―――3月30日、午前6:30 池田湖内
「―――視界良好。水中用ブースターは異常無し。行けるよ?」
「良し、このまま行くぞ。 ――――鷲尾2尉、何か見つけたら知らせて下さい。」
<勿論そのつもりだ。>
スピーカーから流れる返事を聞いたゼストは安心感を保てるような一息をし、ブレイドは水中用ブースターを使ってそのまま真っ直ぐ進む。
周辺には多数の魚類が泳いでいるだけであった。そんな中で、ガンカメラを周辺に向け、彼等は湖内を調査している。
それがある程度続く後、装甲車側の鷲尾は正面にある物を発見する。
<―――二人とも待て。ちょっとカメラを動かすなッ!>
「……如何かしたんですか?」
<あんた等の視線の11時方向に洞窟がある。しかも――――これはかなり大きいぞ!>
鷲尾が指示した方向を二人が見回すに連れ、ゼストは洞窟の存在に気づく。
確かに彼の言う通りその広さはかなりの物である。広大と言うより巨大だ。4~50mくらいの巨大生物が1匹入れるくらいの大きさだ。
「―――確かに大きいな。」
「と言うより、巨大クラスなのかも。」
ブレイドはその巨大な洞窟を見上げ、ゼストは鷲尾の装甲車とまた連絡を取る。
「此方、ブレイド。確かに洞窟を確認しました。おそらく無人探索機が撮影した物と同型だと思われます。」
<……だろうな。確かに無人機が撮影した洞窟だ。引き続き調査を続行してくれ。気をつけてくれよ?>
「了解。状況によっては、我々独自の判断で動いても構いませんよね?」
<生還出来る保障があればな………。>
「勿論、生還出来る自信はありますよ。」
<―――頼むぞ。死んでは如何しようもないからな。>
「うん、リニア達に任せておいて。」
三人の会話が其処まで進む中、ブレイドは洞窟の中に入り込む。
入り込んでみると、その大きさが改めて実感出来る。と言うよりは、その洞窟の中にある別の世界と言うイメージが高いのかも知れない。
付属のライトを照らしつつ、現在の所果てしなく続くこの広大な闇の水空間を更に奥へと進みながらも探索を続ける。リニアはレーダーに目を通し、何らかの反応が無いかを見極めている。
「……これは相当続いているな。リニア、そっちのレーダーは如何だ?」
「う~ん、今の所は反応ナシ!」
「鷲尾2尉の方は?」
<こっちの方も何の反応は無い>
二人からの報告を聞いた後、ゼストは視線を正面に戻し、周辺宙域を見回しながらも探索を続ける。
が、しかし未だに何も起こらず、闇の中での何も無い時間が過ぎて行くだけだった。
「う~ん、何も反応が無いね。此処じゃないのかな………」
「―――いや、確かに此処だ。そう結論を急ぐな。まだこの中の調査を始めたばかりだぞ?」
「そう? 早く終らせて、観光ホテルや温泉でのんびり寛ぎたいし、カラオケでもやってパーッとやりたいなぁ~……。」
リニアの欲望が含まれている発言にゼストは“しょうがないヤツだ”と言わんばかりに溜息をする。
しかし、その直後である。
少女側のレーダーに何らかの反応が警報音と同時に表示される。
「2時方向、距離1.5kに何かの反応が出てる! バイオセンサーの反応もあるから生物だと思うけど、かなり大きいッ!」
「―――第1分隊の方は!?」
<待て! ……………―――――今、確認した。そっちの御嬢さんの言うとおり、反応がデカい。こりゃ大物だぞ! 行けるか!?>
「勿論です。リニア、準備は良いか!?」
「バリバリOK!」
ゼストは操縦桿を前に倒し、ペダルを倒し、ブレイドを前進させる。
そして、ある程度前進した後、枝分かれした道のように、左右にも巨大な洞穴を発見。
<ちょっと待て、その先に二つの洞穴がある!>
「2時方向って行ってたから、右側か!?」
「うん、間違いない!」
リニアの確信を後に、ブレイドは右側の洞穴に入りこむ。
そこで彼等は、思いもよらない光景を見ることになる。
彼らがその先に目にした物は、容姿はまるで何らかの神話にも出て来そうな水竜にほぼ酷似しているかのような巨大な生物である。
その動きから見て、ゼスト達のブレイドに発見されたのに気付く事無く、休憩をしているかのようにじっとしており、首に生えている鰓で呼吸しているのが分かる。
「―――す、凄いッ、大怪獣だ!」
「待て、静かにしろ! あっちが俺達の存在に気付いてしまったら如何する?」
「あ、そっか……。」
