THE OPERATION LYRICAL_エピローグ

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


エピローグ THE OPERATION LYRICAL


頭上を、轟音が駆け抜けていった。
何だろうと思ってベルツが視線を上げると、地上本部戦闘機隊の主な面子――スカイキッド、ウィンドホバー、アヴァランチたちの乗った戦闘機が、眩い蒼空を駆け抜けていくのが見えた。

「……あぁ、"リボン付き"の見送りですね」

同じようにその光景を眺めていた部下の陸曹、ソープが呟いた。
そういえば今日だったか、とベルツは記憶を掘り起こし、最近のスケジュールを思い出す。確かに、"リボン付き"が元の世界に帰るのが今日だと言う連絡があったように思う。
あとで聞いた話だが、彼は自分と同じ世界出身だったらしい。それも同じISAF、陸軍と空軍と言う違いこそあるが、ユージア大陸で共に戦った仲なのだ。

「――二尉、よかったんですか?」

その辺の事情を察してか、ソープがベルツに問う。元はと言えば彼も次元漂流者、"リボン付き"の世界が見つかった時点で、帰ろうと思えば帰れなくはないはずなのだ。
しかし、ベルツは首を横に振った。

「俺は向こうじゃとっくに戦死扱いのはずだ、クラウンビーチで狙撃兵に撃たれたってな。今更戻りたいとは思わないし――」

言葉を途中で区切り、ベルツは視線を空から離し、今度は地面に向けた。
彼らのいる再建中の地上本部からは、クラナガン市街地が見えた。そこでは多くの人々が、未だ各地に残る戦火の傷跡にもめげず、復興と発展に力を注いでいた。

「……俺は、自分が命がけで守ったこの土地で生きたい。そのためにも地上本部を再建しなければならん。ソープ、悪いが付き合ってくれるか」
「はいはい、二尉の頼みならしょうがないですね」

頭をぽりぽりと掻いて、しかしソープは少し嬉しそうな表情。
ベルツはそんな部下と笑みを交わし、もう一度、自分たちが命がけで取り戻し、そして守り抜いた土地を見た。
――いいや、違う。俺たちだけじゃない。命を捨ててまで、この土地を守ろうとした、世界の秩序を守ろうとした男がいた。俺たちはそれを決して忘れない。だから、彼の意思は俺たちが引き継ぐんだ。陸や海だの、縄張り争いをやってる場合じゃない。
ちょうどその時、風が吹き抜けた。久しぶりに感じた、暖かい春の風。
厳しい冬は、もう終わろうとしていた。


「行ってしまったな……」
「行ってしまったッスねー」

管理局管轄の更生施設、その隊舎のベランダで、二人の少女――ノーヴェとウェンディが、空を昇っていく次元航行艦を眺めていた。
結局、黄色の13は彼女たちの元に帰ってこなかった。はっきりと戦死と伝えればいいものを、更生組で一番年長のチンクは「魂だけが元の世界に帰ったんだ」と言っていた。
悲しみはあったか、と聞かれれば、そうだと彼女たちは答えるだろう。あの一見無愛想な――しかし不器用な優しさを持った、凄腕のエースパイロットにして彼女たちの教官は、もうこの世にはいないのだ。
だが、それでいつまでも泣いている訳には行かない。彼は、未来を自分たちに託したのだから。

「おーい、二人ともー」

その時、後ろから声をかけられて、二人は振り返る。そこにいたのは同じく更生組のセイン、その後ろに何か大きな布を抱えたオットーとディード。
いったい何事だろうとノーヴェとウェンディは首を傾げたが、セインがにやりと笑い、オットーとディードが布を広げたところで、表情が一変する。

「あ、これは……っ」
「13の乗ってた戦闘機ッスか?」
「そーゆーこと」

布には、あの主翼や垂直尾翼の先端を黄色で彩ったSu-37、彼の愛機が描かれていた。しっかり機首にも黄色で「13」の文字がある。
そういえば、チンクが「更生組で旗を作ろう」とか言っていた。いわゆる隊旗だ。その旗の下に、自分たちは生きていこうと。
黄色の13は死んだ。だが、その魂は確かに受け継がれた。
後に管理局地上本部に、彼女たちを中核にした新生黄色中隊なる新部隊が創設されることになるが――それはまた、別の話である。


