THE OPERATION LYRICAL_番外編1

メガリス攻略戦終了後、しばらくして。

「むー……」

一人の青年が、ゲーム機のコントローラーを手にテレビの画面を睨んでいた。
気難しそうな表情を浮かべ、ときどき用意しておいたジュースとポテチに手をつけ、攻略本を見るが、やはり表情は変わらない。
青年の名は、メビウス1と言う。正確には本名ではなくコールサインなのだが、本人がこれしか名乗らないのだから仕方がない。

「……駄目だ、何度やっても行けない。無理ゲーだよ無理ゲー」
「あぁん? ったく、情けねぇなぁ」

メビウス1が投げ出したコントローラーを手に取るのはヴィータ。彼女は休日なのでいつもの六課の制服ではなく、動きやすそうな私服である。
プレイヤーが代わったことで、テレビ画面の向こうで進行中のゲームは大きく進行していく。そこはメビウス1が何度やってもクリア出来なかった場面のはずなのだが、彼女は口笛交じりでほいほい
攻略していく。具体的には、バンダナ着けた爺さんが腰痛に苦労しつつ、中東の市街地で変わった兵装の女性兵士たちを小銃でなぎ払っている。

「――お前、上手いな」
「お前が下手くそなんだよ。仮にもゲーム作品の主人公だろう?」

ヴィータのゲームの腕前を素直に褒めたのだが、当の彼女の返答は結構な辛口。メビウス1はバツが悪そうな表情を浮かべ、ポテチの山を掴み、まとめて口に放り込んだ。

「俺はフライトシューティング出身、これはアクションゲーム。ジャンルが違う」
「だからってお前、難易度リキッドイージーだぞ。小学生までしか許されないことすら出来ないってのも……」
「ええい、分かった。それじゃあS○RENでもやろうか」

テレビの下にある棚から、メビウス1がミッドチルダでも評判の高いホラーゲームを取り出す。それを見たヴィータの表情が、一気に凍りつく。
彼女がこの手のゲームを苦手なことは、すでに知っていた。

「い、いや、それは、勘弁」
「いやいや、やろうぜ一緒に。大丈夫、夜トイレに行けなくなっても俺がついて行ってやるから」
「だぁあああ、やめろ! それ以上あたしのトラウマに触れるなぁあああ!」

ぎゃあぎゃあと喚き散らし、逃走に入ったヴィータの首根っこを掴み、空いた左手で器用にSIRE○のディスクをゲーム機に入れるメビウス1。

「さぁ、闇のゲームの始まりだ!」
「いやだぁああああ、あたしは怖いゲーム苦手なんだぁああ! っていうかお前、仮にもナ○コのキャラクターだろ、余所の会社の製品やっていいのか、おい!?」

抵抗するヴィータをヘッドロックで取り押さえ、メビウス1はゲームを開始する。
今日もミッドチルダは平和です。


その頃、修理中のF-22が収容されている六課敷地内の格納庫。

「あー、食った食ったぁ」
「今日のチキンは当たりだったなぁ」
「だなー。野菜の方は外れだったけど」

のんびりぞろぞろ、つなぎの服を着て歩く集団は、整備班の連中だ。昼食を終えた彼らは、爪楊枝を咥えたりして戻ってきたのだ。
彼らはこれから昼休み。昼寝するなり読書するなりスポーツするなり、各々好きなことをして過ごす時間。
しかし、今日はそういう訳にはいかない様子。先頭を行く整備員の一人、とりあえず彼を整備員Aとしよう。その整備員Aが、格納庫の前に立つ見慣れない人影を見つけ、足を止めた。

「ん、どうした」
「あれ……」

いきなり立ち止まった整備員Aを見て怪訝な表情を浮かべる同僚たちだったが、彼が指差す方向を見て、皆が同じく足を止める。
彼らの視線の先にあった人影。そいつはどことなく落ち着きが無い様子で、格納庫内のF-22をちらちら見ては、周囲に誰かいないか、視線を巡らせていた。
長く伸びた色素の薄い髪を一つに束ねているその姿は、一見女と見間違えそうなほど華奢だが、服装は明らかに男性のようだ。もっとも、男装している可能性は捨てきれないが。

