THE OPERATION LYRICAL_24後編

時間は少し遡って、管理局管轄の留置場。
黄色の13と更正組のナンバーズたちは、いよいよ明日に更正プログラムが始まると言うことで、早めに就寝していた。監房入りする組はすでに
出発し、各々無人世界にて監視されている。
だが、彼らの安眠を、突然巻き起こった大地をも揺らす衝撃が遮った。
目覚まし時計にしては過激すぎる。そもそも今何時だと思っているのだ、と皆は文句を垂らしながら起きて、小さな小窓から外の様子を伺う。

「……うわ!? 13、外が」
「外がどうしたって?」

ベッドの上に乗って窓から外を見ていたノーヴェに呼ばれ、黄色の13は同じように窓を覗き込む。
そこで、彼は息を呑んだ。夜空から降り注ぐ流星群、その中からいくつかの流れ星が高度を落とし、凶暴な隕石に姿を変えて地表に落ちてきてい
る。落着地点と思しき場所では赤い炎が舞い上がり、夜空を焦がさんばかりに燃え上がっていた。
――これは、まさか。
黄色の13も、見覚えのある光景が目の前で繰り返されていることに気付いた。あの日――ユージア大陸での戦争の原因を生んだ、"ユリシーズ"
の墜落。あの時と、今の光景は酷似していた。

「13……」
「なんだ、チンク」
「看守がいない」
「何!?」

チンクの言葉で黄色の13はベッドから飛び降り、鉄格子のついた扉に近づく。鉄格子の隙間から、かろうじて外の様子が見えるのだ。
そこに、いつもなら同僚と気楽に談笑している看守の姿はなかった。残されているのは、明らかに慌てて飛び出して行った様子が伺える、散らか
った看守たちの荷物だけ。
――あいつら、自分たちだけ逃げたな!
扉を思い切り殴りつけ、黄色の13は怒りをあらわにする。看守が扉のロックを解除しなければ、自分たちはここから出られない。
もし、あの隕石がこの留置場に落ちてきたら――同じことを考えていたらしく、黄色の13が振り返ると、みんな不安げな表情を浮かべていた。

「13、どうするんスか。看守が逃げちゃったら、あたしたちは……」
「分かってる。扉をぶち破るぞ、ベッドを持て」
『えぇ!?』

いきなり突拍子もないことを言い出した黄色の13に驚く彼女たちだったが、固有技能はみんな封印されている。ならば、力ずくで扉を破壊する
しかあるまい。

「行くよ、せーのっ……」
「よっと」

まずはオットー、ディード、ディエチ、チンクがベッドの上にあった毛布をひっぺ返し、他のベッドを動かして扉までの進路を開拓する。
次にノーヴェ、ウェンディ、セイン、黄色の13がベッドの四隅を持ち上げ、扉に向ける。あとはこれで突撃して、扉を打ち破る。原始的だが、
ベッドはそれなりに重い。何度も叩きつければ、行けるかもしれない。

「いいか、3、2、1……」
「行け!」

四人は走り、ベッドの先端を扉に叩きつける。高い金属音が鳴り響くが、扉はびくともしない。

「……もう一度だ、行くぞ」

現実は意外と厳しいものだな、と黄色の13は胸のうちで吐き捨て、途中、メンバーを交代しながら何度も何度も彼女たちと協力して、扉を打ち
破ろうとする。最初のうちはびくともしない扉だったが、さすがに何度も重いベッドを叩きつけられては耐えられないようだ。徐々にひしゃげ、
あと一撃仕掛ければ、完全に打ち破れそうだ。

「頑張れ、あと一息だ。行くぞ、3、2、1……」
「抜けろぉぉぉおお!」

ノーヴェが咆哮を上げる。再び直撃を受けた扉は今度こそノックダウンし、力尽きたように地面に倒れた。

「やった、やったッスよ」
「助かった……」

歓声を上げて、彼らは外に出る。
だが、部屋を出ただけで安心するのはまだ早い。通信機で助けを呼ぶなり、車でも調達してこの場から逃げるなりする必要があるだろう。

「そうだ、通信所……」

セインが思い出したように駆け出す。この留置場に入れられる寸前、彼女は外に通信所があるのを思い出した。
外に飛び出て、しかし彼女は唖然とした。通信所は、すでに隕石の直撃を受けて、跡形もなく吹き飛んでいた。

