はじめての外泊-new

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※※※ このページは、追加分のみを掲載しています。 ※※※ 「[[はじめての外泊-3]]」つづき――2009-05-17 更新 ――(16)――  眞一郎は、比呂美の乳房をスイカやメロンなんかと勘違いしているのではないだろうか。溢れ 出る果汁を一滴も逃しやしないという感じに口を大きく開けて吸い上げている。比呂美の乳房と 眞一郎の唇とか縫いつけられてしまったかのようだ。呼吸を整えるために眞一郎が口を離すと、 比呂美の乳房は広範囲にわたって唾液でキラキラ光り、肌の色が赤くなっているのが分かる。そ れでも、眞一郎の両手は休みなく、それぞれに捉えた乳房の形をさまざまの方向へ押しつぶして 楽しんでいる。いや、むしろ、楽しむというよりも何らかの義務でそうしているようにも見える、 いまのところは。まだまだ準備運動といった感じなのだ。  こんなに強く、激しく、乳房を吸われるが初めてだった比呂美は、もっと痛いことにならない かと、眞一郎のやり方に内心びくびくしていた。だって、「いたい」と訴えたぐらいでは眞一郎 はそう簡単にやさしくしてくれそうもないのだ。困ったことになった、と比呂美は思った。でも、 その心配はすぐに解消されることになった。眞一郎の愛撫の仕方が、力から技へ、剛から軟へ切 り替わったのだ。しかも、比呂美の快感のツボをつつくように攻めてきだしたのだ。  比呂美の乳房を力任せに吸い上げたあと、眞一郎は比呂美の唇に軽く口づけをした。 「がまんしなくていいから……」口づけのあと眞一郎はそうつぶやいた。 「痛くしないで……」と比呂美は切実に訴えたが、「そういう意味じゃないよ」と眞一郎は返し た。 「え? ……?」言葉と視線の二段階で比呂美は訊き返す。  この流れからして、ちょっとやりすぎたと思った眞一郎が、痛みを素直に訴えれない比呂美を 気遣っているのだとだれもが思うだろう。でも、眞一郎はそれを否定した。眞一郎は何かを企ん でいる。いや、正確に表現するならば、何かに挑戦しようとしているといった感じか。眞一郎が ティッシュペーパーの箱を片手に現れたときから薄々と感じていたことだが、比呂美はようやく それをはっきりと捉えた。でも、なにを? 眞一郎はなにをしようとしている?  比呂美の問いかけを無視して、眞一郎は再び、比呂美の顔に自分の顔を近づけていく。またキ スかと思いきやそうではなく、自分の頬と相手の頬をすり合わせるようにくっつけたのだ。頬同 士の口づけといった感じた。一見、外国人が親愛の情を込めてよくする挨拶のように見えるが、 眞一郎が今しているのは、織物の一本一本の糸をひとつひとつ丁寧に愛でるような触れ方だ。と ても親愛の情などという言葉で片付けられるもではない。幼い頃に出会ってから今までに積み上 げられてきたお互いの気持ちの層と層を絡み合わせるような、もっと形がはっきりした愛し方の ように思える。 「……ぁあ……」と、比呂美の口から自然と声が漏れた。比呂美はそれを我慢できなかったのだ。 いや、違う、比呂美の中のどこか別の神経が反応して声を出させたのだ。  心の深層で湧き立つものを感じはじめた比呂美は、無意識のうちに眞一郎の背中にしっかりと 腕を回していた。比呂美のからだ自体が、眞一郎のからだを求めているようだ。頬と頬を接地さ せたことによって、心と心の交流だけでなく、体と体の交流がはじまろうとしていた。 「やわらかいね……」と眞一郎はつぶやき、名残惜しそうにゆっくりと頬を離した。比呂美の瞳 はすぐ眞一郎の顔の動きを追う。次は何をしてくるのだろうという期待に満ちている。  眞一郎の次のターゲットは比呂美のおでこだった。眞一郎は、右手で比呂美のおでこにかかっ ている前髪をかき上げる。その途端に比呂美の顔を幼く見え、眞一郎にあの祭りの日のことを思 い起こさせる。