「おい、今日部外者の見学の予定なんかあったか?」
「んー、無かったと思うけど」

少なくとも、六課にかのような人物はいない。整備員たちは顔を見合わせ、本日の予定を思い出すが、部外者が来ると言う連絡は彼らの記憶には無かった。

「……まさか、反管理局のテロリストが破壊工作に来たんじゃ」
「何!?」

整備員Aがポツリと漏らした言葉に、同僚たちが一斉に反応する。
なるほど、確かにこの男、周囲に落ち着きなく視線をばら撒いている辺り、あまり人に見られたくないのかもしれない。
ましてや、現在管理局はスカリエッティの起こした一連の事件で消耗し、残る戦力も後処理に追われている。テロリストにして見れば、行動を起こすには好都合なのだ。あるいは、未だ質量兵器の運用に
反対する本局の過激な一派が、地上本部が戦闘機を運用するきっかけとなったこのF-22に対し、何らかのサボタージュを行おうとしている可能性もあった。
何にせよ、目の前の人物が六課に対してよからぬ行為を行おうとしている。少なくとも整備員たちはそう考えた。

「どうする、やっぱり警報を鳴らして……」
「いや、下手にみんなに知らせるとパニックになるかもしれない。ドサクサに紛れて逃げられたりしたら――」
「おい、見ろ。あいつ格納庫の中に入ったぞ」

あれやこれやとどうするか小声で話し合っている途中、先ほどから不審人物の監視を行っていた整備員Aが声を上げる。あろうことか、不審人物は彼らの職場でありF-22が駐機されている格納庫の中に足
を踏み入れてしまったのだ。

「まずいぞ、通報も間に合わない」
「よし、俺たちでやろう。みんな、何でもいいから武器を持て」

わらわらと蜘蛛の子を散らしたように、整備員たちは動き出す。俺たちだって機動六課の一員、自分の職場は自分で守る。その思いが、彼らの原動力だった。
とりあえず格納庫の裏口から入り、不審人物にバレないよう抜き足差し足忍び足で行動。そうして少しでも魔力適正がある者は、武器庫に入って汎用デバイスを手にする。ない者は商売道具である工具、
主にハンマーやスパナなどを持ち出し、それすら装備できなかった者は不審人物を取り押さえるための縄を持ってくる。あいにく、バインドが出来る者はここにはいなかった。

「準備完了、どうする」
「よし、合図したら一斉に飛び出せ。多方向から飛び掛って確保だ」
「どうでもいいけどそれ、どこから出したんだ」

気合たっぷりの証か、わざわざ趣味で作成したギリースーツで身を包んだ整備員Aに同僚が疑問をぶつけてみたが、彼は答えなかった。
不審人物は今、F-22の傍を歩いている。整備班の事務室兼休憩室にも眼をやったが、誰もいないことを確認すると、そのままのこのことまた歩き出す。

「スタンバイ……スタンバイ……」
「どこのマクミラン? ねぇそれどこのマクミラン?」
「GO!」

整備員Aの合図。それを見た彼らは、一斉に飛び出した。

「――あ、よかった。すみません、ちょっと道に迷って、ええええぇ!?」

不審人物は振り返り、いきなり飛び出してきた整備員たちに向かって最初、安心したような笑みを浮かべたが、次の瞬間にはその表情が驚愕に変わる。

「ちぇすとぉー!」
「ぶぇ!?」

整備員A、渾身のダイビングアタック。訳も分からず格納庫の冷たい地面に叩きつけられたこの不審人物に、後からやってきた整備員たちが次々と飛び掛る。

「このやろ、このやろ!」
「整備員だからって舐めんな、くぬ、くぬ!」
「無知と貧困は人類の大罪だぁ!」

ドスンバタンと漫画のような擬音が響き渡り、これまた漫画のような砂埃が舞い上がり、その中で星型の閃光やら何やらが見え隠れする。
「ジャイアンに捕まってボコボコにされるのび太」と言えば、分かりやすいかもしれない。
中には「イヤッホゥ、天使とダンスだぜぃ!」とか「花火の中に突っ込むぞ!」とか「イェーイ、ボーナスゲェェェット!」とか言って突っ込む整備員もいた。お前ら明らかに便乗して楽しんでるだけだろ。