リニアが浮かれた顔を我に戻すにつれ、ゼストは事前に上の鷲尾の小隊に掛け合いを試みる。その最中にリニアは自分側の計器類に映るモニターをサーモグラフィーに切り替え、巨大な水竜の生態を伺う。
呼吸音と体温の状態から見て、彼女は睡眠を取っていると判断する。
「鷲尾2慰、此方ブレイド。其方が発見した洞窟内を調査したら、どうやら俺達は遂に尻尾を掴んだようです。前方に巨大な生物を発見しました。見えますか?」
<此方第1分隊、今確認した。此方でも見える。おそらく今までこの湖に送り込んだ無人探索機をやったのもコイツの仕業だろうな。>
鷲尾の発言の後、二人は通信回線のスピーカーで彼の頷きを聞く事になる。
「……ねぇ、如何するの~?」
<―――取り合えず、コイツの生態を調べる。二人はコイツの撮影をしてくれ。最高で20分か30分、最低でも5分か10分だ。途中で危険になったら直にでも引き上げても構わん。>
「写真の方は?」
<撮らなくても良い、動画撮影が優先だ。今日の所はガンカメラで撮れるだけ撮って離脱しろ。コイツに対する徹底的な調査は明日行う事にする!>
二人は早速撮影に取り掛かり、二人のブレイドはガンカメラのレンズを前方の水竜によれ向ける。ゼストが撮影状況を確認し、リニアがサブカメラで撮っている映像をサーモグラフィーで切り替えた状態で体温を調べている。
サーモグラフィーから検出される水竜の体温の状況を見ると、未だに睡眠を取ったままだ。生態も性質の方もゼストと鷲尾達は識別を試みた結果、この星の物とは全く違う性質である事が分かった。
この結果によって、この場の人間の緊張が更に増し、それと同時にこの生物に対しての探究心を高めて行く事になる。ある程度の時間が経つ中、水竜は自分以外の存在が近くにいる事に気付き、彼等がいる方向に振り向く。
「あッ、コイツの体温に変化あり! 之ってもしかして、リニア達コイツを起こしちゃったかも………」
「―――何だって!?」
ゼストの台詞の後、その場の二人の緊張が更に増す。水竜は襲い掛かるの如く彼等の居る方向に突っ込む。ブレイドはブースターを吹かし、その突進を避ける。構わずに一直線に進む水竜は崖に頭をぶつける。
が、そのショックではじけた崖の破片がブレイドの頭上から降り注ぐ。
「クッ! この場に留まっていたら、何れ俺達はアイツに潰される。一先ず戻るぞ!?」
「うん、リニアも同じ事考えてた!」
二人にとって広大な巣穴の空間で巨大な生物が暴れる中、ブレイドはさっき入った出入り口を見つけ、其処からの脱出を試みる。
が、その目を離さない水竜は彼らを狩る様に、その大きな口を半ば開きつつまた突っ込む。リニアがそれに気づき、ブレイドは背を向ける状態でそれを避け、水流はまたしても巣穴の壁にぶつかり、顔を怯ませる。
その気に乗じて二人は急ぎ足で巣穴の出入り口を出て、逃げ出す事に成功した。
しかし、水竜も顔の怯みから体勢を整え、巣穴から出て彼らを追いかける。
「――――どうやら間に合ったようだな……。」
「――――あ、後ろッ! 後ろ後ろッ!!」
リニアは慌ててそう言いながらも、後方に指を差す。
後、ブレイドは後ろに振り向き、その方向から水竜が猛スピードで襲い掛かってくる。
「………クッ、またか!?」
ゼストはブースターのスロットルをフルにし、ブレイドは緊急回避する。後、射突ブレードを威嚇するように振り払いしつつ、距離を取る。
「鷲尾2尉、不測事態発生! 巨大生物の襲撃を受けています!」
<俺の方でも確認している。直に戻れ! 犯人を捉えただけでも十分だ!>
「了解! リニア、戻るぞ。戻って体制を立て直す!」
リニアは“ガッテン!”と返事。
後にブレイドは威嚇を続けつつ、水竜から距離を取り続け、やがて水竜から逃げようとする。しかし、後者は速いスピードを活かした泳ぎでブレイドを追いかける。
そんな中、水竜は口を開け、その中に何らかの光の粒子が集まり、それは次第に大きくなっていく。そして……
「先輩、あの大怪獣の口から何か集まっているみたい! これってもしかして………」
「何ッ!?」
水竜の口から真正面に向けて光線が吐き出される。
が、二人のブレイドは辛くも回避するも、それが流れて遠方の崖に当たり、爆散して大きさ問わず、破片が飛び散る。
その破片の一部が二人の方にも襲い掛かり、彼らは慌てつつも避けていく。
「―――ッ! なんて破壊力だ!」