おそらく、その日は眞一郎と比呂美の恋の出発点。あのとき手をつないで一緒に 歩いたからこそ、ふたりに今この時があるに違いない。  朝顔の図柄が描かれた桃色の浴衣を着た比呂美を想像しつつ、眞一郎は比呂美のおでこに唇を 押しあてた。 「うふふ……」と比呂美が笑う。眞一郎がおかしいのではなく、純粋に嬉しいのだ。次々と眞一 郎が、比呂美に新たな発見をプレゼントしてくるからだ。『頬ずり』や『でこチュー』で、こん なにも、深海の潮の流れのように落ち着いた気持ちになるなんて、比呂美はいままで考えもしな かったが、眞一郎は考えてくれていたのだ。  眞一郎は、比呂美のおでこからそっと唇を離し、どうだった? と目で比呂美に問いかける。 よかったよ、と比呂美はゆっくりとひとつ、まばたきして答えた。比呂美の緊張感がかなりほぐ れてきたなと感じた眞一郎は、ちょんと触れるようなキスを比呂美の唇にして、比呂美の首筋に 顔をうずめた。耳下部から肩にかけてあまがみすると、比呂美の全身が再び騒ぎはじめた。 「ぅむぉ~、ゃだったらぁ……」ふだんの比呂美からは到底聞くことのできない舌足らずな声だ。  構わず眞一郎は比呂美の耳たぶにしゃぶりつく。 「……くぅぅぅぅぅぅ……」と、どうやって発しているのか分からないようなかすれた声を比呂 美は上げ、首を小刻みに震わせた。それから、堰を切ったように「あぁっ」と声を上げて大きく 息を吐いた。単にこそばゆいのではなく、比呂美の性的の興奮度がさらに増したようだ。その証 拠に、比呂美の視線はどこを見ているのかわらないほど、ゆらゆら揺れている。目の前にある眞 一郎の横顔や肩口を捉えているとはとても思えない。いま、眞一郎を捉えているのは、比呂美の 両眼ではなく比呂美の両腕だけ。眞一郎の体を感じているのは、比呂美の胸と腹、そして両脚だ けだった。  眞一郎は、唇を比呂美の素肌に押しあてたまま、下のほうへ滑らせていく。首すじを下りてい き、首の付け根に到達。肩のラインを一往復したあとさらに下へ、鎖骨のでっぱりを通り過ぎて、 二つの乳房の中間地点で止まる。また乳房を狙っているようだ。 「ゃん」と比呂美は子犬のような声を上げる。  比呂美の乳房は、さきほど眞一郎が強く吸いすぎたせいで、乳輪の外側の回りも充分に桃色が かっていた。べっとりついた眞一郎の唾液はとっくに乾ききっていたが、濡れていなくても、比 呂美の素肌は輝きを放ているように瑞々しさに満ちている。眞一郎は首をひねり、右耳を比呂美 の胸の真ん中辺りにくっつけた。その瑞々しさの根源を聞きたい――そう思ったのだ。比呂美の 鼓動が眞一郎の頬に伝わってくる。その振動は、バスケットコートを40分間走り回れる心臓と はとても思えないほど、可愛らしく感じる。 「……あぁ……ひろみ……」  この音を一生聞いていたい。そう思った眞一郎は思わず声が漏れてしまった。 「なぁにぃ」眞一郎の髪に指をもぐらせ、くしゃくしゃにしながら比呂美は答えた。 「……ひろみぃ……」と再び眞一郎は名を呼ぶ。 「……しんいちぃろぉ、くぅぅん……」比呂美も負けじと愛情たっぷりで呼び返す。たった一回、 お互いに名前を呼び合っただけなのに、ふたりとも急に胸が熱くなるのを感じた。ふたりの間で は、名前を呼ぶ行為ですら、唇などで体を愛撫するのと同じくらいの力を持っているようだ。  比呂美の乳房に頬ずりをしたあと、あるべき場所に戻っていくような自然の流れで眞一郎の唇 が比呂美の乳首を覆う。眞一郎の手はすでに比呂美の乳房を揉みほぐしだしている。こんどは、 前みたいに乱暴にしたりはしない。眞一郎の舌先は、まるで水彩画の最終仕上げをしている筆先 のように乳首の表面をいとおしくなぞる。でも、それだけではない。刺激を与えることも忘れな い。やさしく舌先で転がしたあと、唇で乳首を挟み、垂直にゆっくりと持ち上げていく。どこま で伸びるか試すみたいに。