―――3月30日、午前6:30 鹿児島県薩摩半島南東部“池田湖”
「あ、見えた! あれが池田湖なんだ………」
大型トレーラーの助手席の窓から、リニアは池田湖を眺める。
二人を乗せたトレーラーは現在、薩摩半島南部へ続く高速道路を走っていた。大型トレーラーには彼等が使うブレイドと、その多数の装備品が積まれている。
自分達の機体の掃除、修理に補給を終えた彼らは直にレンタカーから大型トレーラーを借り、事務所から直に出撃をした。仕事終えて直に、機体を元の状態に戻すにはかなりの時間を要しただろう。彼らは時間を考えて深夜に出撃したのだ。
創尾市からも遠いこの鹿児島まで、ガソリンの給油をある程度繰り返しつつも、彼らはこの高速道路を今でも走っているのだ。途中、パーキングエリアで足を止め、夜食の買い食いをしながらも休憩を取っていた所もあるが……。
だが、現役のトレジャーハンターでもある彼等にとって、こんな光景は序の口と言えよう。国外ならば、空港から何らかの手続きを取り、輸送機だって借りる事もある。
「リニア、窓を閉めろ。最後のトンネルに入るぞ?」
リニアは窓のボタンを押し続け、窓を閉める。
トレーラーはトンネルの中に入り込んだ。天井に並ぶ橙色の灯りが見える中、トレーラーは走り続け、そのトンネルを抜け、その数分後に彼らは通行券を係員に渡しつつ通行料を払い、高速道路を出る。
彼等のトレーラーはますます池田湖に近づき、やがて、集合場所に近づく。其処には、普通自動車が2~3台、大型トレーラーが一台止まっていた。
二人を乗せたトレーラーもその付近に駐車し、二人は其処から降りて集合場所に向かう。池田湖に最も近い場所だった。其処には、鉄製のパイブで作られた骨組みのテントがあった。下にはテ―ブル。その上には端末が多数置かれており、そんなテントが3箇所以上設置されていた。
二人はそのテントに近づき、自衛隊員の一人がそれに気付く。
「……ぁの―――、失礼ですが……どちら様ですか?」
「あ、失礼。
ハドソン事務所の者です。特殊自衛隊の仁王 突貴と言う人物の依頼で、あなた方の調査への加担を………。」
「あ、参謀が言っていた事務所の方ですか……。お待ちしておりました。此方へどうぞ……。」
隊員とゼストの会話が其処まで到達した後、彼らはテントへと案内される。其処では、端末とにらめっこをしている調査隊の指揮者が居た。年齢は40代くらいの男性だろう。
その男性は、ゼスト達が近付いているのに気付き、視線を彼らに視線を合わせる。
「万城目チーフ、ハドソン事務所の方がお見えになりました。」
「うむ、御苦労だった。良く来てくれた、私がこの調査の指揮を任されている、万城目 鷹国だ。宜しく頼む。」
「此方こそ、宜しくお願いします。ハドソン事務所のゼスト=ヴォルナットです。隣は助手を務めるリニア=リンゼルス………」
ゼストが自分達の紹介をした後、リニアは“宜しくッ!”と軽く挨拶をする。後、彼らは本題に入ろうとする。
「………それで、調査の状況は?」
「それなんだが、思わしくないのが現状だ………。」
万城目はそう言いながらも、自分が今見ている端末の付近に案内させる。
「何か分かったんですか……?」
「―――何とかな。君達が居ない間に湖の中を色々と調査したのだが………、取り合えず何かが居る事はわかった……。」
「何かが………? しかし、何が居たんです?」
ゼストはそう言いながらも、眉間にしわを寄せる。
「うむ、これを見てくれ。無人探索機が撮影した映像を録画した物なんだが………」
万城目はマウスを使ってカーソルを動かし、池田湖内の探索映像を彼等に見せる。
この映像を見ると、かなり深く潜っている事が分かる。後、その周辺を見回しながらも進んでいる映像に変わる。
その映像は何十分と続く後、やがて巨大な洞窟を発見。
そして、ゆっくりとその洞窟中に入って行く。その中の探索が長々と続く次の瞬間である。突然、何かが無人探索機の視界を過った。
その直後、激しい振動に襲われたのか、突然画面が揺れ始め、後に何も映らなくなる……。
「あ、映んなくなっちゃった!」
リニアが端末の状況に反応してそう言う。
「残念ながら、映像は此処で終っている………。」
万城目は溜息をしつつ、視線を下ろす。後に彼の手で動くマウスカーソルは映像を写していたウィンドウを消す。
「無人探索機はこの後、まさか………?」
