◇ ◇ ◇
虎蔵は開発課の扉をくぐり、そこで違和感を覚えた。今朝、目が覚めたとき感じたもの
と似たようなもので、いつもと同じ筈なのに何かが違っているような気がしたのだ。
「なぁ、薫」
去年課長に昇進したばかりの同僚に声をかけ、口から出てきたのは、
「金髪の奴はどこだ?」
自分でも言った意味が分からず首を傾げ、薫もそれを返す。この管理局に居る者の髪は
殆んど全員が黒か茶色で、それ以外は他の管理局から来た銀の髪や赤い髪の者ばかりだ。
自分が知っている中で金髪は先月結婚して退職した事務課の新人くらいのもの。それ以外
となれば、もっと遡って、三年前に自分と結婚して退職したセリスくらいのものだ。
だが確かに居たような気がして、再び室内を見渡してみるが、
「居ねぇな」
「当然でしょ? そんな不審人物が居たら、すぐに分かるわよ」
だよな、と呟き、頼まれていた新型の剣の形状や出力を確認する。重さや振り心地など
基本的な部分は悪くないし、起動させて速度加速や振動調整、演算速度などを総合して、
出てくる評価は悪くないもの。これならば突然実戦に出しても耐えることも出来る筈だと
考え、用意された質問用紙に答えを記入して薫に渡す。
「まずまず、か。いつもより厳しいんじゃない?」
「いや、そうでもねぇだろ。ただ、いつものに慣れてるから、他の奴が使うには充分だ」
「そう? 今回は、かなり虎蔵ちゃん寄りに作ってあるけど?」
「いや、やっぱ余計なものより単純に身体加速とかのよ」
いつもの、と言いかけて、そこで疑問が来る。いつも使っているものは、身体加速など
使わずに、振動の調整に重点を置いたものだ。虎蔵が使う守崎流の原点は、人間と複数の
虎が戦ったときに生まれたもの。回避と受け流しによる防御、そして要所への攻撃を基本
とする為に攻撃力は低い。だからこそ補うよう、確実に敵を破壊する為、演算速度や振動
の調整といったものに重点を置いているのだ。だが自分が言ったものは正反対で、
「どうしたの?」
「いや、疲れてるのかもな」
そうね、と薫は何度か頷いた。
「セリスと結婚して、金髪にのめり込んだのね。休日に出てくると、定期的に補給してる
金髪成分ブロンドニウムが不足してしまうのかしら。診断結果、今すぐ精神治療を受けて。
あとついでに嫁や娘のムービーとかに気持ち悪い目を向けるのも治して貰ってね」
ブロンドニウムが完全に切れたので暴れたくなり、取り敢えず新型剣で薫をぶん殴った。
起動はさせていないし、きちんと刃の腹で殴打するようにしたので問題はない。一瞬だけ
作業中の局員がこちらを向いたが、いつものことなのでいつもの通りに作業を再開する。
薫はこちらを睨んだが、知ったことではないので無視をした。
「真面目な話、どうしたの?」
「いや、何だろうな。真面目な話、マジで金髪成分が不足しているのかもな」
どこかに居たような気がして、
「いや、気のせいか。気のせいだな」
思考を切り替え、
「ところでよ、魔法幼女システムの」
「……何を言っているの?」
本気で白い目を向けられた。
「いや、だからよ。何か突然思い付いた話だ。あの『暴君』フランチェスカの身体データ
使って、転移装置の応用でな、身体だけ変えて、出力強化の装甲やって……どうだ?」
「そっち方面は弟さんが専門じゃなかったかしら?」
それもそうか、と考える。自分でも信じらないことだ、このようなことを考えたのは。
普段は自分は設計思想すら考えないし、考えようとすることも無い。精々使いたいタイプ
の剣を言ってみたり、それの改良案を言うぐらいで、開発関係と殆んど無縁のポジション
に立っているのだから。
だが薫は笑みを浮かべ、
「ま、悪くない考えね」
「よせよ、誉めるなら」
誰だろうか。