「――こりゃ、助けを呼ぶのは無理そうだな」
「そんな……」

がっくりと肩を落とすセインの背中を「諦めるな」と叩き、黄色の13は今度は移動手段がないか、彼女たちと協力して留置場を探し回る。
ジープの一台でもあれば、と思ったが、もともとクラナガンより遠く離れた土地である。人員や物資の移送手段は、完全に航空機に頼っていた。
車はどこにも無かった。
――待てよ、航空機?
はっと黄色の13は思い出し、留置場の中で一際大きな区画、格納庫へと走る。
眠る前に、セインから自分の愛機であるSu-37がここに運び込まれているとの話を聞いた。もしかしたらと思い、彼は格納庫の扉を蹴り開けて、中
に入る。

「やはりあったか!」

一瞬だけ、黄色の13は喜びの表情を浮かべた。"ゆりかご"戦にてメビウス1に戦闘能力だけを奪われ、結果的に見逃された愛機、Su-37がそこに
あった。
急いで機体を目視点検してみると、修理は完了していることに気付く。飛ぶことには問題なさそうだ。

「13!? こいつで何を……」
「飛ばして助けを呼ぶ。手伝ってくれ」

後を追ってきたチンクが何をする気なのか黄色の13に尋ねたが、彼の一言で全てを察して、梯子をSu-37のコクピットに引っ掛けた。

「忘れもんッスよ」

コクピットに乗り込もうとした黄色の13に、ウェンディが偶然見つけたヘルメットを手渡す。幸いにもサイズは合っていた。黄色の13は礼を
言ってから、彼女たちに離れるよう指示。そしてオットーとディードに格納庫の扉を開けさせると、愛機のエンジンを始動させる。
――起きろ、相棒。
黄色の13の言葉に答えるように、Su-37は眼を覚ます。二基のAL-37FUエンジンが咆哮を上げ、コクピット内の計器に光が灯る。通信機のスイッ
チを入れてみたが、雑音ばかりで人間の声は入ってこない。離陸して、高度を高めに取った方がいいかもしれない。
最低限の機体の点検を行い、黄色の13はエンジン・スロットルレバーをわずかに押し込む。Su-37は動き出し、格納庫を出ようとする。

「13、頼むぞ!」

振り返ると、ナンバーズの皆が手を振っていた。黄色の13は親指を立てて答え、本来輸送機が使う滑走路まで機体を進ませると、ただちに離陸
する。


離陸に成功した黄色の13は高度を取って、通信機で留置場に人が取り残されていることを、こちらの電波を拾ってくれた空中管制機ゴーストアイ
に告げる。ゴーストアイはただちにヘリを送ると言ってきた。これでひとまず、彼女たちは助かるだろう。
それにしても――。
黄色の13は周囲を見渡す。夜空を焦がす紅蓮の炎を身に纏った隕石は、次々とクラナガンを中心にして、地表に落ちていく。無人地帯ならとも
かく、人口密集地域に落ちたら何百もの人命が一度に失われてしまうだろう。

「……あれは?」

その時、黄色の13はクラナガンの方角で、空に巨大な閃光が走るのを目撃した。閃光は落ちてきた隕石を飲み込み、消滅させる。もしかしたら、
管理局の連中が隕石を迎撃しているのかもしれない。
――助太刀すべき、か。
どの道、隕石を止めなければ、留置場で助けを待つナンバーズたちも危険なことに変わりはないのだ。ウエポン・システムで機体の武装を確認し
てみると、ミサイルはないが機関砲弾だけは満載されていることが分かった。この機体を運び込んだ地上本部の連中は、射撃のデモンストレーシ
ョンでも、彼にやらせたかったのだろう。今となっては好都合だ。
黄色の13はエンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。Su-37は一気に加速し、クラナガンへと向かっていく。