「よし、捕まえた。縄で縛っちまえクソ野朗共!」
「Sir,Yes Sir!」

縄を持った整備員が突入し、対象を素早く縄で縛り、完全に行動できなくする。これで、不審人物は確保された。
ところが、砂埃が晴れてみるとそこにいたのは

「う、うーん、痛い……」
「――あれ? なんでお前ここにいんの?」

亀甲縛りにされた整備員Aだった。ご丁寧にギリースーツを脱がされ、半裸の状態にされている。そして、これまたご丁寧に傍に置いてあったのは、ロウソクと鞭のSMセット。

「お、お前、まさかそんな趣味があったのか」
「違う! 縛ったのはお前だろ、趣味の悪い!」
「って言うか不審人物どこ?」

ここに来て、ようやく彼らは気付いた。あのどさくさに紛れ、不審人物が逃げ出していたのだ。

『ノ、ノォォォ!?』

六課隊舎に最高警戒態勢の警報音が鳴ったのは、その二分後のことである。


「何の騒ぎだ、いったい。え、不審者? 格納庫に? ……ああ、了解。俺も行く」

いきなり鳴り響いた警報にメビウス1はせっかくの休日を邪魔されたことに気を悪くしつつ、内線用の受話器を置いた。

「不審者だって?」
「ああ、侵入したらしい。ゲートの警備は何やってんだよ」

尋ねてきたヴィータに答えつつ、メビウス1は自分の装備を確認する。マガジン内に込められた魔力弾を発砲するよう改造された九ミリ拳銃、ISAF空軍制式のUSPにマガジンを込め、彼はスライドを引く。
まだ不審人物が隊舎の敷地内をうろついている可能性があるため、自衛用の武器はどうしても必要だった。だが、あいにくヴィータはグラーフアイゼンを整備のため預けたままだった。

「まずは、お前さんを送らなきゃな。離れるなよ、レディ」
「はいはい、護衛頼むよ」

こんな時でも冗談を忘れず、メビウス1はヴィータに気軽に声をかけた。ヴィータは適当に頷いて答えた。
部屋を出た二人は、あまり得意ではないとは言え一応USPを持っているメビウス1を先頭に歩く。目的地はシャリオの仕事場、整備室だ。そこでグラーフアイゼンを回収する。
隊舎の敷地内では、すでに不審人物を追って警備小隊があっちこっちを駆け回っていた。誤射される心配は無いだろうが、それでも注意した方がよさそうだ。

「その、不審者ってのは何なんだ?」
「さて、な。詳しくは俺もよく分からん――ん?」

何気なく交わした会話の最中、メビウス1は隊舎の廊下、その隅っこで、何かがひょこひょこと動いているのを見つけた。

「……毛玉?」

そう、それはまさに毛玉と表現するに相応しいものだった。怪訝に思ってよく見てみると、どうもネズミか何か、動物のようだ。ただし、ネズミにしてはやけに小奇麗だった。食堂の方でネズミの被害にあっ
たと言う話も聞かない。

「きゅっ」

適当に後ろから摘み上げてみると、変わった鳴き声をこの動物は上げた。どうやらネズミではなく、フェレットのようだ。緑色の、怯えきった瞳がメビウス1を見つめていた。

「おい、不審者ってこいつじゃないか」
「な訳ねぇーだろ。冗談もほどほどに――あれ、こいつ、どっかで見たことあるような?」

メビウス1の言葉に呆れた様子で返事をするヴィータだったが、彼が突き出したフェレットを見て、首を傾げてみせた。心なしか、フェレットの表情が知り合いでも見つけたかのように安心したものになって
いる、そんな気がした。

「あ、メビウスさん、ヴィータちゃん!」

その時、不意に後ろから声をかけられて、二人と一匹は振り返る。声の主は、なのはだった。

「もう、どこほっつき歩いてるんですか。はやてちゃんが早く司令室に集まれって――」

とりあえず走ったせいで乱れた呼吸を整えつつ、なのはが口を開く。そこで、彼女は気付いた。メビウス1に摘み上げられている、この哀れなフェレットと言う存在に。
フェレットはなのはを見ると、今度こそ安心した表情を浮かべ――ここで、メビウス1は改めて自分が今異世界に飛ばされたことを認識した。フェレットの口から出たのは、間違いなく人間の言葉だった。

