高岡ルミの未来・前編

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高岡ルミの未来・前編 - (2008/05/31 (土) 05:10:10) のソース

※この話は「高岡ルミの過去」「高岡ルミの現在」の完結編です 

【注意】 
・身体障害の話が出てきます。不快に感じる方は読まないようにお願いします 
・エロはありません 
・オリジナルキャラが登場します 



私はあの体育教師の子を妊娠してしまった 
両親にも知られ、父が学校に怒鳴り込んだ 
あの男は逮捕され、私は堕胎した 
その噂は比呂美のときと同様、すぐに学校中に広まった 
もう私を苦しめるあの男はいない。だけど学校に居場所はない 
皆は私を“レイプされて妊娠した哀れな奴”として見ている 
バスケ部の皆もどこか余所余所しくなって、部活にも行かなくなった 
両親の強い希望もあり、私はあと一週間で転校する。家も引っ越すことになった 
遠く離れた母の故郷に移り住むことにしたのだ 

あれから私はあまり授業に出なくなり、保健室にいることが多くなった 
そして今はほとんど学校にすら行っていない 
今日も学校をサボって、公園のバスケットゴールを相手に延々とフリースローを投げ続けている 
どれくらいシュートを放っただろうか、疲れた私はベンチに座って、楽しかった日々を思い出していた 
「隣、座ってもいいか?」 
そいつは私が答える前にベンチに座った 
「こんなところにいたんだ」 
「…誰?」 
「同じクラスの二塚。…覚えてない?」 
私服なのでわからなかったが、そいつは同じクラスの【二塚海斗(ふたつか かいと)】だった 
二塚君とは同じクラスだが、あまり話したことはない 
背が高くて、長い黒髪に、眼鏡をかけてて、同級生からはオタク系、下級生からはコワイ人だと思われている 
前髪で顔が半分くらい隠れていて表情もわからない。男子としては私のタイプではない 
「覚えてるよ。文化祭のライブで酷い演奏してたもんね」 
「…アハハ」 
彼が所属する軽音楽部は、文化祭で体育館ライブをやったのだが 
二塚君のバンドは酷いボーカルと演奏で、会場から一斉にブーイングを浴びて退場したのだ 

「高岡さん、転校するってマジ?」 
「マジ」 
「いつ?」 
「一週間後」 
二塚君がどうしてそんなことを聞いてくるのだろう 
私は疑問に思ったが、その答えはすぐにわかった 
「俺、面倒臭いことキライだし、もう時間がないから単刀直入に言うけど 
 高岡さんのことが好きなんだ。俺と付き合ってください」 
何を言っているのか、すぐには理解できなかった 
これまでドラマやマンガでは、たくさんの“告白”シーンを見てきたけど 
まさか自分がその当事者になるなんて思ってもみなかった 
だって私は… 
「…やっぱダメ?」 
「………」 
「高岡さん?」 
「……え?」 
「返事、聞かせてくれると嬉しいんだけど…」 
答えることができない 
なんとかこの場を誤魔化そうと私は提案する 
「えっと…じゃあ、フリースローが入ったら…」 
「入ったら、返事を聞かせてくれるんだな?」 
「…うん」 
「よーし!」 
二塚君は腕まくりをして、ボールに念じるような仕草を見せる 
そして彼は、まるでサッカーのスローインのようにボールを投げた 
バスケは素人なのだろう。リングの手前で失速して、そのままかすることなくシュートは外れた 
転がったボールを拾って、私はその場を去る 
「もう一回、明日もう一回だけチャンスをくれ!」 
後ろで二塚君の声がしたが、聞こえないフリをした 

家に帰っても、二塚君の言葉がずっと頭に残っていた 
初めての告白だったから…思い出すだけで顔が熱くなる 
こんな私のどこがいいのだろう 
男みたいな私の…汚れている私の…一体どこが… 
なんとなくインターネットの検索サイトに彼の名前を入力してみる 
「二塚海斗」…検索結果8件 
どうせ何も出てこないだろうと思っていたので驚いた 
同姓同名かもしれない、早速クリックしてみる 

【富山の天才少年 二塚海斗君 全国大会準優勝】 
第**回全国テニス大会、中学生男子の部で、富山県代表の二塚海斗(14)が準優勝に輝いた 
7歳からテニススクールに通っていた二塚君は、現在のコーチにその才能を見出され…… 

数年前のニュース記事だった 
銀メダルを手に笑っている少年の画像もある 
「これが二塚君…こんな顔してるんだ」 
今のイメージとは全然違って、短髪のさわやかなスポーツマンだ 
私はドキドキしている自分に気づいてしまった 

次の日、私は昨日と同じ時間に公園にいた 
二塚君に会いたかった。会って聞かなければならないことがある 
彼は私が来るよりも先に、フリースローの練習をしていた 
その手には古いバスケットボール 
「そのボールどうしたの?」 
「家の納屋にあったんだ。母ちゃんが昔バスケ部だったらしくて、シュートのコツも教えてもらった」 
そう言って彼が放ったシュートは、リングに弾かれる 
「アハハ…これでも五、六回に一回は入るようになったんだぜ」 
「それからずっと練習してたわけ?」 
「まぁね」 
「…どうして?」 
「高岡さんの返事が聞きたいから」 

二塚君はベンチに座ってスポーツドリンクを飲んでいる 
その隣に私も距離を置いて座った 
「どうしてそんなに返事が聞きたいの?」 
「…高岡さんが好きだからに決まってんじゃん」 
「私ね、汚れてるんだよ…二塚君も知ってるでしょ、先生に…」 
彼が私の言葉をさえぎる 
「知ってる。でも俺の気持ちには関係ない」 
「……私なんかの、どこがいいの?」 
彼は私の近くに座りなおしてこっちを向いた 
眼鏡を外してこっちを見ている、顔が近い… 
「な、何?」 
「見て」 
彼は長い前髪をかきあげた 
昨日パソコンで見た画像と同じ顔だ、だけど違うところが一つある 
彼の片目は光を失い、暗く濁っていた 
「その眼…」 
「ビックリしただろ?中三のときに事故で見えなくなったんだ 
 俺、それまでは夢中になってたことがあったんだけどさ…」 
「テニスのこと?」 
「もう知ってるのか。インターネット?」 
「うん…」 
「片目だと遠近感がうまく掴めなくてさ、選手としてはダメになって自暴自棄になった 
 麦端高校に入ったけど、目標もなかったから退学も考えた 
 そんなとき高岡さんがゼロからバスケ部を作ったって聞いて… 
 強豪の蛍川相手でも怯まずに戦う姿を見てカッコイイなぁって思った 
 俺、一年のときからずっと、逆境でも諦めずに頑張れる高岡さんに憧れてたんだ」 
「………」 
「俺は高岡さんが汚れてるなんてこれっぽっちも思ってない」 
「………ありがとう」 
私は嬉しくて泣いていた 
彼がボールを持って立ち上がる 
「入ったら聞かせてくれよな、返事」 

二回、三回とボールをバウンドさせる 
昨日と同じ、ボールに念じるような仕草 
「入れ!」 
その声と共にシュートは放たれる 
『入れ!』私も心の中で強く願っていた 
バンッ!ガッ、ガッ… 
ボールはバックボードに当たったあと、二度リングの淵に当たってこぼれ落ちた 
彼は悔しそうに俯いている 

『二塚君の気持ちに答えたい』 
私は立ち上がってボールを拾い、彼の目を見て言った 
「私がフリースローを決めたら、私の返事を聞いてほしい」 
―後編へ続く― 
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