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このSSは東方projectの二次創作です。
原作との相違点、二次創作点が多々ありますので、苦手な方はれっつごーばっく。


「うーんと、ここら辺ですよねぇ」
守矢の巫女、東風谷 早苗は、空を飛びながら地図と地上とを見比べている。
それもこれも、なんとかして温泉を確保する為であった。
普通の考え方ならば理由が何とも納得いかないのだが、早苗にとって「信仰絡み」ならばそれだけで良かったのだった。
そんな早苗がしばらく上空を飛んでいると、湯気の立ち上る場所を発見した。
「あ、アレですかね」
早苗は半ば温泉を期待しつつ地上へと降り立った。
しかし、そんな期待もすぐに崩れ去ってしまうことになる。
「あれ、ここ人間の私有地じゃないですか……無理ですね、次行きましょう」
二ヶ所目
「うーん……ここはちょっと山奥過ぎますね、天狗が鬱陶しそうです、次ですね次」
三ヶ所目
「ええっ、ここ地底の入口じゃないですか! いくら間欠泉が噴き上がったって言ってもここは無理ですよ」
四ヶ所目
「ここ、地下センターの穴……」
と、このように早苗が訪れてゆく場所は、全てがとても使えるような場所ではなかった。
やがては早苗の活気もどこへやら、場所が取れないまま地図にある温泉の印は残り一つだけになってしまった。
「多分、ここも駄目でしょう」
地図の赤点を見てそう呟きながら、最後の目的地へと向かう。
だが、その予想に反していたことを早苗は着いてから知った。
その森の中にある温泉は、神社から少し離れてはいるものの、人里と山のどちらからも普通には目につかないひっそりとした場所に位置していた。
その為だろうか、手の加えられた様子はない。
にも関わらず、木漏れ日を受けその温泉は輝いていて、生き生きとする若葉に囲まれたそこはまさに絶好の場所だった。
だがそれも先客がいなければの話。既に温泉には二人の見なれた人物が湯に浸かっていたのだ。
「あれは……人ですかね。惜しいです、せっかく良い場所を見つけたと思ったのですが」
早苗が落胆して呟く傍、二人は早苗がいることも気付かず、呑気に空を眺めていたり目を閉じて満足そうな表情をしていた。
紅魔館のメイド長十六夜 咲夜と、門番紅 美鈴だった。
「いいお湯ね」
「そうですね。人もいませんし、夜なら夜空も葉に混じって見えますし、きっとお嬢様もこれなら喜びますよ。
でも、何でウチのお風呂じゃ駄目なんですか?」
「……美鈴は気にしなくていいの。そろそろ報告に戻りましょうか」
早苗はそれを聞き、昼間ならここが使えるであろうことを知る。
そこで、交渉必要はないと感じた彼女は、側の茂みに隠れてやり過ごそうとする。
そうしてしばらくすると、二人の声が聞こえた。
「うーん、お湯が熱かったせいか、外は余計にも寒いわね」
「あれ、咲夜さん成長したんじゃないですか? 羨ましいですねー」
「成長しきってるようでまだまだ大きくなってる美鈴には言われたくない」
何の話かは置いておいて、温泉から二人が出たであろうことは早苗にも感じ取れた。
後少しの辛抱だ、そう早苗が思った時だった。
「あれ、咲夜さん? 私達以外にも近くに気配がありますよ」
その美鈴の一言に、早苗は動揺する。
いや、この二人に限って気付かれないで済むことはないだろうことは薄々分かっていたのだが、まさか美鈴の方から言い出すとは思わなかったのだ。
早苗はこれ以上隠れているのは無駄だと判断する。
「はいはい、鋭いですねー。流石に妖怪は侮れないんですね」
その早苗の突然の出現に驚く者はいない。
「早苗。何か用かしら」
「その様子だと、あなたも私がいたことは既にお見通しだったのですね」
「ええ、勿論。美鈴に言われるまでもなく、ね」
「ええっ、初めて咲夜さんを上回ったと思ったのに」
早苗の予想通り、咲夜の格好こそは外の世界でも見なれた物だが、彼女自身の妙な性格が早苗に油断してはならないといつも警鐘を鳴らすのだ。
普段強気な早苗が無理と分かってても隠れてやり過ごそうとしたのも、そんな理由があった。
「ああ、美鈴。先に帰っててくれる? ちょっと話したいことがあるの」
「え、はい、分かりました」
咲夜は美鈴を帰す。
「それで、何の用事なのかしら」
「ええ、あなたの服を着てみたら可愛いんじゃないかなーって思って見てただけですよ」
「温泉なら渡さないわよ」
「……全て、お見通しってことなのですか」
早苗は目の前の彼女からいつもの威圧感を感じ取る。
いや、違う。何故かいつもよりかかる重圧が強かった。