やがて、乳首をつかんでいる圧力が、乳房を元に戻ろうとする力に耐 えられなくなると、伸びきった輪ゴムを離したときのように眞一郎の唇から乳首が離脱する。し かし、比呂美の乳房が解放の喜びに震えるのも束の間、眞一郎の唇はすぐそれを追いかけて捕ま える。もうどこにも逃げ場所などないのだ。 「……くぉあ~、ひぇんたぁぃ……」(……こら~、変態……)  もう比呂美が何を言っているのか分からない。でも、比呂美にしてみれば、この状況で正確に 自分の言葉を伝える必要はないのだ。次々と湧き起こる衝動に、身も心も完全に委ねていればい いのだ。なにか言葉が頭の中に湧き起これば口から発すればいいし、眞一郎の体を感じたければ 腕や脚を絡めていけばいい。たとえ見っともなくてもそうすればいい。  眞一郎は、くねくねと身をよじる比呂美を両腕と両脚の間に閉じ込めたまま愛撫しつづける。 なんでもないようなことに見えるかもしれないが、鍛え上げられた肉体をもった比呂美の体をじ っとさせるのは容易なことではない。比呂美の全身の筋力は、細身の眞一郎の体など簡単に持ち 上げることができる。比呂美が感じだすと、まるでプロレスでもしているような感じになるのだ。 だから、比呂美をおとなしくさせるためには、眞一郎も本気で全身を使わなくてはならない。比 呂美の体に全体重をかけて覆いかぶさり、両腕をつかむというように。そうすることで、比呂美 も少しは我に返ることができるのだ。 「んぅぅ~」と比呂美が息苦しそうな声を上げる。眞一郎にあまり体重をかけないでと求めてい る合図だ。  比呂美の乳房のアンダーラインを唇でなぞったあと、眞一郎の顔は徐々に比呂美の下半身の方 へずれていく。みぞおちを舐め、さらに下へいって、おへその周りの肉を吸い上げて遊ぶ。 「ひゃぁっ……、あぁっ……」比呂美の声が一気に複雑な表情に変わる。こそばゆさに加え、も うすぐ秘部に眞一郎の軍勢が到着することに対する期待と、戸惑いと、恥じらいと……、ごっち ゃになったような感じだ。  比呂美は、首や背中を反らし、背中で敷布団を叩くようになる。それでも、眞一郎は比呂美の 乳房を弄びながら、唇を肌に押しあてたままさらに下へ進ませる。ゆっくりと、みちくさをわざ としながら比呂美をじらす。この眞一郎の策略に感づいたのか、比呂美の手が眞一郎の頭をぐっ と下へ押しやる。早く行けといわんばかりに。もちろん、これは比呂美が無意識でやっているこ と。比呂美がそう急かさなくても、目的地はすぐそこ。眞一郎の唇は、タオルケットをずらしな がら、比呂美のショーツのウエストラインに到達する。  比呂美のショーツの色が予想とは違ったので、眞一郎は思わず顔を上げた。一瞬、穿き替えた のかと思ったくらいだ。比呂美の後姿を見て、てっきり紺色だと思っていたのに、少し青みがか った鮮やかな紫色だった。眞一郎はタオルケットをずらして比呂美のショーツを露にする。なる ほど、下腹部を覆う部分だけデザインが違うのだ。じっと見惚れるてしまうくらい、その部分は 細かい刺繍で花柄が描かれている。あまりにも細かいので、紫が単なる紫には見えないほど色彩 感覚が狂わされる。  それにしても、いま眞一郎は、いままで感じたことのないほど胸が高鳴っていた。気が変にな りそうなくらい頭がくらくらした。腹のそこから、いままでじっと息を潜めていた何かが横隔膜 を激しく叩いて息が苦しくなった。こうなったのも、紛れもない、比呂美のこのショーツのせい だ。比呂美の体を一気に大人の女へと演出したせいだ。はじめて見る下着ということもあるだろ うが、このデザインは反則だ、と眞一郎はそのセリフを喉元で何度もかみ殺した。おそらく、比 呂美がもっているショーツの中でいちばん布きれの面積が小さく、いちばん官能的なデザインだ ろう。腰骨の辺りを通るサイドの帯(ショーツのウエストラインの一部)は、2センチにも満た ないほど細く、切れやしないかと思う。だから、比呂美の体がますます美しく、いやらしく見え てしようがない。