うのが、主な理由であった。

「なのはママ……」

自分のすぐそばで静かに寝息を立てていたヴィヴィオも、何事かと目を覚まし、不安げな表情を露にさせていた。

「――ごめんね、ママにも分からない」

ひょいっとヴィヴィオの小さな身体を持ち上げて、彼女は何があったのか確かめるべく、病室を出ようとする。
ところがそうするまでもなく、医療院のスタッフが慌しい様子で病室に駆け込んできた。開かれたドアの奥からは、何人もの入院者の悲鳴や、そ
れを誘導しようとするスタッフたちの怒号が飛び交っていた。

「すぐに避難してください、ここは危険です」
「何があったんですか?」

なのははスタッフに尋ねてみたが、彼は返答よりも避難誘導を優先し、「いいから早く!」となのはを急かした。
やむを得ず、なのはは不安な表情をしたままのヴィヴィオを腕に、スタッフの避難誘導にしたがって病室を出た。

「あ……」

途中、ヴィヴィオが窓の外に何かあることに気づき、声を上げた。釣られてなのはも廊下の窓に目をやり――思わず、立ち止まってしまった。
窓の外、夜空を埋め尽くすのは美しい流れ星の群れ。だが、そのうちのいくつかは高度を下げると凶暴な赤い隕石に変貌し、地表に向かって落ち
ていく。落着地点と思しき場所では、赤い業火が上がり空を焦がしていた。

「ママ、怖い」

ぎゅっと、ヴィヴィオが震える手でなのはの肩にしがみ付く。彼女はそれで我に返り、廊下を走り出す。

「大丈夫だよ、ヴィヴィオ」
「ホント……?」

道中、怖がるヴィヴィオを安心させようと、なのはは優しげな笑みを浮かべ、空を見上げた。

「ママの友達たちが、きっと何とかしてくれるから」
「メビウスおじさんも?」

ぷっと、なのははヴィヴィオの口から出た思わぬ言葉に噴き出してしまった。こんな幼い少女でさえ、彼を頼りにしている。
それにしても"おじさん"とは、酷い言われ様だ。それが、なのはには可笑しくてしょうがなかった。

「――うん。メビウスさんも、助けに来てくれるよ」

アテにしてますからね、となのはは胸のうちで呟いた。


死の流星が降り注ぐ中、地上本部戦闘機隊も緊急発進し、空中にて編隊を整えていた。

「信じらんねぇ……隕石が落ちてくる」

F/A-18Fを駆るアヴァランチが、呻くように呟いた。陸士からパイロットに転向したことで色々陸からでは見れないものも見れる、と彼は考えて
いたが、これはあまりに予想外な光景だった。

「こちらゴーストアイ、ぼさっとしている暇はないぞ。隕石群はクラナガンを中心に降り注いでいる、迎撃しろ!」

空中管制機、ゴーストアイからの指示が飛ぶ。しかし、いくら高度な火器管制機能を持った戦闘機と言えども、隕石の迎撃は困難を極めた。
F-16Cを駆るパイロット、ウィンドホバーはレーダーに隕石を捉え、ロックオンをしようと試みる。だが、キャノピーの外、正面から突如赤い光
が急接近していることに気付き、操縦桿を右に倒す。
F-16Cは右にロールを打つ。直後、機体のすぐそばを掠め飛ぶように行き過ぎるのは、自身がロックオンしようとした隕石だった。

「……速い!? ダメだ、正面から近づいたらあっという間に交差しちまう!」
「俺に任せろ」

ウィンドホバーが取り逃がした隕石を追うのは、Mir-2000を駆るスカイキッド。快速を誇る彼の機体は隕石をその射程に収めた。
レーダー誘導の中距離空対空ミサイルでは近すぎる。スカイキッドはウエポン・システムに手を伸ばし、赤外線誘導の短距離空対空ミサイル、
AIM-9サイドワインダーを選択。大気圏を突破し、赤い炎を纏った隕石から発せられる赤外線の量は膨大だ。AIM-9は簡単に隕石をロックオンする。

「ロックオン、フォックス2!」

スカイキッドはミサイルの発射スイッチを押す。Mir-2000の特徴的なデルタ翼の下から、AIM-9が飛び出した。
放たれたAIM-9は膨大な赤外線を放つ隕石に突っ込み、爆発。爆風と衝撃をもろに食らった隕石は砕かれ、無力化されるはずだった。