「と言うことだ、納得したか?」
「ああ――了解」

黄色の13からの説明を受けたメビウス1は頷き、念のためSu-37に照準を合わせていた機関砲のセーフティを元に戻した。
レーダー画面に視線を落とすと、まだまだ敵機の数は多い。ガジェットは主にフェイト、シグナム、ヴィータたちが、戦闘機はアヴァランチ、ウ
ィンドホバー、スカイキッドたちが迎撃している。その最中、彼ら彼女らに守られながら、はやては隕石迎撃に集中している。

「……敵機を蹴散らす。13、付き合ってくれるか?」

操縦桿を捻り、メビウス1はF-22をSu-37と並ぶように飛ばす。Su-37のコクピットに眼をやると、黄色の13がこちらを向いているのが見えた。

「人に物を頼むときは、お願いしますだろ? まぁいい――手伝ってやる」
「かわいくないな。よし――行くぞ」

互いに頷き、F-22とSu-37は主翼を翻し、敵機の群れに飛び掛っていく。
片や、リボン付き。片や、黄色中隊。ユージア大陸最強の二つの翼が今、ここに揃い共に戦いを始めた。
彼らの前に立ち塞がったのは、例によって無人機、タイフーンとラファールの合同編隊だった。それぞれ二機ずつ、まっすぐ突っ込んでくる。

「蹴散らすぞ、撃ち漏らしを頼む」
「心得た」

黄色の13の返答と同時に、メビウス1はウエポン・システムに手を伸ばしてAIM-120を選択。手始めに手前の二機をロックオンし、ミサイル発射
スイッチを二回押す。

「メビウス1、フォックス3」

胴体内のウエポン・ベイが開かれ、AIM-120が二発、切り離される。わずかに降下したAIM-120はしかしロケットモーター点火、加速し、ロックオ
ンした二機のタイフーンとラファールに向かって突き進む。
二機は二手に分かれて回避機動を取り、AIM-120から逃れようとする。タイフーンは一瞬反応が遅れたため逃げ切れず、AIM-120が直撃。爆風と衝
撃で機体を粉々に粉砕されてしまった。残る一機、ラファールは急機動の連続でどうにかAIM-120を振り切ろうとする。だが、その行方を、赤い曳
光弾が遮る。死角から接近した黄色の13のSu-37が、機関砲の照準をラファールに合わせていた。
もっとも、彼には機関砲を当てるつもりは無かった。いきなり機関砲を撃たれたことでラファールは進路を変え、そこにAIM-120が飛び込む。爆発、
破片と爆風がラファールの胴体をズタズタに引き裂き、撃墜する。

「うまいぞ、13――っと、いけね」

黄色の13のフォローに感心しつつ、メビウス1は残り二機のタイフーンとラファールが接近していることを思い出す。仲間を撃墜された彼らか
らは、無人機のはずなのに、鬼気迫るものがあった。
冗談じゃないぜ、とメビウス1はフレアの放出ボタンを叩き、事前に赤外線誘導のミサイルにロックオンされないようにしてから、操縦桿を引く。
F-22の機首が跳ね上がり、急上昇。上から圧し掛かってくるようなGがメビウス1を襲うが、彼はさらに操縦桿を右手前に引く。F-22は主翼を翻し
反転、急降下。突然の方向転換に、タイフーンとラファールはついて行けない様子だった。

