THE OPERATION LYRICAL_番外編2

前回までのあらすじ
なのはさんがお見合いを申し込まれました。


どこかの和風の、いかにも高級そうな庭園。
高町なのははその日、滅多に着ない和服で身を包み、緊張した面持ちで座布団の上に座っていた。
いつものサイドポニーでまとめた綺麗な栗毛色の髪は、本日ばかりは下ろしてロングに。おかげで、日本人独特の美しさと落ち着きが醸し出されている。
和服の色は明るい桜色。彼女の白い肌と合わさって、まさにその姿は春に咲き乱れる桜の如く美しい。いやもうホント、日本人でよかったね。
何年振りかなぁ、こんな格好――思考の片隅で、久しぶりに和服を着て喜んでる自分がいるのも、また事実だった。
そこまで考えて、なのはは首を振る。今はそれどころではない。これは自分個人のお見合いではなく、下手したら管理局の命運が別れるほど大事なお見合いなのだ。

「おや、どうかされましたか」
「あ――いえ、何でもありません」

にっこりと愛想笑いを浮かべて、なのはは誤魔化す。目の前の青年は――今回のお見合い相手だが――なかなか切れ者である。表情一つの変化すら見逃さない。
――が、頑張らなくちゃ。って、何をどう頑張ればいいんだろう。
とは言え、さすがのエースオブエースも何をしていいか分からず、時間だけが過ぎていった。


ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL


番外編その2 嗚呼、恋ははかなく空は青く 中編


時間は遡って、先日の夜のこと。
六課の会議室に、人が集まっていた。
まずははやて。六課の部隊長にして、ヴォルケンリッターズの主。
同じ六課のメンバーとして、ティアナ。スターズ分隊の一員であり、今では数少ない幻術を使う若き銃士。
そしてメビウス1。ISAF空軍のトップエース、追い詰められた戦況をひっくり返したパイロット。
地上本部からは、ゴーストアイ。空中管制を担当し、常に冷静な判断力を持つベテラン管制官。
同じく地上からベルツ。元ISAF陸軍の中尉、現在は管理局の二尉として特殊部隊、通称陸士B部隊を率いる兵士。
最後に、無限書庫よりユーノ。一九歳と言う若さで書司長を務める、スクライア一族の青年。
何も知らない人が見ればなんと言う豪華メンバーと言いたいところだが、これでもほんの氷山の一角に過ぎないのだから管理局って凄い。

「今日集まってもらったのは、非常に重要な任務があるからや」
「ほう……JS事件が終わった今となっても、そんなものがあったか」

口を開くはやてに、ゴーストアイがいかにも真面目な反応を返す。ここ最近は退屈な演習とデスクワークばかり、久々に実任務がやって来て彼は喜んでいるようだ。
同じように、ゴーストアイの隣に座っていたベルツもまた、興味があるような様子だった。再編途中の彼の部隊にとって、実戦のカンを取り戻すいい機会なのかもしれない。
ところが一方で、事情を知っているらしいティアナだけが、気だるそうに座席にもたれ掛かっていた。右手で器用にボールペンをくるくる回す辺り、苛立ちすら感じられる。

「まずは任務の内容を話す前に……彼について、知ってる者はおるやろか」

はやてが手元の端末を操作すると、会議室の大型スクリーンに、一人の青年の写真が姿を現した。写真の人物はまだ若そうなのに、高級そうなスーツで身を固めている。
大半の人間は一瞬「誰だこいつ?」と怪訝な表情を浮かべたが、ただ一人ユーノだけが、写真の人物の正体に気づいた。

「ああ、この人か」
「知ってるのかユーノ」

メビウス1がユーノに尋ねると、彼は頷き、写真の人物がどのような人間なのか解説を始めた。

「ジャンルイ・フローベル。ミッドチルダでも五本の指に入る、大手重工業の若社長さ。管理局の次元航行艦の建造、修理もこの企業が全体の三〇パーセントを担ってる」
「ふーん、凄い奴なんだな」
「ただ、その経営手腕は時として強引でね。結構敵も多いみたいで、彼は外出する時は常に専属のボディーガードを何人も引き連れるそうだ」