「……ん!? 何!?」

ところが、ミサイルの直撃を受けた隕石は砕かれはしたものの、細かい破片がそのまま宙に投げ出され、地面に降り注いでいってしまう。これで
は破片一つ一つの威力は小さくても、広範囲にばら撒かれてしまうため、迎撃に成功したとは言えない。

「くそったれ、ミサイルじゃ威力不足だ! 中途半端に砕いても、破片が散らばる!」
「余計に被害が増えちまう可能性があるのか、畜生」

クラナガン市街では、まだ避難は完了していない。自分たちが、どうにかして食い止めなければ。
一発でダメなら――スカイキッドの失敗を目の当たりにしたアヴァランチは、再び落ちてきた隕石を後方から追跡。ロックオンすると、ミサイル
の発射スイッチを連打した。
F/A-18Fの主翼下から、二発の中距離空対空ミサイル、AIM-120AMRAAMが放たれる。AIM-9より大型で射程も長く、威力も大きいこれなら、と踏んだ
が、結果は予想通りだった。
アヴァランチの放った二発のAIM-120は隕石に直撃、衝撃が隕石を木っ端微塵に砕き、散らばる破片は爆風に飲み込まれ、跡形もなく消えていく。
そうでなくても、わずかに残った破片は小さく砕かれ、地面に落ちても被害ははるかに小さくなる。
隕石一つにつき、AMRAAMを二発か――。
予想通りの結果だったが、アヴァランチは決していい顔はしなかった。むしろ、深刻な表情を浮かべ、見張りと電子機器の操作を担当する後席の
パイロットに、残りの隕石の数を尋ねる。

「残りは?」
「――ダメだ、分からん。人口密集地域に落ちるものだけに絞っても、正確な数は把握できない」

だろうな、とアヴァランチは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。ミサイルの残弾が尽きた時、もはや打つ手はなくなるのだ。
それでも、戦闘機隊は諦めることなく、降り注ぐ隕石の群れに立ち向かう。下のクラナガン市街ではまだ、避難が完了していないのだから。


そのクラナガン市街では、陸士たちが懸命な避難誘導と救助活動を行っていた。
しかし、避難と言ってもどこに避難すればいいのか。頑丈な地下シェルターには限りがあるし、隕石の落着予想地点も、情報が錯誤してどこに逃
げればいいか分からない状態だ。

「こちら陸士三〇九部隊、市民を避難誘導中……人手が足りない、応援を寄越せ!」
「三〇二部隊、ビルが崩れて進路を塞がれた、新しいルートを探す」
「空から隕石が落ちてきてるんだぞ、どこに避難しろってんだ!?」

悲鳴と怒号の中、ベルツ率いるB部隊も、いつものアサルトライフルやサブマシンガンの代わりに救助用装備を担ぎ、クラナガン市街を駆け回って
いた。今は、市民からの通報により、崩れたビルの向こうに取り残された人がいると言う情報を受け、瓦礫の破砕作業を急いでいた。
「こんなところでレスキュー隊の真似事とはな――急げよ、上にも注意しろ!」
周囲では火災が起きて、吹き付ける風は熱風そのものだ。暑くてたまない上、隕石が自分たちのいる場所に落ちてくる可能性も捨てきれない。
だからこそ救助を急がねばならないのだが――ベルツは自ら手にした携行式のドリルの性能に、思わず悪態を漏らした。こんなちゃちなものでは
いつまで経っても瓦礫は崩せない。出来たとしても、その頃には要救助者は炎に巻かれている。重機は避難誘導の邪魔になるので、持ち込めない
でいた。

「くそったれ!」

ぱきん、と金属音を立てて、ドリルの先端が欠けてしまった。ベルツはそれを地面に叩きつけて、素手で目の前の瓦礫を掴んで引きずろうとする。
だが、そんな彼の行為を止める人物がいた。ベルツが振り返ると、いつか見た青い髪に緑色の目をした少女が、バリアジャケット姿で迫っていた。

「……ナカジマ陸士!?」
「すいません、遅くなりました! はぁあああ!」

クラナガン奪回戦の際、窮地を救ってくれたスバルが、その手のリボルバーナックルを瓦礫に叩き込む。あれほど苦労したコンクリートの瓦礫は
いとも簡単に崩れ落ち、どうにか通り抜けられそうな穴が出来た。その向こうで、地面にへたり込んで泣いている子供が二人。