『勝負下着』という言葉が、なぜこの世に存在するのか眞一郎は判った気がし た。だって、どうしようもないくらい、比呂美をめちゃくちゃにしたいという衝動に駆られてし まったのだ。このショーツのせいで、男の本能という名の箱の蓋が開けられてしまいそうだった。 (やばい、このままでは、射精してしまう)  びくんびくんと脈打つ性棒を感じながら、先延ばしにする策を必死に考える。挿入する前に果 てるなんてカッコ悪すぎるではないか。比呂美を先にイかしてやろうと思ったのに、パンツを脱 がす前に自分がイってしまなんて、情けないにもほどがある。そんなの『男』じゃない。  下着からふわっと漂う、あの甘い香りを嗅がないように息を止め、眞一郎は比呂美の両腕をつ かんで引っ張った。 「あっ、なに? ……」  いきなり上半身を起こされた比呂美は、目に見えない何かを突っ込まれたみたいに口を開け、 目をくるくるさせた。眞一郎は、比呂美の裸を見ないようにし、大きく乱れた息を整えようとし ている。眞一郎が顔を背けていたので、比呂美は視線を眞一郎の下半身に移した。トランクスの 前の部分は、いまにも中から性器が飛び出してきそうなくらいぱんぱんに膨れている。それに、 濡れている部分があった。  まさか! と比呂美は思った。もしかして射精してしまったのだろうか。それで眞一郎はバツ が悪そうにしているのだろうか。こんなとき、なんて言葉をかけたらいいのだろうか。比呂美は 必死に考えるが、その途中で眞一郎が動き出す。それも意を決した顔つきで。  眞一郎は、比呂美の左側を這っていき、背中側に回り込んだ。そして、比呂美が今している格 好と同じようにおしりをついて脚を前に投げ出し、比呂美の背中に自分の胸をつけた。 「ごめん……、比呂美……」と眞一郎は比呂美の耳元で囁いた。  ごめん、ということは、もう出てしまった、とういうこと? 比呂美は振り返って眞一郎の顔 を伺おうとしたが、それよりも先に眞一郎が比呂美の体に腕を絡め、うなじに顔を埋めてきた。 「ね~、わたし、べつに……、その……」つづきに、そんなの気にしないよ、と比呂美は言おう としたが、眞一郎の手が、利き手が、比呂美の秘部をたどってきたので、それを伝えることがで きなかった。「そ……、な……。……ぁあっ」と言うのがやっとだった。 つづく  
※※※ このページは、追加分のみを掲載しています。 ※※※ 「[[はじめての外泊-4]]」つづき――2010-07-31 更新 ※ひそかにブログを立ち上げました。報告はこちらで。 http://blog.goo.ne.jp/kakaomamay ――(34)――  眞一郎はゆっくりペニスを引き戻した。といってもほんの数センチだけだ。あまり戻しすぎる と、再度深く挿入するときペニスを刺激しすぎて射精が一気に始まりそうだった。できることな ら、比呂美のこの最後のお願いを無事に何事もなく叶えてやりたい。ただ、男の下半身というも のは一度坂を下り始めたら主(あるじ)ですらどうすることもできないという暴走ぶりを発揮す る。だから、慎重に事を進めなければいけない。  ペニスを戻すとき思いのほか力を要した。比呂美の膣の内壁が絡みついたように締まっていた からだ。まるでペニスを引き戻させまいとしているかのようだ。そこで眞一郎はハッと気づいた。 さっき無性に気になった時間というのは、比呂美とつながっている時間のことだと思い至った。 どれくらいの時間だろうか。長く感じるが、せいぜい数分しか経っていないだろう。あのペニス の硬直を考えれば、非常によくがんばったほうだ。いや、奇跡的といっていい。それもおそらく もう少しの辛抱だ。  ペニスを一番深く挿入したときの位置を想像しながら、腰の位置や足の踏ん張り具合を整えた。 眞一郎が上半身を離して比呂美の顔を確かめると、比呂美は意外にも無表情に近かった。どうい う顔をしたらいいのか分からないといった感じだ。あるいは、子宮のほうに神経が集中していて 余裕がないのかもしれない。