「でも残念。そんな技術なんて無いし、そんなモノ作れないわよ。少なくともアタシはね」
だが、出来るような気がする。それに薫の言ったことは、つまり理論上、誰か作ること
が出来るということだ。それが誰かは分からないが、確実に存在出来るということ。
そこまで考え、は、と息をする。
これ以上考えるなと理性が警告を鳴らし、頭が軋み、しかし感情が前に進めと無理矢理
思考を継続させようと鳴いている。考えなければ、そうしなければ、己も前に進めないと。
「大丈夫? 顔、真っ青よ?」
「悪い、もう帰って休む」
虎蔵は一歩進み、
「あぁ、それと最後に……リリィって奴、知ってるか?」
薫は首を横に振った。
◇ ◇ ◇
は、と
暗闇の中で、幼女は吐息した。
「EDENが、破綻してる?」
そして暗闇の中、
「……いえ、これが、彼の意思なの?」
もう何度目か知れず、腕を撫でた。
◇ ◇ ◇
通路に出た直後、虎蔵は一人の少女を見た。
「お前は」
ストレートの金髪を腰まで伸ばした、十代半ばの少女だ。背も低く、体の起伏も皆無に
近いものだが、しかし何故だか年齢が分かる。そして無表情を浮かべた顔の中央、二つの
青い瞳はこちらを見て、しかし一瞬の後には通路の奥を見た。白衣の裾を翻し、歩き進み、
「待て」
速度は遅いが、それは角を曲がって消えた。
待て、と今度は思考の中で叫び、息を吐いて一歩を踏み出し、少女を追おうとして足の
動きは加速する。一歩の幅を大きくしたそれは歩くと言うより走りに近いもの。腕の振り
などを大きくすれば、体の捻りを加えた分だけ脚部の力が増して、踏み込みは強くなり、
踏み込みが強くなれば、体をより速く遠くに飛ばすことが出来る。その速度が表す言葉は
『走り』ではなく『疾走』で、相手より速度が高い分だけ距離は近くなる。
「痛ッ」
酸素の補給によって痛みを和らげ、少しクリアになった頭で考えるのは少女のことだ。
相手が何者なのか分からず、それなのに何故、自分は相手を追い掛けているのだろうか。
家には愛する家族が居るし、このまま帰れば優しい妻が自分を支えてくれるだろう。娘の
顔を見れば痛みも気合いで我慢出来るようになるし、そもそも自分は非番だからこんなに
無理に追い掛けずとも他の局員が何とかしてくれる筈だ。
だが、と言う者が居る。
それは頭の痛みを生む理性ではなく、体を現在動かす感情だ。理屈で通るものではない、
だが追わねばならぬと感情が告げている。
だから足を前に出し、
「待てよ」
声は、自分が追い付こうとする意思を吐き出している。
追い付いた。
しかし少女が立つ扉の正面、強くなった頭の軋みによって歩みが止まる。
「待てよ」
通路に座り、それは這う姿勢になったが、それでも、その姿勢は前へと進むものだった。
寝るのと這う動きは、決定的に違うものがある。床に寝る動きは現状を一旦止めて休息を
得る為の姿勢だが、それは現時点で前に進もうという意思を放棄したものだ。体は休り、
目を閉じ意識を飛ばせば重荷が少しでも減るだろう。逆に言えば、後から追い付くことが
出来るというものに対してしか効力を持たないもので、それは己の中で意思や目的などが
固まっている状態でしか使えない方法だ。
しかし前者の這う動きというものは、前に進む意思を効率という概念を無視して出来上がる。
動くことが出来なくても意思を見せれば前へと進むことは出来るし、僅かでも腕を動かすことが
出来るようになれば、それが前進という動作に繋がってくる。足も動けば速度は倍になり、意思
と手足を合わせると動きは三倍だ。
更に言うなら、己を前に飛ばす意思は動かせぬ体を持ち上げさせ、
「追い掛けねぇと」
立ち上がれば、速度は四倍になる。
壁に手を付き立ち上がり、正面、そこで虎蔵は理解した。四倍の速度で近付いた分だけ