「もう大丈夫だよ――ベルツ二尉、この子達を!」
「おう、任せろ」

穴を潜ったスバルは両腕で子供たちを抱え、ベルツに引き渡す。子供は相変わらず泣いていたが、助けられたことで安心したのか、ひとまず話を
聞いてくれるほどに落ち着いた。

「ようし、よく頑張ったな坊主たち。お父さんとお母さんは?」
「お父さんは……お母さんは……」
「あっち……」

子供の指差す方向に、ベルツとスバルは目をやる。崩れ落ちたビルの向こう、地獄の業火のごとくの勢いで燃え盛る乗用車が一台、そこにあった。
おそらく、この子たちの両親は我が子だけでも逃がそうとしたのだろう。そして、自分たちは脱出に遅れてしまった。もはやあの様子では骨の一
片も残っていないはずだ。

「……分かった、お父さんとお母さんは、必ず助ける。ナカジマ陸士、この子達を安全なところへ」
「――了解」

薄々、子供たちも感づいているかもしれない。だが、ベルツはあえて彼らの頭を撫でて、スバルに子供たちを託した。
子供たちを預かったスバルはベルツたちと離れ、マッハキャリバーから繰り出されるウイングロードを駆使して、瓦礫や炎を避けながら進む。

「スバルさん!」

当初から定められていた会合地点。そこでは、フリードに跨ったキャロが待機していた。要救助者を安全地帯に運ぶのが目的だ。

「キャロ、この子達をお願い!」
「ハイッ。フリード、行ける?」

キャロの問いかけに、フリードは雄々しい雄叫びを上げて返事をした。スバルは救助した子供たちを、フリードの背中に乗せる。
フリードが翼を羽ばたかせて空に上がろうとする――だが、何かに気付いて彼は動きを止めた。

「待って、この子も――!」
「お願いします!」

声がした方向に、スバルとキャロは振り返る。女の子を背負ったティアナとエリオが、やって来ていた。
一人くらい増えるのは、フリードにとって大した問題ではない。だが、ティアナが背負ってきた子供は、長時間炎に取り囲まれて、衰弱していた。
早急に救護所に送る必要がある。

「急ごう、フリード!」

子供たちを乗せたフリードは空に舞い上がり、ひとまず救護所に向かうことにした。
依然として流星飛び交う夜空に飛び立っていくキャロとフリードを見送り、残ったティアナたちは駆け出す。まだ、助けるべき命はある。


クラナガン郊外に設けられた、臨時救護所。
六課医務官のシャマルは、次々と運び込まれる負傷者たちの治療に回っていた。運び込まれる者は重傷、軽傷と容態は様々だが、明らかに助かる
見込みのないものは、後回しにせざるを得ない。
――ごめんなさい、恨んでくれていいわ。
後回しにされていく負傷者の眼が、シャマルにはたまらなかった。多くの眼は虚ろで意識があるのかはっきりしないが、中には明らかに、後回し
にされたことで落胆、失望、恨みと様々な負の感情が篭った眼でこちらを見る者がいた。
胸のうちで彼らに謝りながら、シャマルは治療魔法をフル活用して、負傷者たちの傷を癒していく。

「シャマルさん、負傷者さらに追加です! 子供が三人!」

その時、臨時救護所にフリードが舞い降りてきて、キャロがシャマルに駆け寄ってきた。彼女の後ろに目をやると、管理局の局員たちが、フリー
ドの背中から子供たちを三人下ろし、容態を確認している。いずれも早期に治療すれば、何も問題はない。

「あぁ、ありがとう……っ」

キャロに礼を言って、シャマルははっとなる。彼女たちの臨時救護所に、空から赤い火の玉が迫りつつあった。紛れもなく、落ちてきた隕石だ。

「――退避を、急いで!」

叫び、シャマルは周囲に負傷者を急いで逃がすよう伝える。だが、それよりもよっぽど速く、隕石は降下してくる。
これは、どうやっても間に合うまい。バインドで止められるようなものでもない――しかし、臨時救護所の前に、突如飛び出してくる影があった。

「やらせんっ!」

降りかかってくる隕石、だがその進路を、青い防御魔法が遮る。並みの防御では防げない代物だったにも関わらず、砕け散ったのは隕石の方だった。
立ち塞がったのは、蒼い守護獣、ザフィーラ。負傷が癒えた彼は、ついに前線に舞い戻ってきたのだ。