次元航行航空母艦"アースラ"の格納庫。
振り返れば、長いようで短い日々だった。
メガリス攻略戦で損傷した愛機F-22の修理には数ヶ月を要したが、それも終わった。
これで、ユージア大陸に帰れる――そういう喜びの感情は、不思議と湧いてこなかった。
否、きっと心のどこかでは喜んでいるだろう。だが、それを心の底から歓迎していないのもまた事実だ。
何故だろうなと物思いにふけりながら、メビウス1はF-22のコクピットに潜り込み、最後の点検を行っていた。整備員たちを信用していない訳ではないが、やはり最後、自分でやっておきたかった。

「最後、か……」

整備マニュアルにちらちら目配りしながら点検を行っていた手を動きを止めて、彼はふと呟く。
本当に、これがもう最後になるのかもしれないのだ。


ほんの数日前になって、はやてから聞かされた話である。

「実は……メビウスさん、ちょっと問題があって」
「問題? どんな?」

怪訝な表情を浮かべるメビウス1に、いかにもはやては歯切れが悪そうに切り出した。

「メビウスさんを元の世界に送るのは、簡単なことや。けど、問題はその先。メビウスさんの世界とこのミッドチルダ、本来なら絶対に行き来することは出来ん、非常に強力な次元の"壁"があったんや。けど、何らかの原因でこの壁に穴が開いた。だからメビウスさんはこっちの世界にやって来れた訳で。んで、その穴がもうすぐ無くなろうとしていて……」
「――分かった、要するに?」

このまま話を続けさせると長くなりそうなので、メビウス1ははやてに結論だけ言うよう伝えた。
はやてはわずかな逡巡の後、やがて意を決したかのように口を開く。

「ええと、まあ要するにやな……たぶんもう、こっちの世界には来れなくなるってことや」


その言葉を聞いた時、メビウス1は自分の心の中に動揺があったのを見逃さなかった。
だからだろう、ユージア大陸に戻れることに、素直に喜べないのは。
だったら帰らなければいい――そういう選択肢も確かにあった。だが、よりにもよって管理局の観測によれば、ユージア大陸ではまた何か戦争と思しきものが起きているらしい。自身の故郷が、また戦火に晒されている。放って置く訳には、いかなかった。
だが戻ってどうするのだ。出来ることはたかが知れてる、戦闘機乗りとして精一杯戦うだけ。
そう思うと、またスカリエッティに言われた言葉が脳裏に蘇ってくる。所詮俺は「人殺し」と。
その通り、俺は人殺しだ――しかし、今ならメビウス1ははっきりと言える。殺した分だけ、救った命もある。それは、誇りに思っていいはずだ。

「――メビウス1、そろそろ時間です。ブリーフィングルームに」

点検のために開きっぱなしにしていた通信回線に、六課の副官兼メビウス1の管制官を務めるグリフィスの声が入ってきた。すぐに行く、と伝えてメビウス1はコクピットから降り、後を整備員たちに任せてブリーフィングルームに向かうことにした。


ブリーフィングルームに入ると、はやてを始めとした六課の主要メンバー全員がすでに揃っていた。どうやら遅刻してしまったらしい。そのぐらい、ティアナが何か文句を言いたげな視線を向けてくるから分かる。正直胸に痛いのでやめて欲しいのだが。

「……すまん、遅れた」
「別に構いませんよ。この時間にブリーフィングルームに集合ってあたしはちゃんと伝えたんですけどね」

むすっとした表情を浮かべるティアナに、メビウス1は再度「すまんすまん」と謝る。

「まあまあ、ティアナもその辺にしておいて。メビウスさんも早く座ってください」

ティアナとは対照的に柔和な笑みを浮かべ、メビウス1に席に着くよう促すのはなのは。メビウス1は言われるがまま、開いている席に座る。ティアナが一瞬なのはを睨んだような気がしたが、きっと気のせいだろう、たぶん。
そんな光景を見て、一人ひっそりと冷や汗をかいていたはやてがわざとらしく咳払いし、ブリーフィングを始めた。