ユーノの話に相槌を打ちながら、メビウス1は"ジャンルイ"と聞いて、どこか胸のうちに引っかかるものを感じていた。
ジャンルイ。どっかで聞いたことあるような――でもうちの中隊にそんな奴はいないし。
ぽりぽりと頭を掻いて、まぁいいやとメビウス1は思考を振り払う。そのうち思い出すだろう。

「で、この若大将がどうかしたのか」
「そう、ここからが本題なんよベルツ二尉。実は――」

はやてがたっぷりと貯めを作る。ベルツ、ゴーストアイの事情を知らない地上本部の真面目な人たちは、固唾を呑んで彼女の次の言葉を待ち――

「うちのエースオブエース、なのはちゃんがこの人とお見合いするんや!」
「……おめでたいことだ。さて、E-767のレーダーシステムの調子を見なければ」
「俺はソープに貨物船の突入訓練をさせるんだった。じゃ、そういうことで」

帰ろうとした。そそくさと手荷物をまとめて会議室を出ようとする二人。

「あぁっ、どうかそんなこと言わんといて。ゴーストアイもベルツ二尉も~」

がしっと彼らの背中に捕まり、ずるずると引きずられるはやて。本当は面倒ごとに巻き込まれるのが嫌で帰りたくてしょうがない二人だったが

「頼むて……ほんま。終わったら何でも、言うこと聞いてあげるから」

涙ぐんだ上目遣いで見つめられ、渋々席に戻った。はやてが制服のポケットに目薬を忍ばせていることなど、二人は知る由も無いだろう。


そんなこんなで、ブリーフィングは進んだ。
そもそも、何故ジャンルイとなのはがお見合いなどと言う話になったのか。
回答は極めて単純、ジャンルイが彼女のファンだったから。彼は次元航行艦の建造修理の一翼を担っていると言う立場を利用し、管理局に「彼女を嫁にください」と言ってきた。
困ったのは管理局である。断れば、次元航行艦の建造修理は間違いなくスローペースになる。JS事件で戦力を消耗している今の管理局にとって、それは避けたい。
しかし、はいそうですかとなのはを差し出していいものか。本人の意思もあるし、何しろエースオブエース。寿退職されたら、大損失。

「ところが、ここで緊急情報が入り込んできたんよ」

はやてが言うには、管理局の諜報部がフローベル重工内にて、怪しい動きをキャッチした。詳しく調べてみると、彼らは専属のボディーガードのうち何名かをテロリストに変装
させ、お見合い当日の高級庭園を襲撃するつもりらしい。そこでジャンルイがなのはを身を挺して守る。ジャンルイの勇敢な行動によりテロリストは捕らわれ、一件落着。なのは
もカッコいい、とジャンルイに惚れるに違いない――つまり、自作自演。

「今回のあたしらの任務は、庭園に先回り。"テロリスト"を素早く確保し、なのはちゃんとジャンルイの目の前で自白させ、お見合いをぶち壊しにすることや!」

握り拳を上げて、はやては任務の解説を終えた。
ちなみにこんな事態に真っ先に動きそうな我らのフェイトそんはと言うと

「なのはがお見合い……私のなのはが盗られちゃう……阻止しなきゃ、絶対に……ブツブツ」

バルディッシュのザンバーフォームを包丁みたいに研いでいた。冷静さを失った彼女がまともに言うことを聞くはずもなく、作戦から外された。また、彼女が暴走した場合に備えて
六課の多数の戦力がそちらに振り分けられた。だから六課から参加できるのははやてとメビウス1とティアナだけなのである。

「作戦開始は翌日、0300、現地にて集合! なのはちゃんと全員の無事帰還を持って、作戦終了とする!」
「了解」
「声が小さいで。口から(自主規制)垂れる前にサーと付けて大声で言うんや、分かったか(検閲削除)ども!」
「Sir,Yes Sir!」