「遅れてすまんな」

ぶっきらぼうにザフィーラは言い放ち、救護所の前に陣取る。
――あの時は、守れなかった。だが、今回はそうはいかん。
脳裏をよぎるのは、機動六課を壊滅させた燃料気化爆弾が起爆した瞬間。苦い記憶だが、今はそれすら、糧にしなければならない。
力強く大地に踏みとどまったザフィーラは、未だ隕石が降り止まない空を睨んだ。


「――見えた!」

愛機F-22で緊急出撃したメビウス1は、ようやくクラナガン市街を目視する。夜間ではあったが、皮肉にも各地で発生した火災が、夜空を照らし
てくれる。
くそ、と彼は胸のうちで吐き捨て、未だ降り止む様子を見せない流星群を睨みつける。
この光景は、かつて自分がユージア大陸で目にしたものとほぼ同じだ。この地でまた、あの悲劇が繰り返されようとしている。それだけは阻止し
なければ。その思いが、彼の闘志を奮い立たせる。

「メビウス1、あまり熱くなるな。冷静を保て」
「――ああ、分かってる」

彼の様子を察したのか、同じく出撃したシグナムが声をかけてきた。メビウス1は酸素マスクから送られてくる酸素をたっぷり吸って、適当に頷
いて返答する。

「とは言え、これは酷いね……」

眼下でつい昨日まで、取り戻された平和を謳歌していたはずのクラナガン市街の惨状を目の当たりにして、フェイトが呻くように言った。高度は
それなりに高いはずなのだが、吹き付けてくる風には熱さがある。紛れもなく、下の火災が原因だ。

「なんとかして、止めへんとな。よし、作戦通りにいくで」
「了解!」

今回、自ら出撃した騎士甲冑姿のはやての言葉を受けて、ヴィータ、シグナム、フェイト、メビウス1はこれまで維持していた編隊を崩す。
作戦と言っても、さほど複雑なものではない。落ちてくる隕石はミサイル一発程度では中途半端に砕けて、かえって被害を広範囲に撒き散らして
しまうとの報告から、広域攻撃が可能なはやてを中心に隕石を迎撃するのである。メビウス1たちは、詠唱中無防備になるはやてを撃ち漏らした
隕石から何重もの防衛線を張って守るのが任務だ。

「ゴーストアイ、聞こえますか? こちら機動六課、ロングアーチです。これより、隕石迎撃のため、広域攻撃を行います。展開中の友軍に退避
勧告を」
「こちらゴーストアイ、了解した。我々だけでは手に負えん、頼む」

管制のゴーストアイを通じて、はやてはまず友軍機を退避させる。味方を巻き込んでは元も子もない。

「行くで、リイン」
「はいです、はやてちゃん!」

ユニゾンして、自分の中にいるリインフォースにはやては声をかけ、自身のデバイスであるシュベルトクロイツを構える。
六課の司令室の方は、まだ機能を完全に取り戻していない。今回は高度な探知能力を持つゴーストアイとデータリンクを行い、降り注ぐ隕石群を
探知、迎撃することにする。

「――来た、方位二二〇! 複数、クラナガン市街地に接近!」
「了解」

さっそく、ゴーストアイが目標を発見し、通信回線を介してデータを送ってくる。はやてはリインフォースと呼吸を合わせ、詠唱を開始。

「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ――」

足元に古代ベルカ式の魔力陣を展開。シュベルトクロイツを天に掲げ、彼女は魔力を高めていく。隕石を粉々に砕くためには、中途半端な威力で
は意味を成さないのだ。

「――敵!? 敵戦闘機、及びガジェットⅡ型、多数出現!」
「おいでなすったか。メビウス1から各員、迎撃するぞ。八神、詠唱を続けろ」
「おおきにっ」

案の定、と言うべきか。ゴーストアイのレーダーが、クラナガン市街上空に接近中の敵影を発見した。おそらく、管理局の迎撃活動を妨害するた
めだ。メビウス1のF-22が先頭になり、これを迎え撃つ。はやては礼を言って、詠唱を続ける。
――あれやな!
方位二二〇、はやての眼はクラナガンに迫る赤い隕石群を目視する。同時に、リインフォースが詠唱が完了したことを彼女に告げる。

「詠唱完了、行けます!」
「了解――フレースヴェルグ、行っけぇ!」

シュベルトクロイツを振り下ろす。放たれた大量の魔力は、地面に落ちるはずだった隕石を飲み込み、それらを跡形もなく消滅させていく。
閃光が夜空に走り、次の瞬間には何事もなかったように、隕石群は消え去っていた。迎撃成功だ。