「13!」
「任せろ」

直後、メビウス1を援護すべくタイフーンとラファールの後方に回り込んでいた黄色の13とすれ違う。彼のSu-37は機関砲の照準を、まずは手近
なところにいたラファールに合わせる。
黄色の13はわずかにラダーペダルを踏み込み、Su-37の機首を右に向かせ、機関砲の引き金を引く。放たれた三〇ミリの赤い曳光弾はラファール
の進路上に割り込み、コクピット、デルタ翼、エンジンを撃ちぬいて行く。全身穴だらけにされたラファールはコントロールを失い、空中で爆発
する。
残るタイフーンは高度をひたすら上げて逃げを打つが、その先にはメビウス1のF-22が待ち構えていた。と言って高度を下げると、そこには黄色
の13の駆るSu-37がいる。
無人機に人格は無いが、もはや運が悪かったとしか言いようがあるまい。彼が喧嘩を売ったのは、よりにもよって――ユージア大陸で最強の、エー
スパイロットたちなのだから。
F-22の二〇ミリ機関砲、Su-37の三〇ミリ機関砲が、一斉にタイフーンに浴びせられる。二人のエースから集中砲火を受けたタイフーンはなす術も
なく、全身を機関砲弾の雨に晒され、夜空に散った。

「――撃墜。まさか、あんたと組む羽目になるなんてな」
「不満か、リボン付き?」
「いいや――」

戦闘中だというのに、この不思議な高揚感、一体感。思えば、ユージア大陸にいた頃は、メビウス1はいつも僚機は伴わず、単独で戦っていた。
これが、僚機。それも黄色の13と言う、トップクラスのエースとの合同編隊だ。不満があるはずがない。
黄色の13の問いにメビウス1は苦笑いしつつ、操縦桿を翻し、次の目標に移る。

「最高さ、あんたとなら誰にも負けない」
「それは光栄だ」

黄色の13も続く。その強さはまさに、鬼神の如くだった。


目の前を不用意に飛ぶガジェットⅡ型。その胴体をレヴァンティンで真っ二つにして、シグナムは周囲に視線を巡らせる。

「だいたいは、片付けたか……」
「そのよう……だね」

同じく、目の前のガジェットを蹴散らしていたフェイトも、彼女の言葉に同意する。
戦闘機はメビウス1と黄色の13、地上本部の戦闘機隊によってほぼ全機が撃墜された。ガジェットも、数えるほどしか残ってない。
上空では、依然としてはやてが降り注ぐ隕石を迎撃している。彼女が迎撃を開始してから、今のところ新たな被害報告は入っていなかった。
眼下の火災もいくらか落ち着きを見せ、救助活動が進められていた。戦闘終了後は、自分たちもあの中に加わることになる。

「やっと一息か――何だったんだ、いったい」

安堵のため息を吐いて、グラーフアイゼンを構える腕を下ろして、ヴィータが言った。いきなり降ってきた隕石群、その正体は現在調査中だ。
とは言え、ひとまず情勢は落ち着こうとしていた。誰もが肩の力を抜き、やれやれと安心している――まさにその瞬間、通信回線に、何者かの音
声が割り込んできた。

「何だ? ゴーストアイ、これは――」
「待て――音声照合、完了……ジェイル・スカリエッティ!?」

ゴーストアイの言葉で、その場にいた全員が、はっと視線を上げる。通信回線に割り込んできた音声は、紛れも無く、"ゆりかご"戦以来、行方不
明になっているスカリエッティ、その人のものだった。

「ミッドチルダの諸君、こんばんわ――」


どこかの薄暗い、コンピューターのディスプレイだけが灯りを灯している部屋。そこに、スカリエッティはいた。
目の前の回線ジャックに使ったコンピューターに向かって、彼は狂気の笑顔のまま、言葉を放ち始める。

「どうかな? 綺麗な流れ星は、お楽しみ頂けただろうか。これは、私からのささやかなプレゼントだよ。喜んでもらえると嬉しい……」

もちろん、喜ぶはずがない。その"綺麗な流れ星"とやらのおかげで、すでに多数の死傷者が出ている。彼はそれを承知の上で、言葉を言い放って
いた。

「さて、みんな疑問に思っているだろうから、答えてあげよう。私が何故、君たちの頭の上に流れ星を降らせたのか……時間をかけて、ゆっくり
丁寧にね……あぁ、せっかくだからBGMもつけて上げよう。曲名は、"恐ろしい御稜威の王"だ」