はやてよ、「Sir」は男性に対しての言葉なんだがいいんでしょうか。
そういう訳で、彼らは動くのである。何名かは、複雑な心境を抱えたまま。

かくして、作戦当日。
まだ日も昇らないうちに動き出した彼らは、それぞれの配置に就いた。
地上はベルツを指揮官として、ティアナ、ユーノ。本当ならもっと人数は多いはずだったのだが、例えばベルツの部下であるソープは「COD4のクロスがあるんでそっちに行ってき
ます」と書き留めを残し、姿を消していた。その他にもB部隊の陸士たちは「祖父が病気で」「犬が病気で」「明日同人誌即売会なんで」と様々な理由でいなかった。おそらく事前
に察知され、逃げ出したに違いない。「あいつら戻ってきたらただじゃおかねぇ。次の任務で全員に"俺、帰ったら結婚するんだ"と言わせてやる」とはベルツの言葉。
一方、航空戦力も用意されていた。ジャンルイが用意したテロリストは、どのような手段で現れるか分からない。何より、こちらは未確認だが本物のテロリストがジャンルイの
命を狙っていると言う情報もあった。
その戦力はと言うと、もちろんメビウス1。機体は彼の愛機であるF-22ラプター。優れたステルス性と高い機動性、最強戦闘機の名に恥じない性能を持つ。
だが、今回は事情が少し違った。彼のF-22は、実はまだ修理中なのだ。機体の方は修理が完了しているが、火器管制の調整が未だ終わっておらず、レーダーで敵機を捉えること
は出来ても、AIM-120AMRAAMのようなレーダー誘導ミサイルによる攻撃は不可能だった。代わりに今日は、赤外線誘導ミサイルのAIM-9サイドワインダーを多めに搭載している。あと
はいつもの機関砲だけだ。随伴する空中管制機、ゴーストアイがどこまでフォロー出来るか。

「まぁ、機体は軽いけどな――しかし」

試しに操縦桿を引くと、F-22はパイロットの動きに反応し、素早く機首を上げる。重い中距離空対空ミサイルが無い分、その反応は過敏と言ってもいいほどだ。
だが、それよりもメビウス1は、地面の方に視線を向けた。高度はすでに二万フィート、眼下に見える山や建造物が、ミニチュアのように見える。この中に、なのはがいるはずだ。
高町なのは。魅力的だとは、思った。整った顔立ちと普段見せる優しさとは裏腹に、決めたことは最後までやり抜く鋼のような頑固さ、戦闘機でも並みの乗り手では圧倒されるほどの
高い技量を持った魔導師。エースオブエース。もっともこれは、女性としての魅力と言うより、人間としての魅力と言った方が正しいのかもしれない。
そこまで考えて先日、ユーノに言われた言葉が脳裏を横切る。「なのはは渡さない」と。「あなたがどれだけ強くても、彼女を支えることが出来なければ意味がない」と。
強さ。この一点においては、メビウス1はユーノを凌駕している。だが、支え。これに関しては、彼も自信が無かった。

「地面じゃ何も出来ないからな、俺は――」

酸素マスクの中でため息を吐き、メビウス1は正面に向き直る。
思えば、態度をはっきりさせない自分より、まだ人前で堂々となのはのことを好きだと言えるユーノの方が、彼女には相応しいのかもしれない。
思考の海に沈むメビウス1を叩き起こしたのは、F-22のAPG-77レーダーが、味方識別信号の無い反応を見つけた事を知らせる電子音だった。

「――!」

視線をレーダー画面へ。ロックオンは出来ないが、レーダーが捉えた航空機の大きさや速度くらいは分かるはずだ。
捉えた航空機は、決して大きくは無い。速度も併せて考えれば、せいぜいプロペラ推進の軽飛行機かヘリコプターのはずだ。

「ゴーストアイ、こいつは?」
「解析中――判明した。どうやら、フローベル重工所有のセスナのようだ。高町一尉のいる庭園のすぐ近くに、同社が保有する飛行場があるんだ。作戦目標とは関係ないだろう」

念のためゴーストアイに尋ねると、彼はデータベースから手早く航空機の正体を明かしてくれた。
メビウス1は「了解」と短く返答。同時に、飛行場まで保有とはなんて会社だ、とフローベル重工の財力を思い知らされていた。
雲は少なく、本日は快晴。空は染み一つ無く、ひたすらに青かった。