少女の顔が見れるようになり、その理由は強く頭の中に浮かんでくる。
もはや言うのは制止の言葉ではなく、
「泣くなよ」
相手の感情を表す言葉だ。
顔は感情を消すように平坦なものになっているが、何故
だか表情が意味することが分かる。それが分かれば自分の行動の意味が理解出来てきて、
「泣くなよ、リリィ」
自らが吐き出した言葉で、全てを理解した。
リリィはきっと泣きそうな状態で、それは自分が夢の中に居るからだ。シオリが過去に
行ったものと違い、今の自分がセリスと暮らしていると実感できる。それは長く過ごせば
リリィよりも選んだ結果になり、リリィからの好意をゼロに帰すことになるものだ。
それを選ぶことが出来るのも分かっているし、セリスとの暮らしは幸せなことだという
のも嘘ではない感情だ。時間を取り戻した生活が、そこに存在するならば、それを選ばぬ
ことは出来るものではない。
だが、虎蔵は言葉を吐いた。
「悪いな、セリス。過去にするつもりは無いが、俺にも新しい家族が出来た。リリィよ、
今の時間を表す言葉を知っているか? 馬鹿な俺から賢いお前に問題だ」
「未練、ですか?」
違う。
忘れることが出来ない過去だが、しかし捨てることも出来ず、本人の中でのみ存在する
時間という概念だ。その言葉の意味は間違いなく今の夢を見ている状態だと、そう考え、
リリィの顔を見れば、答えは自然と浮かんでくる。
それに合わせるようにリリィの口が開き、
「思い出、ですか?」
「正解だ」
◇ ◇ ◇
鈍音。
痛む額を押さえ、掌で狭まった視界の中央にあるものは、
「痛そうだな」
何故か涙目で額を押さえるリリィは頷き、
「何を幼女に昇天させられそうになってるんですか、この駄目中年!! リィタとか色々、
このペド!! どんだけ人に心配かけるつもりですか!!」
いきなり罵倒してきた。
だが虎蔵は笑みを浮かべ、
「心配してくれたのか?」
手をどけて額を撫でると、リリィはそっぽを向いた。そのまま顔を赤く染め、
「別に、心配なんかしてません。今にも世界が滅びそうですから、戦力が足りないと思い、
そちらのことを心配していただけです。まだ布団の話、決着して……」
可愛い反応だ、と思いながらこちらを向かせ、虎蔵はいきなり唇を重ねた。体を抱いて
髪を撫で、数秒かけて小柄なリリィの体を離すと、
「ごめんな」
あ、と胸元から声がする。
それは、ひ、という言葉に変わり、そこから続くのは感情を持った声の連続だ。シャツ
の襟を掴み、額を胸板に押し付けるようにした動きは強く、震える背に合わせるように手
の甲へと体温を持った雫が垂れてくる。
「まだ、怒ってますから」
分かる。
だから再び唇を重ね、
「さっきのが一年前の礼で、今のが俺の気持ちだ」
言うと、泣き顔のままリリィは顔を上げてきた。
「虎蔵さんと喧嘩したままで、でも、虎蔵さんは起きなくなって、しかも世界が滅びそう
な状態ど、このままお別れなんて私は絶対に嫌で、でも虎蔵さんはセリスさんを」
なぁ、と虎蔵は呟いた。
「リリィ、何で俺が戻ってきたか、分かるか?」
ひ、と声を漏らし、しかしリリィは喋らない。そのまま再び虎蔵の襟を掴み、顔を伏せ、
吐き出すのは熱を持った吐息のみだ。湿度がある感情の強い息をリリィのものだ、と自覚
しながら、虎蔵は白衣の細い背中を撫で、
「リリィが、大切だからだ。泣かせそうに……いや、泣かせてすまん」
全くです、という声は先程よりも幾らか力のあるもので、それを聞き、頷いた。
「セリスとの生活は幸せだが、それは今のものじゃねぇ。今の俺には、リリィが居る」
言って三度目の口付けをし、そこでリリィが笑みを浮かべていることに気が付いた。