「生憎だけどね、この温泉はお嬢様の為に見つけたものなの。そっちにも事情があるようだけど、私達が先に見つけたんだから、道理に従うべきではないの?」
殺気すら感じられるその滑舌のいい言葉は、早苗に『引け』と言っているのは明確だった。
しかし、早苗も信仰を確保するためならばどんな相手でも立ち向かってゆくのも、また事実だった。
「残念ですねー、あなたは違うと思ってたんですが。
この幻想郷では、道理などという常識すらも凌駕するのですよ」
お互いに譲らないその掛け合いは、まるで戦前のそれのようにすら感じられた。
実際、両人は説得などで引く気は毛頭ない。それは弾幕って勝った方にしか権利がないことをお互いに示唆していた。
「……何枚でやりますか」
「そうね、手っ取り早く二枚でカタをつけましょう」
「二枚……分かりました」
二人が承諾した時点で、その弾幕ごっこの開始となる。
そしてスペルカードは二枚。即ち先手必勝であると考えた早苗は、弾幕を張ることもなく即刻一枚目を使う。
『スペルカード宣言!』
懐から出したそのカードは、防御する隙すらも与えないスピード、そして一撃で敵を仕留める正確さ、パワーを兼ね備えた霊力による肉体強化。
「開海『モーゼの奇跡』っ!」
早苗は大きく飛び上がり、地上の咲夜に狙いを定めて急速落下する。
改良を加えたこの技で捉えて逃げられた敵はいない。早苗は、致命傷ではないものの大きなダメージを与えるだろうことは確信していた。
現に、咲夜は真上に敵が迫ってきているにも関わらず微動だにしない。どう考えても避けられない。上手く不意打ちを決められたと、早苗は感じた。
『スペルカード宣言』
咲夜はそう呟くと、赤いナイフを取り出す。
「今更に何を準備しようと遅いのですよっ!」
早苗はスピードを緩めず、何かをしようとする咲夜の頭上へと急降下する。
しかし、その強気な自信が早苗の弱点でもあった。
「とりゃああっ!」
早苗はハンマーを振り下ろしたかのごとく猛スピードで体を地に打ち付け、爆音ともに高い弾幕の波を引き起こす。
しかし、そこに先程までいたはずの咲夜の姿はない。
「えっ、嘘っ!」
そう驚くのもつかの間、早苗の周りは青いナイフで囲まれていた。
早苗はすぐに風を起こしてナイフを吹き飛ばそうとしたが、間に合わず数本がダメージとなってしまった。
ーー無論、早苗の自信は実績を伴う自信であるから、普段ならばその自信は過信ではなく、必然的につくものである。だが、皮肉にも早苗自身がここがどういう世界なのか、そして相手が誰なのかということを、自分の技が通じる相手なのかどうかの決定するポイントにはしてはいなかった。
「時苻『トンネルエフェクト』。回避ついでに仕込ませてもらったわ」
「……まるで妖怪ですね」
「スペルカードルールにおいて、人間も妖怪も大差ないのよ。
で? 始まってすぐ力の差を見せ付けられた感想は?」
「まだまだ、まだ余裕です!」
早苗は通常弾を打ち出す。
「……諦めが悪いわね」
それに対応するように咲夜もナイフを水平に投げる。
だが、早苗が既にダメージを負った時点でこの状況は不利。早苗は消耗戦になると感じて弾幕を止める。
咲夜の方もそれを見てナイフの手を止める。
「あら、もう限界?」
「……そんな訳ないです」
この不利の中、恐らく、何か仕掛けられたらその時点で敗北は決定する。
だが、まだ何も仕掛けられた様子はない。つまりは余裕ぶってはいるものの相手側もまだ勝利を確信してはいないということだ。
パーフェクトであり続けるメイド長の性なのか、可能性にかけた勝負はしないというのだろう。その咲夜の性格が未だ勝負を続かせていた。
しかし、逆に言えば早苗が攻めて仕留め損なった時、先程のように、そして今度は確実に自分に敗北の決定打が加えられるだろう。
早苗はどうすればこの相手に勝利出来るか自問していた。
「随分大人しくなったけど、温泉を引き渡すつもりになったのかしら?」
「パーフェクトなメイドでも挑発するんですね」
「挑発? 知らないわねそんなの。でも勝てるのならそれもいいかもしれないかもね」
「勝てるなら……ですか」
一体、何故そこまでして彼女ここの温泉を死守しようとするのだろうか。早苗は気になり始めていた。
どうやら主人の為に確保したいようだが、何も自分の所のように風呂が使えなくなった訳でもないはずだ。
となると、主人の退屈しのぎの思い付きだろう。
だが、そんなものにまで彼女が奔走する程に絶対の命令であるようにも思えない。
ならば、彼女自身にも何かしらの目的があるはず。
……目的があるなら?