「ごほんっ……ええかな、ブリーフィング始めるで? じゃあゴーストアイ、いつものようにお願いします」
「了解した」

はやてに言われて、地上本部所属の空中管制担当のゴーストアイが端末を操作する。

「さて、今更多くを語る必要はあるまい。現在、本艦"アースラ"は特別演習空域"円卓"へ向けて航行中である。"円卓"に到着後、本艦が前方に転送用ゲートを設置する。その後、スターズ1が砲撃魔法で転送用ゲートにショックを与える。通常の転送魔法では、メビウス1の元の世界には繋がらない。そこで、意図的に次元に乱れを起こすことで、転送用ゲートと彼の元の世界を強引に"接続"する……」

ゴーストアイの解説を追う形で、ブリーフィングルームの大型モニターに、かつて地上本部と本局の合同演習が行われた地、"円卓"が表示される。続いて転送用ゲートの位置とスターズ1、すなわちなのはの砲撃魔法のタイミングが表示されていく。

「接続できる時間は推定わずか十五秒や。メビウスさんは事前に発艦しておいて、準備が整ったらゲートに飛び込んでもらう……ええかな?」

はやてがメビウス1に確認するように問う。彼は当然頷いた。ブリーフィングと言っても出発前に一度、概要の解説は行っているので、今回は確認の意味を込めて行っているようなものだ。

「まあ、それはいいとして……この、作戦名はなんだい、オペレーション・リリカルって。呪文か?」

大型モニター右上に表示された今回の作戦名について、素朴な疑問を抱いたメビウス1が口を開く。問いに答えたのははやてでも無ければゴーストアイでも無く、隣に座っていたなのはだった。

「あ、それ、私の魔法の詠唱に使う奴なんです。なんとなく語呂がいいかなって思ってこんな作戦名にしたんですけど」

なるほど、確かに今回なのはは重要なポジションに立たされている。彼女が作戦名を決めるのは、そう不思議ではない。

「ふむ、オペレーション・リリカルね……悪くないんじゃないか」

微笑を浮かべて、メビウス1は納得した表情を見せた。
その後、わずかに通信で使用する周波数など細かい規定をゴーストアイが解説し、ブリーフィングは解散となった。
あとは時間が来るのを――"アースラ"が"円卓"に到着するのを待つのみ。


そうして、その時は来てしまった。
メビウス1は最後に自身の装具を点検。いつもの飛行服、耐Gスーツ、サヴァイバル・ジャケット、ヘルメットに酸素マスク。あとは私物の類だが、これはF-22のウエポン・ベイの中に放り込んである。それと、脇に抱えるのはリボンのマークが入ったフライトジャケット。

「ハンカチ持った、財布も持った、トイレにも行った……」

言ってみて、彼は思わず苦笑い。これではまるで幼稚園の遠足ではないか。黄色の13がこの場にいたらきっと笑うか呆れるに違いない。

「おっと、そうだった」

サヴァイバル・ジャケットのファスナーを下ろし、飛行服の胸ポケットに手を突っ込む。メガリス攻略戦の前、黄色の13から預かった手紙は確かにそこにあった。
――13、必ず届けるからな。
胸のうちでひっそりと呟き、メビウス1はファスナーを上げ、格納庫へと歩き出す。
一歩一歩、しっかりと床の感触を確かめ、呼吸にすら神経を研ぎ澄ましながら歩く。ミッドチルダの空気は、ユージア大陸に比べてずっと綺麗だったように思えた。
格納庫に到着し、扉を抜ける――彼を出迎えたのは、いくつもの拍手だった。

「……っ」

分かってはいた。分かってはいたが。当直のものを除いて、"アースラ"の乗組員、そして六課の面々までもがこうして自分の見送りをやってくれる現場に直面してしまうと、あっという間に彼の涙腺は脆くなってしまった。
地上本部と本局の者が入り混じった整備員たち、"アースラ"の乗組員、はやて、フェイト、シグナム、ヴィータ、スバル、エリオ、キャロ、ヴァイスたち。一人一人に敬礼と別れの言葉を交わしながら、メビウス1は進んでいく。

「いっちゃうの、メビウスおじさん……?」

途中、幼い少女の涙声が聞こえたので視線を下げてみると、ヴィヴィオが涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、こちらを見つめていた。
とりあえず"おじさん"はどうにかして欲しいかな、とメビウス1は苦笑いしながら腰を屈め、彼女の頭を優しく撫でてやった。