「虎蔵さん、知ってましたか? 私達は一年キスも手を繋ぐのもしてなかったんですよ」
知っている。
だから尋ねた。
「リリィ、今は何月何日の何時だ?」
◇ ◇ ◇
「つまり、虎蔵さんは聞いたんですね。あれから四日後の、つまり明日の午前0時丁度に
世界を滅ぼすと。全く、幼女にはモテますね」
半目で睨みながらリリィは吐息をし、そして落ちかけたバスタオルを直した。
虎蔵は頷き、
「間違いねぇ。今から十時間後、あいつは行動を開始する。そしてリリィ、そんなタオル
上げると下の部分が丸見えになるから気を付けろ」
わぁ、と今度はバスタオルを下げ、結果的に見えた桜色の突起を隠すように直してやる。
「しかし、最後の戦いの前になるかもしれないから、なんてベタだよな。言い出したのは
俺の方からだが、改めて冷静になってみるとアレだよな」
「て、テンション上げましょう!! それに私は、こういうの好きですよ」
そうか、と頷き、唇を重ねて髪を撫でた。気持ち良さそうに目を細めるのを確認しつつ
舌を伸ばし、絡めると、それに応えるようにリリィの舌も控え目な動きだが返してくる。
あまり上手くはない動きだし、リリィの舌自体も短いので感覚が薄いが、それ故に精一杯
動かしてくれているというのが分かる。あまり激しい動きは駄目だと思いながら口内全体
を舐めるようにして、そのまま舌の裏側を舐めるようにすると、背筋が一瞬震えた。
リリィは、は、と息を吐きながら、透明な橋を繋げて唇を離し、
「手加減して下さいよ!! こっちはキスの経験すら碌にない処女ですよ!!」
いかん、昔の癖が出たか。
苦笑しながら今度は軽く重ねるだけの状態に唇を重ね、背中を撫でるとリリィの方から
舌を伸ばしてきた。こちらの口内を味わうように舌を動かし、慣れていない故に、は、と
吐息しながら舌の表面を舌で撫でてくる。こちらの中に唾液が流れ込み、それを飲み下し
喉を鳴らすと、リリィは虎蔵の頬を押さえる掌を動かして頭を掻き抱いた。
しかし、これ以上動かない。
「どうした?」
「あの、これから先、どうしたら?」
「AV見たこと無いのか?」
この年頃ならば手順はある程度は分かっているだろうと思ったが、少し考えて理解する。
リリィはリィタと協力して魔法幼女システムを作り出す程、昔から頭が良かった。そんな
二人ならば幼い頃から研究が専らの対照だっただろうし、『首吊り』事件の後は、ずっと
管理局で働いていた。ひたすら仕事に打ち込んでいたリリィは、恐らくエロいもの関係を
見ることは無かったのだろう、と。
虎蔵はリリィの髪を撫で、
「大変だったもんな」
「はい。最初に見たエロがバナーに騙されて覗いたスカトロ系のもので、それ以来、エロ
関係のものはトラウマ発動で見れなくなりました。いきなり肛門のアップですよ!?」
「マジで大変だったな」
それなら自分が動くしかない、とリリィの体を横たえようとするが、何故か動かない。
初めてなので緊張しているのだろうかと思い、先程のように背中と髪を撫でて唇を重ねて
みるが変わらないし、試しに舌を入れてみても変わらぬままだ。
「力を抜けよ」
本来ならば、このような場面で使うべき言葉ではない。だが言葉に応じずリリィの顔は
真剣なままで、よく注意してみれば、無理をしているのか太股やふくらはぎが力の過剰な
込め方で僅かに痙攣していた。
「あの、出来ればセリスさんを使って覚えた技術は無しの方向で」
「セリスとやったことが無いもの、か」
頷きを返すリリィを見て、考えた。セリスとは普通のプレイが比較的多かったものだが、
積極的に色々求められることも少なくなかったので少しアブノーマルなプレイやハードな
プレイも何度か経験している。その区分で言えば多かったものはアナルプレイで、細かく
