ある日の比呂美・豪雪編6



顔と顔を接近させると、眞一郎は自分の陰部をしゃぶっていた唇に、躊躇うことなくキスをする。
「!!」
想定外に見舞われた眞一郎の攻撃に、比呂美の心臓は肋骨の内側で跳ね回った。
自分が出した体液に口をつけることが、どれほど不快な行為であるかは容易に想像できる。
なのに…… 眞一郎はそれをしてくれた……
(……眞一郎くん……)
胸の奥が燃える、熱く燃え上がる。
……ここがどこだろうと関係ない。 自分は今、この愛しい男と繋がりたい……
そんな牝として当然の欲求が比呂美を突き動かした。
「眞一郎くんっ!」
顔を離した眞一郎を再び押し倒そうと、比呂美は体重の全てを預け、寄りかかろうとした。
だが、正対した眞一郎の表情が、見る見るうちに面白おかしく歪んでいくのを目にし、気持ちが萎んでしまう。
「……あの……」
「う…… うええぇぇぇ……」
比呂美の口内から精液の味を受け取った眞一郎は、舌を目一杯に出して、嘔吐寸前という顔をしてみせた。
不味い、気持ち悪い、と自分の子種に罵詈雑言を浴びせてから、
呆気に取られている比呂美に向かって、「すまんっ!」と叫び土下座をする。
「……ちょ…ちょっと、何の真似??」
「こんな酷い味だったなんて知らなかったんだ。もうこんな滅茶苦茶はしない」
だから勘弁してくれ、と続けて、眞一郎は額を布団に擦りつける。
その滑稽な様子を見下ろしながら、比呂美は自分の性欲が収束していくのを感じていた。
同時に、頬を涙が濡らしていたことにも気づき、眞一郎の突拍子もない行動の意味も理解する。
(また気を遣わせちゃった…かな)
悲しくて泣いたのではない。 苦しくて泣いたのでもない。
眞一郎はそれを分かった上で、こんなピエロみたいなことをしてくれている。
油断するとすぐに、物事を大げさに捉えてしまう湯浅比呂美の心を薄めてくれる。
(ありがとね、眞一郎くん)
ずっと一緒なんだから気楽に行こうぜ、と告げてくる眞一郎の後頭部に向かって、比呂美は内心でそう呟いた。
そして実際には、「じゃあ、私のも…もう舐めなくていい」とふて腐れたように言ってみる。
「えぇっ! ……いや、それは……」
跳ね起きた眞一郎は、ダメだ、それは困ると抗議の言葉を並べ始めた。
「私は《しちゃダメ》なのに、眞一郎くんは《したい》んだぁ」
悪戯っ子の余裕を取り戻した比呂美は、唇の端を吊り上げながら、また眞一郎を苛め出した。
不公平だなぁ、ずるいなぁ、と心にも無いことを言い立て、眞一郎にどうして《したい》のかを白状させようとする。
「お前、意外と根性悪かったんだな」
「嫌ならいいけど?」
もう舐めさせてあげないだけだから、とキッパリ言い切って、比呂美は満面の笑みを見せる。
敵わないと悟った眞一郎は、刹那の躊躇いを見せてから、恥ずかしそうに口を開いた。
「……舐めてる時の……お前の悶えてる姿を見るのが…好き……なんだよっ!……」
男の意地なのか、最後の方だけは語気を強めて、眞一郎は告白をする。
好きな女が気持ち良くなってるのを見て、満足したらおかしいか!
その控えめな叫びを室内に響かせると、眞一郎は真っ赤に脹れた顔を俯けた。
「ううん……おかしくない。 ……嬉しいよ」
伏せられた視線を追いかけるように、比呂美の顔が回り込む。
「……比呂美…」
目の前に接近してきた表情は、真剣なものだった。
ふざけた気持ちなど微塵も無い、相手の心を想いやる顔。
「私もね…… 同じ」
そう柔らかに呟くと、比呂美は身体を眞一郎の胸元へと滑り込ませた。


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最終更新:2009年02月23日 07:58
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