「ごめんな。向こうにも、大事な仲間がたくさんいるんだ」
「ヴィヴィオ、もっと……ひっく、ヴィヴィオ、もっとメビウスおじさんとお話したかった。ハーモニカ吹いて欲しかった……」

みっともなく鼻水をすするヴィヴィオに、しかしメビウス1は力強く、言ってみせた。

「――終わったら、また会いに来るさ。それまでヴィヴィオ、ママの言うことをよく聞くんだ」
「……頑張る」
「いい子だ」

泣き止むのをやめず、それでもヴィヴィオはしっかり頷いてくれた。最後にもう一度だけ頭を撫でてやって、メビウス1は歩みを進めた。

「……あっ」

ところが、次に出会った人物と目が合って、彼は気まずい表情を浮かべた。先ほどまでむすっとした表情を浮かべていたティアナが、そこにいた。
ついつい彼の右足は勝手に後退しようするが、それを見たティアナがいきなりため息を吐いた。

「――もう怒ってませんから。人をそんな目で見ないでください」
「あ、あぁ……すまない」

ひとまず謝り、しばしの沈黙。その間周囲の視線が自分たちに集中していることなど、メビウス1は知る由もない。

「……あのっ」
「あ、そうだ」

ようやくティアナが口を開くが、それを遮る形で彼は思い出したかのように、脇に抱えていたフライトジャケットをティアナに差し出す。

「やるよ。次に会う時は、それが似合うくらいになっておけ。お前さんなら出来る」
「え……?」

戸惑いながらも、ティアナは彼の差し出したフライトジャケットを受け取った。
リボンのマークが入った、フライトジャケット。正式な管理局員ではないため、制服代わりに彼がいつも着ていたもの。すなわち――エースの、証。
その意味を理解した時、ティアナは急がなければ、と顔を上げた。でないと、彼はもう行ってしまう。
だが、時間は無常だった。格納庫内に響き渡る艦内放送で、"アースラ"がいよいよ"円卓"に到着したことが知らされた。

「っと、時間か……じゃあな。また会おう、ティアナ」

最後に彼なりの親しみを込めてか、メビウス1はティアナをファーストネームで呼び、駐機されているF-22に向かっていった。
ティアナは呼び止めようとしたが、彼がコクピットに入ったのを見て、もう声は届かないことを悟った。
手元に残ったのは、まだわずかに彼の体温が残るフライトジャケットだけ。

「ティア……」
「――ごめん、ちょっとほっといて」

スバルが心配そうに声をかけてくれたが、彼女は一人格納庫の片隅に向かって歩き、フライトジャケットに自分の顔を押し当てて、泣いた。
誰に知られることもなく、ひっそりと声を押し殺して。そうでなくともF-22のF119エンジンが起動し、わずかに漏れる嗚咽はジェットの轟音の前にかき消されていった。

「……馬鹿!」

かろうじて、ティアナの口から零れた言葉は、ただそれだけだった。


"アースラ"から発艦したメビウス1は、F-22のAPG-77レーダーに反応があることに気付く。識別コードを確認してみると、地上本部戦闘機隊の連中だった。

「こちらアヴァランチ。見送りに来てやったぞ、メビウス1」
「ウィンドホバーよりメビウス1。寂しくなるが、仕方がないな。向こうでも元気でな」
「スカイキッドだ。また遊びにでも来てくれ」
「……ああ、お前らも達者でな」

周囲を囲むようにして飛ぶF/A-18FとF-16C、Mir-200にメビウス1はF-22の主翼を左右に揺らす、いわゆるバンクで応えた。
再びレーダーに反応があるのでレーダー画面に目をやると、ちょうど真正面に転送用ゲートがあることが分かった。そして、後方から急接近する魔導師の反応。表示される識別コードは、スターズ1とあった。間違いなくなのはだ。

「こちらスターズ1、これより"オペレーション・リリカル"を開始します。メビウスさん、準備を」
「OK」

通信機を通じて耳に入ったなのはに言われるがまま、メビウス1はゲートへの突入準備を始めた。準備と言っても、やることはあまりない。せいぜい最後に機体に異常がないか確認して、あとはいつでも飛び込めるよう、速度を上げておくだけだ。
エンジン・スロットルレバーを押し込み、機体の速度を上げていく。ゲートとの距離がある程度縮まったところで、なのはがレイジングハートを構えた。