思い出していけばSMや足コキ、髪を使ったものや、ひたすら何度もイかせるという地獄
のようなものまで体験している。自分の想像力が及ぶ範囲で残っているものは、
「俺をペニバンで犯すか、それともスカトロか」
「何ですか、その鬼の二択は!? 私は初めてなんですよ!?」
いかん。
「ならコスプレのバリエーションか」
考えた結果、リリィの個性を生かしたものにしようと結論した。リリィの個性と言えば
体の起伏が平坦なことと、技術者であるということだ。背が低く体も平らなので幼い子を
あやすようなものなど似合うだろうが、しかし大抵の年齢は既に体験している。色々無理
があったが中学生プレイ小学生プレイ園児プレイ幼児プレイとクリアしているし、年相応
な感じでやったら何かに該当してしまうだろう。ならば次に思い浮かぶのは、技術者だと
いう点だ。セリスは機械の扱いが苦手だったので技術者設定でプレイしたことは無いし、
これはリリィの個性に合うだろう。
リリィが普段していることと言えば、やはり技術者の一番の仕事である開発の光景だ。
虎蔵がリリィの仕事場に行けば大抵は仕事をしているし、それの主な行動と言えば機械を
動かす為のコンソールの操作だ。ならば、それをテーマにするべきだろう。
虎蔵はリリィの体を抱えるとシーツの上に寝かせ、バスタオルを剥いた。
「あの、これは」
「大丈夫だ」
安心させるように笑みを浮かべ、
「体がガキでも、一年前と同じく毛が生えてなくても俺は気にし……痛ェ!!」
頭をホールドされての顎への膝蹴りのせいで衝撃は殺されず、脳の揺れが二分続いた。
「さて、真面目にやるぞ?」
リリィが頷きを返すのを待ってから、虎蔵は手指を左の胸へと伸ばした。肌に傷などを
付けぬよう軽く触り、少しずつ力を込めながら指先を押し込んでゆく。肉付きが薄いので
少し進んで止まったが、骨ばった虎蔵の手に比べ柔らかな弾力を持つそこは、僅かな自己
主張をするように微かな力で皮膚を押し返してくる。そのまま揉むように指先のみで肌を
撫で、先端の部分を指の腹で押すと、小さな声が漏れた。
一旦指を離した手をリリィは両手で握り、
「あの、やっぱり薄いですよね?」
いや、と虎蔵は首を振った。こんなものは普段からリリィの体を見ていれば分かること
だし、先程の言葉が示したように、大して気にするようなことではない。
それに、
「マウスは軽く押し込むもんだ」
また指を胸へ押し込み、クリックの動作をすると、
「アホ中年!! 何ですか、その頭が悪くて下品な発想は!! だから中年は嫌いなんです!!」
先程の倍の威力で顎に膝を叩き込まれ、今度は回復に三分かかった。
だが、決めたことだ。虎蔵は自分から見て右側の乳首へ手を伸ばし、クリックを一つ。
するとリリィは小さく身を悶えさせ、腰をよじりながら、押さえるように掌を握ってきた。
指先に伝わる鼓動を感じながら聞くのは、突起を転がす度に漏れる吐息と、
「右クリック、だと、簡易メニューが、開くん、です」
乗り気じゃねぇか、と指に小さく力を込めると、声が半音上がった。
「じゃあ、左は範囲指定と決定か」
手を離し、反対側に指先を伸ばす。先端を指で一度叩き簡易メニューを閉じると、再度
指の腹を当てた。そこから桜色の周囲を遊ぶように回し、ほぐしてから、指を離さぬまま
脇腹を撫で、腰まで動かした後に横にスライド。臍の部分まで滑らせてゆくと、腹の中心
にある窪みをこじるようにして叩いた。
手指を離し、腰の下に腕を差し入れ、
「舐めるぞ」
宣言と共に胸に舌を伸ばし、乳首のやや右側の部分、左右の胸の中央を舐めると、背が
強張ったように震え、虎蔵の頭を抱き締めるように腕が包んでくる。頭を動かさず僅かに
動く範囲で舌を往復させると圧迫と言える程に力が強まり、甘い匂いが鼻孔を埋めるよう