スカリエッティはコンピューターのキーボードを操作し、自分の言い放つ言葉に、まるで世界の終わりでも訪れたかのような"歌"を流す。


恐ろしい御稜威の王。奴は、そう言った。カリムの予言と、一致する。
不思議と、スカリエッティの言葉が通信回線に割り込んでから、隕石の墜落は収まっている。単にもう落とせないのか、それとも今は止めている
だけなのか。だが、はやてにはどちらでもよかった。

「何のつもりや、いったい……」

苛立ちをあらわにして、はやてはスカリエッティの言葉に耳を傾ける。バックでは、趣味の悪いBGMが響いていた

「古今東西、人間は争いを続けてきた。人類の歴史は戦争の歴史だ、と言われるほどにね。何故だと思う? 戦争はみんな嫌なはずだろう、誰も傷
つけたくないし、何より傷つけられたくない。だが戦争は、争いは繰り返される――そう、人間は心のどこかで常に戦争を追い求めているんだ。
違うと言うなら、これを見たまえ」

何かの操作をしているのだろうか。わずかに間があって、スカリエッティから送られてくる通信に、静止画像が加わった。
どこかの島だろうか。全体を頑丈そうな施設で覆われ、まるで王城のような雰囲気が漂っている。しかし、そこに暖かみは一切無い。冷徹なまで
に機能を追求した結果、偶然王城のような雰囲気が生まれただけ――そんな具合の、島が映っている。
何やこれ、とはやてが口に出す寸前、静止画像を見て驚愕する人物が一人、いた。メビウス1だった。

「……メガリス!? 馬鹿な、破壊したはずだ!」

彼の脳裏に、過去の記憶が急速に蘇ってくる。
この世界に飛ばされる寸前、エルジア残党が起動させた、悪魔の兵器。それが、"メガリス"である。無尽蔵の弾道ミサイルを地下に蓄え、それら
を宇宙、衛星軌道上に打ち上げる。打ち上げられた弾道ミサイルは軌道上に未だ多数残る小惑星"ユリシーズ"の残骸に命中し、地表に落下させる。
"ユリシーズ"が起こした悲劇を、人為的に再び繰り返させると言うこの悪魔の兵器。だが、メビウス1の手によってこれは破壊されたはずだった。

「お気づきの方もいるかもしれないねぇ。そう、メガリス。悪魔の兵器さ――人為的に隕石を地表に落とす代物だ。君たちに今回プレゼントを贈
ったのもこれの力さ。さぁ、これが何故、人が争いを追い求める証拠になるのかと言うとだ。このメガリス、元は異世界にあったものだ。異世界
と言っても、何ら変わらない、同じ人間が住み、生活を営んでいる……その世界では、"ユリシーズ"と言う隕石が落ちて、何百万もの人が死んだ。
何千万もの難民を生んだ。そして戦争が起きた。彼らは知っているはずなんだ、隕石が落ちたらどうなるか……だと言うのに、見たまえこのメガ
リスを! あれほど自分たちを追い詰めた隕石落としを、今度は人為的にやろうと言うんだ! 馬鹿げている、あぁ、まったくもって馬鹿げている
ねぇ!」

狂人の笑い声が、通信回線を通じて響き渡る。ひとしきり笑った彼は、さらに言葉を重ねていく。

「愚かだね、まったく人と言うのは……他にも"ゆりかご"、戦闘機、ミサイル、戦闘機人……つくづく人間は争いが大好きなんだ。そこでだ、私
はこのメガリスを使って、人間を救おうと思う。争いが大好きな人間に対して、いかに自分たちが愚かなのか、メガリスで教えてあげよう。それ
こそが、人間が受けるべき"救い"なのだよ!!」
「……飛行物体、急速接近! また隕石か――デカい、今までとは違う! 八神二佐!」