それと不安も少しはあるかもしれない。でも。これからやろうとす ることは比呂美が望んだことなのだ。そのことに眞一郎は同意した。これからすることは、ふた りの気持ちが一緒にならないとできないことなのだ。 「比呂美、いくよ」まとわりつく弱気を断ち切るように眞一郎が合図をする。思いのほか声がか すれていて、比呂美の名前を正確に発音できたかどうか分からない。それでも比呂美は黙ってう なずいた。  ペニスをゆっくりと動かしはじめてすぐに加速する。ペニスの根元が比呂美の大唇陰に到達し ても眞一郎はさらに奥へ力を込める。比呂美の言うとおりにしてみたのだ。当然予想される比呂 美の体の筋肉からの反発力に押し負けまいと身構えていたが、意外なことに、あっけなくペニス はさらに奥へ沈み込んていった。膣口周辺の筋肉が驚くほど柔らかくなり、眞一郎のペニスを一 番を奥へと招き入れたのだ。でも、眞一郎が女性の体の不思議を実感するのも束の間、その瞬間 から一気に事が始まってゆく。 「んはッ……」風船でも割れたようにいきなり比呂美が大きな声を上げ、全身を大きく振るわせ た。比呂美にとっても予想外のことがあり、声を抑えきれなかったようだ。おまけに、比呂美が 体をビクつかせたせいで、比呂美と眞一郎の体がほぼ同時に敷布団越しに畳を打つことになる。  その直後だった。眞一郎の射精へのプロセスが、檻から放たれた猛獣のように猛ダッシュで始 まった。  ペニスの根元の奥のほうで急激に何かが膨らむ感覚がある。その時点で眞一郎は、もうダメだ、 限界だ、すぐに抜かないとダメだ、と判断を下す。眞一郎の意識がはっきりしていたのはこの時 点までだった。反射的に体が動いて、比呂美の膣からペニスを完全に引き抜くことには成功した のだろうが、同時に、下腹に力を入れて精子が飛び出すのを少しでも遅らせようとしていた。全 身の皮膚に感電したときのような痺れ。耳の下の首筋が熱くなり、いやに物音がはっきりと聞こ えすぎるようになる。体内の音なのか体外の音なのか区別が付かず、サーという高周波の音がだ んだんに支配してくる。心臓は、鉄鎚で石を叩いたような鼓動を打つ。自分が今、どのような格 好をしているのかも分からない。ただ認識できるのは、自分の体中から外へ次々に飛び出してい くものの感覚だけ。飛び出すごとに、宙に浮くような上昇感を味わい、今まで心と体を締めつけ ていた呪縛が開放されていく。天に昇るときって、こんな感じかもしれない。そう思ってしまう ほどの心地よさ。  でも、それは永遠にはつづきはしない。誰かが、音も景色も皮膚の感覚も現実へと塗り替えて いく。決してそれには抗えない。いい思いをしたのだから、これで良しとすべきだと自分に言い 聞かせるしかない。そして、現実の世界で待っている愛しい人を思うことに専念していくのだ。  愛しい人――   ユ ア サ ヒ ロ ミ……    湯浅 比呂美  比呂美の姿を完全に思い出せたところで、眞一郎の意識が完全に現実とつながった。 (おれは、ちゃんと、できたのか?)最初に頭に浮んだのはこの疑問だ。  射精する前に、コンドームを着けていないむき出しのペニスを比呂美の性器から引き抜くのが 今回の最大なミッションだったわけだ。  ハッとなり、眞一郎は比呂美を見下ろした。  眞一郎はどんな体勢で自分の子宮を突こうとしてくるのか。比呂美にはそのことが気になった。 眞一郎の腕が両脚の太ももをがっしりと掴んだ体勢だと脚を外側へ大きく開けず、眞一郎のペニ スの先端が子宮の入り口部分をしっかり捉えることは難しくなってくる。眞一郎にそのことを事 前に伝えてもいいのだが、こういうことは男性自ら体位を決めさせたほうがいいように思われた。 女性の言われるままにやるというのは、男性にとって心のどこかで嫌なものだろうから。眞一郎 なら優しく比呂美の言ったとおりにするだろうが、眞一郎ももう『男』なのだ。