一方の地上。庭園では、三つの影が草木に身を潜め、屋内にいるなのはとジャンルイを監視していた。
影の一つ、ユーノは少しばかり頭を上げて、屋内の様子を伺う。一〇年間の付き合いでも見たことの無かった、なのはの和服姿。凄く、綺麗だった。
だけど、と彼は視線をずらし、なのはの向かい側に座るジャンルイに眼を向ける。本当に自分のボディーガードをテロリストとして演じさせ、それを追い払うことでなのはの心を
奪おうとしているなら、許せないことだ。ユーノのいつもは優しげなその表情が、珍しく黒い感情で満たされていた。

「――?」

不意に刺すような視線を感じて、ユーノは振り返る。迷彩服に九七管理外世界で言うG3A3を模した魔力式アサルトライフルを持ったベルツが、頭を下げろ、とでも言いたげに睨んで
きていた。慌ててユーノは頭を下げる。ベルツは迷彩服を着ているからまだいいが、ユーノは法衣にも似たスクライア一族の服装。少年時代に着ていたものの、もっとサイズが大きい
タイプだ。これに迷彩効果を期待するのは、あまりにも見当違いだろう。
同じく庭園内で待機中なのはティアナだが、彼女の方は不機嫌な表情を露にしていた。不用意に姿を見せるユーノに対してではなく、この作戦自体に対してである。
管理局がなのはを手放したくないのは分かるのだが、それだけで空中管制機まで飛ばすのは、非効率的だと言わざるを得ない。あれを一度飛ばすだけで、一般の管理局員の年収が完全
に吹き飛ぶ。こんなことをやる余裕があるなら、慈善事業にでも注ぎ込めと言いたい気分だ。
――なんて理屈付けて、自分の考えを正当化したいだけなのよね、あたしは。
深くため息を吐いて、ティアナは庭園の庭にある池に視線を送る。水面には、屋内のなのはたちの様子が映っていた。上手い具合に、池が水鏡になっているのだ。
綺麗ね、と彼女は水面に映るなのはの姿を見て思う。同じ女である自分でさえ、薄化粧に和服で身を包んだ彼女は美しく見えた。
だが、湧き上がってくるもう一つの感情はおそらく嫉妬。なのはを上空から守るために、メビウス1は修理の完了していないF-22を引っ張り出してきた。その事実が胸に圧し掛かり、
ティアナの思考を掻き乱す。

「……何考えてんだろ、あたし」

そんな自分が嫌になって、ティアナは誰にも聞こえないよう、ひっそりと呟いた。
池の水面には、なのはの他にもう一人、お見合いの相手であろうスーツを着た青年の姿が映っていた。


「いやー、実は私も元は次元漂流者なんですよ」
「はぁ……そうなんですか?」

にこやかに自分の身の上話を始めたジャンルイに対して、なのはは興味を持ったような素振りを見せた。
相手は次元航行艦の建造の一翼を担っている。なのはとしてもお見合いやってさぁすぐ結婚式は御免だが、相手の機嫌を損ねないようにしなければ、管理局とフローベル重工の関係に
悪影響が出てしまう。
ジャンルイはそんな彼女の考えなど知る由もなく、話に興味を持ってくれたと感じて喋り始める。

「元いた世界ではパイロットをやってたんです。しかしお恥ずかしい限りですが、撃墜されてしまいまして。まぁ相手が悪かったんですけどね、戦局ひっくり返した化け物エースだった
し。で、気がついたらミッドチルダでした。そしたら次元漂流者ってことで管理局に保護されて、就職支援までして頂いて」
「それは……幸運でしたね」
「ええ、そりゃもう。しかも就職先で異例の大抜擢を何度もされて、今じゃ社長です。ホント、管理局には感謝していますよ」

うわー白々しいーとなのはは愛想笑いの奥で思った。感謝するなら何故に管理局に圧力掛けて自分とお見合いさせろなんて言うのだろうか。
しかし、この若さで大企業の社長にまで上り詰めたのだ。これぐらい図太い方が、かえってちょうどいいのかもしれない。
そんなことを考えていると、廊下の方でドタドタと慌しい音を立てながら、ジャンルイのボディーガードと思しき男たちが息を切らしてやって来た。