ゼストがその光線の破壊力に脅威を感じる。その最中にコクピットから鷲尾の声が飛び込んで来る。
<―――俺だ! さっき大きな音がしたが、如何かしたのか!? 応答しろ!>
「―――此方ブレイド、何とか大丈夫です。今巨大生物が破壊光線を吐き出して我々を攻撃しましたが、何とか命中を避ける事が出来ました!」
鷲尾への報告の最中にも水竜による光線の攻撃は続く。その攻撃網を辛くも掻い潜るブレイドはこの広大な洞窟の出入り口を目指す。
その光景が何度も続くに連れ、やがて目の前に光が現れる。彼らはそれが出入り口だと言う事を確認。 ゼストはブースターのペダルを床下近くまで踏んで、更にスピードを上げ、漸く洞窟から脱出する。
「良し、何とか出られたぞ!」
「ゼスト先輩、喜んでる場合じゃないよ! 追いつかれちゃう!」
「――――何ッ!?」
次の瞬間、水竜は猛スピードで前進していき、その体を自分から逃げ続ける機体にぶつけた。コクピット内は激しい振動に襲われるが、損傷は何処も崩壊しない範囲内だったので、未だコクピットから水漏れは出ていない。
しかし、機体のバランスを整えるのに時間が掛かるようだ。
「クッ、早く機体バランスを………!!」
「先輩、また来る!!」
リニアの報告より早いか、水竜はブレイドの左を通り越し、適当な距離で左へ180度旋回。そして目の前の獲物を目掛けて突っ込む。
その肉質が触れる直前、ブレイドは奇跡的にバランスが完全に直り、目の前の攻撃を緊急回避で避ける。しかし、今の回避でブーストエネルギーをレットゾーンを超える程使ってしまった為、ENチャージの状態に陥ってしまい、下に落下してしまう。
「ゼスト先輩、このままじゃリニア達も落ちちゃう!」
「無理言うな! エネルギーがまだ回復してないんだぞ!?」
二人の喧嘩じみた会話の中、水竜が鋭い牙を剥き出しにしている口を開けて迫って来る。
如何やら、その牙で機体ごと二人とも噛殺そうとしているようだ。
その光景を目の当たりにした彼等は激しく目を瞑り、その牙が更に迫ろうとしている。これはもはや絶体絶命としか言い様がない状態である。
だが、次の瞬間である……
その牙がブレイドに触れる直前に、水竜は何かにぶつかって飛ばされた。ぶつかったのは、コウノトリ2号のクルーが最初に目撃したあの緑色の光である。
その光は、直に彼等のブレイドを受け止め、後に着地をしてブレイドを静かに下ろす。
そして、そんな光を彼等は見上げる。
「ゼスト先輩、リニア達……助かったみたい!」
「そうだな………しかし、あの緑色の光は一体……」
「あ、見て!? 何か光が薄くなって行く!」
少女の言うとおりに緑色の光はその輝きを薄れて行き、やがて輝きの中に居る巨人が姿を現す。その容姿はまるで、14歳くらいの少年のような体系だが、神々しくも見える。
「昨日、映像で見た緑色の光の正体は、コイツだったのか……」
ゼストがそう言った後、巨人は無言のままでゆっくりと両手両脚を動かし、やがて水竜に対して構えの体制となる。
水竜もまた牙を剥き出しにし、巨人に対して激しく睨みつける。後に水竜は巨人に向け、破壊光線を吐き出す。
それを確認した巨人はブレイドを手に持つ後に飛び上がり、目の前の破壊光線を避ける。
水竜は自分の攻撃が避けられた事に対して腹を立てているのか、牙剥き出しの感情を更に高め、巨人に襲い掛かる。
足元付近にブレイドを置く巨人は其処から動かずに其処に立ち、次第に詰める距離、そしてタイミングを見計らい、水竜の顔面に向けてアッパー、そして胴体を蹴り上げる。
水竜は顔と尻尾でバランスを直し、一旦怯むが、また巨人に突っ込む。
それを確認した巨人も水竜に向かって走り出し、自分を噛もうとするその水竜の口を両手で抑える。
その光景を見ながらも、ゼストはこう言うのであった………。
「―――あの巨大生物を相手にこんな事が出来るなんて、何てヤツだ………」
See you next mission.
- ゲスト出演者
- 鷲尾 拓海
- 怪獣に関係する調査と言ったらやっぱりこの人。話によってはまた出演してもらう可能性があります。
- オリジナルキャラ
- 仁王 突貴
- 防衛省所管・自衛隊特殊作戦指令軍、通称特殊自衛隊参謀総長。柔軟な思考の持ち主であり、精鋭の集まりである特自を纏め上げている。(紹介文:鷲尾 拓海(原案:エアロ様)より引用)
最終更新:2010年03月06日 18:45