はじめての外泊-new

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※※※ このページは、追加分のみを掲載しています。 ※※※ 「[[はじめての外泊-4]]」つづき――2009-11-22 更新 ――(26)――  スポーツ番組らしき映像が液晶テレビに映し出されたところでチャンネルを切り替えるのをや めた眞一郎は、すでに敷いてあるマットレスに腰を下ろした。比呂美に背を向け無関心を装いつ つも、両耳で比呂美の動きを気にかけていた。畳の上を歩く足音を何歩分か捉えた。このあと比 呂美は下着を着け、Tシャツかなにかを着るはずだ。そう予想して待つものの、そうした音は届 いて来なく、和室のほうは静まりかえった。不思議に思った眞一郎は振り返りかけたが、比呂美 が全裸だったらまずいと思い、もうしばらく待つことにした。でもその待ち時間はすぐに解消さ れた。 「眞一郎くん……」比呂美のほうから声をかけてきたのだ。その声は、普段ほとんど聞くことの ない低いほうの声だったので、眞一郎の背中の筋肉が反射的に強張った。あまり好くない兆候だ と判断したのだろう。眞一郎は、比呂美の姿が目に入らない程度に首をひねり、「どうした?」 と軽く返した。比呂美が何か訴えかけてきているのをわざと気づかないフリをしたのだ。でもす ぐに、そうしたことはまずかったと眞一郎は後悔した。 「こっち、向いてほしい」と比呂美が言ってきたからだ。比呂美には眞一郎が演技したのがわか ったのだろう。  眞一郎は、すぐに振り返った。比呂美は洋室との境の手前で、タオルケットをまとったまま突 っ立っていた。無言の表情は、明らかに『大事な話がある』と訴えていたので、眞一郎は慌てて テレビのスイッチを切って、再び比呂美を見た。そうすると、比呂美は洋室に一歩入ったところ でぺたんと座った。比呂美の膝頭は、眞一郎の座っているマットレスにかかり、ふたりの距離は 腕を伸ばせは簡単に届く距離となった。  比呂美は決して深刻な顔をしていなかったが、若干、相手を追い詰めるような威圧的な表情に ならないようにしようという努力が見て取れた。それと、ほんの少し、何かに怯えているような 細かな震えが体の芯から発せられているようだった。眞一郎にはそう感じられたのだ。 「どうした? 比呂美」と眞一郎は優しく促したが、ちょっと空気が重たくなりそうだったので、 冗談を飛ばした。「おまえ、いっしょの布団で寝たいとか言い出すんじゃないだろうな」と。  比呂美は無言で口元だけ笑って、視線を斜め下に落とした。ちょっとつかみどころない仕草だ った。そうしたいのはあなたのほうでしょ、とも取れるし、そんなわけないじゃない、とも取れ るし、どうしようかなと迷っているようにも取れた。比呂美がこんなに分かりにくく曖昧な反応 を見せるのは珍しいなと眞一郎は思った。だから、冗談のつづきがうまい具合に浮かんでこなか った。 「ねぇ」眞一郎の顔に視線を戻した比呂美が呼びかける。 「ん?」 「わたしが今、何を考えているのか、当ててみて?」 「え……」  比呂美にズバリそう言われて眞一郎は思った。比呂美はさっき、わざと自分の気持ちを悟られ ないようにしたのだと。それにしても、どうしてそんなことをする必要があるのだろう。比呂美 からの質問を考えるよりも、そのことがどうしても気になったが、そう簡単に納得できそうもな かったので、先に比呂美の気持ちを考えてみることにしたほうがよさそうだ。  眞一郎はとりあえず、ここでの出来事を遡ってみた――。比呂美が何の連絡なしにこの部屋に 訪れ、一緒にサンドイッチを食べ、比呂美はシャワーを浴び、それから交わった。二回目に突入 しようかというときに黒部さんから電話がかかってきて……。ざっと思い返しただけでも、すぐ に引っかかることがあった。つまり、『二回目の途中だ』ということ。そのことを比呂美は指摘 したいのか。確かに比呂美は中途半端なことが嫌いだけども、だからといってこんな回りくどい ことをするだろうか。眞一郎はどうしても腑に落ちず、比呂美の顔を掲示板に張り出された自分 の受験番号を確かめるような心境で見た。 「わ、わかった?」眞一郎があまりにも自信なさげな表情をしていたので比呂美は思わずふきだ してしまった。 「えっと~」と眞一郎は口ごもる。セックスのつづきをしたいのか、と改めて面と向かって言う のはかなり恥ずかしかった。だが、こういうときだからこそ『男らしく』しないとダメなんだと いう気持ちが盛り返す。 