侵入してくる。それは監理局の女性局員に人気のボディソープで、自分以外の家族全員の
要望で使っているせいで嗅ぎ慣れた『54(激甘風味)』のものと、
「リリィの匂いだな」
味わうように、舌で舐めるのではなく唇で吸うようにすると、頭をホールドしていた腕
の動きが緩んだ。しかし尚も吸い、五秒の後に顔を上げて見えるのは、こちらを真っ直ぐ
見つめてくるリリィの顔と、吸った証の、白い肌に浮かぶ赤い点だ。
「すまん、跡が付くの、嫌だったか?」
「嬉しいですよ、見られない場所ですけど」
言いながら目を弓にしたリリィの髪を撫で、印を濃くするように同じ場所に唇を寄せた。
また頭がホールドされ、何か大事なものを抱えるような力が込められたのを感じていると、
不意に上から声が聞こえてきた。
責めるでもなく、純粋な疑問を持った声で、
「前から疑問に思っていたんですけど、虎蔵さんは私だけに限らず、よく人の頭を撫でて
いますよね? それって理由が何かあるんですか?」
話してなかったか、と前置きしてから虎蔵は顔を上げ、浮かべたのは微笑だ。それから
リリィの疑問の通りに髪を撫で、吐息を一つ。
「親父もお袋も、よく頭を撫でる人なんだ。良いときでも、悪いときでも。そうされると
嬉しくてな、俺は人の頭を撫でれる人になりたいと思い、そう成長した」
なら、と疑問の表情をリリィは続け、
「頭を掻くのは、自分で撫でたいからですか?」
「それは親父の癖が伝染った」
小さく笑う声を聞きながら再び胸に顔を埋めると、頭に柔らかな感触が来た。固い髪を
鋤くように動くそれは体温があり、母に似ている、と目を細めながら舌を伸ばす。肋骨に
沿うように舌を滑らせ、上に移動し、固くなり始めた突起を口に含むと手の動きが止まる。
それを名残惜しいと思いながら唇で噛み、舌で転がすと、指のときに比べて高い声が耳の
中に入ってきた。胸を潰すように噛んだまま顔を押し付けると更に固くなり、力を込めず
歯を立てると、押し殺したような声が聞こえてくる。
「痛かったか?」
「気に、しないで、続け、て、下さい」
言われたように虎蔵は構わず続けることにした。既に手の乗らない頭を下げると中心線
を描くように舌を滑らせ、先程は指先を入れていた形の良い臍の穴に今度は舌を潜らせて
内部を一周。脚を貼って背が弓になり、こちらに腹を突き出す姿勢になった。肌には薄く
汗が浮かび、脇腹まで移動していくと薄いものではあるが塩の味がする。
「結構感度が良いんだな」
「べ、別にエロくない、です」
「その分、苦痛が減るってことだ」
言いながら右半身の乳首を弄び、今度は下ではなく上方向、左半身の方に手指を滑らせ
肩の方に持っていく。範囲指定をした通り、右の突起を唇に含み、続いて鎖骨を舐めると
今までのもので一番高い声が出てきた。シーツを握る手の力は強く、掌は白い肌が青味を
帯びる程のものだし、寄せた眉根の下側、閉じた両目の端には小さな雫が浮かんでいる。
鎖骨を重点的に舐めれば尻をシーツに押し付けるように悶え、手と足の先は胎児のように
丸く握り込まれている。
「あの、上半身は、もう、良いので」
「いや、いきなり下半身に行くと危険だ。特に初心者は」
「でも」
切ないです、と言い、舐めてくるのを塞ぐようにリリィは唇を重ねてきた。最初のもの
と違い舌を入れない、しかし感情を強く乗せた押し付けるような動きだ。
「あの、怖いですけど、頑張りますから」
時計を横目で確認すると、まだ幾らも時間が残っている。このまま下に進むのは少し気
が引けたが、セリスとの初体験が合計4時間はかかったこと、その殆んどが下半身部分に
費やされたことを思い出し、それなりの余裕が無いことに気が付いた。出来ることならば