「や、やぁ、なのは。久しぶり――」
「あっ……ゆ、ユーノ君!?」
「……何、フェレットが喋った? ヴィータ、どういうことこれ?」
「あぁ、やっぱ驚く?」


ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL

番外編その1 嗚呼、恋ははかなく空は青く 前編


「ほんっっとにごめん!」

ひとまず警戒態勢が解除された、六課の隊舎。
案内された部屋で、変身魔法を解いて元に戻ったユーノ・スクライア書司長が最初に行ったのは、頭を下げることだった。

「いや、ゲートから入ったのはいいんだけど、道に迷っちゃって。格納庫に入ったら飛行機が置いてあったから、つい珍しくて――とにかく、ごめん!」
「ああ、ええからええから。もう頭上げて、ほら」

はやてが頭を上げるよう促すと、ユーノはそれでも申し訳なさそうに頭を上げた。
結局、整備員の早とちりと言うことで警戒態勢は解除されたが、ユーノは疑わしいことをしてしまったという自責の念に駆られていた。

「けど、急にどうしたの? 連絡してくれれば、出迎えたのに」
「いや――珍しく休みが取れたからね。ちょっと驚かそうと思って。久しぶり、はやてもなのはも。それから、えーと」

なのはの疑問に答えつつ、ユーノは部屋にいる面々の顔を見る。その中に、一人だけ見慣れない人物がいて、彼は口を詰まらせる。

「あぁ、すまない。自己紹介が遅れたな――俺は、メビウス1って言う。お前さんが見てた戦闘機のパイロットだ、よろしく」

ユーノが口を詰まらせた原因が自分にあることに気付いたメビウス1は、ラフな敬礼を交えて自己紹介。

「メビウス1――なるほど、よろしく。僕は、ユーノ・スクライア。無限書庫の書司長だ」
「ついでに言うなら、なのはちゃんの魔法の師匠で幼馴染やね」

横からユーノの自己紹介に勝手な一文を付け加えるのはやて。ニヤニヤした笑みを浮かべている辺り、何か思うことがあるのだろう。
案の定、このいかにも初心な青年は頬を染めてみせた。

「なっ、は、はやて」
「だって本当のことやない」
「うん、ユーノ君からは色んなことを教わったよ」

ところが、当のなのはははやての言葉を素直に肯定する。色恋沙汰はどうにも鈍い、彼女らしい反応だろう。
メビウス1はと言えば、なのはがユーノから魔法を教わったと聞いて、少しばかり疑問を抱いていた。
なのはの魔法――そう聞いて、彼が真っ先に思いつくのは、やはり砲撃魔法だ。あの強大な、ストーンヘンジさえも圧倒しかねない大火力は、メビウス1を驚愕させた。
やはりユーノが教えたのだろうか。教えたと言うことは、彼もそれが出来ると言うことだろうか。それも、師匠と言う立場上、彼女よりもはるかに強いものが。
いや――ううむ、どうなんだろう。
見た目で判断するのはよくない、それは分かる。だが、メビウス1にはどうしてもこの気の優しそうな青年が、なのはをも上回る砲撃魔法を放つようには見えなかった。

「えぇー、それホントに?」
「ホントだよ。こないだも無限書庫内の未整理の地区を整理してみたら、八〇年代の週刊少年ジ○ンプが出てきて……」
「あぁー、ジャンプ黄金期やわぁ」

――まぁ、悪い人間ではないのは確かか。
仲良く談笑してみせるユーノを見て、メビウス1はどこか安心したような笑みを浮かべた。
しかし無限書庫に何故ジャン○があるのだろう。


そんなこんなで思い出話に花咲かせていると、あっという間に時間は過ぎていった。帰りの時刻が、もう目の前にまで迫っていたのである。

「本当なら送ってあげたいんだけど……」

名残惜しそうに、なのはは自分の持ち場に戻っていった。普通に生活する分には何も問題ないのだが、一連の事件で受けたダメージは、決して軽くなかった。これから診察を受けるらしい。
とりあえず、また迷子になられてもいけないので、隊舎のゲートまでメビウス1がユーノを送ることになった。