眞一郎の優しさ にいつまでも甘えてはいけないし、男のプライドを傷つけてはいけないと比呂美は思った。  比呂美の予想通り、眞一郎は比呂美の胴の両脇に両手をつき、腰の動きと脚力を利用してペニ スを深く挿入するつもりだ。これだと比呂美の両脚は自由になり、比呂美はほっとする。比呂美 はゆっくりとさりげなく両脚を付け根から折り曲げながら外側へめいいっぱい開いた。膝頭が敷 布団に触るくらいまで。おそらく自分の両脚はきれいな『M』の字になっているはずだ。比呂美 はなんだが嬉しい気持ちになる。そのとき膝頭が眞一郎の両腕にあたる。そこまで比呂美の両脚 は開ききり、性器を完全に眞一郎へ突きだす格好になった。だが、そこで終わりではなかった。 眞一郎が比呂美の両膝の裏側に手を差し込み、さらに比呂美の肩のほうへ持ち上げたのだ。確か にそのほうが眞一郎としても体勢がいいようだ。 (わたしだからできる体位かもしれない)比呂美は自慢げに密かにつぶやいた。  眞一郎が何かを囁く。だぶん、「比呂美、いくよ」と言ったのだろうと思って、比呂美は黙っ てうなずいた。  次の瞬間――この世の時間軸から離脱してしまったような感覚に見舞われた。そうとしか表現 しようがなかった。  子宮を中心に放射状に次々と細胞が生まれ変わっていき、再びこの世の時間軸にその存在を繋 ぎとめていく。その直後、比呂美は何とも表現しがたい幸福感に包まれた。大きな掌に自分の体 がすくい上げられているような感じだった。ずっとこのままでいたいと願望が当然のように生ま れてきたが、すぐに何か大事なことを忘れているようで落ち着かなくなる。  そうだ、眞一郎だ。 (眞一郎くん、どこ?)そう思って、比呂美は眞一郎の顔を探す。眞一郎の顔はすぐそばにある。 手を伸ばせば届く距離。でも、目の前にあった愛しい人の顔に安堵するのも束の間、事態は一気 に急変する。眞一郎の様子がおかしい。おかしいと言うよりもアレが来てしまったのか――その 推測が比呂美の頭の中をかすめたときには、眞一郎は苦しそうに唸り、ペニスを一気に引き抜い た。 「ぅんご、めん……」 (ごめん、って謝ったの?)  眞一郎が何て言ったのか知りたくても、比呂美には前屈みに俯いてしまった眞一郎の頭のてっ ぺんしか見えない。だが、どうしたのものかと考える間もなく、眞一郎の全身は大きく振るえ、 眞一郎は何かを産み落としたかのような悲痛な声を上げた。鋭く三回。 「ぅぅあッ……ああッ……んくあぁッ……」  比呂美が反射的に眞一郎の下半身に目をやったときには、その白いモノが眼前に迫っていて、 比呂美は顔を逸らすことできず、目をつむるしかなかった。  第一射目は、左目から鼻頭にかけて、第二射目は、鼻全体を覆い、第三射目は、唇からあごに かけて見事に命中した。水鉄砲を顔のそばでやられたときのような勢いで、しかも水と違ってそ の白い固まりはずしりと重かった。それに、男の象徴でもあるあの臭い。鼻の穴のほとんどが白 い固まりに塞がれてしまったので、口を少し開いて比呂美は息をした。  第四射目以降は、お腹の辺りに点々と痕跡を残した。  比呂美の瞼の裏に、何度も、白い固まりの動画が繰り返される。その白い固まりはおそらく細 長く紐のような形をしているはずだが、真正面から見ていた比呂美には、アメーバーが一気に襲 ってくるように見えた。時間が少し経って全身の緊張がほぐれてくると、白い固まりが命中した ときの衝撃というか感触が甦ってくる。愛情も優しさもなく、ただ物理法則に従った運動によっ て生み出された衝撃。こんなのイヤだ、と比呂美は叫びたくなったが、自然法則、自然の摂理の 中にこそ、人知を遥かに超えた命の仕組みがあるのだということに思い至る。この白い固まりは、 眞一郎と自分とが愛し合った証であり、命の仕組みの一端なのだ。まぎれもなく、まちがいなく。  でも、これからどうしよう。眞一郎が射精後の恍惚とした余韻から抜け出すまで待つしかない のだろうか。