HALO THE LYRICAL プロローグ

HALO THE LYRICAL

プロローグ

操縦席に着いた途端に、鈍い微かな衝撃がシート越しに伝わる。
上手く飛び込めたか。そう確信しながらマニュアル通りにエンジン点火の手順をこなす。
人間の物とは明らかに違う指が、コンソールをリズム良く叩き。次々に目の前の計器に光が灯り始めた。

「アービター、急いでここから脱出して!」
「わかっている」

耳に当てた小型の通信機から女性の、しかし機械的な声が伝わる。
最後のコンソールを叩き、手元のスロットルレバーを引いた。
戦艦後部のエンジンが目を覚ました。巨大な空洞が火を噴き、生まれた膨大な推力によって戦艦が動き出す。
徐々に崩れゆく都市『ハイチャリティ』を眺めながら、戦艦は離れていった。




崩壊してゆく惑星を脱出し、戦艦は大気圏外に飛び出した。
操縦席に搭乗していた人影、エリート族の戦士『アービター』は一息ついた。
目の前の景色は、無限に広がる宇宙の暗黒一色と散りばめた白い点の数々。
座席に悠々と座りながら激戦を潜り抜けてきた体を休める。戦闘に集中し過ぎていたせいか全身の筋肉が一斉に悲鳴を上げた。
僅かに顔を歪めるが直ぐに元の表情に戻る。戦艦はオートパイロットに設定してあるので、このまま眠りについても問題はないだろう。

何もなければ―――

突然、操縦席のコンソールが一斉に警報を発した。色とりどりの光を灯していた計器類は全て赤一色に染まっている。
いきなりの警報を不愉快に感じながら閉じかけた瞼を開く。
前方を確認、特に異常は無い。
コンソールのレーダーディスプレイを確認、戦艦の進路上に高エネルギー反応あり。
もう一度前方を肉眼で確認した。やはり異常はない。

「どうなっている…」
「アービター、何かあったの。警報が鳴っているけど?」
「少し待て、今、確認する。それよりチーフは?」
「とっくに艦内に入ったわ」

それを聞くともう一度だけレーダーディスプレイを確認した。戦艦の進路上には小規模ながらも、未知の高エネルギー反応が感知されている。
このまま進めばエネルギー反応と接触してしまう。その為アービターは操縦をオートパイロットからマニュアルに変更、舵を切りエネルギー反応を避けるルートを取り始めた。
が、しかし。

「む!?」

前方のエネルギー反応が急速に大きくなり、範囲が拡大した。
その大きさは彼が取ろうとしていた回避ルートすら飲み込むものであった。
必死にコンソールを操作し、さらに大きく回避行動を試みる。しかし、それを嘲笑うかのように反応は大きくなり続ける。

「ダメだ、何かに掴まれ! 」
「え? どういう…キャッ!! 」

艦全体が大きく揺れた。黒一色の宇宙を白い嵐が覆い視界を潰す。
アービターは目を固く閉じ、座席の手摺に手をかけ踏んばる。薄い半透明膜状の瞼の向こう側では白い光がコックピットに徐々に迫りつつあった。
一分にも満たない揺れの中で、彼はしがみ付いていた意識を手放してしまった。












意識が戻ってくる、視界が暗闇から明け世界に色がつき始めた。
下半分は緑色、上半分は黒だった。一度瞬きし意識を覚醒させる。
体に異常が無いことを確認しつつ辺りを警戒、周囲は月明かりが灯る何もない平原だった。
同時に装備もチェック、装着している黄金色のアーマーは問題なく機能している。
マウントしているエナジーソードや、プラズマグレネード、プラズマライフル等も特に異常は見られなかった。
装備の確認を終え視線を空に移した時、アービターは顔を顰めた。
その眼に映るは夜空に浮かぶ二つの月、二つの月光が静かに人ならざる者と草原を照らす。

「どこかの惑星に不時着したか…?」

そう考えるも即座にその思考を打ち消す、不時着したならば傍に自分が乗っていた戦艦があるはずだ。しかし、その戦艦は全く見当たらない。
周囲を改めて見渡しても、どこにも黒煙は上がっていない。
仮に投げ出されたとしても、黒煙すら見当たらない程遠くに投げ出されたとは考えにくい。
コヴナントの中でも屈指の強靭な肉体をもつエリート族、が、いくら強靭といっても限度はある。
上空2kmから、ミョルニルアーマー一つで地面と激突しても、平然としていたチーフはともかく自分なら間違いなく死んでいた。
しばし思案に耽っていると、優れた聴覚が聞き慣れない音を拾った。即座に身構え、大きくなってゆく音と気配に神経を尖らせる。
月明かりに照らされながら、音と気配の正体が見えてきた。
楕円形の形をした小型の機械に、球体状の大型の機械。中央にレンズが付いており、数はさほど多くはないがアービターを取り囲んでいる。