「よっしゃ、次行くでリイン!」
「はいです! ゴーストアイ、データを下さい!」

まだまだ流星群は降り止まない。はやてとリインフォースはひとまずの迎撃成功に決して気を緩めることなく、ゴーストアイに更なる目標のデー
タを要請する。
ところが、ゴーストアイから送られてきたのはデータでなく、警告だった。

「待て――敵機接近、ステルスか!? ロングアーチ、狙われているぞ!」
「なっ……」

はっとなって、はやては周囲に視線を巡らせる。はるか眼下、もう目視で識別が可能な距離に、ゴーストアイの言う敵機、Su-47が迫りつつあった。
ステルス機ゆえ、ゴーストアイのレーダーを持ってしても探知が遅れてしまったのだ。
二機編隊を組んだSu-47は獲物を見つけた鷹のように、その特徴的な前進翼を翻し、はやてに接近する。双発の大型機であるにも関わらず、Su-47
の動きは俊敏で、逃げることは難しそうだ。
ええい、とはやては顔に焦りを浮かべ、その場から逃走する。なんとかして振り切らねばならない。だと言うのに、ゴーストアイのレーダーは更な
る隕石群を発見してしまった。

「こちらゴーストアイ、隕石群を発見。方位二八〇から――誰でもいい、八神二佐を狙う敵機を落とせ!」

だが、彼女を守るべき友軍は目の前の敵機の相手で精一杯だった。援護に回る頃には、隕石群がクラナガンに落ちるか、はやてがSu-47に撃墜され
てしまうか、どちらかだろう。

「ええわ、何とか隕石だけでも落としてみせる。リイン、悪いけど付き合ってもらうで」
「承知の上です」

逃げ回ることをやめて、はやてはその場に踏み止まり、シュベルトクロイツを構える。Su-47はいきなり彼女が急停止したことで行き過ぎてしまっ
た。こいつらがUターンして戻ってくるまでが、タイムリミットだ。
――間に合って、何とか。
詠唱の時間が、非常にもどかしく感じる。だが、半端なところで放っても意味がない。
隕石群が彼女の眼に映るのと、Su-47が反転し、はやてを射程に収めたのはほぼ同時だった。
詠唱完了。彼女はシュベルトクロイツを振り下ろし、再びフレースヴェルグ、流星から隕石に成れ果てた、死者をも飲み込む閃光を解き放つ。
落着するはずだった隕石は光の渦に飲み込まれ、空中で消滅する。はやてはほっと一息ついて、直後に接近中の敵機の存在を思い出す。
迫るSu-47の黒い影。胴体内のウエポン・ベイが開かれ、彼女を叩き落すべく短距離空対空ミサイル、R-73が姿を現していた。射程内なのにまだ撃
とうとしないのは、距離を詰めて必中に持ち込みたいからだろう。
せめてもの抵抗として、はやてはSu-47を正面から睨み付けた。黒い質量兵器の凶暴な面構えが、そこにある。

「……!」

だが、突然はるか上空から赤い曳光弾が降って来て、Su-47の胴体を貫く。いきなり穴だらけにされたSu-47はミサイルをはやてに放つことなく、
ぐらりと力なく機首を落とし、空中で爆発した。
残り一機のSu-47は機首を跳ね上げて上昇、突然逃げを打つ。その後ろ姿にミサイルが急接近、爆発。後部胴体を爆風と破片に食いちぎられたSu-47は
残りの部分も燃料に引火したのか炎上、四散する。
訳も分からずはやてが視線を動かすと、そこには尾翼にリボンのマークをつけたF-22の姿があった。

「無事か、八神?」
「――ええ、何とか。さすが、メビウスさんやね。二機ともあっという間に……」
「いや、最初の一機は俺じゃない」

彼女の言葉を遮る形で、メビウス1ははやてに上を向くよう指示してきた。
言われた通り顔を上げてみると――そこには、見慣れない戦闘機が一機。機体全体を灰色主体の迷彩で彩り、主翼や尾翼の先端を黄色で塗り潰し
たSu-37。機首には同じく黄色で「13」とあった。

「――嘘、やろ」

彼女も話は聞いていた。F-22を駆る無敵のエース、メビウス1と唯一互角に戦えるパイロットが、スカリエッティ側に付き、そして捕虜になった
ことを。それが今まさに、自分の目の前にいた。

「――こちら黄色の13、援護に回る」

――黄色の13。それが、彼の名だった。




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最終更新:2009年02月21日 20:18