「だから、その~、んだな……」まだ眞一郎は恥じらいの壁を飛び越せない。いっそのこと、続 きの言葉を口にせず、目の前にいる比呂美をこのまま押し倒して行為を再開したほうがいくらか マシだと思った。そう思ったとき、眞一郎の中で何かが閃いた。この部屋にはふたりだけ。誰の 目も気にすることなくやりたか放題というこの状況なんだから、セックスをもっと満喫したいと いうのなら比呂美のほうから飛びついてきたっていいはずだ。そういう風におねだりすることは 今まで何回かあったのだ。全然なかったわけではない。それなのに比呂美は回りくどいというよ りも、あえて慎重に何かを進めようとしている。比呂美の心の奥底に潜んでいる真意は分からな いけれど、今ははっきりと言葉にしないといけないときなのかもしれない。 「答えるよ」と早口で言ったあと、眞一郎はひとつ息を吐いた。そして、答えを言った。 「えっちの途中だから、つづきをしたいし、止めにするなら、そうはっきり言ってほしい……か な?」  比呂美は眞一郎の答えを聞いても表情ひとつ変えなかった。これでは、満足にいく回答だった かどうか分かりようもない。眞一郎はしばらく比呂美のリアクションを待つ。比呂美の顔から少 し視線を落とすと、タオルケットを右手で押さえている比呂美の胸元がある。呼吸に合わせて、 その胸元が静かに上下する。何回くらいそれを眺めていただろうか。たぶん、5回くらいしたあ とに、比呂美は口を開いた。「……あたり」と。でも、つづきがあった。「でも、半分だけ」    つづく……  
※※※ このページは、追加分のみを掲載しています。 ※※※ 「[[はじめての外泊-4]]」つづき――2009-11-29 更新 ――(27)――  半分こね……。半分だけあげる……。半分ちょうだい……。ショートケーキを目の前にした比 呂美はよくそんなことを言って眞一郎をドキドキさせた。だから、甘酸っぱい記憶だけを持った 言葉だったのだ、『半分』は……。でも今その言葉は、とても残酷な響きにしか聞こえなかった。 それに、フルマラソンを走りきりゴールテープを切ったかと思えばそこはまだ中間地点でしたと 告げられたような絶望感も襲ってくる。ただ、今までとのギャップのせいだろうか、それとも、 あまりにも残酷すぎたせいだろうか、それが返って眞一郎を開き直らせた。もうお手上げだ、と いう風に。逆にそれが救いだった。 「ごめん……。なんか、おれ、ぜんぜんおまえのこと分かって……」 「ちがう。ちがうのっ」眞一郎の自虐的な態度に、比呂美は慌てて眞一郎の言葉を端折った。眞 一郎にそんなことを言わせるつもりは毛頭なかったのだ。 「わたしのほうこそ、ごめん……。いじわるな質問だったよね。ごめん……」  眞一郎は比呂美の目を見つめなおし、つづきを促した。 「眞一郎くんの答えは、ほんとうは満点なの。満点だったから、なんだか悔しくて、わたしのほ うが採点基準を上げたと……」 「なにか、言いたいことがあるんだろ?」めずらしく眞一郎が比呂美の言葉を途中で遮った。  眞一郎が少し強引な態度を取ったことで、比呂美は話が切り出しやすくなったと思った。でも、 「あのね……」と言ったところで比呂美の心臓がばくばくと躍りだす。比呂美は思わず俯いてし まい、胸元を隠しているタオルケットを押さえなおすフリをして呼吸を整えようとした。だが、 この至近距離でそんなことが隠せるわけがなかった。眞一郎は比呂美の異変に容易に気づいた。 それでも、比呂美が自分から話しだすまで待った――。  なんか妙な沈黙だった。眞一郎も比呂美も、そう思った。眞一郎が感じる時間の流れがあって、 比呂美が感じる時間の流れがある。それにふたりに関係なく流れる時間の流れがある。その三つ の時間の流れが、お互いの秒針の動きを意識している。監視していると表現してもいい。そして、 三つの時間の流れのすべての秒針がきっちり重なる瞬間を待つ。そんな沈黙だった――。きたる べきその瞬間をじっと待つ。そのとき、何かが開錠されて新たなステージへと進む。ふたりはそ こに立たされることになるのだろう。まもなく、その瞬間が過ぎ去ったのを感じた比呂美は、意 を決して口を開いた。比呂美が今まで生きてきた中でもっとも勇気を必要とした瞬間だった――。 「つけないで、したいの」  まるで自分とは別の誰かが喋ったような感じだった。つけないで、したい――比呂美はもう一 度心の中で繰り返し、さきほど自分の発した言葉の響きと、心の中で繰り返した言葉の響きを比 べてみた。