「どうしたんだ、騒がしい。高町さんの御前だぞ」
「も、申し訳ありません。ですが社長、すぐに避難してください! 社長を狙ったテロリストが庭園に……」
「何……?」

ボディーガードに言われて、ジャンルイはいかにも高級そうな腕時計に眼をやる。彼は何故だか「えらく早いな」と呟いたが、冷静さを保ったまま立ち上がり、ボディーガードに指示を出す。

「分かった。君たちは高町さんを連れて、ただちに脱出するんだ」
「それで社長は!?」
「私は――ここで適当に逃げ回ろう。テロリストの狙いはどうせ私だろうからな」

そう言ってジャンルイは不敵に笑ってみせる。ボディーガードたちは「いけません社長、あなたも一緒に」と説得を試みたが、彼は「レディを危険に晒す訳にはいかん!」とボディーガード
たちを一喝し、あくまでもここに踏み止まる姿勢を崩さなかった。
ところが、なのははそんな光景を見て首をひねる。どうも、ボディーガードたちの言葉やジャンルイの仕草が、演技のように見えて仕方なかった。まぁきっと気のせいだろう。

「さぁ、行くんだ高町さん。ここは私に任せてくれ!」
「は、はぁ……」

とは言え、やっぱりジャンルイの言葉は演技臭かった。
曖昧な返答を肯定と受け取ったボディーガードたちは、「こちらへ」となのはを庭園の裏口に案内する。あいにく、相棒であるレイジングハートは整備のため六課に置いてきてしまっていた。
そうしてボディーガードたちに囲まれつつなのはが歩き出そうとした、その瞬間。

「天誅ーっ!」

爆発音が庭園に響き渡り、熱風と巻き上げられた砂が吹き付ける。派手に粉砕された壁の向こうから、質量兵器のAK-47やMP5Kを持った黒尽くめのテロリストたちが、わらわらと庭園内に突入
してきた。


「来たぞ、押さえろ!」
「了解!」

テロリストたちが庭園内に突入したのと合わせて、じっと息を潜めていたベルツたちも飛び出す。
おそらくは、目の前のこのテロリストたちがジャンルイの用意したもの。取り押さえてこれがジャンルイの自作自演であることを吐かせ、お見合いをぶち壊しにするのが彼らの任務だ。
テロリストたちはいきなり飛び出してきたベルツたちに驚きはしたものの、管理局の人間であることを理解したのか、発砲してきた。
しかし、こちらには防御に関しては非常に優秀な魔導師がいる。言うまでもなく、ユーノだ。

「このくらいなら――」

素早く詠唱し、魔法陣を展開。半球型の、緑色の光の膜が現れて、飛んできた銃弾を弾き返す。
だがここでユーノは奇妙なことに気付く。彼らが本当にジャンルイの用意したテロリストなら、その銃や弾も見掛け倒しか非殺傷のもののはずだ。

「けどこれ……明らかに実弾」

防御魔法で弾かれ、虚しく地面に落ちた銃弾は、軍事や銃器の知識に乏しいユーノでさえ、それが実弾であることが容易に判別できた。彼は知る由もないが、軍用としてはごく一般的なフルメ
タルジャケット弾だった。

「話は後だ、先にこいつらを制圧する」

戸惑うユーノを横目に、ベルツが飛び出し、G3A3を構え、テロリストたちに向けて銃撃を浴びせる。飛び出すのは銃弾の代わりに非殺傷設定の魔力弾だが、速度までもは変わらない。
テロリストたちは素人なのか、ろくに退避行動を取ることがなかった。遮蔽物からむき出しになった彼らの身体にベルツは流れるように銃撃を浴びせ、プロとアマチュアの違いを見せ付ける。
果敢に撃ってくるテロリストもいたが、ユーノの防御魔法を貫けるはずもない。撃ち尽くしてマガジンを交換している隙に、またベルツが銃撃し、制圧していく。
次々と倒されていくテロリストたちだったが、ベルツはここで一つの違和感を覚えていた。妙に敵が脆すぎるのだ。