そう考えた途端、早苗は今までの経緯が違和感だらけなことにはっと気付いた。
「咲夜さん、ちょっと聞いてもいいですか」
「今更に何を」
「何故美鈴さんを早々に帰らせたんでしょう?」
「そんなもの、私一人でも貴方を相手出来る、むしろ美鈴がいると戦うのに都合が悪いからに決まってるわ」
「『戦う』のに都合が悪いんですか? また『他の理由』で都合が悪かったのではなく」
「……何が言いたいの」
早苗は気になっていた。何故わざわざ二人で戦おうとせず、一対一に持ち込んだのか。
パーフェクトメイドであるプライドからフェアに戦いたいということなのだろうかとも考えたが、今回の彼女は毛頭フェアに戦うなどという気は感じられない。
何かこう、勝つことに対して必死なのだ。なのにも関わらず美鈴をいち早く帰したのは、何か引っかかる。
まるでこの場から美鈴はすぐにいなくなって欲しいとでも言わんばかりなのだ。
「それともう一つあります。何故私が隠れていたのを気付かないふりしていたのですか?」
「気付かないふりなんてしてないわ。現にこうしてバレたから貴方はここにいるんじゃない」
「いいえ、違います。あなたは確かに私に気付いていたと言っていましたが、それは美鈴さんが最初に言ったからです。
多分、美鈴さんが何も言わなければ私の存在はそのまま気付かなかったことにしたはずなのです。
実際、美鈴さんに言われるまでもなく気付いていたってことは、美鈴さんよりも先に気付いていたのに敢えて言わなかったってことですよね」
そう。早苗自身もバレるとは思っていたのだが、まさか美鈴の口から明かされるとは思っていなかった。咲夜の方が先に気付くと思っていたからだ。
そして、それが真実であったこともその時の咲夜の言動から推測出来る。プライドを保つためのハッタリとも考えられたが、はたして咲夜がそんなことをしないであろうことはその性格から明らかだった。
「……訳が分からない。第一、今はスペルカードバトル中よ。言葉なんて何の意味もないものだって知らないの?」
「惚けて話をそらそうって無駄ですよ」
この時点で、早苗に一つの仮説が頭に浮かんでいた。
咲夜の行動、今思えば不思議な彼女の行動、そして真しやかに山で噂されていたある小さな情報から、次第に仮説が確信を伴うものとなる。
「咲夜さん、あなたは主人の、レミリアさんの命令で温泉を確保しに来たのではなく、レミリアさんに温泉を提案する為に自発的に来たんじゃないのですか?
その為に第三者に無駄な詮索をされたくなかった」
「どういうことかしら。私はお嬢様の命令により……」
「そんなはずがありません。今はまだ春が始まったばかりです。雪こそありませんが、昼間でもそれなりに寒い時期。
それに加え、レミリアさんがここに来るとすれば夜。余計にも身にしみる程の気温になるでしょう。そんなことをしてまであのレミリアさんが温泉に来ようと思うのでしょうか」
「……なら聞くわ。
仮にそうだとしましょう。
なら、何故私は、
①温泉を奪う可能性のあるあなたをわざわざやり過ごしたのか。
②美鈴を早くに帰したのか。
明確に答えてみなさい」
「そんなの簡単です。
①まず先程の、温泉について詮索されたくないのが一つ。
そして、『私』だからこそ敢えて無視したんですよね」
「……どういう事。そこらの妖怪だったら私は無視なんかしてなかった、そういうの?」
「はい。
まず、私がここに来たのは電気トラブルで『一時的に』お風呂が使えなくなったからです。
――その事実も、わざわざ寒い日に私がこんな所まで来たのを見れば咲夜さんも見当がついたはずです。
つまり、『しばらく日が経てば私はもうここには来ません』。電気トラブルです、そう何日も放ってはおきませんよ。
ならば、その後。そうですね、春麗らかな暖かい、丁度温泉日和な季節位にはここが使えるんじゃないですかね。
レミリアさんでも連れ出して、ね。別に今すぐでなくても、いや、最初からそんな温泉日和にレミリアさんを誘うつもりだったんじゃないですか? その頃には私達は温泉ではなく家のお風呂に入ってるでしょうから」
「……ぐっ!」
「②そして、美鈴さんです。これも先程の理由と同じ。詮索されたくなかった。
実際、美鈴さんが質問してましたよね。あんな質問を繰り返されたら、いくらあなたでもボロが出ると思ったんじゃないですか?