もう少し時間を掛けたいが、リリィの要望もあるし、何より行為のせいで時間が足りなく
なるのでは意味がない。大切にしたいのは山々だが、それが原因でミーティングや調整の
時間が足りなくなり、そのせいで全てが失われたら本末転倒というものだ。自分は世界に
滅びては欲しくないし、何より戻ってきた一番の理由が、
「リリィを守りたいからだ」
呟きに疑問の表情を浮かべるリリィの髪を撫でると、身を折って下半身にまで顔を寄せ、
両足を抱えるようにして股間に唇を寄せてゆく。目に入るのは僅かに湿りを持つ、年齢に
比べると成熟が少し遅れている、一本の線のように閉じた未熟な性器と尻の穴だ。
ここで一つ思い付いた。
「右クリック、左クリック、とくれば?」
「スクロールボタン?」
正解だ。
虎蔵は割れ目の上部を指で広げると、その部分に舌を伸ばした。皮に包まれた固い肉の
目を吸うようにすると予想外に強い力で細い太股が顔を挟み、湯上がりから時間が経った
せいで冷え始めている独特の感触と温度が頬に当たる。柔らかく冷えたそこは変形しつつ
虎蔵の頭を囲み、腕のときよりも強いホールドを受けているが、不快な気持ちは浮かんで
こない。寧ろ気持ち良いと思うし、この反応を素直で可愛いと思う。
視界に広がる白く細い腹より奥、慎ましい胸より先にあるリリィの悶える顔を見ながら
舌を動かせば、それに合わせた変化がやってきた。下側から上方に舐めればリリィは腹を
折って上半身がよく見えるようになるし、上側から下方に舐めれば背を反らせて腰が浮き、
上半身が見えなくなる代わりに視界を埋めるようにリリィの局所が全て見えるようになる。
リリィが答えた通りに、わざと自分の身をスクロールさせているのかと思ったが、しかし
表情から分かるのは普通に刺激を受けているという事実だ。
この状態なら大丈夫だろうか、と考えて、舌を少し下にずらした。まだ割れ目に侵入は
させず、周囲をなぞるようにして舌を滑らせる。ざらついた表面と、ぬめる裏面を交互に
使い、しかし決まったパターンを持たせないようにする。リリィにとっては初めてだから
すぐに慣れることは無いだろうが、単調な刺激を与え続けるよりも様々なものの方がより
濡れるだろう。これから入れるときのことを考えると、それなりの体格差がある以上は、
出来るだけ濡らしておいた方が痛みも少ない筈だ。
指で割れ目を開き、舌の先を閉じた穴へと潜らせてゆく。
「や、汚い、ですよ」
「定番だなぁ」
だが、汚いなどと思うことはない。あくまでも乱暴にならないよう気を付けて、こじり
ながら舌を侵入させる。あまり深くまでは入らないが、こからから先は別のものが入る。
無理に進める必要など無いし、そこから湧き出る蜜を味わい、羞恥心を与えないように、
ゆっくりとほぐす行為を続けてゆく。
「さて、そろそろ良いか」
その発言に、少しリリィの体が強張った。
「体の力を抜けよ、痛むぞ多分。それと瞬間強烈コースと、じっくり連続コースだったら
どっちが良い? オススメはセリスと逆の瞬間強烈コースだが」
数秒。
少し躊躇い、しかしリリィは強い表情を見せ、
「瞬間強烈コースで!!」
良い返事だ、と思いながら虎蔵はジッパーを降ろすと、肉棒を取り出した。突然見ると
インパクトが強いだろうと判断したので、見るなと注意をしておく。セリスとのときは、
飛んでしまった精神を取り戻すのに約20分程もかかってしまった。次があるのなら、その
都度に慣れていけば良いと思う。
虎蔵は割れ目に先端を当て、狙いを定めると腰を突き出そうとしたが、しかし入らない。
何度か角度を変えてみるが入らないし、入りそうになったとしても、穴が非常に狭すぎる
のだろう。少し押し込んだだけで滑ってずれるし、その度にリリィが悶えるので、侵入を