「ふぅ……あっという間だったな」
「そんなもんさ、楽しい時間は」

ポツリとユーノが漏らした呟きに、メビウス1は何気なく反応してみせた。
ユーノは、前を行くそんな彼の背中に向かって、唐突に声をかける。

「ええと……メビウス1?」
「ん?」

メビウス1は振り返って、ぎょっとなった。思ったよりも近い距離で、ユーノが真剣な表情を浮かべていた。
優しそうな人間であるはずの彼が、いつになく本気を見せた――そんな雰囲気。

「君は、なのはのこと、どう思ってる?」
「何――」
「だから、なのはのことだよ」

決してメビウス1から目を逸らさず、ユーノがどこか力の入った声で言った。
なのはのこと。そう言われてとりあえず頭に浮かんできたのは「同じエースで、戦友」と言う無難な回答だったが、それではこの青年を納得させることは出来まい。
ユーノの言葉は、明らかに女性として彼女をどう思うか、と言う意味だ。

「……前に、なのはからメールがあったんだ。メビウス1って言うパイロットが、六課に来たって。戦闘機に乗せたら間違いなく、右に出る者はいない。そのメール、君の話題でいっぱいだったよ」
「そ、そうなのか」

メビウス1が答えに窮していると、ユーノの方が口を開いた。
あいつ、そんな事を――いや、だけど俺は。
なおも答えを見せないメビウス1に、ユーノは追い討ちをかけるように言った。だが、少しばかり躊躇いを見せるのは、まだ彼が色恋沙汰に対し、経験不足なところがあるせいか。

「僕は――僕は、なのはのことが好きだ。たぶん、愛してる。一〇年前からずっとね」
「……そうか。ずいぶん長い想いだな」
「僕もそう思う。まだ告白はしてない。けど――」

ユーノはポケットから白い小箱を取り出し、手のひらの上で弄ぶ。
本当は、今日はこれを渡すつもりで来たらしい。小箱の中身が何なのかは、いくらか年上のメビウス1には簡単に察しがついた。

「けど、なのはは渡さないよ。あなたがどれだけ強くても、彼女を支えることが出来なければ意味がない」

メビウス1には、返す言葉が見当たらなかった。これだけ彼女にストレートな想いを抱いているのだ。はっきりしない感情のまま、彼女と六課での日々を過ごしてきた自分とは、訳が違う。

「そうか……いや、何だ。まぁ頑張れ」
「そうするよ。じゃ、僕はこれで。ありがとう、送ってくれて。今度君の飛行機も見せてくれ」
「ああ――」

結局、気の抜けた返事しか出来なかった。ゲートを出ていくユーノの背中が、メビウス1には何故だか、自分より力強く見えてしょうがなかった。


後日。
寝不足気味の身体を無理やり起こし、引きずるような形で食堂に入ったメビウス1は、朝食を食べていた。今日のメニューはあっさりとした味付けが評判の和食だが、どうにも箸の動きが鈍い。

「寝不足ですか、メビウスさん?」
「ん――まあ、な。ちょっと考え事を」

たまたま席が隣になったフェイトが心配そうに声をかけてくれた。「いつでも相談に乗りますよ」とまで付け加えてくれた。
しかし、メビウス1は胸のうちで苦笑いする。彼女にこの手の話題はまずいだろうと。なのはの名前を出したら、最悪バルディッシュのザンバーフォームで刺身にされかねない。

「ほわ? 何ですか?」
「いや、何でもない」

首を傾げてみせるフェイトを見て、普通にしている分では間違いなく美人なんだけどなぁ、と今度は苦笑いを表情に出す。
そうして偶然にも二人揃って味噌汁に手をつけた時、それはやってきた。

「なのは隊長、今度お見合いだって」
「えー、ホントに?」
「相手はフローベル重工業の若社長らしいよ」

後ろを行く、六課のオペレーターであるアルトとルキノの会話。
ぶっ、と味噌汁を吹き出す羽目になったメビウス1とフェイト。
お見合い。これを聞いて、二人が黙っていられようか。
後に六課の歴史から削除されることになる「最大の税金の無駄遣い」と呼ばれる事件は、この瞬間始まっていたとかいないとか。



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最終更新:2009年03月08日 15:24