通信は、途切れた。それとほぼ同時に、ゴーストアイがレーダーに極端に大きな反応があることに気付く。
距離はまだかなりあるはずなのに、ゴーストアイが見つけたそれは、もう皆の視界に入っていた。全長およそ数キロの、巨大隕石だ。落ちれば、
クラナガン市街そのものが一撃で消し飛ぶだろう。
はやてはシュベルトクロイツをぎゅっと握り締めながら、眼下のクラナガン市街を眺めていた。
火災は落ち着こうとしているが、未だ全ての市民が避難を終えたわけではない。救助活動のための陸士も、まだ多数展開している。六課の新人フ
ォワード部隊も、彼らに混じって、必死に救助活動を行っているはずだ。
みんな、生きたい。生きようとしていた。生き永らえさせようとしていた。
だと言うのに、スカリエッティは、"救い"と言って、それらをあの隕石で吹き飛ばそうとしている。

「それが……それが、救いやっちゅうんか」
「――はやてちゃん、ダメです!」

シュベルトクロイツを掲げ、はやては怒りの形相を隠しもせず、迫る隕石と真っ向から対峙する。リインフォースの制止など、聞くはずがなかった。

「認めへんで、そんな救い――遠き地にて、闇に沈め!!」

デアボリック・エミッション――夜空に巨大なスフィアが浮かび上がり、怒りの閃光が走る。
まともにぶつかれば、勝ち目は無いほどの巨大隕石。だが、彼女の怒りはそれを上回った。肉体への負担を無視した一撃は、隕石を完膚なきにまで
粉砕し、文字通り消滅に追い込んだ。


――翌日。
地上本部所属の二機のF-14Bトムキャット戦闘機が、洋上を飛行していた。その胴体の下には、カメラを仕込んだ偵察用ポッドが搭載されている。

「見えた……デカいな」

一番機を務めるF-14Bのパイロットは、目標の余りの大きさにただ、言葉を漏らすほか無かった。
ゴーストアイが通信を逆探知し、スカリエッティの居場所を掴んだ。その情報を元に彼らは偵察に上がったのだが、肝心の目標――メガリスは、彼
らの予想をはるかに上回る巨大さ、そして思いのほか静かな状態で、そこに鎮座していた。

「盛大な対空砲火で歓迎があると思ってたんだが、静かだな」
「きっと恥ずかしがりやなんだよ」

後席の呟きにパイロットは答えたが、どうにも嫌な予感は振り切れない。軽口を叩いてみたが、あまり効果は無かった。
さっさと任務を終わらせて帰ろう。彼はそう考えて、操縦桿を軽く捻り、メガリス上空に機体を到達させる。後席は電子機器を操作して、偵察ポ
ッドを起動させ、カメラで写真を撮っていた。

「……よし、こんなもんだろう。任務完了、帰ろうぜ」
「了解。ブラッキー2、聞こえるか? 帰還する」
「ブラッキー2、了か――」

後方の二番機に任務完了を告げて、彼らは帰路に付こうとする――その瞬間を待っていたかのように、御稜威の王が目を覚ます。
なんだと思ってパイロットは振り返る。メガリス全体から、凄まじい量の対空砲火が撃ち上げられてきたのだ。二番機は返答を言い終える前に被
弾し、爆発炎上、空中分解しながら落ちていく。

「くそ、二番機がやられたぞ!」
「ゴーストアイ、聞こえるか!? こちらブラッキー1、敵の強力な対空砲火に晒されている、援護を……」
「馬鹿野郎、間に合わねぇよ!」

後席が通信機に向かって怒鳴っているが、パイロットはたぶん、この対空砲火から逃れるのは無理だと考えた。現に、機体にときどき、金属ハン
マーで叩かれたような衝撃が走っている。エンジンなど、一撃でも当たれば致命傷の部分にだけは、幸運にも当たっていないだけだ。

「画像だ、画像データだけでも送れ!」

パイロットが叫び、後席は慌しく電子機器と通信機に手を伸ばし、撮影したばかりのメガリスの画像データを送る。
ディスプレイに数値が表示され、現在何パーセント、ゴーストアイに画像が送れているのかが示される。
その数値が百になった瞬間、パイロットはやった、と声を上げようとして、いきなり目の前が真っ白になった。
撃墜された――それが彼の最後の思考だった。あとは意識を闇が包み込み、永久に彼の思考が動くことは無かった。

メガリス、起動。最終決戦まで、あと僅か。



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最終更新:2009年02月21日 20:25