「モニター…ではないな」

ハイチャリティを脱出する直前にHALOの起動を阻止しようと、抵抗してきた小型メカを連想させるが明らかに違う。
その間にも機会達はじりじりと異星人を囲む輪を縮める。アービターも下手に動かず、じっと相手の隙を窺っている。
一瞬、輪の動きが止まり次の瞬間、機械のレンズからレーザーが一斉に放たれた。しかし、レーザーの着弾地点、即ち輪の中央には何もおらず草が焦げていた。
機械を制御していた人工知能は、予想外の事態に思考を停止する。
鉄がひしゃげる音が木霊し、一体の機械の映像が砂嵐になった。
レーザーが放たれる直前に、歴戦の戦士はその気配を察知しその場で跳躍した。
一瞬遅れてレーザーが草を焦がし、動きを止めた機械に対してアービターは、全体重と落下の速度を加えた剛腕を見舞った。
その気になれば戦車すら叩き潰す拳の直撃を受け、機械は一瞬で鉄屑になった。
異形の姿を認知して再び機械達がレーザーを放つ、これも歴戦の戦士は無駄の無い動きで易々とかわし、同時に腰から青色の球体『プラズマグレネード』を投げた。
投げられたプラズマグレネードは小型機械に命中、しかし、弾かれるどころかそのままボディに付着し爆発した。
アービターは小型機械に走り込み、再び剛腕を振るう。裏拳気味に振るわれた拳は機械を弾き飛ばし、別の小型を巻き添えにしながら爆散した。
拳撃を放った直後に生まれた僅かな隙を狙って。大型が小型とは比べ物にならないほどの大出力のレーザーを放つ。
避けられないと判断したのか、回避行動を取らずにその場で迫りくるレーザーに対し、腕を交差させた。
レーザーは交差させた腕に直撃する、しかし、レーザーは腕を焼き切らず霧散し、着弾箇所から電撃に似た波紋が全身に広がった。
着弾箇所からは僅かに煙が上がっているが、黄金色のアーマーには傷一つ付いていない。

「それなりに威力はあるようだな」

さして驚いた様子もなく、腰から手の平に収まるほどの短い棒を取り出した。
再び大型がレーザーを放つ、今度は防御せずに大型に向かって駆け出す。
地を蹴り、姿勢を極限まで低くし、レーザーの下を潜り抜ける。後方で着弾すると同時に大型の懐に潜り込んだ。
握られた棒から発光し青白く透き通った、突きに特化した鋭利な刃―――、エナジーソードが形成される。それを深々と大型に突き刺し捻って抜いた。
素早く後ろに跳躍し距離を取る。次の瞬間、大型が内部から爆発する。部品が辺り四散し、その内の幾つかが異形の顔を掠める。

「これで…」

プラズマライフルを握り、振り向きざまに撃った。
青い小球が幾つも撃ち出され、射線上にいた小型に連続して命中する。表面に風穴を開けながら小型は爆散した。

「終わりだ」












戦闘が終わってから、アービターは破壊した機械達を調べる。どれもこれも高度な技術で造られてはいるが、コヴナントの技術に及ぶ程ではない。
部品の一つ一つを手に取ってじっくりと調べている内に、また音と気配を感じ取った。
今度の音は聞き慣れた音、バタバタと唸るローター音が聞こえた。部品を地面に置いて音の方角に顔を向ける。
始めは空に浮かぶ点だったが、次第に輪郭が明瞭になって行く。
頭上にローターを備えた、角ばったデザインのヘリコプターが近付いてきた。
構える訳でもなく、異形の戦士は棒立ちになってヘリコプターを眺める。ふと、ヘリの後方から人影が飛び降りてきた。
人影はそのまま地面に落下することなく、飛行しながら真っ直ぐこちらに向かってきた。即座にプラズマライフルを構える。
近付いてきた人影、黒衣を纏いその手には黒い戦斧を持ち、見事な金髪を左右で結い、整った顔立ちをした紅い瞳を持つ美女。

「時空管理局執政官、フェイト・T・ハラオウン、あなたを質量兵器運用の疑いで逮捕します!!」

彼女は顔を険しくしながら厳かに口を開いた。

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最終更新:2009年09月08日 21:43