間違いない、同じ言葉の響きだ。そう確認すると比呂美は全身の力を少し緩めること ができた。あとは、眞一郎がこの言葉をどう受け取ったかどうかだ。眞一郎は、「え……」と反 射的に声を漏らしてからまだ反応を見せていないのだ。こう表現すると数十秒くらい経っている ように受け取られてしまうかもしれないが、実際はまだほんの数秒のことだ。それだけ今の比呂 美にとってコンマ何秒かがとてつもなく長く感じられた。 「え……」と声を漏らしたあと「つけないって、何を?」と比呂美に訊き返すのを、眞一郎は寸 前のところで噛みころせた。だが、それに安堵するよりも、もし訊き返していたらどうなってい たかと思うと、身ががくがくと震えそうになった。いや、実際に震えたのだ。全身の毛が逆立つ のを感じ、背中にはたった数秒でびっしょりと冷や汗を掻いたのだ。  確かに、比呂美は突拍子もないことを言った。反射的に訊き返しても致し方ないかもしれない が、話の流れや、比呂美の態度をきちんと把握していれば、比呂美の発した言葉が何を意味する のかは一発で判断できなければいけないのだ。それに、ふたりとも今まで何度もきちんと避妊具 を使ってきたのだ。そう考えると、訊き返すことは『男』としてあまりにも情けなかった。しか し、本当の試練はこの後だったのだ。比呂美に何と言って返すのか、それが問題なのだ。なぜな ら、どう見たって比呂美は大マジで、コンドームをつけないで交わりたい、と言ってきたのだ。 それを簡単に「ダメだ」と拒否したところで、比呂美はそう簡単に納得しないだろうし、そもそ もそんな拒否の仕方は乱暴すぎだ。とにかく、もっと比呂美の気持ちを引き出さないといけない ようだ。どんなつもりで、そうしたいと思ったのか。拒否するのは、それからでも遅くないはず だ。  逆に「わかった」と返せたらどんなに楽だろうかと、一瞬、眞一郎は思ったが、すぐにそうい う気持ちを心の奥の奥の角を曲がった直接光の届かないところに押しやった。押しやったところ で、眞一郎は比呂美の顔をあらためて見た。澄んだ瞳が、眞一郎の答えを待っている。そして、 その奥に確かな『覚悟』が宿っていた。眞一郎にはそれが分かった。その『覚悟』が意味するも のは何か分かっている。でも、前面に押し出された『覚悟』に隠れて、『余裕』もかすかに宿し ていたことに眞一郎は違和感を覚えた。そのことで、言葉だけでは比呂美の気持ちを引き出せそ うにないなと思った。  眞一郎が膝立ちなって比呂美に近づこうとすると、比呂美は眞一郎の行動が予想外だったらし く、上体を少し後ろへ引いて身構えた。それでも眞一郎は構わず比呂美をゆっくりと押し倒した。 比呂美が後頭部を打たないように右手を回してカバーをした。眞一郎がキスをしてくることを予 想して比呂美は顔の筋肉を強張らせたが、いっこうにキスをしてくる気配がなかったので、「な にか、言ってよ」と口をとがらせた。それでも、眞一郎は表情を変えなかったので、比呂美は不 機嫌そうに目を閉じ横を向いた。そして、本音を眞一郎にぶつけだした。 「なんか変だよ、きょうの眞一郎くん。いつもと違もん」そう言い終わると比呂美は目を開けて 眞一郎を睨んだ。 「へん? ちょっとまって。えっと~」眞一郎の頭の中は混乱した。コンドームをつけないで交 わりたい、という話をしていたはずなのに、どうして自分の態度がいつもと違うという話に飛ん だのか、その関連性がまだうまく見つけられないのだ。比呂美に説明を求めようとしたとき、比 呂美のほうが先に攻めてきた。 「ぜったい、なにかあったでしょう?」と比呂美は両目を細めて疑いの眼差しを送る。 「はぁ?」 「わたしが気づいていないとでも思ったの」比呂美はそう言うと、眞一郎の首に両腕を絡ませて 思いきり引き寄せた。眞一郎は、首にかかった比呂美の重みで自分の体を支えきれずに比呂美の 体の上にのしかかる結果となった。すぐに両手を床につきなおして上体を起こそうとしたが、比 呂美がさらに締め上げて眞一郎の動きを封じた。それでも、下半身だけは膝を立てて浮かした。 おそらく勃起しかけていたことは比呂美にバレてしまっていただろうが。 「さ、白状しなさい」と比呂美の声が眞一郎の右の鼓膜をダイレクトに刺激した。  どうしてこんな展開になるんだろう。眞一郎はいまだ比呂美の言動が理解できぬまま、比呂美 の首元から漂う色香に負けまいと歯を食いしばった。    つづく……  

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