「ディバイン……バスター!」

それは相変わらず見る者を圧倒する、桜色の閃光。初めて見た時はそれはそれは驚いたものだ。何せ十九歳の女の子が、ストーンヘンジもびっくりな大火力を振り回しているのだから。
放たれた桜色の閃光は、転送用ゲートの光の膜に命中する。これで次元に乱れが起きて、ユージア大陸とミッドチルダが繋がったはずだ。

「――命中、あとは飛び込むだけです」
「ああ……世話になったな、なのは」
「いえ」

F-22のキャノピー越しに、二人は別れの笑みを交わす。

「あの、メビウスさん……また、会えますよね?」

わずかな逡巡の後、なのはが唐突に口を開いた。気のせいか、彼女の眼が、潤んでいるように見えた。
もう、会えない。それは調査の結果、分かっているはずだった。だが、だからと言って「さようなら」を言ってしまっていいのだろうか。数々の戦いを共に潜り抜けた戦友に。同じエースの名を背負った男性に。

「――ああ。必ずな」

メビウス1は頷き、力強く言った。その一言で、充分だ。
図らずも、ここは"円卓"だ。かつて演習にて、なのはとメビウス1が激突した空域。エースたちが交流するのに、言葉は要らないのだ。思い切り戦って、お互いの健闘を称えることが出来れば、それでいい。人は信じ合える、分かり合えるのだから。

「よし、もう行かないとな……全部終わらせたら、もう一度会いに来る。その時まで、待っていてくれ」
「はい……待ってます、ずっと!」

最後に互いに敬礼。そして、メビウス1はエンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。機体はどっと加速し、なのははあっという間に見えなくなった。
音速突破、F-22は転送用ゲートに迷わず突っ込む。

「メビウス1、RTB……いや、訂正」

帰還を意味する言葉を放って、メビウス1はしかし首を振った。
帰るのではない。向こうではまた、戦場が待っている。ならば、もっと相応しい言葉があるはずだ。
酸素マスクを付け直し、メビウス1は誰に向かってでもなく、自分自身に向かって宣言する。


「メビウス1、交戦!」


視界が、かっと白熱した。あの時、この世界にやってきたのと同じ感覚。
"リボン付き"は、自身の世界に舞い戻っていった。



「よく戻ってくれた、メビウス1」

帰還するなり、彼を待ち構えていたのは、やはり戦場だった。
エルジア軍の残党が旧エルジア軍事工廠を襲撃、多数の兵器を奪取した。彼らは"自由エルジア"を名乗り、ユージア大陸各地でISAF参加国に無差別攻撃を行っていた。

「本作戦のコードネームは、"カティーナ"だ」

自由エルジアは各地に散らばり、巧みにISAFの迎撃をすり抜けている。そこで、彼らを一網打尽にして、一気に殲滅する作戦が提案された。

「自由エルジアを、武装解除せよ」

ようやく復興への兆しが見えてきたのに、再び戦火を広げる訳には行かない。自由エルジアの殲滅は、ISAFにとって急務だった。

「この作戦の成功を、君に託したい――以上だ」

繰り返すが、自由エルジアは各地に散らばっている。そしてどこかの部隊が攻撃を受けると、他の部隊はただちに身を隠してしまうのだ。
徹底的なゲリラ戦、しかしそれゆえに、叩いても叩いても出現する自由エルジア軍に、ISAFは手を焼いていた。殲滅するなら一度に一気に。しかし戦力が足りない。
だから彼が選ばれたのだ。たった一機で一個飛行隊に匹敵する作戦行動力を持つ彼が。


結局、俺に出来ることはこんなことだ。人殺しと呼びたきゃ呼べばいい。だけど……俺が人殺しと呼ばれることで、助かる命があるというなら。喜んで、俺は戦おうじゃ
ないか。死神でも悪魔でも、鬼神でも凶星でも、好きに呼べばいい。
さぁ、舞い上がれ鋼鉄の猛禽類。空を駆け抜けろ。
それが、俺の――エースとしての、任務なのだから。


To be continued "OPERATION KATINA"...


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最終更新:2009年02月21日 21:05