顔の表面で眞一郎の精液が徐々に広がっていっている。できるだけ垂らさずに布団 などを汚さないようにしたい。ん~どうしよう。 「……ん~」比呂美のわずかに開いた口から心の声が漏れてしまった。でも、それで眞一郎がタ イミングよく正気に戻ることができた。 「ぁ? ぁぁーぁあーああー、わあーーーッ」  眞一郎の声のボリュームがだんだんに上がっていく。比呂美は必死に笑いを堪えつつ、目が開 けられなくて慌てふためく眞一郎を見れなくて残念だと思った。 「ご、ごめん、比呂美……   えっとー、どこだ、ティッシュ、ティッシュ……    そのままでいろよ、いま拭いてやるから…………」 「ん~~」(早く拭いて)  精液を顔にぶっかけたお詫びに腕枕をしろ、と比呂美が冗談半分で命令すると、眞一郎は神妙 な顔をして素直に従った。もはや眞一郎には冗談は通用しなかった。比呂美としては、気にしな いでほしいという意味を込めたつもりだったが、眞一郎としては『大失敗』には違いなかったの だろう。比呂美の膣内で射精(中出し)しなくてもだ。  眞一郎の性格からすると、こうなっては眞一郎はなかなか立ち直れないので、比呂美は眞一郎 に変に気を遣うの止め、ありのまま話すことにした。 「ものすごい勢いだったよ。当たった瞬間、顔が痛かったもん」 「……すまん」眞一郎がしかめっ面で謝ると、比呂美は眞一郎の腕の中で笑い転げた。 「笑うなよっ」さすがに眞一郎はかちんときたらしい。 「だって、想像してみてよ」比呂美は涙目を拭きながら眞一郎にそう求めた。 「何を?」 「何をって……コンドームの中で、あれだけのことが毎回起こっているっていうことよ。怖くな らない? わたし、正直、怖くなってふるえちゃった。だからね、なんかね、わたしたち、なに やってんだろう、わたしたち、まるで自分たちのこと分かってないと思って。でも、ちゃっかり やることはやっている。それでおかしくなったの」 「そ、そうだな……」比呂美の言うことに感心したように眞一郎はうなずいた。もしかしたら、 笑うところだったかもしれないが、眞一郎は一言付け加えた。「気をつけないとな」  眞一郎のその最後の一言が、比呂美は無性に気になり、腹が立った。 「わたし、いままでどおり、眞一郎くんとエッチしたい。さっきのことで、変に臆病になるのっ てなんか違うと思う。あんくらいのことで、コンドームが簡単に破けてるなら、社会問題になっ ているわよ。それと、わたしのことも信じてほしい。わたしは、絶対、眞一郎の苦しむ顔をみた くない、わたしのことで、眞一郎くんを苦しめたくない。そのために、わたしはいつも準備をし ているの。今夜の事だって……」  比呂美はここまで一気に喋ると、バツが悪そうに眞一郎から目を逸らした。ちょっとした一言 にどうして噛みついてしまったのか分からないといった感じに。  ときどき、こうした比呂美の感情の起伏に付いていけないと感じることが眞一郎にはあったが、 今回の眞一郎の一言は不用意な発言だったことは否めない。愛し合うということ、子供ができて しまうということは、気をつけるという程度の心と体の準備で済むような話ではないのだ。比呂 美が言いたいのはそういうことなのだろう。  比呂美に謝る意味を込めて、腕が痺れて完全に感覚がなくなるまで腕枕をしてやろうと眞一郎 は心の中でささやかに誓った。比呂美に、バカみたい、ってあとで言われても構わないと思いつ つ……。                                はじめての外泊-5 へつづく   ――次回予告《 五 ふりきっちゃった……》 『女』を曝け出すことに、快感を覚える比呂美。  比呂美の潜在能力は、再び眞一郎を驚かす。  眞一郎は、比呂美の性の抑制を解き放つことができ安堵するが、  比呂美の心の奥深くに潜むものに気づけないでいた……。  

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