「そのまさかだ、探索機は帰って来なかった。予備の探索機を何度も投入し、洞窟内の探索を試みたのだが、全機とも戻って来なかったよ。撮れた映像はどれも君達に見せたものと同じ映像ばかりだ………。」
周囲の人間達の沈黙の中、ゼストが問いかける。
「この映像を見る限り、何かは居るって事は分かりました。俺達が此処に呼び出されたのはこの件に関してでしょうね。」
「その通りだ。しかし、君達にとってはもう一度になるかもしれないが、これは完璧なる未知の調査だ。君達がやっている宝捜しとは訳が違うんだぞ?」
「――――御言葉ですが………俺達がやって来た宝捜しの中にも、何度か危険な体験はありましたよ。得体の知れない人食いの獣とか虫の類もこの目で見て来てます。」
「そうか、参謀のお言葉は伊達じゃないようだな。良いだろう。 ……今回、君達の調査のサポート及び、同行をする小隊を紹介しよう。」
「小隊……ですか?」
「そうだ。寺門、彼らをこっちに呼び出してくれ。」
「……畏まりました。」
調査員はこの返事後にこの場を一旦離れ、呼び出した小隊の隊長と共にこの場に戻ってくる。小隊の方は、軽装甲機動車を用いた機動1個小隊のようだ。
それを支える隊長の方は20代後半の日本人男性である。
短髪の髪型。体格の方も太くもなく、細くもなく、わりと普通だが、日々の鍛錬を行っているため体つきはがっしりしている。
そして着用している軍服のお陰で理想的な軍人にも見える。
「紹介しよう。我が特殊自衛隊・第5方面軍、第7師団所属……第2即応機動小隊の第1分隊だ。彼らが君達に行ってもらう調査の支援を担当する。そして彼がその指揮を担当する―――」
「―――鷲尾拓海2尉です。宜しくお願いします。」
自分の名と階級を紹介した自衛官は二人の前で敬礼する。
後にゼスト達二人もまた、自衛官に自分達の紹介で返す。
「我々の装甲車が君達の機体から撮る映像に連動するようにしておく。」
「分かりました。我々の方で何かを発見次第、データ照合の手伝いと何らかの指示を下されば有難いです。」
「我々小隊もそのつもりだ。健闘を祈る。」
「有難う御座います。リニア、俺達は準備するぞ?」
「うん、分かった!」
両者のブリーフィング交じりの会話は其処で終わる。
後、ゼスト達二人は自分達のトレーラーに戻り、操縦席の付属ボタンの一部を押して積荷のハッチを開放。二人は中のブレイドのコクピットハッチを開け、搭乗。
コクピットシステムを立ち上げ、メインスクリーンモニターと計器類の光でこの空間に灯りが広がる。
同じ頃、鷲尾達の部隊もまた自分達の装甲車に戻り、準備を整っていた。其処に今まで篭っていた彼の部下が全計器及び全システムのチェックを行っていた。
ブレイドの彼ら二人も同じ事をしている。
「水中用のブーストパーツ良好、チェーンアーム良好、パイルバンカー及び、ガンカメラ良し。全システムチェック終了。メインシステム、コンディションレベル、イエローに切り替え。ブレイド……スタンディングバイ。」
ゼストが操縦桿を握り締め、ブレイドはトレーラーから降りる。後に鷲尾達の装甲車に通信回線を繋ぐ。
「―――こちらブレイド、たった今起動が完了しました。これからカメラ映像の転送テストをしたいのですが、良好かどうかを2尉達で確かめてもらいたいのですが……」
<こちら第1分隊、了解した。転送して見てくれ。>
「了解。―――リニア、やってくれ!」
「うん! 送るよ?」
リニアは自分達の機体から撮っている映像を、自分の席にある機器で送信する。
その受信を確認した鷲尾は、受信感度も含めてその映像の感度を確かめる。
<――――受信を確認した。具合はスキャン感度も含めて良好だ。之で何時でも御宅らのお手伝いが出来る。>
「了解。これより、俺達は湖に入ります。」
<こちら第1分隊、了解した。御武運を祈る。>
鷲尾からの会話が此処で途絶え、ブレイドは歩きつつ湖へと入り込む。湖の深さが増すに連れ、徐々に機体は沈んでいく。
しかし、それを見届ける者達は特自の調査隊だけではなかった。彼等からある程度離れた場所に、あの少年もそれを見届けていた。
何かの胸騒ぎを感じているかのような表情を浮かべ、湖を見詰めている。
「今、湖ノ中に潜っタら………危ナい!」
警告にも似るその発言を述べる少年は湖内に飛び込み、更に潜ったブレイドを目掛けて泳ぐ。そんな中、少年が付けているペンダントの宝石が光りだす。
最終更新:2009年01月02日 21:32