することが難しくなってきている。
「……入らないな」
「……入らないですね」
どうしようか。
暫く無言が続き、リリィが何かを思い付いたように手を軽く打ち、
「後ろの穴とか」
「……処女の前にアナルとか、どんだけマニアックなんだよ。しかも俺達が負けた暁には、
『リリィ、処女を捨てようとしたが叶わず。代わりにアナルのみ貫通して死す』とか悲惨
な状態になるんだぞ? それでも良いのか?」
「あ、だったら虎蔵さんが魔法幼女になれば、サイズ的に」
「ちんこ無いだろうが!! お前は何がしたいんだよ!?」
「じゃあ、どうしろって言うんですか!?」
はあ、と虎蔵は溜息を吐いて、
「普通にリラックスしてろ」
髪を撫でると、僅かにリリィの体が弛緩しだ。それを確認すると虎蔵は改めてリリィの
割れ目に先端を当て、愛液をまぶして滑りを良くしてから腰を押し込んでゆく。
く、と歯を噛んだ声が聞こえ、先端の半分を過ぎた辺りまで入っていった感触が来る。
「じゃあ、一気に行くぞ?」
答えを待たず、一気に奥まで突っ込んだ。答えれば心構えが出来るが、同時に身構えの
ようなものが出来るので待たない方が良い。この辺りは恨まれても、そちらの方がリリィ
の為になるとは思ったが、物凄い表情で睨まれた。
「……物凄く痛いです」
「3年間、ご無沙汰だったんだ。下手になってるんだよ」
下手な言い訳だが、リリィは表情を僅かに緩めた。実際、恋人まがいの者が出来ても体
を重ねることは無かったので嘘ではないし、現在リリィと肌を重ねていることにも意味が
あるものだ、とも思う。
暫く体を馴染ませるように動きを小刻みなものにし様子を見ると、反応は相変わらずの
ものだ。眉根は寄っているし、口元は苦痛に歪んだ中に笑みがあるという複雑なもの。
「虎蔵さんの、大き、過ぎる、んじゃ?」
「標準だが、リリィが小さいからなぁ」
それに加え、セリスと付き合う以前に何度か経験した他の者と比べても狭い。体質だと
言えば仕方のない話だとは思うが、動かす度に、こちらにも苦痛が走る程だ。自分がそう
なのだからリリィは更に痛いだろうと思うし、どうすれば良いのかと考え、
「キスと撫でるの、どっちが良い?」
本人が一番喜ぶものを考えた結果、答えを待たずに両方実行する。リリィが好むように
舌を入れないキスを重ね、そして髪を撫でてやると若干緩んだような気がして、腰の動き
を先程までのものより大きなものに変える。痛みによる声は予想通りに増したが、滑りが
増増しているので無理なことではない筈だ。
「大丈夫か?」
念の為に聞くと、答えの代わりにシャツの襟を掴まれた。
「大丈夫、です。虎蔵さんが、気遣って、くれてる、から」
健気な娘だ、と思いながら、腰を大きく引いた。強い摩擦が竿と亀頭の全てを刺激し、
摩擦以外の熱さが脳を溶かしてくる。結合部分に目を向けると、今の動きで掻き出された
ものだろう。初体験を迎えた証である鮮血が、下に敷かれたバスタオルに少し大きな染み
を作っているのが確認出来た。思っていたよりも血の量は少ないが、それでも普通と比べ
若干多いように思え、
「早く終わらせないとな」
勿体ない、と思う気持ちもあるが、長引けば苦しむのはリリィの方だ。息も少し詰まり
始めているし、酸素を取り入れるような腹部の上下運動も入れたばかりの状態に比べたら
それなりに治まってきているものの、肌に浮く汗の量は増えてきている。珠のように多く
湧き出た箇所も何ヶ所かあるし、頬には涙が流れた跡も見える。
リリィが、は、と息を吐き、大粒の汗が抱えた太股を滑った。
「ごめんな、もうすぐ終わる。少し激しく動くから、痛かったら言ってくれ」
最終更新:2008年01月15日 18:28