それなのに美鈴さんがいたのは、大方レミリアさんに内緒で門を出る時に勝手について来たって所でしょう。
早々に帰した所でどうせ門前にいるだけです。レミリアさん達の耳には今回のことは入らないでしょう」
自信満々に推論を話す早苗。
だが、咲夜はちっとも動じてはいない。
筋は通っている気はするのだが、早苗はまだ何か見落としているような気もしていた。
「……ふっ、ちょっと待ちなさい。
なら、最後にもう一つだけ聞こうかしら。
③温泉を使われてもいいなら、私は何故貴方とこうして戦っているのかしら?」
……正論だった。
早苗の見落とし。それは今戦っているという状況そのものだった。
これは温泉の使用権をかけた戦い。だが、早苗達が数日しかここを使わないであろうことは咲夜にも分かっている。
ならば何故咲夜は素直に温泉を引き渡さず、それも必死に戦っているのか。
「……あ」
早苗の脳裏に、メイド長に関するある小さな噂が浮かぶ。
もしかしたら。早苗は勝負に出た。
「……山では、あなたに関するある噂があります。
その噂によると、あなたは主人に『異常ともいえる愛情』があるとか。
③この問いに深い理由はありません。ただ単純に『今日にでもレミリアさんを温泉に連れ出そう』と気が変わったからじゃないんですかっ!」
「……ぐぐっ! ち、違う、私は」
「そうですか。まだシラを切りますか……では短刀直入に言います。
咲夜さん。
あなた、レミリアさんと何者にも邪魔されずにたった二人きりでここの温泉を楽しみたいと考える『ロリコンド変態』なのではないのですかっ!
大方美鈴さんと一緒に入ったせいでレミリアさんと来る時のことを想像して、我慢出来なくなったのではないですかぁっ!」
「な……なっ……!?
ち、違う、お嬢様は決してそんなやましい目で見た覚えは……な、な、ない!」
あまりにも分かりやす過ぎる瀟酒キャラの崩壊に、早苗は確信する。
「やはりそうだったのですね!
やーいやーいロリコンメイドー!」
そう。目の前にいる咲夜はいつもの瀟酒なメイドではなかった。
二次創作でよく見られる、『おぜう大好きロリコンメイド』だったのである。
「う、五月蝿いっ! き、奇術『エターナルミーク』!」
あまりの動揺に思わず二枚目のスペルカードを使う咲夜。
それが早苗の思う壺だった。沢山のナイフが早苗に向かうが、一本として当たるものはない。このスペルカードが元々滅多投げであるから余計にもだった。
明らかにカード選択ミスだが、それ程に彼女は混乱していた。
「そんな集中力のないスペルカードなんて当たりませんよ」
周りを切るナイフに動じることなく、早苗は落ち着き払って二枚目を宣言する。
それは、勝利を確信した、今度こそは間違いなく行けるという感情からだった。
「臨 兵 闘 者 皆 陳 列 在 前。
秘法『九字刺し』!」
早苗が九字を切るとともに、二人を囲む空間に大きな結界障壁が展開される。
「あ、しまっ……!」
視界に大きな結界が拡がることでようやく我に返った咲夜。だが、我に返るには遅過ぎていた。
結界は、咲夜を逃がさなかった。
「はあ、疲れました……いてて」
何とか勝利したものの、ナイフのダメージが残っていた早苗は境内への階段を上りながらもへとへとだった。
「流石悪魔に仕える人間なだけありましたね、どちらかといえば妖怪でしたけど……。
おや、あれは?」
神社が見えてくると、そこにいたのはそこの神、八坂 神奈子。
何故か、巫女服だった。
「何をしておられるんですか神奈子様」
「げっ、早苗……お、温泉は見つかったかい?」
「はい、一応場所も確保しました。
で、神奈子様、一体……」
「え、いや、その、あの、だからな早苗、早苗がいなくて……」
神奈子がしどろもどろになっていると、諏訪子が本殿から現れた。
「早苗がいなくなっちゃった後にね、巫女がいなくなっちゃったのに気付いたもんだからダブチーが代わりにやってるのさ!
私はまだこの口調治らないからね! 自分でもウザくなってきたよ! どうしよう!」
「まだその名前なのか私は」
けろけろ笑う諏訪子。すると、ふと思い出したように言った。
「ああそうそう! ついさっき電気が回復したからお風呂入れるよ!」
「……え?」
あの苦労は一体何だったのか。早苗はふらふらになり、そして……
ドサッ
「わー! 早苗が倒れたー!」
今日も今日で、幻想郷はある意味平和なのかもしれない。
最終更新:2011年07月06日 20:46