「……罠か。ランスター、右に回れ」
「了解」

ベルツの指示でティアナは戦列を離れ、庭園の右側に回る。とりあえず、仕事は仕事と気分を切り替えた彼女の動きは早かった。
クロスミラージュをツーハンドホールド、要するに両手で構えながら行くと、庭園の壁をよじ登って来るテロリストたちが眼に入った。
テロリストたちもティアナに気付き、すぐに銃を構えようとするが、それより早くクロスミラージュの銃口が跳ね上がる。
銃声と同時に放たれた多数の魔力弾は、テロリストたちの身体を容赦なく殴る。
それでも仕留め切れなかったテロリストがAK-47を構えて、ティアナにその銃口を向ける。咄嗟に彼女は横に飛び、いかにも高級そうな石に身を寄せた。
フルオートで放たれたAK-47の銃弾が石を叩き、削る。ティアナは「あー、これってあたしが弁償しないといけないのかしら……」などと呟きながら、クロスミラージュの銃口だけを突き出して
引き金を引く。照準の調整は、デバイスであるクロスミラージュ自身がやってくれるので問題ない。
二発ほど魔力弾を叩き込んだところで、悲鳴が聞こえてAK-47の銃撃は途絶えた。ゆっくりと身を乗り出すと、テロリストたちはすでに全滅していた。もちろん気絶しているだけだろう。
中には「う、うぅ……も、もっと、もっと踏んで」などとうわ言を呟く者もいたが、言われた通りティアナは踏みつけて止めを刺す。

「オールクリア。ベルツ二尉、そっちは?」
「待て、もう少し……よし、クリア」

念話でこちら側の敵はすべて制圧したことを知らせると、ベルツの方も最後の一人に銃撃を浴びせ、制圧したところだった。

「な……何者なんだね、君たちは。それにこいつらは」

銃撃戦が終わったところで、屋内から恐る恐るジャンルイが姿を見せた。その後ろに、ボディーガードに囲まれたなのはがいる。彼女も彼女で、何故かこんな場所で銃撃戦を繰り広げるベルツ、そ
れを防御魔法で支援するユーノを見て驚いている様子だった。

「こいつら? とぼけるな、全部分かってるんだぞ」

ベルツはジャンルイに見せ付けるようにして、手近なところに倒れていたテロリストを掴み、引き起こす。そうして覆面を剥ぎ取らせると、ジャンルイの表情が大きく歪む。やはり、こいつらは
彼の用意した「テロリスト」だったのだ。
ところが、である。何故だかこのテロリストは、ジャンルイの顔を見て、にやりと歪んだ笑みを見せた。そして、一瞬の隙を突いてベルツの拘束を振り解き、戦闘服のポケットから何かのスイッチ
を取り出す。慌ててベルツが取り押さえ、ユーノにバインドを掛けるよう目配り。今度こそバインドで身動きの取れなくなったテロリストだったが、スイッチはすでにONになっていた。
次の瞬間、それまでずっと待機していたのか、庭園の壁を登る形で、複数のテロリストが姿を見せた。肩に背負っているのはRPG-7、対戦車ロケットとしてあまりにも有名な代物だった。
彼らはRPG-7の照準を、ジャンルイに合わせていた。放たれれば着弾と同時に巻き起こる爆発が、近くにいるなのはすら巻き込む。
咄嗟にベルツはG3A3を構え、RPG-7を持つテロリストの一人に銃口を向けるが、駄目だと悟った。一人を撃ち倒しても、他の連中がその隙にRPG-7を撃ってしまう。

「なのは!」

その時、走り出す影があった。ユーノが、なのはを守ろうと駆け出していた。
無茶だ、とベルツは止めようとした。いくらユーノの防御魔法でも、戦車の装甲すら打ち破るRPG-7を一度に多数受けては耐えられまい。
しかし、時間は待ってくれなかった。テロリストたちは一斉にRPG-7を発射。白煙を吹きながら猛然と加速したRPG-7の弾頭は、着弾するのと同時に爆風と衝撃を巻き起こす。
静かなはずの庭園は、それらによって木っ端微塵に粉砕された。



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最終更新:2009年03月08日 15:28